http://www.asyura2.com/09/nature4/msg/822.html
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ヒッグス粒子の発見と今後
Higgs triumph opens up field of dreams
Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120909
原文:Nature (2012-07-12) | doi: 10.1038/487147a | 英語の原文
ヒッグス粒子がとうとう発見された。しかし、この粒子のスピンの値を確定したり、約125GeVという質量と整合性のある理論を導いたり、解決しなければならない課題は山積みとなっている。
たくさんの物理学者たちが、その夜を、会場外のホールにぎゅうぎゅう詰めになって過ごした。歴史的な現場に立ち会いたいという思いからだ。何時間も列を作って待ち、寝不足で赤い目をしていたが、その大半は午前8時までに入場を断られた。この日、スイスのジュネーブ近郊にある欧州原子核共同研究機関(CERN)の階段教室に入ることができた幸運な人たちは、高エネルギー物理学における長い探求の1つの終わりを目撃した。しかしそれは、新しい作戦の始まりでもある。
2012年7月4日、CERNの2つの実験グループが、「ヒッグス粒子とみられる粒子を発見した」と発表した。物理学者たちは、素粒子物理学の標準模型というジグソーパズルの最後のピースを見つけたのだ。標準模型は、重力を除くすべての基本的な力と粒子をきわめて正確に記述する理論的枠組みである。
http://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/img/fig/fig_2012.09-1.jpg
運命のこぶ
ヒッグス粒子を最も明瞭に見いだすことができる過程は、高エネルギーのガンマ線光子対への崩壊だ。その実験結果は、ヒッグス粒子が約125GeV(ギガ電子ボルト)の質量を持つことを示している。
ヒッグス粒子の発見は、CERNが建設した大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の主たる目標とされてきた。LHCは円周27kmの陽子・陽子衝突型加速器であり、60億米ドル(約4700億円)の費用をかけて建設された。円周の4か所にはビルほどの大きさの検出器がある。この加速器と検出器を作り上げるために、数千人の物理学者が10年以上をかけて取り組んだ。
今回の発見は、LHCに新たな使命を与えることにもなった。それはヒッグス粒子の性質を明らかにするというものだ。またLHCのデータは、標準模型を超える何らかの徴候を求め、詳細に分析されていくだろう。めざすのは、宇宙の統一した理解を可能にする、さらに包括的な理論だ。
素粒子物理学における久々の大発見は、緩やかに傾斜するグラフの控えめな「こぶ」としてその姿を現した(「運命のこぶ」を参照)。ヒッグス粒子を追いかけていた2つの主要な実験グループが、そのデータをスクリーンに投影すると、会場に拍手の嵐が湧き起こった。そのこぶは、約125 GeV(ギガ電子ボルト)の質量を持つヒッグス粒子が存在している明らかな信号だった(素粒子物理学では質量とエネルギーは同じ意味で使われる)。ATLASとCMSと呼ばれる両検出器グループは、信号の有意性はおよそ5σ(σ=標準偏差)だと報告した。これは、もしもヒッグス粒子が存在しなければ、このデータを偶然に得る確率は100万分の1より小さい、という意味である。
英国の理論物理学者Peter Higgsのほか、Gerald Guralnik(米国)、Carl Hagen(同)、Francois Englert(ベルギー)ら、1964年に最初にヒッグス粒子を予言した物理学者のうち4人が発表の場に出席していた。83歳のHiggsは「私が生きている間にヒッグス粒子が見つかるなんて、本当に信じられません」と聴衆に語り、涙をこらえた。
ヒッグス粒子はヒッグス場が粒子として現れたものであり、ヒッグス場は既知の粒子の質量の究極的な原因だ(解説「ヒッグスとは何か」を参照)。引退した物理学者で、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンで研究を行っていたTom Kibbleは、「ヒッグス粒子が存在する証拠は、数十年前から増え続けていました」と話す。Kibbleもヒッグス粒子を予言した理論物理学者の1人だ。
ヒッグス粒子とヒッグス場が理論的に必要になったのは、電磁気力と弱い核力を1つの「電弱相互作用」に統一するためだった。ヒッグス場を導入すると、今度はほかの粒子の性質に関する予言が得られる。「その予言は高い精度で実験結果に合いました」とKibbleは語る。しかし、彼は「ヒッグス粒子について、私たちにとって未知で確かめる必要のあることが、相当数あります」とも話す。
