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COP17(第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が、混迷の中で大きな成果を得られないまま2011年12月11日に閉幕した。各国の思惑が複雑にからみ合い、地球温暖化への対策が遅々として進まないことをあざ笑うかのように、環境変化が次々と各地を襲い始めている。
特に北極海では、海氷の減少など様々な異変が顕著になっている。一方で、海氷の面積減少が各国の資源獲得競争を刺激するといった複雑な影響を経済界にも及ぼしつつある。
■海水面の上昇、予測を上回る
温暖化の現状などを報告した、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書が公表されたのが2007年2月。この報告書は、温暖化の現状や予測される未来が深刻な状況にあると警鐘を鳴らす内容だったが、その後の多くの研究によって、状況の悪化が当時の予測を上回る勢いで進んでいる可能性が高いことが分かってきた。
例えば、温暖化による水の膨張や氷河の融解などによって起こる海水面の上昇。IPCC第4次評価報告書では「2100年における海面は、1990年に比べて0.18〜0.59m上昇する可能性がある」とされた。ところがその後、米国やロシアなどでつくる北極評議会の研究チームにより、同時期における海面上昇の規模は、報告書の予測値を大きく上回る0.9〜1.6mに達する可能性があることが示された。
これは、このところ北極で気温が高い状態が続いていて、グリーンランド(デンマーク領)の氷床や北極近くの氷河が、従来以上の速度で解けて北極海に流れ込むという要因を考慮した結果だ。
■オゾンホールが北極にも出現
南極特有の現象とされてきた「オゾンホール」が、2011年の春先に北極で発生していたことも、国立環境研究所などによる研究で明らかになった。北極の上空で、観測史上最大のオゾン層破壊が起きていたのだ。これも温暖化の影響であることが、最近の研究で分かった。
オゾン層破壊の主な犯人は、以前に冷媒などに大量に使われたフロンガスが分解してできる塩素ガス。現在、フロンガスの使用は国際的に厳しく規制されているが、大気中の塩素濃度が減るまでには、まだ20年程度かかるとみられている。
南極でオゾンホールができるのは、上空に「極渦」と呼ばれる、大規模な気流の渦があり、その渦が極低温の寒気を閉じ込めるからである。塩素によるオゾン層の破壊は、マイナス80℃以下で爆発的に進むことが分かっている。
北極にも極渦はあるが、それほど強くはなく、低緯度の暖気やオゾンが流入するので、これまではオゾンホールをつくるほどの塩素作用は起こらなかった。ところが2010年から2011年にかけて、北極上空はこれまでにない厳しい寒さに見舞われ、極渦がかつてないほどの寒気を閉じ込め、オゾンホールの発生を引き起こすことになったという。
「これまでにない寒さということなら、温暖化とオゾンホールは関係ないのでは?」と思われがちだが、研究成果によれば、大いに関係がある。北極上空の大気の冷却現象は、温室効果によって下層の大気が暖められたことで発生したと考えられているのである。
■氷の体積が観測史上最小に
前述のように、北極海の海氷は減り続けている。海氷は1年単位で融解と氷結のサイクルを繰り返し、北半球の夏の時期に1年の中で面積が最小になる。WMO(世界気象機関)によると、2011年9月の時点で、北極海の海氷の体積は4200立方キロメートル。これは、観測史上最小の規模である。
またJAXA(宇宙航空研究開発機構)の調査によると、同時期の海氷の面積は453万平方キロメートルで、最小となった2007年の425万平方キロメートルに次ぐ、観測史上2番目の小ささとなった。つまり面積的には2007年よりはましだが、氷の厚みが激減しているのである。
2011年に北極海の海氷の融解がこれほど進んだのは、温暖化の影響で、夏を迎える前の海氷の状態が大きく変化したからだと考えられている。古くて厚い氷(多年氷)がどんどん減って、若くて薄い氷(一年氷)の比率が多くなったということである。
JAXAによると、北極海の海氷の減少傾向は、特に2003年以降、顕著に見られるという。またWWF(世界自然保護基金)などの研究チームによると、北極海の夏季の海氷は、今後10年以内に大半が解け、20年以内にはすべてが消滅する可能性があるという(図1)。
■夏に、北極回りの航路が開通
北極海の海氷減少による影響は、自然科学的なものだけにとどまらない。図2で分かるように、大陸沿岸部の海氷が大きく後退したため、カナダ北部の多島海を通る北西航路と、シベリア沿岸の北方航路が、夏に開通する頻度や期間が長くなった。
例えば日本と欧州を結ぶ航路の場合、喜望峰経由の場合で1万5000カイリ、スエズ運河経由で1万カイリほどだが、北方航路を利用すれば7000カイリに短縮が可能だ。今後、北極海経由の航路を利用するための研究が各国で盛んになりそうだ。
■資源争奪への動きが活発に
海氷の融解は、石油や天然ガス、ニッケル、コバルト、金などの豊富な資源が眠るとみられる、北極地域での採掘が可能になることも意味する。このため周辺国では、大陸棚の領有権獲得を目指す動きが活発になっている。
ロシアは、200カイリの排他的経済水域(EEZ)を越える北極海の中央部について、その海底が自国の大陸棚であると主張する調査報告書を、国連大陸棚限界委員会(CLCS)に2012年に提出する考えを、2011年7月に表明した。海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)によると、EEZの領域を越えていても、海底が陸地からの延長である大陸棚と認められれば、海底の開発権が確保できるからである。
こうしたロシアの動きに反発しているのがデンマークやカナダだ。ロシアが権益獲得を目指す北極海の海底は、それぞれ自国の沿岸と“地質学的に”地続きであるという見解を主張している。デンマーク、カナダはいずれも、数年後にはCLCSに申請できるよう科学調査を進めている。またロシアとカナダは、同地域での存在感を高めるため、自国軍の部隊を移設するなどして、示威行動を繰り広げている。
このほか中国、日本なども資源獲得への関心は強く、北極で独自に調査を実施したり、積極的関与を提言するリポートを発表したりしている。北極には、領有権主張を凍結した「南極条約」のような条約が存在しない。このため、自国の資源・エネルギーの獲得を目指す「資源ナショナリズム」を背景にした各国の熾烈(しれつ)な権益獲得争いは、今後さらに白熱しそうだ。
(日経BPクリーンテック研究所 須田昭久)
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