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過保護は禁物、逆境を克服させることで子供は成功に近付く=米研究
2012年 9月 10日 17:05 JST
われわれは今、子育てに関して米国史上、特に不安な時代に生きている。米国の大都市では人気あるプレスクール(未就学児用の学校)の限られた定員をめぐる裕福な親の間の競争が、剣闘士の戦いの様相にまで近づいている。カリフォルニア大学の2人のエコノミストは最近、この早期教育の受験戦争を「ラグラット・レース(幼児のハイハイ・レース)」と名付けたが、このレースは毎年、開始時期が早まり、競争が激化しているようだ。
育児に関する不安感の根にあるのは、「認知力の仮説」とも呼べる考えだ。あまり大きな声で指摘されることはないが、人々の間で共有されている考えで、今日の米国での成功は何よりも認知力、つまりはIQ(知能指数)テストで測定されるような知能にかかっており、その力を最大限に開発するためにはできるだけ多く、できるだけ早く実践することだという考えだ。
認知力の仮説には否定できない説得力がある。それが説明する原因と結果の世界は、心強いほど直線的だからだ。例えば、家庭に本が少なければ子どもの読解力が弱い、両親の口数が少なければ語い力が弱い、3歳の子どもが計算問題を数多くこなせば小学校での成績が向上する、といったことだ。だが過去数十年間、特にここ数年は、まったく別のグループのエコノミストや、教育関係者、心理学者、神経科学者らが、この認知力の仮説の裏にある多くの臆測に疑問符がつくような証拠を提示し始めた。
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Charles Gullung
比較的居心地の良い環境で育つ米国の子どもはかつてないほど失敗から守られている
子どもの発達に最も重要なのは、生まれて数年の間にいかに多くの情報を脳に詰め込めるかではなく、まったく異なる資質の発達を支援することができるかどうかにかかっているという。例えば、根気よさ、自制心、好奇心、良心、気概、自信といったものだ。エコノミストはこれらを非認知能力と呼び、心理学者はパーソナリティー特性、一般の国民は性格と呼ぶ。
もしもこの多分野にまたがる新しい学際的ネットワークの中心人物がいるとすれば、それはジェームズ・ヘックマン氏だ。ヘックマン氏は2000年にノーベル賞経済学賞を受賞したシカゴ大学の経済学者だ。ここ数年、ヘックマン氏は、招待したエコノミストや心理学者のみを対象にしたカンファレンスを定期的に開いている。これらの招待客はすべて同じ問いを巡る研究を行っている。その問いとは、どんな能力や特性が成功に導くのか、子どものときにそれらはどう発達するのか、またどのように大人が関与すれば子どものより良い発達につながるのか、といったことだ。
ヘックマン氏のキャリアの変質は、1990年代後半に同氏が行った総合教育開発(GED)プログラムの研究が端緒だった。GEDは当時、高校中退者にとって、高校卒業程度認定を受けるための人気の方法の1つになっていた。GEDの広がりは認知力の仮説、さらには学校が発達させるもの(この場合は高校卒業資格が認定するすもの)は認知能力だという考え方に基づいていた。この理論に基づけば、仮に10代の若者が高校を卒業するのに十分な知識と賢さがあれば、高校を卒業するための時間を無駄にする必要はない。こうした若者は、知識やこれらの能力を測るために試験を受け、合格すれば実際の高卒者と同様に、大学や一段上の高等教育を目指す準備ができていると法的に認められることになる。
ヘックマン氏はこの考えをさらに詳細に調べたいと思い、学生の学業成績に関する国のデータベースをいくつか分析した。多くの重要な点でGEDの前提は完全に有効であることを発見した。GEDの点数を見ると、GED資格取得者はあらゆる点で高卒者とそん色がない。しかしヘックマン氏が、GED資格取得者のその後の高等教育での成果を調べたところ、高卒者とはまったく違う結果になった。22歳のGED資格取得者のうち、4年制大学に在学しているか、もしくは高校より上の教育を修了した者はわずか3%だった。高卒者ではこの数値は46%だ。また、GED資格取得者の年収、失業率、離婚率、違法ドラッグの使用といったあらゆる重要な将来的な結果を調査したところ、GED資格取得者は高校中退者とまったく同じ結果になった。GED資格取得者は、この価値あるはずの特別な資格を取得しているにもかかわらず、また平均的に高校中退者よりも知性があるとみられるにもかかわらずだ。
これらの結果がヘックマン氏にもたらしたものは、困惑させられる知性の謎だった。ほとんどのエコノミストと同様、ヘックマン氏も常に、認知能力が人生の行く末を決める1つの最も信頼できる決定要素だと信じていたからだ。だがヘックマン氏は、GED資格取得者の良い点数が最終的に人生に良い結果をもたらしているわけではないようであることを発見した。ヘックマン氏はGED資格取得者に欠けているものは、高卒者が学校を卒業するのに必要だった心理学的な性質、もしくは非認知能力だと結論づけた。
では親は子どもたちのやる気や忍耐力といった資質を発達させるために何ができるだろうか。非認知能力となると、実際、認知力の仮説では伝統的な、早期に始めて勤勉に学習する、といった考えがあてはまらない。多くの時間を割いて努力すれば、失意をよりうまく克服できるようになるものでもない。また単純に好奇心を呼び覚ますワークシートを早い時期に始めなかったから、好奇心を持つのが遅いというわけでもない。
親が子どもたちの非認知能力を開発する、つまり性格を発達させるのを手助けするためにできることで最も価値あることは、おそらく何もしないことだ。一歩下がってみることだ。災難に自ら直面させ、失敗させ、助け起こさないことだ。今日、高い成果を上げている高校の教師や理事らと話をすると、彼らの最大の懸念はこうだ。今の生徒は家庭でも学校でも災難から過度に保護されているため、本当の逆境を克服するために大事な能力が、長所を伸ばすプロセスのなかで開発されていないことだ。
米国の子どもたちは、特に比較的居心地の良い環境で育った子どもたちは、育つ過程においてかつてないほど守られてきた。勤勉ではあるし、多くのプレッシャーとストレスをしばしば体験してもきた。しかし、現実には彼らが通ってきた教育システムは今までのどの世代よりも容易でスムースなものだ。多くは大きな困難もなく、大学を卒業する。しかし、仮にこの新しい研究が正しければ、学校、家庭それに文化はすべて、彼らに立ち向かう機会を与えないことで、かえって害を与えていることになる。逆境の克服は性格をつくる。そしてその性格こそが、IQが示すものより、現実的で長続きする成功に人を導くのだ。
記者: Paul Tough
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http://jp.wsj.com/Life-Style/node_509430
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