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押尾学の事件で一審判決が出た。判決についての詳しい報道記事を引用するが、疑問に感じる点は非常に単純なことだ。押尾学は、MDMAを過剰に摂取すれば体に異常が出、ヘタをしたら死ぬことを知っていたはずであり、被害者が飲んだMDMAは押尾が持っていたもので、飲む量も押尾が指定したのではないかというものだ。刑事裁判の法律解釈をそんなに知っているわけではないが、こういう場合、普通は重過失致死罪、傷害致死罪または、殺人罪が適用されるのではないだろうか? 以下、上に述べた点を判決文の中でどう認定しているのか、述べる。 1.「押尾被告は8月2日午後2時14分、被害者に「来たらすぐいる?」とのメールを送信し、午後2時17分、被害者が「いるっ」と返信した。押尾被告がこれから23××号室を訪問して性交する予定の被害者に対して、来たらすぐMDMAが欲しいかを尋ね、被害者が欲しいと答えたやり取りと認めるのが相当である。」 以上の1、2と3により、押尾被告の持っていたMDMAを被害者がもらって飲んだと言うことが分かる。 では、MDMAの危険性についてはどう認定しているか、その部分を引用しよう。 4.「押尾被告は過去にも同様にMDMAをともに服用した女性と性交したところ、相手が変調をきたしたことを目の当たりにし、自らも変調をきたした経験を持っており、MDMAが人の生命、身体に重大な影響を及ぼす危険性があることを十分に認識していながら、安易にMDMAの服用を続けた。」 つまり、押尾自身がMDMAの危険性を知っていたと認定している。 ただ、この判決文には抜けていることがある。それは、なぜ、致死量を大きく上回るMDMAを被害者が飲んだのかという点だ。ある程度高価な薬剤であるのだから、単に女性に多めに渡して勝手に飲ませたとは思えない。そもそも、押尾が持っていたMDMAをその時に飲ませたい量だけ被害者に渡したのか、または、一定量をまとめて譲り渡したのかさえ、この判決文では分からない。ただ、普通に考えて、押尾が一定の量のMDMAを被害者に渡し、それをそのまま素直に被害者が飲んだと言うのが事実ではないのだろうか? そして、そうであるなら、殺人罪、傷害致死罪、又は重過失致死罪が問われてしかるべきではないのだろうか?殺人罪なら法定刑は「刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」だし、傷害致死罪は「(傷害致死罪)は、2年以上の有期懲役(なお、有期懲役の上限は原則として15年である)となっている(刑法第205条)」であり、重過失致死罪なら「刑法211条に定められており、必要な注意を怠るなど重大な過失で人を死傷させた場合に適用される。普通の過失致死傷罪に懲役刑の定めがないのに対し、重過失致死傷罪は業務上過失致死傷罪と同じく5年以下の懲役か禁固、または50万円以下の罰金」となる。なお、押尾が裁かれた保護責任者遺棄罪は「3カ月以上5年以下の懲役」であり、重過失致死罪と基本的には同じ量刑だ。 http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100917/trl1009171921022-n1.htmより引用: 押尾被告を懲役2年6月に処する。未決勾留日数中180日をその刑に算入する。東京地検で保管中のTFMPP(カプセル入りのもの)1錠を没収する。 【犯罪事実】 公訴事実第1(保護責任者遺棄致死罪)については、保護責任者遺棄罪の限りで認定した。その余の事実は、公訴事実と同旨。 【補足説明】 ■合成麻薬MDMA譲り受けについて 弁護人は押尾被告が平成21年7月31日、六本木ヒルズレジデンスB棟23××号室(判決文では実際の部屋番号)で、泉田勇介受刑者(麻薬取締法違反罪で実刑確定)から違法薬物を譲り受けたことは認めるものの、それは公訴事実にいうような錠剤ではなく、粉末であったと主張し、押尾被告もこれに沿う供述をする。 泉田受刑者は譲り渡したのはMDMAの錠剤10錠であったことを明快に供述している。泉田受刑者の供述については、薬物の入手先を明かさないなどの状況があり、その信用性は慎重に判断しなければいけないが、供述は田中香織さん(被害者)が服用して急性中毒で死亡したMDMAが、泉田受刑者が押尾被告に譲り渡したものであるとするに沿うものである。 泉田受刑者は押尾被告へのMDMAの譲渡で有罪となれば、その前科関係からして実刑必至の状況の中で、このような供述に及んだものであって、泉田受刑者があえてこのような自己に不利益な虚偽の供述をすることは考えにくい。