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ノーベル物理学賞に仏米2氏−量子計算機開発に道
2012年 10月 10日 11:33 JST
2012年のノーベル物理学賞は、フランスのセルジュ・アロシュ博士と米国のデービッド・ワインランド博士に授与されることが決まった。両博士は、幽霊のような量子粒子の制御を可能にする巧妙な実験手法を考案した。多くの理論物理学者が制御は到底不可能と考えていた成果だった。
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Reuters, AP
フランスのセルジュ・アロシュ博士(左)と米国のデービッド・ワインランド博士
両博士の功績は、既存のセシウム原子時計より100倍以上正確な時計の製造につながっている。だが、さらに重要な功績は、量子コンピューターの実現に向けて恐らく基礎を築いたことだ。量子コンピューターは桁違いに高速で、もし実現すれば、現在最速のコンピューターを無用の長物にするとみられている。
スウェーデン王立科学アカデミーは授賞の発表文の中で、「アロシュ、ワインランド両氏と、それぞれの研究チームは、巧妙な実験手法を通じ、非常に脆弱(ぜいじゃく)な量子状態の計測と制御にこぎつけた。以前は量子状態を直接観測するのは不可能だと考えられていた」と述べた。
アロシュ博士は1944年生まれで、フランスの高等教育機関コレージュ・ド・フランスとパリ高等師範学校の教授だ。ワインランド博士も1944年生まれで、米商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)とコロラド大学ボルダー校に所属する物理学者だ。
量子粒子は微小で神秘的な領域を飛び回っている。このような粒子二つをじかに接触させることなく、100万マイル離して置いたとしても、粒子は互いの特性を読み取ったり、影響を与え合ったりする。このような粒子はまた、幾つかの状態で同時に存在できる。これを、「スーパーポジション(重ね合わせ)」と呼ぶ。これは同時に2カ所に存在しているのに少し似ている。
このため、一つの量子粒子は周囲の環境から簡単には引き離すことができない。外界と接触すると幽霊のような特性を直ちに失ってしまう。このようにとりとめのない世界では、量子粒子を検証したり、制御したり、数えたりすることは、不可能ではないにしても、実現の公算がほとんどない、と長年みなされていたのも不思議ではない。
しかし、両博士はこの難題をそれぞれ別個に解決できた。ただし2人の採ったアプローチはいくらか違っていた。
アロシュ博士は鏡を使って光子、つまり光の量子粒子を制御する。パリにある同博士の実験所では、極度に冷却して超伝導になっている2つの鏡の間を、1秒の十分の1の間に光子が前後にぶつかっている。1秒の十分の1というのは、量子学的には長時間だ。
アロシュ博士はその後、この鏡のトラップの中に原子を一つぶつける。すると原子と光子の相互作用で、光子の存在が明らかになる。さらに実験上のもっと複雑な操作を施すことで、多くのとらえどころのない光子を、破壊することなく測定し計算できる。
一方、ワインランド博士はコロラド州ボールダーの実験所で、イオン(電荷を帯びた原子)を電場で囲い込んで捕捉している。実験は著しく低温の真空状態の中で行われる。そしてレーザーの助けを得て、このイオンをスーパーポジション状態、つまり同時に2つ存在する状態に置く。このようにして量子行動が研究できる。
ワインランド博士のグループは、イオントラップ(荷電粒子を限られた空間に長時間閉じ込めるための装置)を利用して、時間の測定の標準となっているセシウム時計より100倍精度の高い時計を製造した。イオントラップはまた、量子コンピューターの基礎にもなり得る。
今日のコンピューターはデータを0と1の2つの数字でコード(暗号)化している。これに対し量子コンピューターは、スーパーポジション状態などの量子特性を利用して、データを表し、演算の基礎にする。量子現象を利用した、ある種の極めて基本的な演算は、既に実施されている。
しかし、そこには膨大な「わな」が存在する。桁違いに高速な演算の基礎となる量子情報は、量子特性を壊さないように、外界から隔離されていなければならない。しかしそれと同時に、量子コンピューターという機械は膨大な演算結果をなんとかして伝達し、外界に渡さなければならない。
