http://www.asyura2.com/09/nihon29/msg/855.html
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登石郁朗裁判長によるデタラメ判決全文(参照程度)と山口一臣氏による突っ込み箇所
http://etc8.blog83.fc2.com/blog-entry-1222.html
2011/10/04 14:44 :(日々坦々)
平成23年9月26日の不当判決の判決文を下記ウェブでそのコピーが掲載されていたので、コピペして転載させていただく。
ただ、このコピーは最初スキャンしているらしく、文字が化けたり飛んだりしている。
それをまたlコピーする過程で文字がバラバラになったり、誤字脱字が見つかったりして、可能な限り校正したが、あえてそのまま掲載しているところもある。
だから二重に飛んでいるのであくまでも参照程度にしてほしい。
特に「団」「隠」「経」「検」「対」「様」の文字が飛んでいた。
なので、あくまでも資料として参照いただければと思う。
元週刊朝日編集長の山口一臣氏が、この判決の一部が、ほとんど、西松建設の国沢幹雄元社長に対する検察側冒頭陳述と同じで、それをただコピペしていることをつきとめている。(THE JOURNAL)
まず、西松建設の国沢幹雄元社長に対する検察側冒頭陳述を引用する。
〈すなわち、岩手県下または一部秋田県下の公共工事の受注を希望するゼネコンは、小沢事務所に対し、自社を談合の本命業者とする「天の声」を出してほしい旨陳情し、同事務所からその了承が得られた場合には、その旨を談合の仕切り役に連絡し、仕切り役において、当該ゼネコンが真実「天の声」を得ていることを直接同事務所に確認のうえ、当該ゼネコンを当該工事の本命業者とする旨の談合が取りまとめられていた〉
これが大久保元秘書らに対する判決で、こうコピペされていた!
〈岩手県等の公共工事の受注を希望するゼネコンは、小沢事務所の担当の秘書に対し、談合において本命業者となることの了解を与えてほしい旨の陳情に赴き、当該秘書の了承が得られると、鹿島建設の仕切役にその旨を連絡していた。連絡を受けた仕切役は、当該秘書に確認を取るなどした上で小沢事務所の意向に沿ったゼネコンを本命業者とする談合を取りまとめ、この談合に沿った入札 落札が行われて、本命業者が受注業者として決定されていたのである〉
また、山口氏の新しい論考≪陸山会裁判の判決要旨を読んで気がついたこと(2)≫では、裁判官の1億円の闇献金があったとする推測を次のように批判している。
≪もしこの裁判官の認識と川村元社長の証言が真実ならば、水谷建設は1億円の裏献金の見返りに胆沢ダム工事の「下請けJVのスポンサー」になっていなければならない。ところが、水谷建設は「下請JVのスポンサー」にはなっていない。≫
本当にこの判決は出鱈目である。
西松建設事件、陸山会事件の判決文
■【資料】陸山会事件(平成21年特(わ)第517号、平成22年特(わ)第195号)の判決要旨
平成23年9月26日 西松建設事件、陸山会事件の判決文
政治資金規正法違反被告事件
平成21年特(わ)第517号、平成22年特(わ)第195号
事件名 政治資金規正法違反被告事件
被告人 大久保隆規、石川知裕、池田光智
宣告日 平成23年9月26日
裁判所 東京地方裁判所刑事第17部
裁判長裁判官 登石郁朗
裁判官 市川太志
裁判官 藤原靖士
主文
1被告人大久保隆規を禁錮3年に、被告人石川知裕を禁錮2年に、被告人池田光智を禁錮1年に処する。
2この裁判が確定した日から、被告人大久保隆規に対し5年間、被告人石川知裕に し3年間、被告人池田光智に し3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
3 訴訟費用中、証人○○○○に支給した分は被告人大久保隆規の負担とし、その余は、その3分の1ずつを各被告人の負担とする。
理由
【犯罪事実の概要】
(西松建設事件ー被告人大久保)
第1 陸山会の関係
1 他人名義の寄附・企業献金禁止に違反する寄附の受領
被告人大久保は、平成18年10月27日、西松建設から、新政治問題研究会(以下「新政研」という。)の名義で、陸山会に100万円の振込みを受け、他人名義で行われ、かつ、企業献金禁止に違反する政治活動に関する寄附を受けた。
2 収支報告書の虚偽記入
被告人大久保は、平成15年分から平成18年分までの陸山会の各収支報告書に真実は西松建設が寄附をしたのに、新政研及び未来産業研究会(以下「未来研」という。)が寄附をしたという虚偽を記入した(詳細は略)。
第2 民主党岩手県第4区総支部(以下「第4区総支部」という。)の関係
1 他人名義の寄附の受領
被告人大久保は、西松建設から第4区総支部に、平成18年10月25日に未来研の名義で100万円、同月30日に新政研の名義で100万円の各振込みを受け、他人名義で行われた政治活動に関する寄附を受けた。
2 収支報告書の虚偽記入
被告人大久保は、平成15年分から平成18年分までの第4区総支部の各収支報告書に真実は西松建設が寄附をしたのに、新政研及び未来研が寄附をしたという虚偽を記入した(詳細は略)。
(陸山会事件一被告人大久保、被告人石川、被告人池田)
第1 平成16年分収支報告書
被告人大久保及び被告人石川は、共謀の上、陸山会が、平成16年10月初めころから同月29日までの間に、衆議院議員小沢一郎(以下「小沢」という。)から合計4億円の借入れをし、第4区総支部等から合計1億4500万円の寄附を受け、本件土地取得費用等として合計3億5261万6788円を支払ったのに、収支報告書にこれらを収入・支出として記載しないなど、収支報告書に虚偽を記入し、かつ、必要な事項を記載しなかった(詳細は略)。
第2 平成17年分収支報告書被告
被告人大久保及び被告人池田は、共謀の上、陸山会が、第4区総支部等から合計3億円の寄附を受け、本件土地取得費用等合計3億5261万6788円を支出したことなどを内容とする虚偽を収支報告書に記入した(詳細は略)。
第3 平成19年分収支報告書