特に重要なのが、この粒子のスピンだ。理論によると、ヒッグス粒子のスピンはゼロのはずである。「さもなければ、基本粒子の質量が、その空間での向きによって変化する可能性があります。だから、スピンゼロが必須なのです」とKibbleは話す。もしもこの粒子がゼロでないスピンを持つことになれば、それは衝撃的な発見となる。この粒子は「ヒッグス粒子ではない別の何か」になってしまうからだ。
粒子の崩壊の仕方に関するLHCの最新データからは、粒子のスピンはゼロか2のどちらかであることがわかっている。CMS検出器グループの代表であるJoe Incandelaは、「この粒子の崩壊生成物がLHCを飛び出る方向をさらに調べれば、スピンははっきりするでしょう」と話す。Incandelaは今年の末までには答えが得られると考えている。LHCの運転を監督しているSteve Myersは「LHCの2012年の運転は3か月延長されることになっています。だから、より多くのデータを集めることができるはずです」と話す。
この新粒子がほかの粒子に崩壊する様式は、ほとんどの場合、標準模型のヒッグス粒子の予測と合っている。しかし、完全には一致しない可能性もあり、それを示す興味深い徴候も見つかっている。1つは、標準模型が予測する確率の約2倍の確率で光子対に崩壊するらしいことだ。また、タウ粒子やW粒子と呼ばれる粒子に崩壊する確率は、予測されていたよりも小さい。こうした食い違いは、現時点では統計的に有意とは言えないが、より多くのデータが集まって確かな事実となれば、標準模型を超える物理現象の発見につながるかもしれない。
例えば、今回検出された粒子が実は複合粒子で、より小さな粒子から構成されているかもしれない。あるいは、ヒッグス粒子ファミリーという新しいグループの、最初の粒子を発見したのかもしれない。ATLAS検出器グループのFabiola Gianotti代表は、発表後の記者会見で「もし、この新しい粒子がヒッグス粒子ではあるものの、標準模型のヒッグス粒子ではないらしいということになったら、私はとてもうれしいです」と話した。Incandelaは、今年の末までには十分なデータが得られ、このヒッグス粒子が標準模型の予言と完全に合うのか合わないのか、わかるはずだと考えている。
たとえ今回のヒッグス粒子が標準模型の予測どおりに振る舞うとしても、その質量が難しい問題を引き起こす。ラトガース大学ピスカタウェイ校(米国ニュージャージー州)の理論物理学者Matthew Strasslerは、「物理学者の多くが超対称性理論と呼ばれる理論を支持していますが、この理論はもっと軽いヒッグス粒子を予言しているのです」と指摘する。今回報告された約125GeVという質量は、最も単純な超対称性モデルが正しいと すれば重すぎるのだ。また、今のところ、超対称性理論が予言する粒子の存在を 示す徴候は、LHCでの実験では現れていない。
スイスとフランスにまたがる丘陵地帯の地下の加速器では、今後も陽子同士が衝突し続ける。物理学者たちは、ここで挙げた難問に対する答えのヒントが、実験で得られるペタバイト(10^15バイト)にのぼるデータから得られることを期待している。Incandelaは言う。「私たちは、既存の理論では扱うことのできない問題を探っているのです。この粒子を発見して何がすごいかと言えば、問題のタネそのものを、ついに実験室の中で手に入れたことなのです」。
ヒッグスとは何か
ヒッグス粒子の発見は大ニュースとなったが、本当に大きな意味を持つのは、粒子に対応しているヒッグス場だ。ヒッグス場は現代物理学の基本的な構成要素であり、鉄粉を整列させる磁場と同じように、空間にくまなく行き渡り、ヒッグス場の中を運動する粒子と相互作用している。
しかし、1964年にヒッグス機構を最初に提案した6人の理論物理学者の1人Tom Kibbleは、「ヒッグス場は、電磁場などと比べると確かに少し奇妙です」と認める。ヒッグス場は、どこにでもあって向きがない。空気の流れのない静かな洞穴の中の、どこでも一定の気温のようなものだ。ヒッグス場と相互作用すると、粒子は質量を得る。より強く相互作用するとより重くなる。
KibbleやPeter Higgsらは、その当時、最も困難だった物理学の問題を解決するために、ヒッグス場の存在を提案した。1960年代初め、粒子の振る舞いを支配する4つの基本的な力のうち、2つは数学的にほとんど同一であることに理論家たちは気付いていた。2つの力の主な違いは、一方の力を伝える粒子は質量を持ち、もう一方の力を伝える粒子は質量を持たないことだった。