押尾被告の供述については(田中さんの死亡後)自己の犯跡を隠蔽(いんぺい)すべく、泉田受刑者に薬物の処分を依頼し、△△(押尾押尾被告の元マネジャー)らと口裏合わせに及び、また(MDMAを使用した麻薬取締法違反罪で有罪となった)前刑裁判で虚偽の供述をしており、その自己に有利な供述の信用性には相当の疑問があるといわざるを得ない。押尾被告が泉田受刑者から譲り受けた物の形状は錠剤10錠であったと認められる。 その譲り受けた物がMDMAであったことは、押尾被告が泉田受刑者から譲り渡された物を被害者に譲り渡し、被害者が服用したことが認められ、被害者の体内からMDMAが検出されている事実から優に認められる。 ■MDMA譲り渡しについて 弁護人は事実を全面的に否認し、押尾被告もこれに沿う供述をする。 押尾被告と被害者はかねてから、MDMAを服用して性交を行う関係であった。押尾被告は肉体関係にあった女性2人、KとEと性交した際も、MDMAなどの違法薬物を飲ませたことがあった。 押尾被告はKとEに違法薬物を飲ませるなどした事実を否認するが、Kらが自己の名誉を損なってまであえて虚偽の供述をすべき事情は見いだしにくい。押尾被告の供述が信用できないことは明らかというべきである。 押尾被告は8月2日午後2時14分、被害者に「来たらすぐいる?」とのメールを送信し、午後2時17分、被害者が「いるっ」と返信した。押尾被告がこれから23××号室を訪問して性交する予定の被害者に対して、来たらすぐMDMAが欲しいかを尋ね、被害者が欲しいと答えたやり取りと認めるのが相当である。 押尾被告はメールのやり取りに対して、来たらすぐ押尾被告が要るか、つまりすぐ性交をするかという意味だと弁解する。しかし、性交を意味するものとして体が要るかという表現自体、日本語として非常に不自然である。その上で、現に押尾被告と被害者は、被害者が部屋を訪問してすぐに性交を始めていない。 被害者の訪問時刻は同日午後2時半過ぎで、性交の開始時間は、同室のブルーレイディスクの電源がオフになった午後3時56分以降と認められる。 Kは押尾被告と会って性交をする予定の日、押尾被告から事前に「あれいる」とのメールを受け取り、「いらない」と返信したが、その日も予定通り性交している。Kは押尾被告の「あれ」とは薬物のことを指していると理解したといい、この状況は押尾被告の弁解とおよそそぐわない。押尾被告の弁解は虚偽である。押尾被告が被害者に泉田受刑者から入手したMDMAを譲り渡し、それを被害者が服用したことが相当強く推認される。 一方、押尾被告は被害者が服用したMDMAは押尾被告が泉田受刑者から入手したものではなく、当日被害者が持ってきたと弁解する。さらに被害者が持ってきたというMDMAについて(「来たらすぐいる?」という)メールの後の被害者からの電話で「新作の上物がある」との話があった、ダークブラウンの三角形の錠剤20個ぐらいだったという。 確かに関係証拠によれば、被害者は暴力団員と付き合いがあったことは認められ、コカインを使用していたことがうかがわれるのであって、被害者が独自にMDMAを入手できた可能性がなかったとまでは言い切れないものがある。 しかし、被害者からの(『いるっ』という)返信メールは、被害者がMDMAを自ら持ってきて飲んだという押尾被告の弁解とそぐわない。返信メールの際、被害者はすでに家を出ているのであり、もし被害者が自分のMDMAを使うべく持参していたとすれば、「いるっ」との返信はいかにも不自然というほかない。 そして、事件後、押尾被告から薬物の処分を依頼された泉田受刑者が薬物の形状を確認したところ、三角形の錠剤ではなかったことを明瞭(めいりょう)に供述していることなどから、押尾被告の弁解は到底信用できない。MDMA譲り渡しの事実は優に認められる。 ■保護責任者遺棄致死罪の成立を認めず、保護責任者遺棄罪の限度で成立を認めた理由 弁護人は保護責任者遺棄致死罪、さらに保護責任者遺棄罪は成立しないと主張し、押尾被告もこれに沿う供述をする。 MDMA服用後の被害者の容体の推移について、押尾被告の捜査段階の供述調書がある。弁護人は調書の任意性を争うが、弁護人が逮捕以降に毎日のように接見していたことや、調書の記載内容などから、その任意性に疑いがないことは明らかである。そして供述記載は、その場にいた者にしか供述できないような迫真性、具体性を備えていることが指摘できる。 すなわち、 ベッドの上で被害者が突然状態を起こしてベッドの上にあぐらをかいた。 