被告人大久保及び被告人池田は、共謀の上(ただし、共謀の成立範囲は後述のとおり)、陸山会が、第4区総支部等から合計1億5000万円の寄附を受け、小沢に4億円を返済したのにこれらを記載せず、かつ、第4区総支部等から合計7000万円の寄附を受けたとの架空寄附を記入するなど、収支報告書に必要な事項を記載せず、かつ、虚偽を記入した。なお、被告人大久保については、合計7000万円の虚偽記入等についての共謀は成立せず、被告人池田の単独の犯行である。(詳細は略)。
【争点等に する判断】
第1 西松建設事件
1 本件各寄附をした者は西松建設か否かについて
(1)新政研及び未来研に政治団体としての実体があったか否か
新政研及び未来研は、西松建設が、社名を表に出さずに政治献金を行うために設立した政治団体であって、会員は、すべて西松建設の現役社員及びその家族であり、役職員はすべて西松建設0Bであった。新政研及び未来研は、会員総会が開かれたことも会員に する活動報告等がなされたことも一切なかった。そして、会員にも役職員にも政治団体構成員としての活動実体がないこと、新政研・未来研名義の資金は西松建設の完全な管理の下に置かれており、出金については同社の指示・了承が不可欠であったこと、西松建設での内部告発のおそれと脱談合宣言により公共工事受注のための政治献金の必要性がなくなったという西松建設側の事情により、同社の判断で新政研及び未来研を解散したことが認められる。以上によれば、新政研及び未来研は、西松建設がその社名を隠して政治献金を行うための隠れ蓑にすぎないと評価できるのであり、政治団体としての実体はなかったというべきである
(2)本件各寄附の原資は西松建設の資金か否かについて
新政研及び未来研による寄附の原資は、一定の西松建設の社員及びその家族を新政研又は未来研の会員とした上、この社員の賞与に一定額を上乗せ支給し、この社員及びその家族が、「会費」支払名下に新政研又は未来研の預金口座に振り込み、あるいは、現金で払込をする方法等により調達されていたから、新政研・未来研名義の政治献金の原資が、西松建設の資金であったことは優にこれを推認することができ、新政研・未来研名義の政治献金である本件各寄附についても、その原資が西松建設の資金であったことは明らかである。
(3)本件各寄附は、西松建設の意思決定及び指示に基づき実行されたものか否かについて
西松建設は、平成9年、小沢事務所との間で、以後、小沢事務所側に対し、西松建設から年間1500万円、同社の下請企業(協力会社)から年間1000万円の合計2500万円の寄附を行うことを申し合わせた。このうち、西松建設からの年間1500万円の寄附は、平成9年から平成18年までの間、西松建設名義のほか、新政研、未来研等の名義で行われた。西松建設は、この総額1500万円について、西松建設の持つ複数の献金元のうち、どの献金元からいくら支払うかをそれぞれの時期ごとに慎重に検討し、その全体を見通 した上で、新政研・未来研名義の献金額も定めていた。本件各寄附についても、西松建設では、あらかじめ西松建設社長の指示及び了解を得た上で、同社経営企画部長が被告人大久保と会って、陸山会、第4区総支部又は県連のいずれにいくら振り込むか、その場合、どの献金元からいくら振り込むことにするかなどを打ち合わせて決定し、新政研及び未来研の事務を担当していた西松建設0Bにその決定内容を伝え、同人をして本件各寄附を実行させた。同人は指示されたとおりの振込手続を行っていただけで、献金先や献金額を決定する権限も相手方と交渉を持つこともなかった。したがって、新政研・未来研名義の政治献金(本件寄附を含む)は、西松建設の意思決定及び指示によって行われていたものである。
(4)小括
新政研及び未来研は、西松建が社名を秘して政治献金を行うための隠れ蓑だったものであり、新政研・未来研名義の政治献金は、西松建設が自ら決定し、新政研及び未来研を通じて実行していたことが認められる。したがって、本件各寄附を行った主体は、まさに西松建設であったことは明らかである。
2 被告人大久保は本件各寄附の主体が西松建設であることを認識していたか否か
(1)公共工事受注における小沢事務所の影響力と被告人大久保の役割
東北地方では、公共工事の受注業者を鹿島建設の談合担当者を仕切役とする談合により決めていたが、岩手県や秋田県では、公共工事の談合におけるいわゆる本命業者の選定に関して、小沢事務所の意向が決定的な影響力を持っており、その了解がなければ本命業者になれないという状況であった。
そこで、岩手県等の公共工事の受注を希望するゼネコンは、小沢事務所の担当の秘書に対し、談合において本命業者となることの了解を与えてほしい旨の陳情に赴き、当該秘書の了解が得られると、鹿島建設の仕切役にその旨を連絡していた。連絡を受けた仕切役は、当該秘書に確認をるなどした上で小沢事務所の意向に沿ったゼネコンを本命業者とする談合を取りまとめ、この談合に沿った入札・落札が行われて、本命業者が受注業者として決定されていたのである。
そのため、小沢の秘書から発せられる本命業者とすることの了解は、ゼネコン各社にとっては、いわば「天の声」と受けとめられていた。被告人大久保は、それまで天の声の発出役を務めていた前任の秘書に代わって、平成十四、五年ころから、天の声を発出する役割を担うようになった。このような状況下で、西松建設は、公共工事の談合による受注獲得のために本件各寄附を行っているのであるから、同社としては、それが西松建設による政治献金であることを小沢事務所に理解してもらわなければ意味がないといえる。このような趣旨で西松建設が本件各寄附を行っているのに、小沢事務所における政治献金の受入窓口であった被告人大久保が、本件各寄附を実施する主体が西松建設であることを理解していなかったとは、到底考えられないことである。
(2)新政研及び未来研が西松建設の隠れ蓑であることについての被告人大久保の認識の有無
上に加え、[1]献金総額、受け皿体及び献金元の特定、献金額の割り振りといった重要な事項について、被告人大久保は、毎年、西松建設本社を訪れ、同社経営企画部長のみと打ち合わせていたのであって、新政研及び未来研の役職員は全く関与しておら
