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(回答先: ソニー SS-R10 _ 史上最高の静電型スピーカーだったんだけど… 投稿者 中川隆 日時 2019 年 5 月 24 日 07:31:54)
ソニー 平面型ユニット スピーカー ESPRIT APM-8・APM-6 Monitor
Sony Esprit APM - YouTube動画
https://www.youtube.com/results?search_query=Sony+Esprit+APM
SONY/ESPRIT スピーカーシステム一覧
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/index.html
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ESPRIT APM-8
¥1,000,000(1台、1979年頃)
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-8.html
SONYが3年の月日をかけ開発したAPM(Accurate Pistonic Motion)方式を採用した4ウェイフロア型スピーカーシステム。
低域には807cm2の平面ウーファーユニットを採用しており、アルミスキンによるハニカムサンドイッチ振動板を4つの磁気回路・ボイスコイルで4点駆動させています。
磁気回路はセンターポールプレートにスリットや溝を切り、エディカレントを押え低歪化を図っています。
また、ボイスコイルは無酸素銅リボンの線エッジワイズ巻を採用しています。
中低域にはカーボンファイバーシートスキンによるハニカムサンドイッチ振動板を採用した144cm2平面ユニットを採用しています。
ウーファー同様に低歪率磁気回路を採用し、ボイスコイル線材には純アルミリボン線をエッジワイズ巻として軽量化を図っています。また、ヤング率の高いマイカボビンにより、磁気回路で発生する力を振動板に伝達する際のロスを抑えています。
中高域には24cm2の平面ユニットを採用しています。
このユニットにはカーボンファイバーシートスキンによるハニカムサンドイッチ振動板を採用しており、磁気回路や材料構成は中低域のユニットと同様のものを採用しています。
高域には5.8cm2平面型トゥイーターを採用しています。
振動板にはカーボンファイバーシートスキンによるハニカムサンドイッチ振動板を採用しており、磁気回路はポールピースにパーメンデュールを用いることで磁束密度21,000gaussを実現してます。
また、ボイスコイルはマイカボビンに純アルミリボン線をエッジワイズ巻にすることで剛性と効率を高めています。
ネットワークや内部配線は、機械的共振による音の劣化を抑えるため、全てのコンデンサー、インダクターを内部損失の大きい音響素材SBMCで高圧成型しています。
また、プリント基板には極めて厚い無酸素銅箔を使用し、内部配線には無酸素銅線を使うとともに平行線を多用してロスやカラーレーションの低減を図っています。
エンクロージャーは高密度パーチクルボードによる内容積200Lの自重60kgエンクロージャーとなっています。
各ボードの輻射周波数を高速フーリエ変換によって算出しており、板厚や補強材の材質をコントロールすることで輻射周波数が重り合うのをふせいだり、各面の結合をできるだけ少なくする事で鳴りを抑えています。
APM-8の画像(その2) ユニット群 ネットワーク部 ユニットの構造
機種の定格
方式 4ウェイ・4スピーカー・バスレフ方式・フロア型
ユニット
低域用:807cm2平面型
中低域用:144cm2平面型
中高域用:24cm2平面型
高域用:5.8cm2平面型
再生周波数帯域 25Hz〜30000Hz
出力音圧レベル 92dB/W/m
最大出力音圧レベル 119dB/m
インピーダンス 8Ω
定格最大入力 150W
瞬間最大入力 500W
クロスオーバー周波数 320Hz、1250Hz、4500Hz
レベルコントロール +0dB、-6dB連続可変
外形寸法 幅650x高さ1105x奥行450mm
重量 102kg
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-8.html
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ESPRIT APM-6Monitor ※受注生産品
¥500,000(1台、1981年6月発売)
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-6monitor.html
オールホーンシステムには無い魅力を求め、APM方式やスーパーオーバルエンクロージャーを採用し、点音源の理想を追求したスピーカーシステム。
