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外務官僚たちの太平洋戦争 佐藤元英著
開戦導いた革新派の役割検証
本書は、太平洋戦争開戦と終戦のプロセスのなかで外交官ないし外務官僚たちが果たした役割を明らかにすると銘打っている。なかでも、主な対象として扱っているのがいわゆる外務省革新派である。
枢軸派あるいは革新派と呼ばれた少壮外務官僚が、陸海軍と協力して、無通告開戦の手続きとシナリオづくりに関わったことを、本書はきわめて説得的に実証している。一般に陸軍に対抗して国際協調路線をとったとの印象がある外務省のなかで、革新派が開戦のプロセスに果たした役割は、著者によって初めて明らかにされた部分が少なくない。この点だけでも、本書を読む価値は十分にある。
革新派についてと同じくらい、あるいはそれ以上に著者が力を込めて描いているのは、開戦時と終戦時の外相で、革新派と対立した東郷茂徳である。特に、開戦前、戦争回避のために続けられた日米交渉の最終局面で東郷外相が果たした役割についての描写と分析には、迫力がある。時間が限られたなかで東郷外相はあまりに細かく刻んだ交渉タクティクスにこだわりすぎた、と著者はきびしく批判する。むろん著者は、戦争回避の可能性が狭まってゆくなかで東郷がいかに悩み苦しんだかを理解したうえで、あえてきびしい批判を加えているのだろう。
また、終戦のプロセスに関しても、東郷に対して著者はきびしい目を向ける。ソ連の和平仲介にこだわりすぎたというのである。著者によれば、東郷はソ連の対日参戦の可能性を軽視して、終戦実現のために陸軍を説得することにばかり努力を集中したとされる。それは、そのとおりだろう。でも、徹底抗戦を主張する陸軍を和平に向かわせることなしには、あの時点での終戦は難しかったのではないだろうか。ソ連仲介を選択肢として退けるとすれば、方法は米英に直に和平(降伏)を申し入れることしかなかっただろうが、果たしてそれは可能だっただろうか。こうしたあたりの判断は難しい。
開戦・終戦には必ずしも直接関係しないかもしれないが、本書を読んで印象に残ったのは、太平洋戦争の「前史としての経済戦争」という捉え方である。著者が特に強調しているのは、アメリカの対日抑止政策としての経済制裁であり、外務省革新派は、この経済制裁を戦争行為に準じたものとして危機感をもって深刻に受け取ったと指摘している。「経済戦争」という視点は、開戦に向かう日本の対外認識を考えるうえで、なかなか示唆に富んでいる。
(NHK出版・1600円)
さとう・もとえい 49年秋田県生まれ。中央大教授。著書に『近代日本の外交と軍事』(吉田茂賞)など。
《評》帝京大学教授
戸部 良一
[日経新聞9月27日朝刊P.23]
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