ず、被告人大久保は、新政研及び未来研の役職員と会ったり連絡を取ったことは一度もなく、接触を図ろうとしたことも一切なかった。[2]西松建設は、別紙2記載のとおり、平成17年、平成18年と続けて、新政研・未来研名義の献金額を減らし、かつ、平成18年をもって、新政研・未来研名義の献金を終了することで小沢事務所と合意に達したが、その減額・終了の交渉において、前記西松建設経営企画部長は「西松建設の業績悪化」が理由であることを明確に被告人大久保に伝えており、これに対し、被告人大久保も「まあ、お宅が厳しいのはそうでしょう。おたくの業界はどこも厳しいようですからね。」「でも急に言われても困ったな。うちも最近、厳しいんですよ。」などとのやりとりがなされている。このようなやりとりがなされること自体、被告人大久保が、新政研・未来名義の政治献金が西松建設の意思決定と同社の資金によって行われていることを認識していたことの証左といえる。[3]小沢の秘書で平成11年から平成13年ころまで小沢事務所の経理事務を担当していた者は、捜査段階において、検察官に対し、新政研と未来研は、西松建設がその名前を表に出すことなく政治献金を行う際の隠れ蓑にすぎないと思っていた旨認めており、被告人大久保も、捜査段階において、検察官に対し、これと同旨の供述をしていたが、いずれも信用できる。
3 陸山会及び第4区総支部の各収支報告書への虚偽記入について
(1)陸山会の収支報告書について
被告人大久保は、本件各寄附について、石川及び池田が、当然に収支報告書に新政研及び未来研からの寄附であるとの虚偽の記載をすることを承知の上で、同人らをしてその旨の記載をさせ、提出させていたことが認められる。したがって、陸山会の収支報告書についての虚偽記入につき、被告人大久保の故意は優に認められる。
(2)第4区総支部の収支報告書について
第4区総支部の収支報告書は、岩手県奥州市水沢区内にある小沢事務所で作成されていたが、その作成過程は、石川や池田が収支明細書を作成して同事務所に送り、同事務所の職員がこれをそのまま収支報告書に反映させていたものである。したがって、被告人大久保は、本件各寄附が新政研及び未来研からのものであることを内容とする第4区総支部の収支報告書が提出させることになると承知の上で、それに至る各作業をさせ、これを提出させていたことが認められる。したがって、第4区総支部の収支報告書についての虚偽記入につき、被告人大久保の故意は優に認められる。
4 弁護人の主張について
弁護人は、新政研及び未来研が政治資金規正法上の政治 体であるならば、本件各寄附を取得した新政研及び未来研が、政治団体である陸山会及び第4区総支部に寄附をしても、他人名義の寄附又は企業献金禁止に触れる寄附に当たらないという。そこで、検討すると、確かに新政研及び未来研は、政治資金規正法の規定に従って政治団体としての届出がなされた団体である。しかし、その実体は、すに認定説示したとおり、西松建設が社名を秘して政治献金をするために設立した同社の隠れ蓑れであった。すなわち、本件各寄附は、新政研や未来研という政治団体からの寄附の外形を装ってはいるものの、実際は、西松建設が行ったものであることは、すでに縷々述べたところから明らかである。それなのに、政治団体としての実体のない新政研及び未来研について、政治資金規正法上の届出がなされているとの一事をもって、新政研及び未来研になされた寄附は両団体に帰属し、そこから陸山会や第4区総支部になされた寄附は政治団体から政治団体に対する適法な寄附であるなどと解することは、およそ実体から離れた解釈といえる。このような解釈は、他人名義による寄附や企業献金を禁止した政治資金規正法の趣旨を潜脱するものであって、是認されるものではない。したがって、弁護人の主張は採用できない。
5 西松建設事件についての結論
以上のとおりであり、西松建設事件についての公訴事実はいずれも認めることができるので、判示第1の1、第1の2(1)、第1の2(2)前段、第1の2(3)前段、第1の2(4)、第2の1、第2の2(1)ないし(4)のとおり認定する。
第2 陸山会事件
1 平成16年分収支報告書における本件4億円の記載の有無
(1)問題の所在
平成16年分収支報告書には「借入先・小澤一郎、金額・¥400,000,000、備考・平成16年10月29日」との記載(以下「本件記載」という。)があるが、この記載について、検察官は、陸山会の定期預金を担保に小沢がりそな銀行衆議院支店から4億円を借り入れ、陸山会が同人からその転貸を受けた「転貸金4億円」であって、平成16年10月初めころから同月27日ころまでの間に小沢から陸山会が借りた合計4億円(以下「本件4億円」という。)ではないと主張するのに対し、被告人石川は、小沢から借りた4億円を記載したものであると主張している。
(2)検討
「平成16年10月29日」という収支報告書の備考欄の記載は、その体裁からして、陸山会が小沢から4億円(転貸金4億円)を借り入れた日を書いたとみるのが自然かつ合理的である。本件記載が本件4億円を書いたものだとすると、被告人石川は、本件定期預金担保融資における本件定期預金4億円を収支報告書に記載しておきながら、それを担保にする形をとって小沢から転貸を受けた転貸金4億円を記載しなかったということになって不自然である。平成15年分収支報告書の記載の体裁とも合わない。
それに加えて、被告人石川は、本件4億円を平成16年10月13日から同月28日までの間、前後12回にわたり、5銀行6支店に分散入金した後、りそな銀行衆議院支店陸山会口座に集約しているが、このような迂遠な分散迂回入金は、本件4億円を目立たないようにするための工作とみるのが自然かつ合理的である。そのうえ、本件4億円は、本件土地購入原資として小沢から借り、実際に本件土地取得費用等に充てられているにもかかわらず、被告人石川は、本件土地の残代等を支払った後に、小沢関連5団体から集めた金員を原資として本件定期預金担保融資を組み、小沢を 由させた上で陸山会が転貸金4億円を借り受けている。そして、被告人石川は、これらの行為に及んだ理由について、合理的な説 明をしていない。このような一連の経過等をみると、被告人石川は、平成16年分収支報告書上、本件4億円の存在を そうとしていたことが強くうかがわれる。これに加え、被告人石川は、本件土地の取得費用等の支出を平成16年分収支報告書に記載せず、平成17年分収支報告書に記載しようと考え、被告人大久保を介して売主側と交渉し本件登記を平成17年1月7日に延期している。これらの事実を総合的に検討すると、被告人石川は、本件4億円の収入や、これを原資とした本件土地取得費用等の支出が平成16年分収支報告書に載ることを回避しようとする強い意思をもってそれに向けた種々の隠ぺい工作を行ったことが強く推認される。そして、後述する背景事情をみると、被告人石川には種々の隠ぺい工作を行って本件4億円を隠そうとする動機があったといえるからかかる事情も前記推認を支えるものといえる。