ユニットには、オールホーンシステムに匹敵する諸特性を実現するスピーカーを目指し、5年の歳月をかけて開発されたAPM(Accurate Pistonic Motion)方式による502cm2と16cm2の平面スピーカーを採用しています。
ウーファーユニットでは、アルミスキンによってハニカムコアを挟んだ振動版を、4つの磁気回路とボイスコイルで4点駆動しています。分割振動モードの節目が集中するポイントを駆動しているためピストン領域を広くとることができ、使用帯域内の分割振動を無くしています。
また、ボイスコイル内のポールピースの量が振幅の状態で変化することでインダクタンス変化が起き、変調歪が発生してしまうのを防ぐため、ポールピースの先にトップポールを設け、ボイスコイルがどの位置にあってもインダクタンスが一定になるようにしています。
また、センターポールやプレートにスリットを切ってエディカレントを抑制しており、中域の分解能を向上させています。
トゥイーターでは、カーボンファイバーシートスキンによりハニカムコアをサンドイッチした振動版を採用し、強力な磁気回路と4点駆動のポイントを押えた大型ボイスコイルで駆動しています。
このユニットでは、ダンパーを磁気回路の中に組み込むという構造を採用し、エッジとダンパーの支持部のスパンを従来の2〜3倍に拡げ、ローリングの発生を大幅に減少させています。
ネットワーク部は、ソニーがそれまでに行ってきた忠実伝送に向けてのアプローチをさらに発展させ、特に微小レベルの歪やノイズ成分の改善を徹底しています。
コンデンサーやコイル、抵抗など全てのパーツをSBMCで固定し防振性を向上させています。さらに、リード線だけでなく抵抗の巻線にも無酸素銅を使用し、コイルは全て空芯として磁気歪を防いでいます。
また、ウーファー用とトゥイーター用のネットワーク基板を出来るだけ離して設置し、磁気的相互干渉を防止しています。
そしてネットワークの各パートは、インシュレーターを介してエンクロージャーに取り付けられ、機械的振動による干渉をなくしています。
エンクロージャーには回折効果による弊害を防ぐため、楕円構造のスーパーオーバル・エンクロージャーを採用しており、スーパーオーバルという楕円形の一つのパターンを計算によって求め、ディフラクションによる音の反射を効果的に拡散しています。
構造は、ソニー独自の高度な加工技術により、天然木とパーチクルボードを交互に積層した構造となっています。
使用ユニット郡 磁気回路の構造とインダクタンス変化 トゥイーター支持方法 ネットワーク基板の配置
機種の定格
方式 2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式・ブックシェルフ型
ユニット
低域用:502cm2平面型
高域用:16cm2平面型
再生周波数帯域 20Hz〜20000Hz
出力音圧レベル 88dB/W/m
インピーダンス 8Ω
瞬間最大入力レベル 300W
定格入力レベル 100W
クロスオーバー周波数 1200Hz
外形寸法 幅545x高さ820x奥行375mm
重量 48kg
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-6monitor.html
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audio identity (designing)宮ア勝己 モニタースピーカー論
Date: 6月 10th, 2015
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その1)
http://audiosharing.com/blog/?p=17350
ソニーのもうひとつのオーディオブランドであったエスプリ。
エスプリ・ブランドの最初のスピーカーシステムは、APM8だった。
ESPRIT APM-8
¥1,000,000(1台、1979年頃)
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-8.html
ESPRIT APM-6Monitor ※受注生産品
¥500,000(1台、1981年6月発売)
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/speaker/apm-6monitor.html
1978年に登場したこのスピーカーシステムは、
当時日本のメーカーで流行ともいえた平面振動板が採用されている。
しかも当時日本で驚異的な売上げであったJBLの4343をはっきりと意識していた構成であった。
4ウェイで、外形寸法も4343とほぼ同じといえる。
だから、当時の私は、エスプリ(ソニー)によるスタジオモニターというふうに捉えていた。
けれど、エスプリからは二年後にAPM6が登場した。
