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佐々木投手の挑戦を後味の悪い幕切れにした「本当の戦犯」
高校野球ファンがその夜、のんだビールの味は、いつもよりずっと苦かったに違いない。賛否両論渦巻く163キロ佐々木投手の「登板回避」。32歳の若き監督の決断は、その意に反して実に後味の悪い幕切れを生んでしまった。彼を追い詰めた本当の「戦犯」は……。
「正直、肯定も否定もしづらいんです。難しい問題ですよね」
今回の騒動についてそう述べるのは江川卓氏である。
「高校野球をやってきた一人として言えるのは、球児は甲子園に出たくて頑張っているということ。僕はラッキーにも出場できましたが、甲子園は自分の人生をかけてもいいと思える特別な場所なんですよ。この気持ちは大船渡の監督にも選手にもあったと思います」
江川氏と佐々木投手には共通点が少なくない。高校生ではバットにかすりもしない剛速球の持ち主。ワンマンチームの絶対的エース。また、東北の生まれであることも同じだ。
「僕が佐々木投手の立場だったら投げたいと言っていたでしょう。僕らの時代には4連投も5連投も当たり前。投げたいと言えば、壊れても投げさせる時代でしたからね。ただ、40年も経って時代は変わった。アメリカの練習方法、考え方も入ってきた。その意図は尊重すべきです。これは本当に悩ましい問題なんです」
試合から1週間以上が経過した今も「登板回避」について世間はまさに百家争鳴。賛成、反対双方の議論が喧しい。それこそが江川氏の言うところの「難しい問題」である証左であり、その根本には今日の事態を招いたある「戦犯」の姿が見えるのだが、まずは、騒動を振り返ってみよう。
今夏の全国高校野球、岩手県大会の決勝は、花巻東高校と大船渡高校の対戦となった。花巻東はメジャーリーガー・菊池雄星や大谷翔平を生んだ名門私立。一方の県立・大船渡は佐々木のワンマンチームと言ってよく、実際、佐々木が登板しなかった春の県大会では1回戦負けを喫している。大船渡が甲子園出場を果たすには、佐々木が花巻東打線を封じ込める以外に可能性はなかった。ところが、7月25日の決勝戦で、国保監督は彼の先発を回避したばかりか、リリーフはおろか打者としても起用せず。ベンチに置いたまま、 チームは2−12の大敗を喫したのだ。
「試合後の監督は、覚悟を決めたように取材に応じていました」と言うのは、現場で取材したさるスポーツ紙の記者である。
「投げられない状態ではなかったが、故障を防ぐために判断した。これまでの3年間の中で一番壊れる可能性が高かった、と」
「一方の佐々木君は、投げたかったかと聞かれて10秒以上沈黙して、監督の判断なのでしょうがないです。高校野球をやっている以上、試合に出たい、投げたいというのはありました、負けたので悔いは残ります、と答えるなど、気持ちに整理が付いていない様子がありありと見えました」(同)
「相談してほしかった」
不完全燃焼ーー。勝負の世界で最も後悔が残る結末である。
翌日からのスポーツ紙やテレビでは早速論争が繰り広げられたが、他方で、
「実際の試合を見た立場から言えば、大船渡の選手は動揺しっぱなしでしたね」
と述べるのは、やはり現場で取材した、さるスポーツライターである。
「本人も含めて、ナインが不出場を聞かされたのはその日の朝でした。しかも先発はさせないということのみしか伝えられていなかったので、選手たちは途中から佐々木君が投げるものだと思っていたようです。が、なかなかその時が来ない。そんな中、ナインは出るのか出ないのか、不安でいっぱいの様子でした。キャッチャーはいつもはエラーする子ではないのですが、三つもエラーをしていましたし」
試合が中盤に入ると、大船渡の控えピッチャーが独断でブルペンに入って投球練習を始めたという。
「国保さんは選手の自主性を重んじる監督でもともとほとんど指示を出さないのですが、この時もそうでしたね。でも、大量失点していた先発投手を6回まで引っ張り、しかもリリーフしたのは2年生投手。これは誰が見ても采配ミス。終盤になると帰るお客さんも出てきて、球場はざわざわしっぱなし。野球に集中できる環境ではないまま、試合は終わりました」(同)