みけんにしわをよせながら、ハングルのような言葉で誰かに文句を言うようにぶつぶつしゃべりだし、今度は違う方を見ながら「掛け金が」などと怒鳴り始めた。 だんだん激しく怒り出し、歯を食いしばってうなり声を上げ、両手を何度か上下に動かした。 押尾被告がほほをたたくなどすると、ヘニャッと笑って「ごめんねぇ」と言った。 すぐに表情がなくなり、ぼーとしたような顔になった。 上記までの状態を2、3回繰り返した。 両目を大きく大きく開き、黒目を左右にギョロギョロ動かし、白目をむきだして映画の「エクソシスト」みたいになった。 無表情で一点でにらみつけたまま、のどの奥の方からうなり声を漏らして、映画の「呪怨」みたいになった。 押尾被告が声をかけたが、うなり声を上げるだけで会話をしなくなった。 ボクシングの前をしたり、エクソシストのような顔をしたりと繰り返した。 ベッドの上にあおむけに倒れ、息が止まっているみたいだった。押尾被告が手首の脈をみたが、脈は打っていないみたいだった。 以上であり、これらの容体の推移の時間的経過について、午後5時50分ごろから午後6時20分ごろまでとの供述がある。このような被害者の容体の推移は、MDMAの急性中毒症状として、医学的にみて特に不合理不自然ではない。 押尾被告は公判で「被害者が突然ベッドの上で上体を起こし、あぐらをかいて、ひとりでぶつぶつ何かを言い出した。怒ったり、笑ったり何かをにらみつける表情もあった。そのような状態が10分くらい続いて、突然あおむけに倒れた。脈を測っても動いてなかった」などと、突然心肺停止状態になったかのような供述をする。 しかし押尾被告は被害者の容体の推移について、捜査段階では公判と異なる供述をしており、公判の供述は到底信用できない。 死亡した飲食店従業員、田中香織さん(被害者)の容体の推移の時間的経過は時計を見て確認したといった裏付けのあるものではなく、押尾被告の感覚によるものである。 押尾被告は平成21年8月2日午後6時32分に知人のAに電話をかけたのを皮切りに、同日午後6時47分まで立て続けに知人や友人に8本の電話をかけるなどし、同日午後6時35分のAとの電話では、被害者の容体を「シャワーを浴び、出たら女が意識がなくて倒れた」などと話した。 同日午後6時59分の△△(押尾被告の元マネジャー)との電話では、「部屋で友人が死んでいる」などと話した。 そのころ押尾被告は被害者に心臓マッサージを施しており、その時点では被害者は死亡直前か、すでに死亡していた。被害者の肋骨(ろっこつ)に心臓マッサージによると考えていい骨折があり、出血が軽微であったからである。 そうすると、押尾被告は8月2日午後6時32分に電話をかけ始め、午後6時35分の電話で被害者が意識を失ったことを知人に伝えているので、同日午後6時半ごろには被害者が意識障害に陥り、そのころから押尾被告が心臓マッサージを始めたころまでの間には心肺停止状態に至ったと認めるのが相当である。 本件捜査段階では、被害者が錯乱状態に陥り始めたときから心肺停止状態に至るまでの時間は、30分程度だったと(押尾被告が)供述していることなどを総合すると、被害者が錯乱状態に陥ってから、心室細動、頻拍の状態に至るまでは、少なくとも30分はあったと認めるのが相当である。 以上の事実を前提に検討すると、錯乱状態に陥った被害者が、保護責任者遺棄(致死)罪でいう、生存に必要な保護を要する「病者」に該当したことは明らかである。被害者の錯乱状態は、合成麻薬MDMAという違法薬物の摂取によって出たものであり、その状態が生命に危機をもたらす恐れのある状態であることはみやすい道理で、故意に欠けるところはないというべきである。 被害者はMDMAの服用による急性中毒症状で「病者」に該当するに至り、被害者が服用したMDMAは押尾被告が譲り渡したものであること、押尾被告と被害者はともにMDMAを服用して性交に及んでいること、当時、23階の部屋は密室状態で、押尾被告以外に生存に必要な保護を加えられる者はおらず、119番をして救急車を呼ぶことは押尾被告にとって極めて容易であったことから、押尾被告には被害者を保護すべき責任があったことは明らかである。 押尾被告がそのころ119番通報をした場合、通報から医療行為に及ぶまでに要する時間は、10数分程度と認められる。その場合の救命可能性は一定程度あったことは、医師らも認めている。 そうすると、押尾被告には被害者の生存に必要な保護をすべき責任があり、119番通報していれば被害者を救命できる可能性があったのに、そのような行為に及ばなかったのだから、押尾被告に保護責任者遺棄罪が成立することは明らかである。 