以上のように、平成16年分収支報告書等の記載からしても、また、平成16年分収支報告書に関連する客観的な資金移動状況及びその経緯等からしても、本件記載が転貸金4億円を記載したものであることは明らかである。
2 本件の動機ないし背景事情について
(1)本件4億円がその原資を公にできないものか否かについて
被告人大久保及び被告人石川に加え、本件4億円を用立てた小沢自身ですら、本件4億円の原資については明快な説明ができていない。検察官は、本件4億円ないしその一部についても、その原資を積極的に示す立証をしていないから、本件4億円が客観的にその原資を公にできないものとみるには証拠が足りないというべきである。しかし、小沢らの前記供述状況に照らせば、本件4億円は、その原資を明快に説明することが困難なものとの限りで認定することは可能 である。
(2)水谷建設からの5000万円の授受の存否について
当時の水谷建設代表取締役社長は、「胆沢ダム堤体盛立工事及び胆沢ダム原石山材料採取工事の下請JVのスポンサーとして参入したい旨の陳情を被告人大久保にしていたところ、平成16年9月ころ、議員会館の小沢事務所において、被告人大久保から『堤体盛立工事のゼネコンが決まった後に5000万円、原石山材料採取工事のゼネコンが決まった後に5000万円を納めていただきたい。』という要求があったため、その場で了承した。平成16年10月15日、都内のホテルで被告人大久保の代わりに来た被告人石川に5000万円を手渡し、さらに、平成17年4月19日、同じホテルで被告人大久保に残金5000万円を手渡した。」と証言している。水谷建設社長(当時)の上記証言は、他の水谷建設関係者の証言とも符合し、2回目の5000万円を渡した日の都内のホテルにおけるレシートなど客観的証拠 とも合致しており、信用できる。水谷建設からは一切現金を受 け取っていないという被告人大久保及び被告人石川の供述は信用できない。
(3)小括
以上によれば、平成16年10月ころ、陸山会が小沢からその原資が明らかでない4億円(本件4億円)もの巨額の金員を借り入れ、さらに、そのころ、被告人石川自ら、胆沢ダム建設工事の受注に絡んで水谷建設から5000万円もの多額の金員を受領したことになる。また、そのころ、胆沢ダム建設工事の建設利権と小沢との関係を巡 る報道がなされていたことや、そのころ小沢事務所が常にマスコミによる報道のターゲットになっていたこと、さらに、平成17年7月以前に、既にマスコミから小沢事務所に政治資金に関する質問がなされており、被告人石川が対応していたことが認められる。そうすると、被告人石川は、陸山会が小沢から本件4億円を借り入れるとともに、そのころ、その額に近 い本件土地を購入した事実等が記載された収支報告書が公表された場合には、マスコミが本件土地取得に係る諸費用等の捻出方法等について、取材、調査等を行い、本件4億円の原資やその借入れ目的がせん策・追及されるであろうことは当然に予測していたと考えられるし、収支報告書の作成事務担当者として、かかる事態を避 けるため、本件土地の取得原資となった本件4億円の借入れの事実を隠ぺいしようとしたことが推認できる。被告人石川が本件4億円の分散迂回入金をしたり本件定期預金担保融資を受けるなどの行動を取っており、その目的について合理的な理由を説 明できていないことは、かかる推認の妥当性を支えるものといえる。また、関係各証 によれば、小沢が胆沢ダム拠 の建設利権を巡 って金員を受領した疑 いがあるとの報道がなされ、被告人石川は、その記事(以下「本件記事」という。)を議員会館事務所からファックスで受け取ってファイルに編てつしているところ、かかる記事のファックス送信日が平成16年10月19日であることが認められる。さらに、被告人石川は、平成16年10月5日に本件売買契約を締結しておきながら、突知、同月24日か25日ころになって売主側に本件土地の所有権移転登記の繰り延べを依頼している。また、本件4億円により本件土地の残代金等の決済が可能であったにもかかわらず、突如、同月28日になってりそな銀行衆議院支店に本件定期預金担保融資を申込んでいる。被告人石川が、本件記事の受領を契機として、より一層本件4億円の借入れの事実等を隠ぺいする必要性を感じ、本件4億円を目立たないようにするため前記各工作に及んだとみれば、これらの事態の推移を合理的に理解することが可能といえる。このことも前記推認を支えるものである。
これに対し、被告人大久保及び被告人石川の弁護人は、平成17年分収支報告書には本件土地取得費用等約4億円の支出が記載されているところ、胆沢ダム建設工事を巡る入札等は平成17年以降も続いているから、上記支出の公表時期を翌年に先延ばししても、胆沢ダム建設工事を巡る問題等が発覚 する危険性は変わらないはずであるという。しかし、本件土地については、いずれ所有権移転登記を行わなければならず、その際には、陸山会が本件土地を購入した事実が公示されるから、被告人石川が上記支出を収支報告書に一切記載しないことは不可能 であったといえる。そうすると、被告人石川は、上記支出を平成16年分収支報告書か平成17年分収支報告書かのいずれかに記載するしかなかったと考えられる(所移転登記を平成権18年以降に繰り延べることは現実的ではない。)ところ、平成16年分収支報告書に記載すれば、平成17年9月ころには同収支報告書が公表されて上記支出が明るみに出ることとなる。そうすると、その支出時期が胆沢ダム建設工事の入・開札時期に近い上、平成16年10月時点では、そのころに報道された胆沢ダム建設工事に関する小沢事務所の権利疑惑が今後どの程度広がるかも定かではなかったといえるから、被告人石川において、マスコミの追及が本件土地購入原資等にまで及ぶことをおそれ、これを避 けるため、本件登記を繰り延 べて上記支出を平成17年分収支報告書に記載することを画策したとしても特段不自然、不合理とはいえない。したがって、被告人大久保及び被告人石川の弁護人の主張は採用できない。