ヒッグス場がこの相違点を説明した。理論によると、ごく初期の宇宙では、ヒッグス場はゼロだった。そして2つの力は1つだった。しかし、ビッグバンからまもなく、ヒッグス場はゼロではない値をとり、この力は分裂した。1つは電磁気力になり、質量のない光の粒子、つまり光子によって媒介される。光子はヒッグス場と相互作用しない。もう1つの力は弱い核力になった。これはある種の放射性崩壊を起こすもので、W粒子とZ粒子と呼ばれる重い粒子を介して働く。W粒子とZ粒子はヒッグス場と相互作用し、質量を得る。ただし、通常の物質は、原子核の中に含まれているクォークなどの粒子間の相互作用から、その質量の大半を得ている。
ヒッグス粒子自身は、ヒッグス場の励起したさざ波と考えることができる。大型ハドロン衝突型加速器でのヒッグス粒子の研究を通して、ヒッグス場が予測どおりに振る舞うのかどうかもわかってくるはずだ。
G.B.
(翻訳:新庄直樹)
遺伝:成人脳のトランスクリプトームを解剖学的に解析した包括的アトラス
Michael J. Hawrylycz, Ed S. Lein, Angela L. Guillozet-Bongaarts, Elaine H. Shen, Lydia Ng, Jeremy A. Miller, Louie N. van de Lagemaat, Kimberly A. Smith, Amanda Ebbert, Zackery L. Riley, Chris Abajian, Christian F. Beckmann, Amy Bernard, Darren Bertagnolli, Andrew F. Boe, Preston M. Cartagena, M. Mallar Chakravarty, Mike Chapin, Jimmy Chong, Rachel A. Dalley, Barry David Daly, Chinh Dang, Suvro Datta, Nick Dee, Tim A. Dolbeare et al.
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 489, 391?399 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11405
神経解剖学的に詳細なゲノム全域にわたる転写産物分布マップは、ゲノム塩基配列データを補完し、脳の機能的構造と遺伝的構造を相関させるうえできわめて重要な情報源となる。今回我々は、成人2人の脳の神経解剖学的に明確な約900の小区画について、大規模な組織学的解析ならびに包括的なマイクロアレイプロファイリングからなる、成人脳の転写アトラスの作成および解析を行った。転写調節は解剖学的部位によって大きく異なっており、領域ならびにその領域を構成する細胞種に応じて明確な分子的特徴を示し、それは個体間で高度に保存されている。差異のある遺伝子発現および遺伝子共発現の関連性解析から、脳全体にわたる変動は、ニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ミクログリアなどの主要な細胞種の分布を強く反映することが明らかになった。細かい解剖学的小区画の間の局所的な近隣関係には、離散的なニューロンサブタイプならびにシナプス伝達に関与する遺伝子との関連性が認められる。新皮質は比較的均一な転写パターンを示すが、一次感覚運動皮質および前頭葉での発現上昇と選択的に関連する顕著な特徴が見られた。特に、新皮質の空間トポグラフィーは、その分子トポグラフィーに強く反映されており、2つの皮質領域が近接しているほど、それらのトランスクリプトームの類似性は高くなっている。この自由に利用可能なオンラインデータリソースは、ヒトの正常および異常な脳機能を神経遺伝学の面から研究するうえで、転写に関する高精度の基本情報となる。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/abs/nature11405_ja.html
医学: APP の変異はアルツハイマー病および加齢に関連した認知機能低下に保護作用を示す
Thorlakur Jonsson, Jasvinder K. Atwal, Stacy Steinberg, Jon Snaedal, Palmi V. Jonsson, Sigurbjorn Bjornsson, Hreinn Stefansson, Patrick Sulem, Daniel Gudbjartsson, Janice Maloney, Kwame Hoyte, Amy Gustafson, Yichin Liu, Yanmei Lu, Tushar Bhangale, Robert R. Graham, Johanna Huttenlocher, Gyda Bjornsdottir, Ole A. Andreassen, Erik G. Jonsson, Aarno Palotie, Timothy W. Behrens, Olafur T. Magnusson, Augustine Kong, Unnur Thorsteinsdottir et al.