こちは2ウェイ。価格はAPM8の100万円(一本)に対し、50万円と、
ユニットの数も半分ならば価格もちょうど半分となっている。
もちろんAPM6もアルミハニカムを採用した平面振動板のユニットである。
こんなふうに書いていると、APM8の弟分として開発されたのがAPM6というふうに受けとめられるかもしれない。
けれどAPM8は、型番の末尾に何もつかなかった。
APM6にはMonitorとついている。
APM6の正式型番はAPM-6 Monitorである。
APM6とAPM8の違いは、Monitorがつくのかつかないのか、
ユニットの数が二つなのか四つなのか、という違いの他に、
エンクロージュアの考え方に大きな違いがある。
http://audiosharing.com/blog/?p=17350
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その2)
http://audiosharing.com/blog/?p=17361
エスプリ(ソニー)のAPM8は、
ステレオサウンド 53号の新製品紹介で初登場し、
54号の特集「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」にも登場している。
新製品紹介では井上先生、山中先生によって評価され、
54号の特集では、黒田先生、菅野先生、瀬川先生によって試聴されている。
黒田先生は、試聴記の冒頭に《このスピーカーには、完全に脱帽する》と書かれている。
試聴記の最後はこう結ばれている。
*
いつの日かここでそのように口走ったことを後悔するのがわかっていて、これをパーフェクトだといってしまいたい誘惑に抗しきれない。すばらしいスピーカーだ。
*
この特集の冒頭に「スピーカーテストを振り返って」という座談会が載っている。
編集部から、今回聴いた46機種のスピーカーの中で、
一台を自宅に持ち帰るとすればどれを選ぶかという質問がある。
ここでも黒田先生は《迷うことなくエスプリAPM8です」と答えられている。
菅野先生、瀬川先生の評価も高い。
ふたりとも一本100万円という価格がひっかかって、推選、特選機種とはされていない。
瀬川先生も菅野先生も価格が半値であったら10点をつけるといわれていてる。
さらに菅野先生は、
《今回のテストで、最も印象づけられたスピーカーなのです》とつけ加えられている。
瀬川先生は《あらゆる変化にこれほど正確に鋭敏に反応するスピーカーはないですね」といわれ、
試聴記にあるように《レベルコントロールの0.5dBの変化にも反応する!》、
こんなスピーカーは他にはない、とまでいわれている。
APM8がきわめて優秀なスピーカーシステムであることが伝わってくる。
そしてAPM8は、スタジオモニターとしての性能をもっているとも感じていた。
http://audiosharing.com/blog/?p=17361
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その3)
http://audiosharing.com/blog/?p=17368
ステレオサウンド 54号、瀬川先生のAPM8の試聴記には、
《レベルコントロールには0・1dBきざみの目盛が入っているが、実際、0・5dBの変化にもピタリと反応する。調整を追い込んでゆけば0・3dB以下まで合わせこめるのではないだろうか。これほど正確に反応するということは、相当に練り上げられた結果だといえる。》
とある。
つまりAPM8には、連続可変型のレベルコントロールがついていた。
APM6には、レベルコントロールはついていない。
当時は、これが意味することがわかっていなかった。
レベルコントロールがないんだ、ぐらいにしか捉えていなかった。
このことと、APM8とAPM6のエンクロージュアの形式の違いは密接に関係している。
APM8はソニー・ブランドで出ていたSS-G9の平面振動板タイプと、外観上はそういえるところがある。
ほぼ同じ寸法のエンクロージュアに、レベルコントロールと銘板の位置もほぼ同じである。
そして特徴的であるAGボード(アコースティカル・グルーブド・ボード)の採用。
縦横溝が刻まれたフロントバッフルは、波長の短い中高域を拡散させるものである。
APM8にもAGボードは採用されている。
SS-G9はコーン型、ドーム型ゆえ、ユニットの形状は円であり、バスレフポートの開口部も円。
APM8は平面振動板であり、ユニットの形状は四角。
そのためであろうバスレフポートの開口部も四角に変更されている。
そんな違いはあっても、SS-G9とAPM9と共通するところの多いスピーカーシステムである。
ところがエスプリ・ブランドのスピーカーシステムの第二弾であるAPM6は、
エンクロージュアの設計はSS-G9、APM8とはまったく別モノといえる。
APM6のエンクロージュアは、スーパーオーバル(超楕円)といわれる形状をしている。
