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− 第24回 −
村山斉氏
〜宇宙の根源〜
今回の講師は、物理学者の村山斉さん。素粒子物理学研究の世界的な第一人者で、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長も務めておられます。今年7月、国際的な研究グループがヒッグス粒子とみられる素粒子を発見したと発表。宇宙や人類の謎に迫る新たな手がかりとして注目されました。「神の素粒子」とも呼ばれるヒッグス粒子の発見に際しては、どのようなドラマがあったのでしょうか?
ヒッグス粒子と研究者の歴史
今年はヒッグス粒子が発見され、世界で大騒ぎとなりました。もしヒッグス粒子が宇宙からなくなると、私たちの体は10億分の1秒でバラバラになってしまいます。つまり、原子がまとまっていられる秩序を宇宙にもたらす大切な粒子なのです。
物質は小さな粒でできており、大きく分けてふたつの種類があることがわかっていました。ひとつは物質を作る物質粒子、もうひとつは力を伝える粒子です。しかし1964年に、全く異なる種類の、秩序を作るヒッグス粒子が提案されたのです。なぜそれ以前にわからなかったのかといえば、ヒッグス粒子は空気のような存在だからです。私たちは空気があることを知っていますが、ではなぜ、匂いもせず、触ることもできず、見えもしないものの存在を知っているのでしょうか? それは動きがあるからです。しかしヒッグス粒子は角砂糖1個の大きさのなかに10の50乗個分詰まっていますから、動きを作るのが難しい。そこで、その詰まった1個をゴツンと叩いて取り出してみようというのが今年の実験でした。
ところが温度にして約1兆度のエネルギーで叩かないと出てきませんから、その1個を取り出すにも大変なエネルギーが必要です。50年かけてそれができる機械を作ることができたのですが、そもそも、これを考えたのは1980年代です。当時はアメリカが先を進んでいましたが、共和党政権のレーガンから民主党政権のクリントンに変わった際に冷戦も終結し、アメリカは「戦う必要がない」とこの計画をキャンセルしてしまいました。その後、ヨーロッパで再開されたのは2000年代初頭。以後苦労を重ねながら、やっとここまで来たのです。もう少し性質を計る必要がありますが、ここに到達したこと自体が偉大な結果だったのです。
暗黒物質の不可解さ
私たちのまわりのものは原子でできていて、その原子はヒッグス粒子のおかげでできています。そして宇宙も原子でできていると考えられてきましたが、2003年に大どんでん返しがありました。宇宙のなかで、原子でできているものはわずか4.4%に過ぎないことがわかったのです。なお残りの約95%のなかの23%は暗黒物質で、72%は暗黒エネルギーと呼ばれるものです。暗黒物質=ダークマターは物質ですが、正体がはっきりしていません。わかっているのは、私たちの生き別れの生みの親であるということだけです。
こうしている間も、私たちの体を毎秒何京個という数のニュートリノが通り過ぎています。そして、同じように存在を感じさせない粒が宇宙にもたくさんあるのではないかと考えられています。また、ビッグバン直後にそのような粒子ができたのだろうとも思われていますが、これが少しずつ重力で集まって私たちが生まれる元になった。ですから、生みの親なんですね。
その正体を確かめるためにいくつもの実験が行われていますが、ヒッグス粒子を見つけたヨーロッパの装置では、ビッグバンを再現して暗黒物質を作れるのではないかと期待しています。また、感度の高い装置を置いておけば1年に10回くらいはぶつかるのではないかという実験も行われています。
膨張し続ける宇宙
宇宙の72%を占める暗黒エネルギーは、宇宙の運命を握っていると考えられています。宇宙が膨張しているという話をご存知かと思いますが、これは地球の上に立ってボールを上に投げるのと同じだという論理。最初にボールを投げる勢いがビッグバンで、その後、ボールがどんどん上に上がって行く様子が宇宙の膨張を現しているということ。実際、方程式にしてみるとまったく同じです。