保護責任者遺棄致死罪が成立するには、犯人が生存に必要な保護に及べば、救命が確実であったことが合理的な疑いを入れない程度に立証されることが必要である。 被害者の救命可能性の程度については、専門家である医師の間でも見解が分かれている。結局、被害者が錯乱状態に陥ってから数分が経過した時点で押尾被告がただちに119番通報したとして、救命が確実であったことが合理的な疑いをいれない程度に立証されているとは、いえないということになる。従って、保護責任者遺棄致死罪の成立は認められない。 【量刑の理由】 本件は、押尾被告はMDMAを知人から譲り受け、これを別の知人女性に譲り渡し、合成麻薬TFMPPを所持したという麻薬取締法違反と、押尾被告とMDMAを服用した被害者が、重篤な急性麻薬中毒症状を発現したにもかかわらず、生存のために必要な保護をしなかったという保護責任者遺棄の事案である。 押尾被告はMDMAを共に服用して女性と性交をすることを繰り返していた。押尾被告の一連の行為は自らの欲望の充足のためには、法規範の無視もいとわないというものであり、誠に身勝手で悪質な犯行である。TFMPPの所持の所持も、同様に悪質である。 押尾被告は入手したMDMAをともに服用した被害者が重篤な急性MDMA中毒症状を発現させ、生命に危険な状態を生じさせたにもかかわらず、自らの麻薬使用発覚を恐れて119番通報せず、生存に必要な保護をしなかった。押尾被告は芸能人としての地位や仕事、自らの家庭を失いたくないという自己保身のため、自らに責任がある必要な保護をしなかったというに尽きるのであって、酌量の余地はみじんもない。 押尾被告は過去にも同様にMDMAをともに服用した女性と性交したところ、相手が変調をきたしたことを目の当たりにし、自らも変調をきたした経験を持っており、MDMAが人の生命、身体に重大な影響を及ぼす危険性があることを十分に認識していながら、安易にMDMAの服用を続けた。 その意味で上記状況(田中さんが死亡した事件)は起こるべきして起こったものであり、この点でも強い社会的非難を免れがたい。押尾被告には被害者の死亡について致死罪の責任を問うことはできないというのが裁判所の判断ではあるが、押尾被告が速やかに119番通報を行っていれば、被害者の救命可能性は相応にあって、対象者が死亡しなかった事案とは犯情を異にするというべきである。 被害者の両親が「押尾被告が119番通報してさえくれていれば娘を失わずに済んだのでは」との思いから、押尾被告に厳罰を求めているのも心情として理解できる。にもかかわらず、押尾被告は遺族らに何らの慰謝の措置を講じていないどころか、田中さんへのMDMA譲り渡しを否認した上、押尾被告に保護責任がないと主張するなどしており、真摯(しんし)な反省の情は皆無である。 加えて押尾被告は各種罪証隠滅行為に及んでおり、そのために事件発見が困難になったという面も否定できず、犯行後の情状は甚だ不良である。 このように押尾被告の刑事責任は重いと言わざるを得ないが、被害者が自らMDMAを服用する遺憾な面があったことは否定できないこと、すでに約9カ月間身柄を拘束されて芸能生活を休止する社会的制裁を受けていることなど、押尾被告のために考慮すべき事情もある。 この事情を十分考慮しても、保護責任者遺棄の悪質性にかんがみると、刑の執行を猶予すべき事案であるとはいえず、主文の通り実刑を科するのが相当である。 以上引用終わり。 *6月8日の記事「近づく戦争・テロ社会、これらの動きを止めるべきでは?」から一連番号を付しています。<<175>>
押尾学事件でなぜ重過失致死罪、傷害致死罪、又は殺人罪が問われなかったのか?
2.「しかし、被害者からの(『いるっ』という)返信メールは、被害者がMDMAを自ら持ってきて飲んだという押尾被告の弁解とそぐわない。返信メールの際、被害者はすでに家を出ているのであり、もし被害者が自分のMDMAを使うべく持参していたとすれば、『いるっ』との返信はいかにも不自然というほかない。」
3.「被害者はMDMAの服用による急性中毒症状で『病者』に該当するに至り、被害者が服用したMDMAは押尾被告が譲り渡したものであること、押尾被告と被害者はともにMDMAを服用して性交に及んでいること、当時、23階の部屋は密室状態で、押尾被告以外に生存に必要な保護を加えられる者はおらず、119番をして救急車を呼ぶことは押尾被告にとって極めて容易であったことから、押尾被告には被害者を保護すべき責任があったことは明らかである。」
【主文】
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