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癌(がん)が、人類にとって大きな敵であり続けて居る事は、言ふまでも有りません。
その癌が発生する原因は何なのか?この問ひに対して、人類がこれまでに得た人類の知識の中で、「答え」に近い物は、癌遺伝子の発見だったと言って間違い無いでしょう。
即ち、人間をはじめとする多くの動物は、何と、自身の細胞の内に、正常な細胞をを癌細胞にしてしまふ遺伝子を持って居ると言ふ事実こそは、これまで、人類が癌との戦いの中で得た最大の発見であったと、私は、思ひます。癌遺伝子の発見が全てではないし、その発見が、直ちに治療をもたらして居ない事も事実です。しかし、20世紀の後半において、正常な細胞が、自身を癌細胞に変化させる遺伝子を始めから持って居る事が明らかにされた事は、これまでの癌研究の最大の成果であったと思ひますし、これからの癌研究の起点である事は、余りにも明らかです。
これは、考えてみれば、不思議な事ではないのです。癌細胞の特徴は、その著しい増殖能力ですが、癌細胞が持つそうした増殖能力は、動物が成長したり、傷を修復したりする際に求められる細胞活動の活発化と紙一重の物だからです。そうした「癌遺伝子」が無ければ、地上の脊椎動物たちは、特に、哺乳類は、氷河期を生き残る事は出来無かったかも知れません。私たちの細胞が、そんな「恐ろしい」遺伝子(癌遺伝子)を持って居る事には、理由が有るのです。その意味で、癌遺伝子の発見は、癌の治療法を発見する上で決定的に重要であった事はもちろんですが、私たちの生命観、地球環境観、などにとっても、科学史上の極めて重要な発見であったと言へるに違い有りません。
この癌遺伝子(オンコジーン)の研究史においては、日本人研究者の貢献が非常に大きかった事を皆さんは御存知でしょうか?逆のぼれば、20世紀初頭、野口英世や長岡半太郎と同時代人であった藤波鑑が、癌ウィルスの発見に繋がる先駆的な研究をして居た事に始り、レトロウィルスが持つ逆転写酵素の発見において重要な役割を果たしながら、何故かノーベル賞を与えられなかった水谷哲など、この癌遺伝子の研究において、日本人研究者が果たした役割は、絶大な物が有りました。水谷哲がノーベル賞を受賞しなかった事は、ノーベル賞の歴史における汚点の一つですが、この事も有って、一般の日本人は、癌遺伝子の研究における日本人研究者の貢献の大きさを知らない様に思はれます。
そんな癌遺伝子の研究に大きな貢献を残した日本人研究者の一人に、花房秀三郎教授が居ます。
花房教授は、癌遺伝子が、多様性に富んだ物である事を指摘した先駆者で、今日の癌遺伝子の研究の隆盛に大きな貢献が有ったウィルス学者です。中でも、srcと言ふ癌遺伝子の研究から、癌遺伝子一般の性質を解明しようとした仕事で、非常に高く評価されて居た研究者です。
その花房教授が他界されたと言ふニュースに接して、私は矢張り、「何故ノーベル賞をもらえなかったのだろう?」と言ふ気持ちを新たにしました。
これは、私などだけの疑問ではありません。そして、こんな事を指摘する方も居ます。
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(以下引用)
花房秀三郎の研究室にいた河井貞明はsrc欠損ラウス肉腫ウィルスをトリに感染させると、通常そのウィルスはがんを発生させることはないが、稀にがんを起こすものがあることに気がついた。その腫瘍を切除してそこからウィルスを回収してみると、srcを再び獲得したものであることがわかった。この実験から、srcがもともと細胞内に存在するということが、ビショップらの研究とは別の、より生物学的な角度から証明されたのである。
しかし花房は非常に慎重に追試を行っていたため、ノーベル賞を取りそこねたと言われている。バーマスらが受賞したときとほとんど同時期のことで、このことからもがん遺伝子研究の急激な発展をうかがい知ることができる。
(田矢洋一・野田亮・山本雅『がん遺伝子ハンティング』(羊土社・1992年)108ページより(この箇所は野田亮氏・文))
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日本人らしいなあ、と思ってしまふのは、私だけでしょうか。
真面目に、自分の研究を疑って検証に検証を加えて、ノーベル賞を逃したのだとしたら、本当にお気の毒だったのですが、そこはサブプライムの国、アメリカです。他にも理由は有ったのかもしれません。
花房教授逝去のニュースを読んで、上の本のこの箇所を思ひ出したのですが、今日、インターネットで花房教授のお名前を検索エンジンに入れたら、こんなサイトを見つけました。
↓
http://www.brh.co.jp/s_library/j_site/scientistweb/no34/index.html
(クリックしてお読み下さい)
感動しました。花房先生には、ノーベル賞よりも素晴らしい物が沢山有ったのだな、と思ひました。特に、このサイトに有る、アメリカ人の学生に花房先生がシャーレを見せて居る写真を見て、「この人は、本当に幸せだったんだなあ」と確信せずには居られませんでした。
何と言ふ素晴らしい人生を生きられたのだろうと思ひました
御冥福をお祈りします。
平成21年3月17日(火)
西岡昌紀(内科医)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=635408558&owner_id=6445842
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■がん遺伝子研究の第一人者・花房秀三郎氏が死去
(読売新聞 - 03月16日 11:17)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=779431&media_id=20
がん遺伝子研究の第一人者・花房秀三郎氏が死去
(読売新聞 - 03月16日 11:17)
がん遺伝子研究の第一人者で、文化勲章を受章した米ロックフェラー大名誉教授の花房秀三郎(はなふさ・ひでさぶろう)氏が15日午後、肝不全のため、大阪大病院(大阪府吹田市)で死去した。79歳。
自宅は兵庫県芦屋市松浜町14の34の423。通夜、告別式は故人の遺志により近親者で行う。喪主は妻、恵美子さん。
同県西宮市出身。大阪大理学部化学科を卒業後、ウイルス学の基礎を習得し、1961年に渡米。73年にロックフェラー大教授に就任。ニワトリにがんを起こす「ラウス肉腫ウイルス」を使った研究で、正常な細胞の中にがん遺伝子の原形が存在し、それをウイルスが取り込み、がん遺伝子に作りかえることを実証した。82年、米医学界で最も権威のあるラスカー賞を日本人初受賞。95年に文化勲章。