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赤色巨星「ちょうこくしつ座R」周囲の不思議な渦巻き構造 - アルマ望遠鏡
2012年10月12日 07時04分
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国立天文台は10月11日、欧州南天天文台(ボン大学アルゲランダー天文学研究所)のマティアス・メーカー氏をはじめとする国際研究チームが、チリ・アタカマ砂漠で建設中の電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」の一部を使った観測で、赤色巨星の「ちょうこくしつ座R星」(以下、R星)の周りの前例のない渦巻き構造と、それを取り囲む球殻構造を発見したと発表した。
赤色巨星の周りにこのような渦巻き構造と球殻構造が一緒に見つかったのは、今回が初めてのことだという。
また、今回の観測では、その渦巻き構造の3次元情報を得ることにも成功したことを併せて発表している。
この成果はアルマ望遠鏡の初期科学観測で得られたもので、詳細な内容は、10月11日付けで英科学誌「Nature」に掲載された。
世界で最も強力なミリ波・サブミリ波望遠鏡であるアルマ望遠鏡によって発見されたR星(画像1)は、赤色巨星の中でも「漸近赤色巨星(AGB星)」と呼ばれる種類の星だ。
太陽の0.8倍から8倍の質量を持った星が年老いた姿である。
このような星は太陽よりも低温で、「恒星風」と呼ばれる大量のガスや塵が宇宙空間に流出していることが特長の1つだ。
また、AGB星は周期的に明るさが変わるという性質も持つ。
AGB星は炭素原子や酸素原子でできた小さな中心核を持ち、その周りに水素原子とヘリウム原子の層が取り囲み、さらにその外側には対流を起こす分厚い水素の層があると推測されている(画像2)。
太陽も、50億年後にはAGB星に進化していくという予想だ。
画像1はデジタイズド・スカイサーベイ2で撮られた画像を合成したもので、R星(中央の赤い星)と周囲の星々だ。
天の川からは離れているため星の数は少ないが、暗い銀河が数多く写っている。
なお、R星の周りに見える赤やオレンジの十字と円は写真を撮影した際にできたゴーストであり、実際の天体構造ではない。
AGB星の周囲には、前述したように星から噴き出した大量のガスや塵が存在している。
小さな塵の粒は遠赤外線やミリ波を出しているため、これを観測することで塵の分布を知ることが可能だ。
またガスの中に含まれる一酸化炭素分子は波長が1mm程度の電波であるミリ波を出すため、これを観測することでAGB星から噴き出すガスの分布を見ることもできる。
高い感度を持つアルマ望遠鏡なら、AGB星の周囲のガスや塵の構造をこれまでにない精度で直接観測することができるというわけだ。…
このR星の周囲で発見されたガスの渦巻き構造は、この星を回っている見えない星によって作られたものと考えられている。
また研究チームは、R星から予想以上に大量の物質が周囲にまき散らされていることも発見した。
下で紹介している動画1は、アルマ望遠鏡が観測したR星の周りのガスが放つ電波を異なる周波数ごとに画像化し、それらの画像を連続させて動画としたものだ。
この映像では、ガスの輪が大きくなったり小さくなったりするように見えるが、これはそれぞれ異なる速度で動くガスから出る電波がドップラー効果によって少しずつ周波数がずれることによって起こるもので、シャボン玉を輪切りにしてみているようなものだ。
これを詳しく解析することで、今回の球殻状のガスの3次元構造を調べることができる。
動画を中程まで再生すると、今回初めて発見された渦巻き構造も見ることが可能だ。
なお研究グループを率いるメーカー氏は、今回の発見に対して、「私たちは、このような赤色巨星の周りをシャボン玉のように取り囲むガスはこれまでたくさん知ってはいました。
しかし、球殻構造のほかにこんな渦巻きを見つけたのは今回が初めてです」と、その驚きを語っている。
R星のような赤色巨星は非常に大量の物質を周囲にまき散らしており、そうして宇宙に散らばったガスや塵から次の世代の星や惑星、さらには生命が生まれていく。
このため、赤色巨星がどのように、どれくらいのガスや塵をまき散らしているかはこれまでも盛んに研究されてきた。
アルマ望遠鏡は現在、全部で66台設置される予定の電波干渉計の内、半分ほどを設置し終わっており、その一部のアンテナを用いた「初期科学観測」を行っている。
