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http://www.nikkei-science.com/topics/bn1008_2.html#3
物理学者・数学者として名高い英オックスフォード大学のペンローズ(Roger Penrose)は1960年代後半,物理学の統一理論を打ち立てるための斬新な方法を考えついた。空間と時間のなかで粒子がどう運動し相互作用するかを説明しようとするのではなく,空間と時間そのものが,もっと深いレベルの実在から生まれてくる派生的なものなのだと,ペンローズは提唱した。だが,この「ツイスター理論」が広まることはなく,数少ない支持者も概念的な問題で身動きが取れなくなった。他の多くの統一理論の試みと同様,ツイスターは見捨てられた。
2003年10月,ペンローズはプリンストン高等研究所に立ち寄り,統一理論の有力候補「ひも理論」の第一人者ウィッテン(Edward Witten)に会った。ペンローズはひも理論を一時的な流行りだと批判してきたので,ウィッテンからそれをとがめられるとばかり思っていたが,忘れられた彼のツイスター理論についてウィッテンが話をしたがっていると知って驚いた。
その数カ月後,ウィッテンはツイスター理論とひも理論を結びつけた97ページに及ぶ論文を発表してツイスターを復活させ,ひも理論を厳しく批判する人々にも強い印象を与えた。これをきっかけに,理論家たちは空間と時間とは何かを考え直している。そうした研究から,通常の素粒子物理学では非常に難しい問題を簡単に解く計算手法がすでに生まれた。
「人生でこれほど物理学にワクワクしたことはない」というのは,この新分野に集中するためハーバード大学からプリンストン高等研究所に最近移ったひも理論研究者のアルカーニ=ハメッド(Nima Arkani-Hamed)だ。「世界で15人ほどのグループが日夜研究を続けており,この分野はいま猛烈なスピードで進展している」。
2つの理論に“ひとひねり”
ウィッテン論文以前は,ツイスター理論とひも理論の研究者は別々の集団を作り,異なる言語を話しているようなものだった。ペンローズらが一般相対性理論の研究で名をなしたのに対し,ひも理論研究者たちは素粒子物理学の伝統を受け継いでいる。
オックスフォード大学のメイソン(Lionel Mason)は1987年にペンローズとともにシラキュース大学を訪れた際にひも理論に関する議論を無視したが,いまにして思えば,ひも理論研究者と議論していれば貴重な手がかりが得られたかもしれないとみる。「私たちは素粒子物理学のセミナーには行かなかった。相対論研究者だったから」とメイソンはいう。
ペンローズのもともとの狙いは,量子力学の原理を空間と時間にどのように適用するかを再検討することだった。従来の考え方では,極微の量子スケールでは時空の幾何構造が揺らぎ,事象どうしの関係が変わってくる。だとすると,ある事象を引き起こしたはずの事象がもはや原因ではなくなるなど,タイムトラベル物語に出てくるようなパラドックスが生じる。
これに対しツイスター理論では因果の順序が第一の基本で,揺らぐことはない(「ひねり回転」を意味するツイスターという名は,前ページの図のように,自転する粒子の周りの因果関係がどのように見えるかにちなむ)。因果関係が揺らぐのではなく,事象が起こった場所と時間が揺らぐ。
ツイスター理論の研究者たちはこの考え方を精緻に理論化することはできなかったのだが,ひも理論研究者たちが「時間と位置が曖昧な事象」が1本のひもにほかならないことを示したことで,それが可能になった。
一方,ひも理論のほうは,空間の生成に関する有望なアイデアがありながら,手をつけられずにいた。ひも理論研究者たちは1997年,「4次元空間を高速で動き回る粒子は5次元空間で相互作用するひもと同じだ」と推測した。この新たな次元は“飛び出す絵本”の絵のように現れるのだが,生じるのは非常にゆがんだ空間次元が1つだけだった。しかし現在までに,ツイスター理論の概念を使って,通常の空間の次元(さらには時間まで)がどのように生まれ出るのかが示された。
「時空は派生物」という考え方は極めてもっともだと,多くの理論家が認めている。オックスフォード大学のホッジス(Andrew Hodges)は,私たちは時空を直接に認識しているのではないと指摘する。届いた情報をもとに,ある事象が特定の時間に特定の場所で起きたと推定しているのだ。
「時空の各点を基本的なものと見なすこの考え方は,うわべだけの偽りだ」とホッジスはいう。実際,重力による時空のゆがみや,よく知られた量子間の“気味の悪いつながり”(量子もつれ)によって,明確な位置と時間の概念は破綻している。
素粒子物理にも恩恵
空間と時間をうまく再構築できるかどうかは別としても,ツイスター理論とひも理論はすでに素粒子物理学者たちから大いに慕われている。
単純な粒子衝突を記述する場合でも,何万もの項を含む一連の方程式が必要で,それらの項はかの物理学者ファインマン(Richard Feynman)が1940年代に考案した方法に基づいて書かれている。ほとんどすべての項は最終的には相殺されて消えるのだが,どれが消えるかを前もって知ることはできないので,すべての項をゴリゴリ計算しなくてはならない。
これに対しツイスター理論とひも理論にヒントを得た新方法は,ファインマンの方法が考慮していなかった「対称性」に着目し,計算の重荷となる項を最初から減らす。かつて数学の天才たちもお手上げだった計算が,たったの2〜3週間で可能だ。「ファインマンがこれを見たら大喜びするに違いない」とカリフォルニア大学ロサンゼルス校のバーン(Zvi Bern)はいう。
いま生まれつつある時空の新理論は仮説の段階だし,数学的に非常に難解なので,直接関係している物理学者たちでさえ進展状況を追いきれていないと認める。時空が派生構造にすぎないとしたら,それにもかかわらず私たちにこれほど現実的に見えるのはなぜなのだろうか。理論家たちはまだ説明できていない。
命のない物質から生命が生じるように,時空もどうにかして形作られるに違いない。その過程がどうであれ,それは原子より小さなスケールだけの話ではありえない。サイズの概念そのものが,時空に伴って出現するのだから。すべてのスケールで,そしてどこであっても明らかであるはずだ。それを見る方法がわかりさえすれば。
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