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環境・エネルギー>「地球危機」発 人類の未来
ネコが人を元気にする科学的な根拠
寄生虫のなせる技?
2012年4月16日 月曜日 石 弘之
昔からネコは、幸運や商売繁盛を呼び込む「福ネコ」としてかわいがられ、魔除けや疫病払いの効果があるとされてきた。一方で、「妊婦がネコを触ると流産する」とする警告もある。ほとんどは、ペットの癒し効果とか、迷信として片付けられてきた。しかし、この2〜3年、欧米の研究者からネコのもつ不思議な力の源泉が、病原体の原虫にあるのでは、とする説が提唱されるようになった。
行動を変えるドーパミン仮説
まずこの仮説のさわりを紹介しよう。動物に寄生する微生物の一種にトキソプラズマという原虫がいる。人をはじめさまざまな動物に寄生するが、最終的にはネコ科の動物が宿主になる。むろん、飼いネコも宿主になり得る。
健康なネズミはネコの尿の臭いには敏感で、ネコの出没する場所は避けて行動する。天敵のネコに食べられないような回避行動を身につけたのだ。ところが、ネコのフンを食べることなどでトキソプラズマに感染したネズミは、行動が変わってしまう。ネコの尿の臭いに誘われるようにうろうろ徘徊して、ネコに食べられやすくなる。食べられれば、原虫はふたたびネコの体内に戻って繁殖の場を確保できる。つまり原虫は、繁殖のためにネズミを操っているのだ。
だが、なぜネズミの行動が変わるのかはナゾとされてきた。近年トキソプラズマのDNAの解析が進んだ結果、脳内物質のドーパミンの合成に関与する酵素の遺伝子があることが突きとめられた。この原虫に寄生されたネズミは、ドーパミンを分泌して「威勢よくなって」をネコを恐れなくなったというのが仮説である。
そして、人もまたトキソプラズマに操られて、ドーパミンによって脳内の化学物質の伝達の一部が変えられている、とする研究論文が増えている。トキソプラズマの慢性感染で人の行動や人格にも変化があらわれ、ときには精神疾患も引き起こすというのだ。まっとうな研究者がかかわっているので「トンデモ説」と無視できないところがミソだ。
モーツァルト効果も?
ドーパミンは、脳内で神経伝達物質の1つとして極めて重要な役割を果たしている。「脳内麻薬」ともいわれ、人が快感や感動を覚えたときに脳内で放出される。スポーツ観戦で興奮したり音楽を聴いて感動したりしたようなときに、脳内でドーパミンが放出されることは実験的に確かめられている。「自己啓発本」などでは人気のあるテーマだ。
ドーパミンの役割は、興奮作用のほかに行動を起こす場合の動機づけとして分泌されることも、明らかになってきた。人は無意識のうちに行動を起しているようでも、それぞれの状況でその行動が必要だと判断して動く。このときに、脳内でドーパミンが分泌されるのだ。
この分泌の多いと、食欲や性欲がわき、やる気がみなぎり、意欲的に生活することができる。ふだんから分泌量の多い人は、あきっぽくてつねに新たな刺激を求め、冒険や探検、転職や転居が大好きで、恋人や自動車をひんぱんにかえ、スリルを求めるタイプだ。
だが、分泌が過剰になると、言動は異様にハイになり、リスクを恐れなくなって交通事故などが多くなる。日常生活のなかで俳優のような演技的な行動をする「演技性パーソナリティ障害」も起こす。自分が注目されないと、自己破壊的な行動に出ることもある。「統合失調症」はドーパミンの異常分泌がかかわっているともいわれる。
逆に、脳内のドーパミンの分泌量が少ないと、行動の動機づけも減って意欲が低下し、運動機能が低下する。うつ状態になったり引きこもったりする。分泌量の少ない人は、冒険より安定を好み、急に行動を変えるのが苦手なタイプだ。ドーパミンのレベルが極端に下がると、「手足の震え」や「仮面のような表情」が特徴のパーキンソン病の原因にもなる。
須藤伝悦著『モーツァルトが求め続けた「脳内物質」』(講談社)には、モーツァルトはドーパミン欠乏に起因する病気を患い、癒すために無意識のうちにドーパミンの分泌をうながす「心地よい曲」を作曲した、という説が述べられている。
「モーツァルト効果」は、モーツァルトの曲を聴くと「学力が向上した」「病気が好転した」、あるいは「ニワトリの産む卵の数が増えた」「キュウリの糖分が高まった」といった現象だ。しかし、否定的意見も少なくない。
ドーパミンの受容体は人によって感度の違いがある。感度が低い人はドーパミンを多めに放出しないと情報が伝わり難く、より強い刺激を求めるようになるともいわれる。
原虫は単細胞の微生物で、この仲間には蚊が媒介するマラリア原虫や女性の陰部に炎症を起こすトリコモナスなどが知られている。トキソプラズマも原虫の一種で、ヒトをはじめ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネズミ、ニワトリなど、200種以上の動物に寄生する「人畜共通感染症」だ。
人へはシスト(膜で包まれた休眠中の原虫)で汚染された食肉やネコのフンを介した経口感染が主である。ネズミを捕食したり、生肉を食べているネコからうつるケースもある。ただ、室内だけで飼って、ネコ砂とキャットフードで育てられているネコに感染することはほとんどないといわれる。ただ、放し飼いにしているものは感染の機会がある。
トキソプラズマに感染した人は、世界人口の3分の1程度と推測されるが、地域によって大きな差がみられる。たとえば、感染率は韓国で国民の6%だが、ガーナでは92%もある。日本人では20〜30%と推定される。ネコの放し飼いや生肉を扱うなどの習慣や食文化の差が大きいとみられる。
健康な成人の場合には、感染しても症状がないか、軽いカゼのような症状が出るぐらいだ。多くはないが妊婦が感染して流産などを引き起こすこともある。肉は20度に冷凍するか66度以上に加熱すれば、感染力はなくなる。妊婦は庭の土や砂場の砂などでネコのふん尿に触れないよう用心する方がよい、と専門家は忠告している。