科学者たちは現在、ワインランド、アロシュ両博士の実験を踏み台にして、このパラドックス、つまり外界から隔離され、しかも外界と通信するというパラドックスをどう解決するかに取り組んでいる。
スウェーデン王立科学アカデミーは「現在の古典的なコンピューターが前世紀にわれわれの日常生活を変えたように、恐らく、量子コンピューターは今世紀中にわれわれの日常生活を変えるだろう」と述べている。
記者: Gautam Naik
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米科学者2人にノーベル化学賞−Gたんぱく受容体を解明
2012年 10月 11日 9:23 JST
細胞が周りの世界にどう対応しているかを解明した米国の2人の科学者が10日、ノーベル化学賞を受賞した。2人の発見は、ベータブロッカー(β遮断薬)や抗ヒスタミン剤から各種の心療医薬品に至るまで、今日の市場に出回っている多くの処方せん薬製造の基礎になった。
2人は米スタンフォード大学のブライアン・コビルカ博士(57)と、米ハワード・ヒューズ医学研究所とデューク大学医療センターに所属するロバート・レフコビッツ博士(69)。「Gたんぱく共役型受容体(GPCR)」という細胞センサーの基本的ファミリーの働きを解明した業績で、2人には賞金120万ドル(約9500万円)が分割される。
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Agence France-Presse/Getty Images
米科学者2人にノーベル化学賞を授与すると発表したスウェーデン王立アカデミー(10日、ストックホルム)
スウェーデン王立科学アカデミーは、細胞はGたんぱく受容体など分子受容体の存在によって、臭いや視覚、味覚、ホルモン、その他のセンサー的シグナルを引き金にして出る化学物質に対応し順応できるが、こうした分子受容体の「先駆的な発見」を成し遂げたと評価した。こうしたシグナルは例えば心臓の鼓動を早めたり、あるいは血圧を変化させる。
スウェーデン・ルンド大学の無機化学教授で、ノーベル化学賞委員会の委員長でもあるスベン・リディン博士は「この受容体がどんなものであるのか、われわれは今日その最微小の分子的な詳細まで知るに至っている」と述べた。
このような細胞内の伝達に関する化学的な基礎理解は、糖尿病、うつ病、がん、その他の病に対する新たな治療薬開発のカギになっている。リディン博士は「われわれがある病気を考えるとき、そこにはGたんぱく受容体に影響を及ぼす薬が恐らくあるだろう」と述べ、「この機能が、副作用が少なくてより良い医薬品を製造する道具になる」と語った。
レフコビッツ博士はノーベル委員会関係者が10日未明に電話してきた際、睡眠中だった。同博士は、耳栓をしていたため電話の音に気づかず、妻からエルボー(肘)でつつかれて目が覚めたと語った。本当に受賞するとは全く思わなかったという。
同博士は「どの科学者も、いつかこうした(受賞の)電話をもらうことを心の片隅で夢見るものだ」と語ったが、「わたしは受賞のうわさも聞かなかったし、その兆候もなかった」と述べ、「これまでの多くの受賞者がそうであったように、全くのショックで驚きだった」と付け加えた。受賞を知らせるノーベル委員会の電話の直後、共同受賞が決まったコビルカ博士から電話が来たという。
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細胞の表面でホルモンを受け取る受容体の仕組み
2人は、細胞がどのようにその表面の細胞壁(膜)から複雑な細胞内部へ重要な化学的シグナルを手渡すか解明するには、苦労の多い実験を何十年も続けなければならなかった
レフコビッツ博士は1960年代末に、受容体の構造を特定・解明するため放射性アイソトープ(同位元素)を使って実験を始めた。この実験は昨年まで続いた。主要な受容体があるホルモンの刺激への対応にあたって、細胞壁を通して細胞内部にシグナルを送っている画像をコビカ博士らのグループが捕捉できたのが昨年だったからだ。
米化学学会のバサム・シャハシリ会長は「2人の受賞は、人間の独創性に対する大きな賛辞だ」と述べ、「2人は、細胞内のさまざまなパーツがどのように互いに連絡し合っているかを理解し、われわれが何かをかいだり見たり食べたり感じたりする際に、それがどのように細胞の化学構成の変化の引き金になっているかを理解する手助けをした」と述べた。
記者: Robert Lee Hotz
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