以上の検討によれば、被告人石川は、陸山会が平成16年10月に小沢から本件4億円を借り入れ、そのころ、その額に近 い本件土地を購入した事実が記載された収支報告書が公表されれば、本件4億円の原資等を巡ってマスコミから厳しい追及・せん索をけ、その原資や水谷5000万円等の事実が明るみに出る可能性があったため、かかる事態をおそれて本件4億円を隠ぺいしようとしたことが合理的に推認できる。したがって、被告人石川には本件4億円を隠ぺいしようとする動機があったといえる。
3 平成16年分、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書の虚偽記入及び不記載について
(1)当事者の主張
陸山会事件における平成16年分、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書の虚偽記入及び不記載についての当事者の主張は、別紙3「陸山会事件における当事者の主張一覧表」記載のとおりである。
(2)検討
弁護人は、例えば、平成16年分収支報告書に関し、本件土地取得費用等合計3億5261万6788円が、平成16年10月29日に支払われたにもかかわらず、被告人石川がかかる支払を平成16年分収支報告書に記載せず、被告人池田が平成17年分収支報告書に記載したことについて、本土地取得費用等合計3億5261万6788円の支払が支出として確定したのは、平成17年1月7日の本件登記時点であり、それ以前の支払は収支報告書に記載を要しない「仮払金」ないし「前払金」であるから、収支報告書の記載に誤りはないなどと主張する。しかし、被告人石川は、平成16年10月29日に本件土地の残代金等を完済し、買主としての義務をすべて尽くし、他方、売主側も買主に引き渡すべき書済類一式を被告人石川に渡して売主としての義務をすべて尽くし、その時点で、もはや双方が相手方に負うべき義務が一切なくなっていた。そうすると、そもそも、かかる支払を、収支報告書に記載を要しない「仮払金」ないし「前払金」と解する余地はないと言うべきである。また、この点を措くとしても、政治資金規正法の目的及び同法が定める収支報告書の記載事項等に照らせば、収支報告書の記載及びその公表の趣旨は、政治資金の流れとその収支の状況を明らかにすることにより、国民の不断の監視と批判の下にさらして公明かつ公正な政治活動を確保することにあるといえるのであって、収支報告書に記載すべき入及び支出は、財産上の利益が現実に収受、供与又は交付された個々の事実に基づき、個別に記載することを要するというべきである。実際に資金移動があったにもかかわらず、仮払金あるいは前払金の名目で、当該資金移動をそれとは異なる時期に記載することを許せば、政治資金の流 れを恣意的に操作することも可能 となりうるのであって、同法がかかる解釈を許容しているとは考えられない。かかる支払について、収支報告書に記載を要しないと解する余地はないというべきである。被告人石川及び被告人池田の各弁護人の主張は、採用することができない。
4 被告人石川及び被告人池田の故意について
(1)被告人石川の故意
既に認定示したとおり、被告人石川は、本件説 4億円を隠ぺいするために、あえて、本件4億円の借入れの事実を平成16年分収支報告書に記載せず、また、本件土地取得費用等合計3億5261万6788円を翌年度の収支報告書に記載するため、あえて、これを平成16年分収支報告書に記載しなかったことが認められる。したがって、本4億円及び本件土地取得費用等合計3億5261万6788円の不記載につき、被告人石川に故意が認められることは明らかである。なお、被告人石川は、司法書士から、本登記を行ったときが正式な所有権の移転になると聞いたので、本登記の日を支出日とすることが正しいと思った旨述べてべているが、本件売買契約の経緯及びその内容を前提にしたとき、司法書士が「本登記をしたときが正式の所有権の移転になる。」などと述べたということ自体、はなはだ疑わしいというほかない(なお、その司法書士は、既に死亡している。)、また、仮にそのような事実があったとしても、かかる事情が被告人の故意を阻却するものでないことは明らかである。平成16年分収支報告書における公訴事実記載のとおりの不記載及び虚偽記入につき、被告人石川の故意は優に認定できる。
(2)被告人池田の故意
ア 被告人池田は、被告人石川との間の引継ぎなどを通して、本件土地取得費用等合計3億5261万6788円は平成16年10月29日に支払ったもの、これを同年分収支報告書には記載せず、平成17年分収支報告書に支出として記載することを認識・理解し、そのとおり、平成17年分収支報告書に記載したことが認められる。そうすると、本件土地取得費用等合計3億5261万6788円の不記載につき、被告人池田に故意が認められることは明らかである。また、被告人池田は、実際には平成17年1月5日に合計2億8000万 円、同年7月13日に2000万円の各資金移動がないことを認識しながら、過去の一時的な資金融通のうち前記日時の時点で未解消のものを同日に寄附があったものとして処理し、平成17年分収支報告書に合計3億円の寄附の記載をした旨述べるが、「一時的な資金融通」についての被告人池田の供述ははなはだあいまいであって、過去に、当該3億円に該当するそのような未処理分があったこと自体疑わしい上にこのような便宜的な処理が許されないことも既に 示したとおりであるから、仮に被告人池田が、これが許さ説 れると誤信していたとしても、その故意が阻却されるものではない。