http://audiosharing.com/blog/?p=17368
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その4)
http://audiosharing.com/blog/?p=17373
APM6が登場したとき、その形状に関しては、ラウンドバッフルをフロントだけでなくリアにまで採用した、
その程度の認識で捉えていた。
APM6の広告はステレオサウンド 61号に載っている。
設計者の前田敬二郎氏による解説が載っている。
当然、そこにAPM6のエンクロージュアの形状について書かれている。
*
一般にスピーカーは無限大バッフルに取りつけるのが理想的で、現実に一部のスタジオのモニター設備ではスピーカーを壁面に埋めこんで使用しています。これは有限のエンクロージャーにスピーカーを取りつけると回折が起こり、指向特性を劣化させるからです。しかし理想的とはいっても個人用として無限大バッフルは、いかにも非現実的です。では、どんな方法があるか。解決はスーパーエッグがもたらしました。つまりスーパー楕円エンクロージャーです。
*
この広告からわかるのは、
APM6のエンクロージュアは無限大バッフルを現実的な形とすることから生れたものということ。
APM6のエンクロージュアは楕円を縦四分割し、パーティクルボードと天然木を曲げながら積層し、
最後に天板と底板と一体化するという手法でつくられている。
おそらくAPM8のエンクロージュアよりも手間がかかっているはずだ。
このエンクロージュアとAPM6からレベルコントロールが廃されているのは、実は関連している。
でもAPM6登場の1981年、私はそのことに気づいていなかった。
白状すれば、APM8に魅力を感じていたし、
ほぼ同時期にテクニクスから発表になったSB-M1の方に強い関心をもっていた。
そのSB-M1には別称がある。MONITOR 1である。
このことからわかるようにM1のMはMonitorの頭文字である。
同時期にソニーとテクニクスから、モニターと名のつく平面振動板のスピーカーシステムが登場したわけだ。
http://audiosharing.com/blog/?p=17373
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その5)
http://audiosharing.com/blog/?p=17421
ソニーもテクニクスも、それ以前に、
型番にMonitorとつくスピーカーシステムは作ってこなかった。
それが1981年のほぼ同時期に、APM6 MonitorとSB-M1(Monitor 1)を出してきた。
APM6とSB-M1、このふたつのスピーカーシステムを比較してみると、
ソニーとテクニクスの違いが実に興味深い。
APM6はすでに書いているように2ウェイ。
SB-M1は4ウェイ。
どちらも平面振動板ユニットを全面的に採用しているが、
ソニーは角形に対してテクニクスは円型という違いがある。
どちらもアルミハニカム材を使用しているが、
ハニカムコアがソニーは均一であるのに対し、
テクニクスは扇のように、中心部はコアの密度が高く、外周にいくほどコアの間隔が広がっていく。
それから駆動方式というか構造も違っている。
こんなふうに、それぞれの違いを書いていくと、それだけでけっこうな長さになっていくので、
外観からうかがえることに絞って書いていく。
SB-M1はJBLの4343を意識しているところは、ソニーのAPM8と同じである。
4ウェイのバスレフ型で、エンクロージュアの外形寸法も、APM8とSB-M1ともに、4343とほぼ同じである。
しかもSB-M1はエンクロージュアの仕上げも4343をかなり意識している。
とはいえデザインの見事さでは4343のレベルには達していない。
SB-M1は4343を意識しているスピーカーであるから、エンクロージュアは一般的な形である。
ラウンドバッフルを採用したりしていない。
わりとのっぺりした印象のSB-M1だが、フロントバッフルの両端に把手がついている。
これがけっこう長い。
ウーファーからミッドバスまでのスパンとほぼ同じである。
これが視覚的アクセントになっているわけだが、
聴感上でもアクセントになっている。
http://audiosharing.com/blog/?p=17421
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その6)
http://audiosharing.com/blog/?p=17433
一般的なウーファーであるコーン型だと振動板の中心は奥にある。
つまり凹みがある。
大口径になればなるほど凹みは大きくなる(奥に引っ込む)傾向にある。
ドーム型は逆ドーム型のモノもあるが、大半は前面に出ている。
コーン型と反対で凸である。