その期間にも関わらず、今回の発見のように、ほかのサブミリ波望遠鏡の性能を大きく凌駕した報告をこれまでにも出しているところだ。
なお、これまでに行われたR星の観測でも球殻状の構造は発見されていたが、今回発見されたような渦巻き構造やR星の周りを回る星は見つかっていなかった。
「私たちがアルマ望遠鏡でこの星を観測した時、設置されていたアンテナは半分にも満たない数でした。
2012年度から始まるアルマ望遠鏡の本格運用ではどんなにすばらしい観測ができるのかと楽しみでなりません」と、研究チームの一員であるウーター・フレミング氏(スウェーデン・チャルマース工科大学)は語っている。
冒頭で解説したように、太陽の0.8倍から8倍までの質量を持つ星は、その一生の最後に「赤色巨星」と呼ばれる赤く膨らんだ姿に進化し、自分自身を構成するガスを放出し出す。…
また赤色巨星段階にある星では、星の中心の周りにあるヘリウム原子核の層が周期的に激しい核融合反応を起こすことがある。
この爆発的な反応によって大量の物質が放出され、星を包むガスと塵の殻のような構造が作られるというわけだ。
爆発的な核融合反応が収まると、星の表層からのガスの流出も元に戻る。
このような爆発的な核融合反応は1万年から5万年に1回起こると考えられており、1回の爆発的な反応はせいぜい数百年しか続かない。
アルマ望遠鏡を用いたR星の観測によって、この星の中で1800年前に爆発的な核融合反応が発生し、200年間続いたということが明らかになった。
そしてこの星を回る見えない星が、放出されたガスを渦巻きの形にしたのだと考えられる。
「高い解像度を持つアルマ望遠鏡によって、星を取り囲む球殻状のガスと渦巻き構造がどのようにできたのかを知ることができれば、R星で爆発的核融合反応の前、最中、その後に何が起きたのかをより正確に理解することができるでしょう」とメーカー氏はいう。
「アルマ望遠鏡によって新しい宇宙の姿が明らかになるだろうと私たち天文学者はずっと期待してきましたが、観測が始まってすぐにこんな予期せぬ発見をすることができ、とても興奮しています」とも述べている。
R星を取り囲む構造について説明するために、研究チームは連星の周りでどのようにガスが動くかというシミュレーション研究も行った。
爆発的なヘリウムの核融合反応を起こすAGB星とそれを回る小さな星が仮定され、AGB星と周囲を回る星との間隔は60天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離で、約1億5000万km)、2つの星の質量の合計は太陽質量の2倍、2つの星の公転周期は350年とすると、アルマ望遠鏡の観測とよく一致することが確認されたのである。
なお、R星で見つかったような渦巻き構造は、ハッブル宇宙望遠鏡による「ペガサス座LL星」の観測でも見つかっている。
ただし、ペガサス座LL星には渦巻き構造を取り囲む球殻状の構造はない。
「アルマ望遠鏡で見つかった構造をきちんと理論的に説明するのはとても難しいことですが、私たちのコンピュータシミュレーションはそれをよく再現しています。
そしてこの研究によって、数10億年後の太陽に何が起きるのかを予測することもできます」と共同研究者であるシャズレネ・モハメド氏(南アフリカ天文台)はその意義を語った。
「今後アルマ望遠鏡を使って、R星や同様の年老いた星を観測することで、私たちの体を作っている元素がどのようにして宇宙にばらまかれたのか、ということをよりよく理解することができるようになるでしょう。…
そして、私たちの太陽の未来の姿を知るヒントも与えてくれるでしょう」とメーカー氏は述べている。
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赤色巨星「ちょうこくしつ座R」周囲の不思議な渦巻き構造 - アルマ望遠鏡
デイビー日高 [2012/10/12]
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国立天文台は10月11日、欧州南天天文台(ボン大学アルゲランダー天文学研究所)のマティアス・メーカー氏をはじめとする国際研究チームが、チリ・アタカマ砂漠で建設中の電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」の一部を使った観測で、赤色巨星の「ちょうこくしつ座R星」(以下、R星)の周りの前例のない渦巻き構造と、それを取り囲む球殻構造を発見したと発表した。
