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第二次世界大戦(上・中・下) アントニー・ビーヴァー著 「史上最大の人災」のなかの日本
著者は、1998年に刊行した『スターリングラード』で世界的な名声を獲得し、その後も旺盛に執筆を続ける英国の戦史ノンフィクション作家である。日本でも『ベルリン陥落』や『ノルマンディー上陸作戦』をはじめ多くの著作が訳されており、すでに歴史好きにはお馴染(なじ)みの名前だろう。そのビーヴァーが、第二次世界大戦の全貌を描こうとしたのが本書である(原著は2012年刊行)。
第二次世界大戦は「種々雑多な戦いの混淆(こんこう)物」と言えるが、本書でビーヴァーは、そうした「種々雑多な戦い」のピース一つ一つを取り上げ、それぞれの連関に配慮しつつ、第二次世界大戦という大きなジグソーパズルを組み上げようとする。これまでもビーヴァーは欧州戦線に関して多くの本を著してきたが、今回彼は日本の戦争の重要性も強調する。たとえば、「日中間の争いは長年、『第二次世界大戦』というジグソーパズルの欠落部分であった」として、日中戦争にも少なからぬページが割かれている。
また、本書は1939年のノモンハン事件を「大戦の帰趨(きすう)を制する地政学的分岐点」と位置づけ、第1章の冒頭に据える。ノモンハンでのソ連の勝利は、日本の南進政策への転換を促し、結果的にアメリカ参戦の遠因となるだけでなく、スターリンが在シベリアの各師団を西方に移動させ、ヒトラーのモスクワ攻略を挫(くじ)くことにもつながったからである。さらに本書は、ナチ・ドイツの降伏では終わらず、「原爆投下と日本平定」(第50章)で閉じられる。これまでもっぱら欧州戦線を専門としてきたビーヴァーの冒険と言えよう。
とはいえ、やはり本書の真骨頂は欧州戦線、とりわけ東部戦線である。独ソの政軍の指導者たちの性格描写から、リアルな戦場の再現など、ビーヴァー節は相変わらず冴(さ)えている。他方で残念ながら、極東の戦争の叙述には不満を抱かざるを得ない。ビーヴァーの持ち味は、新しい研究を踏まえつつ、様々な回顧録や一般兵士の書簡・日記を駆使して、戦争を活写するところにある。けれども、アジア太平洋戦争に関する記述はリサーチ不足が否めず、登場人物の顔も見えてこない。
ただ、こうした不満は無いもの強請(ねだ)りだろう。本書の(とくに日本の読者にとっての)功績は、第二次世界大戦という「地球規模で展開された」「史上最大の人災」のなかに日本の戦争を位置づけたことにある。「戦後70年」を世界史のなかで考えるには恰好(かっこう)の書と言えよう。
原題=The Second World War
(平賀秀明訳、白水社・各3300円)
▼著者は46年生まれ。英国の歴史作家。著書に『スペイン内戦』『ヒトラーが寵愛した銀幕の女王』など。
《評》成蹊大学准教授
板橋 拓己
[日経新聞8月30日朝刊P.23]
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