イ 被告池田は、本件4億円は、小沢の純然たる個人資産であり、これを陸山会を含む小沢関連 5団体が預かっている旨認識していたから、本件4億円の返済は「借入金の返済」には当たらないと思っていた、また、検察官が主張する寄附合計1億5000万円も本件4億円の一部であり、陸山会の資産には当たらないと思っていたから、合計1億5000万円の資金移動は「寄附」には当たらないと思っていたなどと述べ、被告人池田の弁護人も被告人池田には故意がないという。しかし、被告人池田は本件4億円が預り金であると言いながら、預かった理由や返 済時期は分からなかったし、小沢関連5団体が分けて預かっている理由や、それぞれいくらずつ預かっているのかも分からなかったなどと述 べており、その供述 は著しく不自然、不合理で到底信用することはできない。そして、被告人池田は、陸山会の会計事務の引継ぎの際、被告人石川から「小沢代議士から4億円をお借りしている。」と聞いた旨述べていることや、小沢が政治団体に対して4億円もの巨額な個人資産を預ける理由も必要もないこを勘案すると、被告人池田は、本件4億円が借入金であることを認識しながら、あえて、その返済を収支報告書に記載しなかったものと認められる。また、同様に、前記寄間合計1億5000万円も本件4億円の一部であり、陸山会の資産には当たらないと思っていたとの点も、信用することはできず、その資金移動について認識していた以上、被告人池田には、この不記載についても、故意を認めることができる。平成17年分及び平成19年分の各収支報告書における公訴事実記載のとおりの不記載及び虚偽記入につき、被告人池田の故意は優に認定できる。
5 被告人大久保の故意及び共謀について
(1)被告人石川との関係における概括的な故意と共謀
被告人石川は、[1]胆沢ダム建設工事の受注に絡んで、水谷建設から5000万円もの多 額の金員を受 領し、また、胆沢ダム建設工事の建設利権と小沢との関係を巡 る報道がなされるなどの状況の下で、陸山会が本件4億円を借り入れたところ、その額に近い本件土地を購入した事実等が記載された収支報告が公表された場合には、マスコミが本件土地の取得に係る諸費用等の捻出方法等について、取材、調査を行い、本件4億円の原資やその借入れ目的がせん索・追及されるであろうことを予想し、かかる事態を避けるために、本件4億円の借入れの事実を隠ぺいしようとしたこと、[2]そのために、本登記の繰り延べを企図し、平成16年10月24日か翌25日ころ、その交渉を、被告人大久保に依頼し、被告人大久保は、これにじて、自ら仲介業者の担当者に電話をかけて交渉応し、担当者から同月29日に当初の契約どおり残代金を完済し、かつ、本件土地の平成17年分の固定資産税を陸山会が負担するとの条件で、平成16年10月29日は仮登記にとどめ、本登記を平成17年1月に繰り延べる旨の提案を受け、これを被告人石川に伝えたことは既に認定したとおりである。
ところで、上記交渉を行った当時、被告人大久保らは、本件土地の購入原資をすでに確保しており、当初の契約内容どおり、平成16年10月29日に残代金を完済し、所有権移転登記を受けることのきる状況にあった。それなのに、本件土地の所有権移転登記を翌年に繰り延 べるよう申し入れること、さらには、残代金を完済した後も、希望して仮登記を取得するにとどめておくことは、売買契約の経緯として極めて異例であったといえる。
他方、当時の被告人大久保は、収支報告書の提出について法的義務を負う会計責任者という立場にとどまらず、実質的に、岩手県等における公共工事の受注に関し、談合における本命業者の選定に小沢事務所が決定的な影響力を有していたことを背景に、小沢事務所における天の声の発出役という立場を使って、ゼネコン等建設会社に対して小沢事務所への献金等を要請し、これにより小沢事務所の資金確保を図るという立場にあった。このような小沢事務所の影響力を背景とした献金要求活動の一環として、被告人大久保が、平成16年10月15日に、胆沢ダム建設工事の下請受注に関して、被告人石川をして、水谷建設から、前記5000万円を受け取らせたことも、既に認定示したとおり説 である。そして、本件土地の購入が被告人石川が危倶する前記の状況が生じた端緒となっているところ、これ、被告人大久保が発案したものであり、相手方との交渉、売買契約の締結、土地の境界確認、更には登記等延期交渉までも被告人大久保自身が行っており、深 く関わっていた。そして、被告人石川が最も危倶する本件4億円の発覚についても、その借入れを小沢に求めたのは被告人大久保であった。これらの事情からすれば、被告人大久保も、被告人石川同 、本件様4億円の借入れの事実がマスコミの関心の象になることを危倶し、それに対する対応に強い関心を抱くことは、容易に推測できることであり、被告人石川も、当然、そのような被告人大久保の認識を理解していたと認められる。
以上からすれば、明示的にせよ、黙示的にせよ、それまでに被告人両名が意思を通じていたことが強く推認されるが、仮にそうでなかったとしても、被告人石川は、被告人大久保に対し、本登記の繰り延べ交渉を依頼した際に、本件4億円や本件土地取得の事実を隠ぺいするための一環としてこれを行うことや、その必要性及びそれに起因する対応について説 明し、その認識を共有したとみるのが自然かつ合理的といえる。現に、被告人大久保が、前述したおり、極めて異例な行為であるにもかかわらず、被告人石川の依頼に応じて、本登記の繰り延べ交渉を行っていることは、その証左ともいえる。したがって、遅くとも、被告人大久保は、被告人石川の依頼に応じて、自ら本登記の繰り延べ交渉を行ったときまでには本件4億円を隠ぺいすること、及び、それに伴う対応を取 ることについて、被告人石川と意思を通じ合ったものといえる。
(2)被告人池田との関係における概括的な故意と共謀