赤色巨星の周りにこのような渦巻き構造と球殻構造が一緒に見つかったのは、今回が初めてのことだという。また、今回の観測では、その渦巻き構造の3次元情報を得ることにも成功したことを併せて発表している。
この成果はアルマ望遠鏡の初期科学観測で得られたもので、詳細な内容は、10月11日付けで英科学誌「Nature」に掲載された。
世界で最も強力なミリ波・サブミリ波望遠鏡であるアルマ望遠鏡によって発見されたR星(画像1)は、赤色巨星の中でも「漸近赤色巨星(AGB星)」と呼ばれる種類の星だ。太陽の0.8倍から8倍の質量を持った星が年老いた姿である。
このような星は太陽よりも低温で、「恒星風」と呼ばれる大量のガスや塵が宇宙空間に流出していることが特長の1つだ。また、AGB星は周期的に明るさが変わるという性質も持つ。
AGB星は炭素原子や酸素原子でできた小さな中心核を持ち、その周りに水素原子とヘリウム原子の層が取り囲み、さらにその外側には対流を起こす分厚い水素の層があると推測されている(画像2)。太陽も、50億年後にはAGB星に進化していくという予想だ。
画像1はデジタイズド・スカイサーベイ2で撮られた画像を合成したもので、R星(中央の赤い星)と周囲の星々だ。天の川からは離れているため星の数は少ないが、暗い銀河が数多く写っている。なお、R星の周りに見える赤やオレンジの十字と円は写真を撮影した際にできたゴーストであり、実際の天体構造ではない。
画像1。R星と周囲の星々。(c) ESO/Digitized Sky Survey2. Acknowledgement:Davide De Martin 画像2。赤色巨星(AGB星)の内部構造。星の中で作られた元素が層状構造をなし、その一部は対流によって表面に組み上げられて宇宙空間に流れ出していく
AGB星の周囲には、前述したように星から噴き出した大量のガスや塵が存在している。小さな塵の粒は遠赤外線やミリ波を出しているため、これを観測することで塵の分布を知ることが可能だ。
またガスの中に含まれる一酸化炭素分子は波長が1mm程度の電波であるミリ波を出すため、これを観測することでAGB星から噴き出すガスの分布を見ることもできる。高い感度を持つアルマ望遠鏡なら、AGB星の周囲のガスや塵の構造をこれまでにない精度で直接観測することができるというわけだ。
このR星の周囲で発見されたガスの渦巻き構造は、この星を回っている見えない星によって作られたものと考えられている。また研究チームは、R星から予想以上に大量の物質が周囲にまき散らされていることも発見した。
下で紹介している動画1は、アルマ望遠鏡が観測したR星の周りのガスが放つ電波を異なる周波数ごとに画像化し、それらの画像を連続させて動画としたものだ。
この映像では、ガスの輪が大きくなったり小さくなったりするように見えるが、これはそれぞれ異なる速度で動くガスから出る電波がドップラー効果によって少しずつ周波数がずれることによって起こるもので、シャボン玉を輪切りにしてみているようなものだ。
これを詳しく解析することで、今回の球殻状のガスの3次元構造を調べることができる。動画を中程まで再生すると、今回初めて発見された渦巻き構造も見ることが可能だ。
画像3。アルマ望遠鏡によって撮影された、R星の不思議な渦巻き。星を取り囲む球殻状のガスと渦巻き状のガスがはっきりととらえられている。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)
動画1。アルマ望遠鏡が観測したR星の3次元データ。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), L. Calcada
動画
動画2。R星の3次元コンピュータモデル。アルマ望遠鏡の観測結果を基に、R星の周りにどのようにガスが分布しているかをコンピュータシミュレーションで再現。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), S. Mohamed(SAAO), L. Calcada
動画3。R星からガスが噴き出す様子のコンピュータシミュレーション映像。動画右上の時刻がt=0(年)になった時に星の内部で爆発的な核融合反応が発生し、大量のガスが吹き出す。R星の周囲を回る見えない星の重力によって、噴き出したガスは渦巻き構造を作っていく。(c) ESO/ S. Mohamed
なお研究グループを率いるメーカー氏は、今回の発見に対して、「私たちは、このような赤色巨星の周りをシャボン玉のように取り囲むガスはこれまでたくさん知ってはいました。しかし、球殻構造のほかにこんな渦巻きを見つけたのは今回が初めてです」と、その驚きを語っている。