ホーン型はホーンの形式による。
基本的にはホーンなので奥に長いわけだが、
音響レンズがついていると、前に張り出している
平面振動板には、当然なのだが、この凹凸がない。
それが平面振動板ユニットの、他の方式のユニットにはないメリットではあるものの、
実際にフロントバッフルにとりつけてスピーカーシステムとしてまとめてみると、
それまでの凹凸のあったスピーカーシステムを見馴れた目には、
振動板だけでなく、フロントバッフル全体も平面(平板)な印象になってしまいがちだ。
エスプリ(ソニー)のAPM8が細かな凹凸だらけのAGバッフルを採用したのは、
もちろん音質面での配慮からだろうが、
外観が平板にならないように、という意図もあったのかもしれない。
テクニクスのSB-M1の左右両端の把手も、そういう意図があるのかもしれない。
テクニクスの発表資料には、指向特性の改善に貢献している、とあるが、
果して、どれだけの効果があるのだろうか。
私がそう思ってしまうのは、SB-M1のレベルコントロールもそうだからだ。
ミッドバス、ミッドハイ、トゥイーター、それぞれ連続可変のレベルコントロールをもつ。
つまり三つのツマミを配したパネルは、フロントバッフルより奥まった位置に取りつけられている。
この部分には凹みができている。
エスプリのAPM6には、レベルコントロールはない。
このレベルコントロールの有無、その取りつけ方法。
ここからいえるのは、聴感上のS/N比に対する配慮の違いだ。
http://audiosharing.com/blog/?p=17433
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その7)
http://audiosharing.com/blog/?p=17527
実際に試したわけではないが、テクニクスのSB-M1から把手を外して、
レベルコントロールの凹みを良質の自然素材(たとえばウール)で埋める。
これだけで聴感上のS/N比はそうとうに高くなるはずだ。
凹み部分からの不要輻射を吸音し、把手部分の共鳴もなくしてしまえるからだ。
この手の実験はステレオサウンドの試聴室でかなりやってきた。
だから確実に、そうなると断言できる。
聴感上のS/N比が高くなることは、多くの人の耳が認めることだろう。
けれど、その音をいいと判断するかどうかは、また違ってくる。
聴感上のS/N比は確実に良くなっているのだから、
音は良くなっている──、とはいえる。
それでもメーカーは、把手込み、レベルコントロールの凹み込みで音を追い込んでいたのであれば、
聴感上のS/N比が高くなったかわりとして、音のバランスが若干変化するし、
音のアクセントといえるものがなくなり、印象としてもの足りなさをおぼえてしまうことも考えられる。
いわゆるノイズも音のうち、ということだ。
この点が、SB-M1とAPM6の大きな違いである。
スピーカーシステムにおける聴感上のS/N比の向上は、
SB-M1、APM6登場以降のスピーカーにおける潮流となっていく。
この視点からみれば、
SB-M1は1970年代までのスピーカーシステムのひとつとしての登場であり、
APM6は1980年代のスピーカーシステムのはじまりとしての登場といえる。
同じエスプリのAPM8は、SB-M1と同じといえる。
http://audiosharing.com/blog/?p=17527
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その8)
http://audiosharing.com/blog/?p=17624
エスプリ(ソニー)のAPM6が登場したころの私には、
このスピーカーシステムを、聴感上のS/N比に注目して捉えることはまだできなかった。
だから、気がつかなかったことがいくつもある。
聴感上のS/N比という視点でAPM6をじっくりみていくと、
日本のスピーカーシステムで、
いくつかの共通点を見出せるスピーカーシステムが存在していたことにも気づくことになる。
ダイヤトーンの2S305である。
NHKの放送技術研究所と三菱電機とが共同開発した、このスピーカーシステムは、
はっきりとモニタースピーカーである。
なぜAPM8にはMonitorの文字がつかず、APM6にはついているのか。
そのことを考えても、ダイヤトーンの2S305の存在が浮んでくる。
APM6の設計者の前田敬二郎氏は、
APM6の開発において2S305の存在を意識されていたのだろうか。
勝手な推測にすぎないけれど、まったく意識していなかった、ということはなかったように思える。
2S305の開発において、聴感上のS/N比が開発テーマになっていたとは思えない。
NHKがモニタースピーカーに求める性能を実現した結果として、
2S305は、あの当時として、かなり優秀な聴感上のS/N比の高さを実現したのではなかろうか。