被告人池田は、平成17年1月ころから同年7月ころまでの間に、小沢事務所を退職する予定だった被告人石川からその担当事務の引継ぎを受け、その引継事項やその際の質問事項をノートに記載していたが、その記載からすると、被告人池田は、遅くとも平成17年分収支報告書を作成・提出した平成18年3月28日ころまでの間には、[1]平成16年10月の本件土地購入の際、本件定期預金担保融資を設定し、小沢経由で転貸金4億円を同人から陸山会が借り入れたこと、[2]預担融資借入金4億円の返済ついては、うち2億円を平成17年10月に、残る2億円は小沢と相談の上、返済することなどを認識していたことが認められる。また、被告人池田は、被告人石川との引継ぎの際に、本件土地購入に際して小沢から4億円(本件4億円)を借りた旨聞いたことが認められる。それにもかかわらず被告人池田は、2回に分けて行われた預担融資借入金4億円の返済をいずれも収支報告書に記載する一方で、本件4億円の返済については収支報告書に記載していない。さらに、平成19年2月に、週刊文春編集部からなされた、小沢の資産公開資料による借入金等に関する質問に対する回答等によれば、被告人池田は、被告人石川が本件土地の購入や、その原資となった本件4億円の借入れの事実を隠ぺいする一環として行った本件定期預金担保融資について、その目的が明らかにならないように、虚偽の説明をしたと認められる上、本件土地購入の原資についても、あたかもそれが転貸金4億円であるかのような偽りの説 明をしていることが認められる。
以上によれば、被告人池田は、告人石川から引継ぎを受けるなどした結果、本件4億円を収支報告書に記載せず、その存在を公にしないこと、他方、本件4億円を仮装するために設定した本件定期預金担保融資にかかる預担融資借入金4億円や転貸金4億円については、その返済も含め、収支報告書に記載して公にしても構わないことなど、本件4億円の隠ぺいに関する被告人石川の意図とその方法について説明を受け、その認識を共通にしたことが認められる。したがって、被告人大久保は、被告人池田との間においても、被告人石川を通 じて、本件4億円を隠ぺいすること、及び、それに伴う対応を取ることについて意思を通 じ合ったものといえる。
(3) 以上のとおり、被告人大久保は、被告人石川ないし被告人池田との間で、本件4億円を隠ぺいすること、及び、それに伴う を取ることについて、共通の認識を形成し対応たことが認められる。そして、被告人大久保が収支報告書の提出に関して法的義務を負う会計責任者であったことや、小沢事務所におけるその役割や立場等を考慮すれば、被告人大久保は、本件4億円の借入れを隠ぺいすことについて多大な利害関係があったといえる。そうすると、被告人石川ないし被告人池田が、本件4億円を隠ぺいするための対応の一環として行う収支報告書の虚偽記入や不記載は、被告人大久保にとっても、自らの犯罪と評価されるべきものといえる。したがって、このような収支報告書の虚偽記入や不記載については、被告人大久保に概括的な故意が認められることはもとより、共同正犯としての責任も肯定できる。
(4)平成16年分、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書に関する故意及び共謀
被告人大久保は、被告人石川ないし被告人池田との間で、本件4億円を隠ぺいすること、及び、それに伴う対応を取ることについて、共通の認識を形成したことが認められることはすでに認定したとおりである。したがって平成16年分収支報告書における本件4億円や本件土地取得費用等の不記載、平成17年分収支報告書における本件土地取得費用等の虚偽記入、平成19年分収支報告書における本件4億円の返済の不記載、さらにこれに関わる収支報告書のつじつま合わのための虚偽記入や不記載についても被告人大久保の故意及び被告人石川ないし被告人池田との共謀が認められる。もっとも、平成19年分収支報告書の架空寄附合計7000万円については、被告人池田が、被告人大久保との間で共有した前記認識に基づき、それに必要な措置として本件架空寄附の計上を行ったと認めるに足る証拠 はないし、この点について、被告人池田から被告人大久保に対して、個別的な報告があったと認めるにも十分とはいえない。したがって、被告人大久保の故意及び共謀を認定するには、なお合理的な疑いが残るというべきである。
6 陸山会事件についての結論
以上のとおりであり、陸山会事件についての公訴事実は、平成19年分収支報告書の虚偽記入の一部に関して、被告人大久保に共謀が成立せず犯罪が成立しない部分があるが、その余は、いずれも認めることができる。よって、判示第1の2(2)後段、第1の2(3)後段、第1の2(5)のとおり認定する。
【量刑の理由】
1 西松建設事件は、松建設が、社名を出さず、かつ、政治資金規正法の規制をかいくぐって政治献金を行うことを目的として新政研及び未来研を設立し、同社の意思決定に基づき、新政研及び未来研の名義を使って多額の政治献金をしていたところ、被告人大久保は、新政研及び未来研が、政治献金を行うための西松建設の隠れ蓑であることを認識した上で新政研・未来研名義の本件各寄附を受け、収支報告書に真実は西松建設からの寄附であったのに新政研及び未来研からの寄附である旨の虚偽記入をしたものである。収支報告書の虚偽記入は、2団体分のそれに対し、平成15年分から平成18年分までのか4か年分に及び、その額は、陸山会の収支報告書については合計2100万円、第4区総支部の収支報告書については合計1400万円に上っている。小沢事務所は、かねてより岩手県等において行われていた談合を前提とする公共工事の本命業者の選定に当たり、強い影響力を有しており、かかる影響力を背景に公共工事の受注を希望する企業に対して多 額の献金を行わせていた。政治資金規 正法
