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2023年5月13日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249634
日本政府が防衛強化を進める南西諸島。鹿児島以南の島々を指すが、沖縄ではこの言葉がクローズアップされることに違和感を抱く人もいる。元海兵隊員の政治学者、ダグラス・ラミスさん(86)=那覇市在住=はその1人だ。沖縄の日本復帰51年になる15日を前に、募る懸念を聞いた。(木原育子)
5月上旬、那覇市の首里城周辺。木のつえを突き、大地を踏みしめるような堂々とした足取りで、ダグラスさんが現れた。
◆沖縄の危険性が見えなくされている
「つまり琉球ってことでしょう。なぜ沖縄と言わず、南西諸島とぼかしているのか」。防衛関係を伝えるニュースで、「南西諸島で防衛強化」「南西シフト」と連発して報じられることへの違和感を口にした。「南西諸島」との言葉を多用することで、沖縄の危険性が見えなくされているように感じるからだ。
「沖縄は本土の捨て石にされたという強烈な記憶が残る。沖縄がまた戦場になる可能性をわかりやすく示すと、抵抗感が再び大きくなる。そうさせないために南西諸島という言葉で、国にとっての不都合をごまかし、曖昧にしていないか」
ダグラスさんは米サンフランシスコ生まれ。1958年に海兵隊に入隊し、60年4月から1年間、返還前の沖縄でキャンプ瑞慶覧ずけらん(宜野湾市など)に駐留した。その後除隊し、平和運動を続けながら政治学者として発信を続けてきた。
ダグラスさんは、「言葉の分析は大事だ。戦争と言わず、有事と言い換えることもだ」と語る。
◆進む自衛隊の「南西シフト」
南西諸島を巡っては、民主党政権が2010年、中国の軍事力強化を背景に防衛大綱で「自衛隊配備の空白地域」と位置づけ、自衛隊配備を明記。自民党政権の大綱でも「南西シフト」の方針は続いた。16年には沖縄県の与那国島に駐屯地が開設され、同県の宮古島、鹿児島県の奄美大島も続いた。
今年でいえば、鹿児島県の馬毛島で自衛隊基地の本体工事が始まり、敵の艦艇の接近を阻止するために「12式地対艦誘導弾」が沖縄県の石垣島に設置された。宮古島、奄美大島にもミサイル部隊は配備され、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の設置も進む。
◆沖縄の軍事化は「構造的差別そのもの」
確かに「南西シフト」は進むものの、基地負担という点で考えれば、米軍基地を含めた沖縄への比重はやはり大きい。そんな沖縄にダグラスさんはなぜ、傾倒してきたのか。
それは沖縄に駐留した経験が大きい。大卒後に入隊すれば学費が免除になる米国の制度があり、家計を助けるために海兵隊員に。
ある時、訓練で泥だらけになった服を毎日洗濯してくれた沖縄女性のため、「感謝の思いでもっと多くの給与を払いたい」と願い出たことがあった。結局認められなかったが「沖縄のためにと思っても、こちら側にいる限り対等にはなれず、どこかで沖縄を差別している。差別に参加する構造からどうやっても抜け出せない」。植民者側という事実に愕然がくぜんとしたという。
共同通信の世論調査では、防衛力強化の増税方針を「支持する」は19%で、「支持しない」が80%を占めた。一方で、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は「賛成」が61%で、「反対」の36%を大きく上回る。
ダグラスさんは「沖縄が軍事化され、日本が受けるダメージは沖縄限定にとどめることに無意識に納得していないか。それこそ構造的差別そのものだ」とし、「日本は沖縄を再び捨て石にするのか。戦争が帰ってくる…そうさせないために、国からはき出される言葉に注意してほしい。沈黙は差別への加担なのだから」と訴える。
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