おそらく、いまでも現代の優秀なパワーアンプで鳴らせば、
2S305は多少ナロウレンジでありながらも、
聴感上のS/N比のよい音とは、こういう音だという見本という手本のような音を聴かせてくれるはずだ。
2S305は、日本を代表するスピーカー(音)といわれていた。
それは海外製のスピーカーシステムとくらべると、パッシヴな性格のスピーカーシステムであり音である。
そのため聴き手(使い手、鳴らし手)がより積極的に能動的でなければ、
海外製のアクティヴな性格のスピーカーシステム(音)を聴いた後では、
ものたりなさを感じてしまうような音でもある。
APM6の音を、私は聴くことがなかった。
どんな音なのかは、だから正確にはわからない。
それでも2S305に通じる、パッシヴな性格をもったスピーカーシステムであるはずだ。
APM6を、いまじっくりとみつめていると、
1976年当時のオーレックスの広告にあったコピーが思い出される。
「趣味も洗練されてくると大がかりを嫌います。」
「趣味も洗練されてくると万人向けを嫌います。」
APM6の広告にもそのまま使えるのではないだろうか。
http://audiosharing.com/blog/?p=17624
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その9)
http://audiosharing.com/blog/?p=17652
ステレオサウンド 59号のベストバイで、エスプリのAPM6に星をつけている人は、
APM8の六人(井上、上杉、岡、菅野、瀬川、柳沢)に対し三人(岡、菅野、山中)だった。
ここでひっかかったのは山中先生が、APM8には入れずAPM6に二星をつけられている。
これが意外だった。
山中先生といえば新製品紹介のページでも海外製品を担当されていた。
それまで書かれたものを読んできても、国産スピーカーをあまり高く評価されることはなかった。
その山中先生が、なぜだか理由はわからないけれど、APM6に二星。
しかも多くの人が評価しているスピーカーとはいえないAPM6に対して、である。
59号の約半年後に出た「コンポーネントステレオの世界 ’82」でも、
山中先生はAPM6の組合せをつくられている。
この別冊では他に二つの組合せをつくられている。
ひとつはQUADのESL63、もうひとつはエレクトロボイスのRegency IIIである。
QUADとエレクトロボイスは、すんなりわかる。
けれど、山中先生がAPM6? と思った。
それまでのステレオサウンドを読んできた者にとって、これは意外なことだ。
APM6の組合せならば、それまでのステレオサウンドならば、
岡先生、上杉先生、柳沢氏の誰かだったはずだから。
「コンポーネントステレオの世界 ’82」の半年後の63号でのベストバイ。
ここでも山中先生はAPM6を評価されている。
ここでつくられた組合せの次の通りだ。
●スピーカーシステム:エスプリ APM6 Monitor(¥500.000×2)
●コントロールアンプ:エスプリ TA-E900(¥600.000)
●パワーアンプ:ヤマハ BX1(¥33.000×2)
●カートリッジ:フィデリティ・リサーチ FR7f(¥77.000) デンオン DL305(¥65,000)
●プレーヤーシステム:パイオニア Exclusive P3(¥600.000)
組合せ合計 ¥3.002.000(価格は1981年当時)
http://audiosharing.com/blog/?p=17652
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その10)
http://audiosharing.com/blog/?p=17662
山中先生は、エスプリ(ソニー)のAPM6のどこによさを認められていたのか、
「コンポーネントステレオの世界 ’82」での組合せでは、どういう音を求められていたのか。
「コンポーネントステレオの世界 ’82」でのもうひとつき山中先生の組合せ、
QUADのESL63の組合せとAPM6の組合せには、共通する言葉が出てくる。
ESL63の組合せの最後に山中先生が語られている。
*
最近は室内楽のレコードをほんとうに魅力的に再生できるシステムが非常に少ない。この組合せにあたってドビュッシーのフルートとハープとヴィオラのソナタを聴きましたが、こういったドビュッシーなんかの曲で一番難しいのは、音が空間に漂うように再生するということだろうと思います。そのあたりの雰囲気が、かけがえのない味わいで出てくるわけで、ぼくは実はこうした音楽が一番好きなのです。
それをこういう装置で聴くと、またまた狂いそうで心配です。最近の自分のシステムでいちばん再生困難なソースだったけれども……。
*
ESL63の組合せはQUADのアンプ(44+405)に、
アナログプレーヤーはトーレンスのTD126MKIIICとトーレンスのカートリッジMCH63、