つまり、地球がボールを引っ張っていますからだんだん遅くなります。宇宙の膨張も遅くなって止まり、最後には落ちてきて宇宙が潰れるのではないかという、「ビッグ・クランチ」という可能性が言われていました。そこできちんとした観測が行われましたが、その結果、膨張は止まるどころかだんだん加速していることがわかったのです。これは1998年の発見で、昨年ノーベル賞が与えられました。
さて、ここで問題なのは、どれくらいの速さで加速しているかです。どんどん加速すると、どこかのタイミングで膨張の速さが無限大になり、宇宙が無限に引き裂かれてそこで終わりになることもあり得ます。ですから、膨張がどのくらいのスピードで加速しているのかを精密に計ることで、宇宙は終わりを迎えるのか、加速して膨張を続けるのか、減速するのか運命を見極めたいのです。私たちの研究機構でも膨張の速さを正確に計測し、宇宙の運命を予測したいと考えています。
地球がどうなるのかについては答えがわかっていまして、45億年後には住めなくなります。太陽は水素を燃やして光っていますが、約45億年ごとに水素のエネルギー源を使い果たしてしまう。太陽もエネルギー危機を迎えます。燃えることができなくなると中心を支えられなくなり、端っこの方はその反動で広がる。それは地球を飲み込むくらいの大きさですから、この45億年の間に脱出計画を考え、近くの惑星に避難しなければいけないわけです。
数100万年の価値と地球の未来
宇宙の研究をしている人はみな同じだと思いますが、宇宙について考えると謙虚になり、感謝の気持ちがわいてきます。広大な宇宙には137億光年の大きさがありますが、その内部に自分がいることを意識すると、宇宙の大きさと自分の小ささを実感するのです。NASAが送ったキュリオシティという探査機が火星に到着しましたが、火星から地球を見るとごく小さな円ですよね。それを望遠鏡で見ると海や雲があることがわかりますが、人間までは見えません。
しかし火星もある意味では、本当にお隣ですが、太陽系全体の大きさを考えると光の速さで何十時間もかかる。太陽系は銀河系で端の方ですが、2万8000光年も中心から離れています。こういう大きな空間に地球があり、その内部にさらにちっぽけな人間がいます。その狭い地球に住んでいるわずか数十億人の人間が、言葉や考え、宗教の違いで敵対しあうのは悲しい気がします。宇宙全体のなかでいろんな条件が揃って生命が生まれたのですから、その環境を大事にしなければいけないと思わされます。
ところでよく「宇宙人はいますか?」と聞かれますが、私は「この大きな宇宙のなかに生まれた生命ですから、みなさんも宇宙人ですよね?」と答えます。おそらく他にも生命がある惑星があるのでしょうが、太陽系のなかでは金星まで行くと暑すぎて水は水蒸気になってしまいますし、火星だと寒くて氷になってしまいます。だから、地球しかちょうどよい距離にはないのです。そして惑星がある星もずいぶんありそうだということがわかってきましたが、銀河系の中の方に行くと昔爆発した星の残骸やガスを噴き出す星などが過密になり、放射能にまみれているため生命はいないだろうと言われています。
宇宙人の話題が出たとき引き合いに出されるのが、宇宙にどの程度の地球外生命体が分布しているのかを推定する「ドレイクの方程式」ですが、問題は、生命ができてもどのくらい文明が続くのかということです。もしかしたら、生まれても1000年しか続かないかもしれない。45億年ある時間のなかで1000年しか存在しないなら、宇宙人と交信できる可能性は非常に低くなるわけです。
ですから文明や環境を大事にしつつ、続けて行く責任が問われている気がします。人類はたかだか数100万年しか生きていない。地球の45億年にくらべたらほんの一瞬です。しかしいま、人類が自分たちの環境を壊してしまうかもしれない状況にありますので、なんとかしなければいけないと考えさせられます。
(2012年10月22日掲載)
http://www.blwisdom.com/future/24/?mid=w384h90500000492638
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