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 488, 96?99 (02 August 2012) doi:10.1038/nature11283
欧米では60歳超の人々での認知症の有病率は5%を超えると推測されており、その約3分の2はアルツハイマー病によるものである。アルツハイマー病の年齢別有病率は、65歳以降では5年ごとにほぼ2倍になり、90歳超での有病率は25%を超える。今回我々は、アルツハイマー病のリスクに対して重要な影響を及ぼすアミロイドβ前駆体タンパク質( APP )遺伝子における低頻度の変異を探す目的で、1,795人のアイスランド人から得た全ゲノム配列データセットを対象として、 APP のコード変異について調べた。アルツハイマー病に罹患していない高齢者では、 APP 遺伝子内の1つのコード変異(A673T)が、アルツハイマー病および認知機能低下に対して保護作用を示すことがわかった。この置換は、APPのアスパルチルプロテアーゼβ切断部位に隣接しており、 in vitro ではアミロイド形成ペプチドの産生を約40%低下させる。A673T置換がアルツハイマー病に対して強力な保護効果を示すことは、APPのβ切断の低減がこの疾患に対する保護作用を示す可能性があるという仮説の原理証明となる。さらに、A673T対立遺伝子はアルツハイマー病に罹患していない高齢者の認知機能低下に対しても保護作用を示すことから、この2つの病態は同一または同様の機序を介している可能性がある。
http://www.nature.com/nature/journal/v488/n7409/fp/nature11283_ja.html?lang=ja
アルツハイマー病患者は全世界で約3000万人いると推定され、高齢化社会の大きな課題の1つとなっている。そんな中、朗報がもたらされた。アイスランド人の全ゲノム配列と病歴を比較する研究によって、アルツハイマー病を抑える遺伝子変異が発見されたのだ。この変異は、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)を作る遺伝子の中にあった。この発見により、これまで疑われてきたアミロイドβが、まさにアルツハイマー病の根本原因であると特定され、今後、この物質を標的とした治療法の開発が加速されることになる。
アルツハイマー病患者の脳内に見られるペプチド沈着を減らすという珍しい変異が見つかった。この変異は、加齢に伴って一般的に起こる認知機能低下の発症も遅らせる可能性がある。
http://www.nature.com/nature/journal/v488/n7409/standfirst/488038a_ja.html?lang=ja
2012年07月16日
アルツハイマー病を防ぐ遺伝子変異
背景:
アルツハイマー病は70〜80歳代以上の高齢者に頻発する神経変性疾患であり、脳細胞が死滅していくため認知症からやがて死に到る。近年先進国を中心に患者数が増加しており、大きな社会的負担となっている。アルツハイマー病患者の脳内にはベータアミロイドと呼ばれるタンパク質の蓄積が見られること から、両者は深い関係にあると考えられている。
要約:
これまでAPOE2と呼ばれる遺伝子の特定の変異がアルツハイマー病を防ぐ役割があることが分かっていたが、アイスランドはレイキャヴィークにあ るdeCODE genetics, Inc.のKari Stefansson博士率いる研究チームによって、APPと呼ばれるタンパク質の特定の1塩基の変異を持つ人々は、変異を持たない人々に比べて7.5倍 もアルツハイマー病を発病しにくいことが分かった。
APP遺伝子はベータアミロイドを含む様々なタンパク質を分解する酵素を発現する遺伝子として知られ、今回発見された部分以外にも30以上の変異が知られるが、それら全てはアルツハイマー病の発病率を上げてしまうものであった。例えばある部位の変異を持った人々は、30〜40代という若い年代でアルツハイマー病を発病してしまう。
そこで彼らが1795人のアイスランド人のゲノムを解析したところ、APP遺伝子上の特定の変異を持つ人々はこれまで発見されていたものよりも大きくアルツハイマー病を防ぐことが示され、またこの変異はAPPタンパク質を分解する別の酵素の働きを防ぐことで、ベータアミロイドの形成を40%減少させていることが分かった。またこの変異を持つ人々は、アルツハイマー病の有無に関係なく認知能力も高く保たれるようだ。
またこの発見は、ベータアミロイドがアルツハイマー病の原因となっているという説を補強するものとなった。これまでベータアミロイドがアルツハイ マー病の原因か結果かは分かっておらず、近年のその形成を抑える薬による臨床試験の失敗や他の研究結果から、原因ではないのではないかという説が支持され だしてきた。
しかし多くの研究者は、それらの臨床試験が正しく行われていなかったと考えている。アルツハイマー病は脳に不可逆的な障害を与えるため、治療の開始時期が遅れると原因を取り除いても症状を改善することは出来なくなってしまうという。そのため、臨床試験はより早期の症状がそれほど現れていない患者を対象に行わなければならず、今後彼らはこのような仮説を元に臨床試験を行うという。