昇圧トランスはオーディオインターフェイスのCST80E40で、組合せ合計は¥1,710,000(1981年当時)。
室内楽については、APM6のところでも語られている。
*
この組合せのトータルの音ですが、最初に意図した、おらゆるソースにニュートラルに対応するという目的はかなり達せられたと思う。たとえば、かなり大編成のものを大きな音量で鳴らしても大丈夫ですし、楽器のソロのような再生の場合でも焦点がピシッと定まる。決して音像が大きく広がらないで、定位の点でも問題ないし、ディテールも非常によく出ると思います。
ただ、私の好みもあって、いろいろなソースを聴いてみますと、一番よく再生できたなという感じがしたのは、クラシック系のソースです。特に小編成の室内楽とか声楽、それからピアノの再生がかなり良かったと思います。それがこのスピーカーシステムの一つの特徴なのかもしれません。楽器のイメージというか、とくにサイズの感覚が非常によく出る。たとえば、ギターのソロの場合、スピーカーによってはギターが非常に大きくなってしまって、両方のスピーカーの間隔いっぱいに広がるような、巨大なギターを聴くという雰囲気になるんですけど、そういうことは全くなくて、ピシッとセンターに焦点が合う。しかも、その楽器の大きさらしい音で実感できる。こういう点がこのシステムの一番素晴らしいところだと思います。
*
この、再生される楽器の大きさについては、ESL63のところでも語られている。
*
人間が人間の大きさでちゃんと再現される。動きもわかる。楽器がそれぞれ大きさでちゃんと鳴る。小さな楽器は小さく、大きな楽器は大きく、ちゃんと感じられる。
*
APM6とESL63、
それに鳴らされる(組み合わされる)アンプもずいぶんと傾向の違いを感じるが、
意外にもどちらの組合せでも、共通する意図が、そして音があったことがわかる。
http://audiosharing.com/blog/?p=17662
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その11)
http://audiosharing.com/blog/?p=17678
自分がいま鳴らしている音を冷静に捉えている人であれば、
自分のシステムがうまく鳴らしてくれないレコード(音楽)を、
いともたやすく鳴らしてくれるスピーカーがあったならば、やはり惹かれてしまう。
いま鳴らしている音の延長線上にある音に惹かれることもあるし、
自分のスピーカーに不満に思い続けているところがよく鳴っているからこそ惹かれることもある。
前者の場合、グレードアップにつながっていく。
後者の場合はどうだろう。新たなスピーカーを導入するきっかけとなることだってある。
山中先生にとって、1981年の時点で、
QUADのESL63とエスプリのAPM6は、後者の場合にあたるスピーカーだったといえよう。
山中先生はESL63を導入されている。
QUADのアンプを含めての導入で、
リスニングルームではなくリビングルームにQUADのシステム一式は置かれていた。
APM6はリビングルームに置くスピーカーという雰囲気ではない。
やはりリスニングルームに置くスピーカーであるし、
型番にMonitorとつくぐらいであるからスタジオでの使用を前提としているともいえる。
そういえば、山中先生は「コンポーネントステレオの世界 ’82」のAPM6の記事の最後にこういわれている。
*
最後に、このAPM6というのは家庭に持ち込みますと意外と大きいんです。ショールームとか、どこかの展示会の会場で見ている場合には、角のない楕円形のカタチのせいか、そう大きく見えないのですが、実際に部屋に置くとたいへん大きいスピーカーで、狭い部屋ですとセッティングに苦労することがあるかもしれません。
*
確かにAPM6はカタチのお陰で、写真でみるとそう大きくは感じられない。
けれど外形寸法はW54.4×H82.0×D37.3cmある。わりと大きめのサイズであることは確かだ。
だがESL63はどうだろう。
W66.0×H92.5×D27.0cmある。奥行き以外はESL63の方が大きい。
にもかかわらずESL63の記事では、APM6のように実際には大きいとは語られていない。
http://audiosharing.com/blog/?p=17678
モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その12)
http://audiosharing.com/blog/?p=17693
山中先生が《ぼくは実はこうした音楽が一番好きなのです》と語られているドビュッシー。
ステレオサウンド 88号の特集「最新コンポーネントにおけるサウンドデザイン24」、
この中に「山中敬三のサウンドデザイン論 そのバックグラウンドをさぐる」がある。
そこで語られていることを思い出していた。
*
──好きな音楽は?