R星のような赤色巨星は非常に大量の物質を周囲にまき散らしており、そうして宇宙に散らばったガスや塵から次の世代の星や惑星、さらには生命が生まれていく。このため、赤色巨星がどのように、どれくらいのガスや塵をまき散らしているかはこれまでも盛んに研究されてきた。
アルマ望遠鏡は現在、全部で66台設置される予定の電波干渉計の内、半分ほどを設置し終わっており、その一部のアンテナを用いた「初期科学観測」を行っている。その期間にも関わらず、今回の発見のように、ほかのサブミリ波望遠鏡の性能を大きく凌駕した報告をこれまでにも出しているところだ。
なお、これまでに行われたR星の観測でも球殻状の構造は発見されていたが、今回発見されたような渦巻き構造やR星の周りを回る星は見つかっていなかった。
「私たちがアルマ望遠鏡でこの星を観測した時、設置されていたアンテナは半分にも満たない数でした。2012年度から始まるアルマ望遠鏡の本格運用ではどんなにすばらしい観測ができるのかと楽しみでなりません」と、研究チームの一員であるウーター・フレミング氏(スウェーデン・チャルマース工科大学)は語っている。
冒頭で解説したように、太陽の0.8倍から8倍までの質量を持つ星は、その一生の最後に「赤色巨星」と呼ばれる赤く膨らんだ姿に進化し、自分自身を構成するガスを放出し出す。
また赤色巨星段階にある星では、星の中心の周りにあるヘリウム原子核の層が周期的に激しい核融合反応を起こすことがある。この爆発的な反応によって大量の物質が放出され、星を包むガスと塵の殻のような構造が作られるというわけだ。爆発的な核融合反応が収まると、星の表層からのガスの流出も元に戻る。
このような爆発的な核融合反応は1万年から5万年に1回起こると考えられており、1回の爆発的な反応はせいぜい数百年しか続かない。アルマ望遠鏡を用いたR星の観測によって、この星の中で1800年前に爆発的な核融合反応が発生し、200年間続いたということが明らかになった。そしてこの星を回る見えない星が、放出されたガスを渦巻きの形にしたのだと考えられる。
「高い解像度を持つアルマ望遠鏡によって、星を取り囲む球殻状のガスと渦巻き構造がどのようにできたのかを知ることができれば、R星で爆発的核融合反応の前、最中、その後に何が起きたのかをより正確に理解することができるでしょう」とメーカー氏はいう。
「アルマ望遠鏡によって新しい宇宙の姿が明らかになるだろうと私たち天文学者はずっと期待してきましたが、観測が始まってすぐにこんな予期せぬ発見をすることができ、とても興奮しています」とも述べている。
R星を取り囲む構造について説明するために、研究チームは連星の周りでどのようにガスが動くかというシミュレーション研究も行った。爆発的なヘリウムの核融合反応を起こすAGB星とそれを回る小さな星が仮定され、AGB星と周囲を回る星との間隔は60天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離で、約1億5000万km)、2つの星の質量の合計は太陽質量の2倍、2つの星の公転周期は350年とすると、アルマ望遠鏡の観測とよく一致することが確認されたのである。
なお、R星で見つかったような渦巻き構造は、ハッブル宇宙望遠鏡による「ペガサス座LL星」の観測でも見つかっている。ただし、ペガサス座LL星には渦巻き構造を取り囲む球殻状の構造はない。
「アルマ望遠鏡で見つかった構造をきちんと理論的に説明するのはとても難しいことですが、私たちのコンピュータシミュレーションはそれをよく再現しています。そしてこの研究によって、数10億年後の太陽に何が起きるのかを予測することもできます」と共同研究者であるシャズレネ・モハメド氏(南アフリカ天文台)はその意義を語った。
「今後アルマ望遠鏡を使って、R星や同様の年老いた星を観測することで、私たちの体を作っている元素がどのようにして宇宙にばらまかれたのか、ということをよりよく理解することができるようになるでしょう。そして、私たちの太陽の未来の姿を知るヒントも与えてくれるでしょう」とメーカー氏は述べている。
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http://news.mynavi.jp/news/2012/10/12/013/
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