ペンシルベニア大学のGerard Schellenberg博士によると、この研究は初期と後期のアルツハイマー病は両方とも同じメカニズムで進行していることを示しているため、もし臨床試験により早期のアルツハイマー病の進行を止めることができれば、後期のアルツハイマー病の治療にも希望が見えてくるだろうという。
元記事:
Gene Mutation Protects Against Alzheimer's
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2012/07/gene-mutation-protects-against-a.html?ref=hp
参照:
Thorlakur Jonsson, et. al., A mutation in APP protects against Alzheimer’s disease and age-related cognitive decline, Nature, 11 July 2012, doi:10.1038/nature11283
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http://blog.livedoor.jp/xcrex/archives/65694255.html
生理:酸感受性イオンチャネル?クモ毒複合体の構造的可塑性と動的なイオン選択性
Isabelle Baconguis & Eric Gouaux
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 489, 400?405 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11375
酸感受性イオンチャネル(ASIC)は、電位非依存性のアミロライド感受性チャネルで、痛覚から味覚に至る多様な生理過程に関与している。その生理的重要性にもかかわらず、ASICの活性化機構はよくわかっていない。今回我々は、ニワトリのASIC1aでは、pH 7.25とpH 5.5でサルモトキシンがそれぞれ非選択的電流とNa + 選択的電流を活性化することを示す。ASIC1a?サルモトキシン複合体の結晶構造から、この毒素の結合部位が細胞外ドメインに位置することや、毒素の結合が細胞外にあるチャネル入り口の拡張と開いたチャネル小孔の安定化を引き起こす仕組みが明らかになった。pH 7.25では、小孔の直径は約10 Aだが、pH 5.5では小孔は大部分が疎水性となっており、横断面は約5 × 7 Aの楕円形で、これはイオン選択性が障壁機構によることと一致する。今回の結果は、ASIC活性化機構を明確にし、動的なイオン選択性の基盤を明らかにしており、新たな治療薬の設計図をもたらすと考えられる。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/abs/nature11375_ja.html
材料科学:マトリョーシカ効果
Tom Nilges
Nature 489, 375?376 (20 September 2012) doi:10.1038/489375a
Published online 19 September 2012
バルク材料の構造を複数の長さスケールで調節することで、熱を電圧に変換する半導体の性能が、画期的と言えるレベルにまで最適化された。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/standfirst/489375a_ja.html
材料:全スケールで階層構造を持つ高性能バルク熱電体
Kanishka Biswas, Jiaqing He, Ivan D. Blum, Chun-I Wu, Timothy P. Hogan, David N. Seidman, Vinayak P. Dravid & Mercouri G. Kanatzidis
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 489, 414?418 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11439