わりと広いほうです。若いときから、その時期ごとに、一つのものに傾倒して、それがシフトしていって、結果的にかなり広いジャンルを聴くようになった。
自分自身でレコードを買うようになったのはジャズ……スイングの後半からモダン・ジャズまでです。ベニー・グッドマンにはじまり、コルトレーンでストップ。
兄がクレデンザの一番いいやつを持ってて、それでジャズを聴いてしょちゅう怒られました。でもあの音は素晴らしかった。
クラシックで最初に好きになったのは、フォーレとかドビュッシーとかのフランス音楽だったんです……。
──S/Nをとるのがむずかしい……!
苦労しましたね。低音を出そうと思ってもS/Nがとれない。フォーレのレクイエムを聴くために壁バッフル作ったり……。
フランス音楽のあの積み重なりが好きになったんでしょう。
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「コンポーネントステレオの世界 ’82」でのESL63の組合せでは、
《こういったドビュッシーなんかの曲で一番難しいのは、
音が空間に漂うように再生するということだろうと思います》といわれている。
フランス音楽の積み重なり、これが漂うように再生されるかどうか。
「漂い」に関しては、88号の特集で菅野先生も語られている。
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──鳴らし方のコツのコツは……?
オーディオマニアは「漂い」という言葉を使わない。「定位」という言葉がガンと存在しているからだ。「漂い」の美しさは生のコンサートで得られるもの……。それを、もうちょっとオーディオマニアにも知ってほしい。これこそ、一番オーディオ機器に欠けている部分ですね。
最新の機械を「漂い」の方向で鳴らすと、極端にいうと、みんなよく鳴るように思います。最新の機械で「定位」という方向にいくと「漂い」がなくなって、オーディオサウンドになります。
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山中先生が自宅のシステムとしてAPM6ではなくESL63を選ばれた大きな理由のひとつが、
この「漂い」だと思う。
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モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その13)
http://audiosharing.com/blog/?p=30050
ソニー・エスプリのAPM6は、モニタースピーカーとして開発された、といっていいだろう。
けれど、APM6をモニタースピーカーとして導入したスタジオはあっただろうか。
CBSソニーのスタジオには導入されたのだろうか。
QUADのESL63は、家庭用スピーカーとして開発された。
にも関らず、当時のフィリップスがモニタースピーカーとして採用し、
それに応じてESL63 Proが登場した。
ESL63 Proは、型番からわかるように、モニタースピーカーとしてESL63の別ヴォージョンだ。
APM6はモニタースピーカーを目指しながら、採用されることはなかった。
ESL63は家庭用でありながら、モニタースピーカーとして採用されていった。
フィリップスの録音エンジニアは、おそらくAPM6の存在は知らなかったのではないか。
知っていたとして、音を聴いていたのだろうか。
もし彼らがAPM6を聴いていたとしても、
結局はESL63がモニタースピーカーとして選ばれたように思う。
その理由は、(その12)の最後に書いている「漂い」の再現なのだろう。
日本ではモニタースピーカー・イコール・定位の優れたスピーカーというイメージが、
アルテックの604シリーズが、広くモニタースピーカーとして使われていたことからもある。
ESL63をモニタースピーカーとして選んだフィッリプスは、
クラシックの録音を行う部門であるから、「漂い」が、その理由のように思うのだ。
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