寄生虫によるマインド・コントロール
トキソプラズマがネズミを操っているように、脳などに作用して宿主の行動を支配する寄生虫がいろいろとわかってきた。ディクロコエリウムという槍形吸虫がアリに寄生すると、ふだんは葉陰にいるアリが目立つ場所に移動するように行動が変わる。すると、ウシやヒツジが葉もろともアリを食べることで、寄生虫は宿主をウシへ乗り換えて繁殖することができる。
ロイコクロリディウムはカタツムリに寄生すると、ツノ(触角)に集まってシマ模様になって上へ下へと動き、あたかもイモ虫のような姿に変身する。だまされた鳥が食べると、寄生虫は鳥にすみかを変えることができる。鳥の体内でタマゴを産みそれが排せつされてふたたびカタツムリに寄生する(このコワイ動画がYouTubeにアップされているのでおすすめ)。
ガラクトソマムの幼虫はイシダイやトラフグなどの魚に寄生する。すると、魚は鳥に捕食されやすい海面をぐるぐる回りながら泳ぐようになり、食べられると寄生虫は鳥の体内に入り込む。
ブラジルの熱帯林で最近発見されたタイワンアリタケの一種は、アリに感染して脳を支配し、ゾンビ化したアリが菌類の成長と胞子の拡散に適した場所まで移動すると、そこでアリを殺し自分は新天地で繁殖する。
原虫の一種のマラリア原虫も巧妙な手を使う。人が感染すると何時間かおきに高熱が出て動けなくなる。その間にマラリア蚊がたかって吸血とともに原虫を取り込む。熱のおさまった人は別の場所に移動してふたたび動けなくなり、そこで蚊を通して原虫をばらまく。人は原虫の運搬道具にされている。
ワールドカップと寄生虫の関係
人の行動をトキソプラズマとの関連で説明する試みも多い。スタンフォード大学の神経科医パトリック・ハウス博士は2010年に南アで開催されたサッカーのワールドカップでの各国の勝率に、こんな解釈をしている。博士によると、国民のトキソプラズマ感染率とサッカーの強さには相関関係がみられるという。
引き分けのある予選リーグではなく勝敗のつく本戦の試合をみてみると、1回戦の8戦すべてにおいて感染率が高い国が勝利を収めたという。前回のドイツ大会では8戦中7戦で感染率が高い国が勝った。
FIFAの国別ランキングトップ25を感染率で並べ替えると、上位からブラジル(感染率67%)、アルゼンチン(52%)、フランス(45%)、スペイン(44%)、ドイツ(43%)となり、このなかには過去10回のワールドカップの優勝国がすべて含まれている。ただ、イギリスやイタリアなど感染率が低いサッカーの強豪国があることから、牽強付会(けんきょうふかい)という批判もでそうだ。
ハウス博士は、トキソプラズマに感染した男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が増え、より積極的で攻撃的になりそして権威に対して否定的になる傾向がみられるので、これが影響しているのではと推測している。
人類史のなかでもっともネコを愛した民族は、古代エジプトであろう。そもそもネコはエジプトでリビアネコから家畜化され、女神バステトとして崇拝された。ネコを殺傷することは犯罪として刑罰を受け、火事のときは消火よりもネコの救出が優先された。
ネコが死ねば飼い主は悲しみを表すために眉を刷り落とし、死体をミイラにして手厚く葬った。1つの遺跡から30万体を超えるネコのミイラが発見されたこともある。輝かしい古代エジプト文明は、ネコから人が感染したトキソプラズマによって「活性化」した人によってもたらされたと唱える説もある。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校のケビン・ラファティ博士のように、ネコからのトキソプラズマ感染は、人の探求心や知的好奇心を形成した重要な要素であり、人をより人らしくした、と主張する研究者もいる。
「地球危機」発 人類の未来
世界は異なる文化、経済や技術の発展度合いの違いなどがまだら模様をなしているが、世界が本当に発展していくには共生、共存の思想の共有が欠かせない。20世紀型発展はしばしば人類の暴走を生んだが、グローバル化が進む21世紀だからこそ、平和や人権と並んで「持続可能な発展」という共通の倫理感が強く求められるのではないか。
筆者は新聞記者、大学研究者、外交官など立場を変えながらも、40年以上にわたり、一貫して地球環境問題を追ってきた。
国際化の波のなかで、ビジネスパーソンもこれまで以上に世界の持続可能性を意識していくことが重要になる。筆者のグローバルな視野と感覚に基づいたレポートは、21世紀の世界が進むべき道を考えるうえで貴重なヒントを与えてくれるだろう。
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石 弘之(いし・ひろゆき)
環境学者
1940年生まれ。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社編集委員を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授、同大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻教授、駐ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院公共政策学特任教授などを歴任。2008年4月より、現職。『地球環境報告』(岩波新書)ほか、環境問題や途上国の開発をテーマにした著書多数。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120410/230820/?ST=print
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