使用された全エネルギーの約3分の2が廃熱として失われており、熱を電気エネルギーに直接、可逆的に変換できる高性能熱電材料が切実に求められている。しかし、熱電材料の実用化は、これまで性能指数 ZT (熱力学第二法則に従いカルノー効率を左右する)が低かったため限られている。ナノ構造化により熱伝導率を下げるという最近成功した手法によって、750〜900 Kで1.5〜1.8という過去最高の ZT 値が実現された。しかし、一般的に望まれているしきい値2には達していない。バルク熱電体中のナノ構造体によって、フォノンスペクトルのかなりの部分で効果的なフォノン散乱が可能になるが、平均自由行程の長いフォノンはほとんど影響を受けない。今回我々は、ナノ構造化された熱電材料のメソスケール構造を制御、微調整することによって、平均自由行程の長い熱伝導フォノンが散乱されうることを示す。したがって、我々は、原子スケールの格子乱れ、ナノスケールのエンドタキシャル析出物からメソスケールの粒界まで、関連するすべての長さスケールで散乱源を階層的に検討することによって、格子熱伝導率の最大限の低減とPbTeの熱電性能の大幅な向上を実現している。我々は、このようなパノスコピックな(広範な階層的)方法で熱伝導フォノンを総合的な長さスケールにわたって散乱させることによって、ナノ構造化を超える成果を得ており、4モルパーセント濃度のSrTeでエンドタキシャルナノ構造化を行ったうえ粉末加工と放電プラズマ焼結でメソ構造化を行ったp型PbTeにおいて、915 Kで約2.2という ZT 値を実証している。今回のしきい値2を超える ZT の増大は、バルク熱電体のフォノン散乱の制御においてマルチスケール階層構造の役割と必要性を明らかにするものであり、廃熱のかなりの部分を回収する現実的な見通しが得られることを示している。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/fp/nature11439_ja.html
材料化学:壺状の分子から作られるリポソーム
Cyrus R. Safinya & Kai K. Ewert
AffiliationsCorresponding authors
Nature 489, 372?374 (20 September 2012) doi:10.1038/489372b
Published online 19 September 2012
リポソームは、皮膚に潤いを与えるモイスチャライザーなどのパーソナルケア製品に広く含まれる成分である。受容体に似た分子から作られた改良型リポソームによって、治療用途や工業用途への新しい機会が開かれそうだ。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/standfirst/489372b_ja.html
生理:酸感受性イオンチャネル?クモ毒複合体の構造的可塑性と動的なイオン選択性
Isabelle Baconguis & Eric Gouaux
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 489, 400?405 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11375
酸感受性イオンチャネル(ASIC)は、電位非依存性のアミロライド感受性チャネルで、痛覚から味覚に至る多様な生理過程に関与している。その生理的重要性にもかかわらず、ASICの活性化機構はよくわかっていない。今回我々は、ニワトリのASIC1aでは、pH 7.25とpH 5.5でサルモトキシンがそれぞれ非選択的電流とNa + 選択的電流を活性化することを示す。ASIC1a?サルモトキシン複合体の結晶構造から、この毒素の結合部位が細胞外ドメインに位置することや、毒素の結合が細胞外にあるチャネル入り口の拡張と開いたチャネル小孔の安定化を引き起こす仕組みが明らかになった。pH 7.25では、小孔の直径は約10 Aだが、pH 5.5では小孔は大部分が疎水性となっており、横断面は約5 × 7 Aの楕円形で、これはイオン選択性が障壁機構によることと一致する。今回の結果は、ASIC活性化機構を明確にし、動的なイオン選択性の基盤を明らかにしており、新たな治療薬の設計図をもたらすと考えられる。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/abs/nature11375_ja.html
生化学:ハプトグロビン?ヘモグロビン複合体の構造
Christian Brix Folsted Andersen, Morten Torvund-Jensen, Marianne Jensby Nielsen, Cristiano Luis Pinto de Oliveira, Hans-Petter Hersleth, Niels Hojmark Andersen, Jan Skov Pedersen, Gregers Rom Andersen & Soren Kragh Moestrup
AffiliationsContributionsCorresponding authors
Nature 489, 456?459 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11369
Received 10 May 2012 Accepted 29 June 2012 Published online 26 August 2012