の規 制の下で、引き続 き、企業から多 額の献金を得るために、他名義の寄附を受け、収支報告書上それが明らかにならないように虚偽記入をしたものである。陸山会事件は、被告人大久保らが、本件土地の購入原資が小沢から借りた本件4億円であることが発 しないようにと、被告人大久保及び被告人石川が共謀の上、平成覚 16年分収支報告書に本件4億円及びそれで購入した本件土地の取得費用等をあえて記入せず、さらに、被告人大久保及び被告人池田が共謀の上、平成17年分収支報告書に本件土地取得費用等を同年中に支払ったとする虚偽の記入をし、平成19年分収支報告書に本件4億円を小沢に返済した事実を記載しなかったほか、平成16年分、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書に、本件4億円の隠ぺいによって生じた収支の不均衡のつじつまを合わせるために虚偽を記入し、あるいは、必要事項を記載しなかったというものである。収支報告書の虚偽記入や不記載は、陸山会の3か年分の収支報告書に及んでおり、収入及び支出の各合計における虚偽記入額を除外しても、平成6年分収支報告書における不記載の総額は8億9700万円余、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書における不記載の総額は5億5000万円、虚偽記入の総額は3億7000万円(ただし、被告人大久保に関しては3億円)に上っている。陸山会は、その原資を明快に明することが困難な説 4億円を小沢から借りて本件土地を購入したが、その取得時期が、小沢事務所が、談合を前提とした公共工事の本命業者の選定に対する影響力を背景に、胆沢ダム建設工事の下請受注に関して水谷建設から5000万円を受領した時期と重なっていた。そのような時期に、原資不明な4億円もの資金を使用して高額な不動産を取得したことが明るみに出れば、社会の注目を集め、報道機関によるせん索や追及が行われ、水谷5000万円の授受や、小沢事務所が長年にわたり企業との癒着の下に資金集めを行っていた実態が明るみに出る可能 性があった。本件は、これを避 けようとして、敢行されたものである。
2 政治資金規正法は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性等を考慮して、政治団体による政治活動が国民の不断の監視 と判の下に公明かつ公正に行われるようにするため、政治資金の収支の公開制度を設けている。このような趣旨に照らせば、政治団体は、その果たすべき役割と責任を自覚 し、国民の疑惑を招くことのないように、政治資金の収受を公開する姿勢 が強く求められているといえる。それ なのに、本件は、現職の衆議院議員が代表者を務める政治団体に関し、数年間にわたり、企業が隠れ蓑として作った政治団体の名義による多額の寄附を受け、あるいは、本件4億円の存在が発 しないように種々画策し、収支報告書に多額の不記載や虚偽記入覚 をしたものである。政治資金規正法の趣旨にもとる、それ自体質な犯行というべきで悪ある。しかも、いずれの事件も長年にわたる公共工事を巡 る小沢事務所と企業との癒着を背景とするものであり、法の規制を潜脱して、引き続き多額の企業献金を得るために、あるいは、このような癒着の発覚を免れるために、国民による政治活動の批判と監視 の拠 り所となる収支報告書に、意図的に数多 くの虚偽記入等を行ったものである。近 時、政治に対する国民の信頼を取り戻そうと、数次にわたって政治資金規 正法を改正するなどし、政治腐敗根絶 に向けた力が重ねられていた状況の下で、その趣旨を踏みにじり、政治活動や政治資金の流 れに対する国民の不信感を増大させたものというほかなく、社会的影響を看過することはできない。それにもかかわらず、被告人らは、いずれも不合理な弁解を弄して自らの責任を頑なに否認しており、反省の姿勢 を全く示していない。
3 次に被告人ごとに個別の情状を検討する。
被告人大久保は、市議会議員を務めた経験を有し、平成年11月に小沢の私設秘書となり、平成12年7月以降は陸山会の会計責任者の立場にあったものである。長年にわたって政界に身を置いており、政治資金規正法の目的や理念を十分に理解し、自ら、あるいは、他の秘書を適 切に指導・監督するなどして、適正な政治資金収支報告を行うことが期待されていたにもかかわらず、その責任を果たすことなく判示の各犯行に及んでいる。そして、2団体の収支報告書に対し、数年間にわたって虚偽記入等を行っており、陸山会事件だけをみても、虚偽記入の総額は3億円、不記載の総額は14億円以上に及んでいる。また、被告人大保は、自らいわゆる天の声の発出役を担当し、前述 したところの企業との癒着に基づいた小沢事務所の資金集めに深 く関わっていた。これが本件の動機・背景事情をなしていることも考慮すると、その犯情は他の被告人に比 べて相当に重いというべきである。
被告人石川は、当時の陸山会の経理事務担当者として、自ら中心となり、本件4億円を収支報告書に記載せず、かつ、これを原資として支払った本件土地・取得費用等を平成17年分収支報告書に記載するように画策したものである。果たした役割は非常に重要といえる上、これが端緒となり、つじつま合わせのため、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書にも数多 くの虚偽記入等が行われるに至ったことを考慮すると、責任は大きいと言わざるを得ない。
被告人池田は、当時の陸山会の経理事務担当者として、平成17年分及び平成19年分の各収支報告書に数多 くの虚偽記入等を行っており、果たした役割はやはり重要である。
以上によれば、被告人らの刑事責任はいずれも重い。
4 他方、本件の動機・背景をなす、小沢事務所と企業との癒着は、被告人らが小沢事務所に入所する以前から存在していたものであり、被告人らが作出したものではないこと、被告人石川に交通違反前科1犯があるほかは、被告人らに前科はなく、長年にわたって真面目に社会生活を送ってきたとうかがえること、被告人大久保及び被告人池田は、本件を契機として、それぞれ小沢の公設第1秘書又は私設秘書を辞職したこと、被告人池田については、被告人石川から本件4億円やこれを原資とした本件土地取得費用等の隠ぺいについて引継ぎを受けた立場にあり、これに異議を唱えたり、是正を求めることは事実上困難であったといえることなど、酌むことのできる事情も認められる。
5 そこで、以上の諸事情を総合考慮した結果、被告人らに対しては、主文のとおりの各刑に処した上、いずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
よって、主文のとおり判決する。
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