そんなことがあってか、試合後の囲み会見で選手たちの中には、
「朗希が投げてほしかった」「もう少し相談してほしかった」
と尖った発言をする向きもあった。後味の悪さのみが残ったのである。
もともと大船渡は、35年前に一度、甲子園に出場した経験しか持たない。
「強豪校でもないところに10年に一人の選手が出てきちゃったでしょ。だから、学校も監督もプレッシャーを感じていたのは事実です。取材規制もすごく、本人への取材はNG。父兄やOBにも、取材が来たら学校に連絡してくださいというお達しが出るほど、学校全体が過敏になっていました」(前出ライター)
そんな中、4月の練習試合で佐々木が163キロを出す。緊張はピークに達した。
「だから、予選に入ってからの采配にも迷いが見られました、途中で下げたとはいえ、2、3回戦あたりは佐々木君が投げなくてもよかったと思いますし、一方で4回戦では194球も投げさせている。故障予防が第一ならこれはマイナスでしょう。準決勝も129球投げていますが、ノーシード校が相手ですから、決勝に全力を注ぐ意味でも、先発回避でもよかったのでは。言っていることと実際のマネージメントがチグハグでした」(同)
実際、同校野球部の関係者に聞いても、
「勝つ気がなかったのかね。ゲームプランが全く出来ていない。まるで思考停止状態です。私立だったらクビ」「自分たちの野球ができない中で終わってしまった。選手たちが惨めでかわいそうですよ」
と手厳しい意見が出るけれど、これもまた詮無いことだろう。なにしろ監督は30代前半の若さ、しかも、指導者になってわずか2校目。そこでかような逸材と出会ってしまったのだから。
実際、さる野球部の関係者によれば、
「壊しては一大事だから早く手を離れてほしいとこぼすことも。決勝のミーティングでもナインに対し、監督は、自分で死ぬようなことはするなよと言ったそうです」
あまりにもナーバスになりすぎていた彼の心中が見て取れる話なのである。
(中略)
千日評定
「そもそも、責められるべき根本問題は、スケジュールの過密さなんです」
と憤るのは、『甲子園という病』の著者で、スポーツジャーナリストの氏原英明氏である。
「現状、夏の甲子園の地方大会は、高校の期末試験が終わる7月の1週目からになる。すると、2〜3週間で決勝までのスケジュールを組まなければいけない。そうなれば、連投を強いられるのは当たり前です。例えば5月あたりから土日を使って試合を組めば、エースが投げても十分な間隔が空き、故障を防げるような日程が組めるはずなのです」
また、ライターの広尾晃氏も述べる。
「未だに日本の高校野球界が球数制限に動いていないことも問題なんです。韓国でも台湾でも、高校の大会では1試合100球程度の球数制限を導入している。野放しなのは日本だけです。仮に導入されていれば、監督が悩んだり、批難されたりする以前に、ルール上、選手を守ることができる」
実は、こうした議論はかれこれ20年ほども論じられてきている。しかし、遅々として進まないのは、高校野球界の責任が大きい。
「そろそろそういう問題を考えないといけない時期に来ていると言いながらも動きが鈍い。責任を取りたくないからなのか、とにかく現状維持、自己の保身の方向に走りがちな組織であると思います」(氏原氏)
「高校生の身体のことより、連投に耐えて頑張った、という汗と涙の感動ストーリーで商売をしている大人たちに影響を与えないように、という気持ちが大きいのではないでしょうか。だから、いつまで経っても変わらない千日評定が続いているのです」(広尾氏)
その一方で、タバコを吸ったとか、ガッツポーズが派手だなどという話には異様な速さで対応するのだから、何をか言わんや。まさに今回の一件の隠れた「戦犯」と言われても仕方あるまい。
(以下、略)
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