赤血球ヘモグロビンは、血液中の重要な酸素輸送分子であるが、反応性の高いヘム基を持つため、組織に損傷を与える可能性のある化合物でもある。マラリアや異常ヘモグロビンなどで起こる血管内溶血の際には、ヘモグロビンは血漿中に放出され、そこで保護的に働く急性期タンパク質のハプトグロビンにより捕獲される。これはハプトグロビン?ヘモグロビン複合体の形成につながり、この反応は実質的に不可逆な非共有結合性タンパク質?タンパク質相互作用に相当する。今回我々は、二量体であるブタ・ハプトグロビン?ヘモグロビン複合体の2.9 A分解能で決定された結晶構造を示す。この構造から、ハプトグロビン分子は、2つのCCP(complement control protein)ドメイン間のβ鎖交換という予想外のやり方で二量体を形成していることがわかり、新たな融合CCPドメイン構造が明らかになった。ハプトグロビンのセリンプロテアーゼドメインは、ヘモグロビンのαおよびβサブユニットの両方と広範囲にわたる相互作用を形成していて、これによりハプトグロビンとヘモグロビン間の強固な結合が説明される。αβ二量体中のヘモグロビン相互作用領域は、無傷ヘモグロビン四量体を構成している2つのαβ二量体間の界面と非常によく一致している。ヘムによって作り出された活性酸素種への暴露後に酸化修飾されやすい複数のヘモグロビン残基は、ハプトグロビン?ヘモグロビン界面に埋め込まれていて、ハプトグロビンが直接的な保護の役割を果たしていることを示している。ハプトグロビン?ヘモグロビンのマクロファージ・スカベンジャー受容体CD163への結合に必須であることが以前に示されているハプトグロビンのループは、結合しているヘモグロビンαサブユニットに隣接する、複合体の遠位末端表面から突き出している。CD163のリガンド結合フラグメントと結合したヒト・ハプトグロビン?ヘモグロビンのX線小角散乱計測により、この領域での受容体結合が確認され、剛体である二量体複合体が2つの受容体と結合できることが示された。このような受容体の架橋によって複合体の排除が促進される可能性があり、多量体ハプトグロビン?ヘモグロビンで見られるCD163に対する機能的親和性の増大が説明される。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/fp/nature11369_ja.html
社会心理学:自発的な寛大さと計算された強欲
David G. Rand, Joshua D. Greene & Martin A. Nowak
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature 489, 427?430 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11467
協力はヒトの社会行動の中心となる。しかし、協力を選択するには、各個人が他人の利益のために個人的コストを負担する必要がある。今回我々は、二重過程理論の枠組みを用いて、ヒトにおける協力の意思決定の認知基盤を調べた。ヒトはもともと利己的な傾向があって、協力的に行動するには積極的な自制心が必要であるのか、あるいは、「合理的な」自己利益にとって有利になるような熟考や未来に対する推論によって、直観的に協力するのかどうかを検討した。この問題を調べるため、経済学ゲームを用いた10の研究を行った。さまざまに設計された実験全般にわたって、より迅速に決断に至る被験者は、より協力的であることがわかった。さらに、被験者に迅速に決断するよう強制すると、貢献が増加するが、被験者に熟考するように指示し、十分に時間をかけて決断するよう強制すると、貢献が減少する。最後に、被験者に直観を信じるように誘導した場合は、より多く熟考することを促した場合と比較して、貢献が増加する。我々は、これらの結果の説明として、協力が直観的なのは、協力が通常有利に働く日常生活において協力の経験則が発達するからだという考え方を提案する。次に、我々はこの提案した機構により生じる予測が正しいことを証明する。我々の結果は、直観が社会的ジレンマにおける協力を支持すること、また、熟考によってこのような協力的傾向が弱められうることを証明する収束的証拠を示す。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/fp/nature11467_ja.html
神経科学:注意は見た目ほど単純ではない
Alexandra Smolyanskaya & Richard T. Born
AffiliationsCorresponding author
Nature 489, 371?372 (20 September 2012) doi:10.1038/489371a
Published online 19 September 2012
我々の脳は、重要な事象だけに集中し、気を散らすような事象は取り除いてしまう。サルを使った実験で、注意の神経表現と行動表現が意外なくらい解離していることが明らかになった。
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7416/standfirst/489371a_ja.html
ヒトの祖先には複数の近縁種がいた
Fossils point to a big family for human ancestors
Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121002
原文:Nature (2012-08-08) | doi: 10.1038/nature.2012.11144 | 英語の原文
約200万年前の化石から、かつてアフリカの平原には、少なくとも3つのヒト属種が存在していたことがわかった。
新たに発見された頭蓋骨の化石の解析により、200万〜170万年前には、少なくとも3種の初期ヒト(Homo)属種が共存していたとする論文が、トゥルカナ盆地研究所(ケニア・ナイロビ)の古生物学者Meave Leakeyを中心とする研究チームにより、Nature 8月9日号に発表された1。この成果により、古人類学の長年にわたる論争に決着がついた。
1972年、比較的平らな顔を持つ大きな頭蓋骨の化石が発見された。後に Homo rudolfensis というヒト属に分類された、標本番号KMN-ER 1470のその化石には、下顎(したあご)がなかった。それ以降発見された、頭蓋骨が大きな化石のいくつかも、H. rudolfensis に属するとされてきたが、顔と下顎がそろっているものはなかった。古人類学では、標本を特定の種(リンネ式二名法で、「rudolfensis」のような2番目の単語が表す)に分類するうえで、顔と顎が指紋のような役目を果たしている。属のような幅広い分類(リンネ式二名法では、「Homo」のような先頭の単語が表す)を決めるのとは訳が違うのだ。このため、これらの標本が、Homo habilis や Homo erectus といった、同時代に生存していたヒト属種に属する可能性を否定できず、論争となっていた。
今回発見された下顎とKMN-ER 1470の頭蓋骨上部を組み合わせた復元画像。共に謎のヒト属種 Homo rudolfensisのものと考えられている。
クレジット:F. Spoor
新たな化石は、ケニア北部のクービ・フォラと呼ばれる砂漠地帯で発見された。それは、2つの下顎と、子どもの顔の下部という3つの化石だった。「周囲の岩の中から子どもの顔が徐々に現れ、KMN-ER 1470との類似がはっきりしたときには、とても興奮しました」とLeakeyは振り返る。子どもの顔には、頬骨と口蓋との結合部が大きく前に出ているという特徴が見られた。さらにこれらの化石の解析を進めると、歯列弓(口の前部の歯が形成する弧)がKMN-ER 1470の頭蓋骨の口蓋構造ときわめてよく似たほぼ長方形であることが明らかになった。これに対し、平均的な現代人の歯列弓はカーブしている。
ヒト属は何種いたのか
一方、今回の知見から、新たに多くの疑問も生じてきた。例えば、KNM-ER 1802という下顎の化石標本は、H. rudolfensis のものと広く考えられているが、今回の化石に比べ、歯列弓が丸みを帯びているように見える。このことからLeakeyらは、KNM-ER 1802がおそらく別のヒト属 H. habilis に属するのではないかと考えた。これに対し、ジョージ・ワシントン大学(米国ワシントンD.C.)の古生物学者Bernard Woodは、「確かに H. habilis かもしれませんが、別の種である可能性もあります」と語る。H. habilis の骨がもっと発見されるまでは、確かなことは何も言えないのだ。
進化史の一時期に、少なくとも3種のヒト属が共存していたとすれば、異なるヒト属は互いの仲間内でどのように振る舞っていたのだろうか。さらに、ヒト属が何種類存在していたのか、そしてそれらが同時に生存していたのかどうかがわかれば、ヒト系統の進化の歴史の中で、複数のヒト属どうしの激しい競争があったのか、それともある種から別の種へ粛々と移行してきたのかがわかるだろう。
Woodはこう語る。「地質学的年代測定では粗すぎるため、こうした種が同時期に同じ場所にいたと断言することは、現状ではできません。しかし、そうした種の間で相互作用があった可能性は十分にあります。もしそうならば、それがどんな相互作用だったか知りたいですね」。
しかし、カリフォルニア大学バークレー校(米国)の古生物学者Tim Whiteは、Leakeyらの研究は本末転倒だと主張する。「わずかな歯や顎、顔の下部をもとに、いったいどうやったら正確に化石の種を特定できるんですか。現存するたった1つの種である我々 Homo sapiens にだって、個体間に大きなばらつきがあることがわかっているんですよ」。
だが、Leakeyは一歩も引かない。「今回の化石とKNM-ER 1802との間に見られるのと同じくらい特徴にばらつきがある何らかの霊長類を見つけて、反論しますよ」と息巻いている。
(翻訳:小林盛方、編集:編集部)
参考文献
1. Leakey, M. G. et al. Nature 488, 201?204 (2012).
http://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/specials/656#.UGE1l40dC4I
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