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環境問題とポスト「緑の革命」 http://www.asyura2.com/09/nature4/msg/421.html
環境問題とポスト「緑の革命」 ■ はじめに 人口爆発と食糧危機問題への対応として、「緑の革命」と呼ばれる農業モデルの革命的改革がこれまで大きな役割を果たしてきたと言われている。しかし、近年この「緑の革命」の”負の資産”が、気候変動をはじめとする環境問題の一つの深刻な要因を形成していることが指摘されている。 本ブログで何度か指摘しているように、環境問題は複雑な構造を持っている。そこで、本稿では、気候変動をはじめとする環境問題の本質的一側面を知るために、この「緑の革命」を客観的に評価し、人類が歩むべき方向性について考察していきたいと思う。 ■ 緑の革命とは 「緑の革命」とは、1940年代〜1960年代にかけて開発・導入された高収量品種を用いた農業モデル(による農業革命)であり、化学肥料の大量投入、灌漑設備(ダム・水路など)の導入、農作業の機械化、農薬散布の拡大がセットで導入されることで、収量を大幅にアップさせる技術を言う。 しかしながら、1970年代頃から一部の地域で生産量増加が鈍化しはじめ、病害虫被害、灌漑による塩類集積、土壌劣化、気象災害といった問題を招き始めていると言われている。また、アジアの稲作地帯では、化学肥料・農薬による土壌汚染で水田が淡水魚の繁殖地として機能を果たさなくなり(生物多様性の低下)、農民の自給力を殺ぐことになったということも指摘されている。また、種子や化学肥料や農薬を購入するための農家の経済的負担が大きく、(単作型・輸出型の農業によって多様性が損なわれ)需給バランスが崩れることで農作物価格が暴落し、農地を担保に借金をする農家が拡大して貧困を助長した――と言う側面も指摘されている。 さらに、政治的な側面においては面白い見方もある。 一般に、穀物メジャーによる企業型大規模経営(農業モデル)の世界展開は、小規模農業経営モデルを崩していくことで実現される。しかし、資本主義に対立する共産主義による革命は、(ロシア革命、毛沢東革命、キューバ革命に見るごとく)実質的には、農地解放=農業改革=農村革命であるという側面を有していた。(特殊な例だが、GHQによる農地解放も同じ部類であろう。) これは、すなわち地主制度(穀物メジャーの企業型大規模経営モデルの土台)を打倒しようとする動きである。したがって、「緑の革命」とは、こうした所謂「赤の革命」に対抗するものとして、大規模農業でありながら収量増を実現する技術の導入であったという見方もできると言う。 一般的に、こうした政治的なイデオロギーが絡んでくる問題である場合、事実情報が曲解されて伝えられることも多く、現実を正しく評価が出来なくなることが多いように思う。我々は、なるべく客観的な事実を集め、それらを色眼鏡無しに見て評価していく必要があるだろう。 ■ 「緑の革命」と気候変動問題(とオイルピーク問題) 本稿で特に注目したいのは、この「緑の革命」によって導入された農業モデルが、大量の農薬や化学肥料、機械化された作業の投入、大規模開拓、大規模輸送、輸出入によって成立させられているという特性を持っているという点である。 すなわち、農作物の単位生産量あたりの投入エネルギー量が大きく、”石油”への高度の依存体質になっている点である。したがって、間接的に「気候変動問題」(や「オイルピーク問題」)とも関係し、現行農法の持続可能性が問われている。 また塩類集積、土壌劣化というような「土壌」に関わる問題は、最悪の場合には砂漠化へと至る道筋をつける。砂漠化へのプロセスは、植生の衰退とともに、水資源(循環)を失わせ、土壌中の微生物群も減少させ、このときに分解された有機物を大気中に「温室効果ガス」として放出することになる。そして、何よりも、植生を失うことは地表の光合成機能を失うことでもあり、熱量の吸収機能が衰えるということであり、これも温暖化なるものの深刻な原因を形成しているといえるであろう。 したがって、環境問題(気候変動問題)と「緑の革命」は密接に関係しているとして過言ではないであろう。 ■ 第二次緑の革命 ―「低・不耕起農法」 「緑の革命」が抱えている、こうした諸問題を解決する目処はたっているのだろうか。ポスト「緑の革命」なるものは存在するのだろうか。 現在、「第二次緑の革命」ということが盛んに言われている。この「第二次緑の革命」の方向性には、「有機農法」と「低・不耕起農法」の2つが挙げられるという。この2つの農法について考えてみたいと思う。 後者の「低・不耕起農法」は、耕起をなくしたり、もしくは低減することで、土壌の改善を進め、土壌侵食を抑制する農法である。しかしながら、この農法はGM(遺伝子組み換え)作物という技術と不可離であり、化学肥料・農薬の使用には依存し続けなければならない。 こうした特性を踏まえるならば、この農法は(第一次)緑の革命の正当なる後継者、すなわち技術の延長線上にあるとも言えるだろう。しかし、同時に農薬に対する抵抗性の発現や土壌の固化などの問題が指摘されており、持続性が低いという批判もある。 ■ 農業と「土」との関わり つまり、「低・不耕起農法」とは(土壌侵食が深刻化している地域において)、耕起をしないか、または減らすことで「土壌」の改善を進める技術である。しかしながら、この技術によって土壌侵食は防げるとはいっても、一方で土壌の固化や土壌の免疫性の低下が見られるとすれば、十分に「土壌」の機能を保全しているとは言い難いのかも知れない。「土壌」の機能を保全するということが、重要かつ難しいことであることは、歴史を振り返ってみれば理解することが出来るだろう。 少し、ヨーロッパの農業史を見てみたい。 ヨーロッパのBC8000頃は「天水農業」であった。これは、略奪的な農法であったために、土壌を劣化させ、次々に土地を移動しなければならなかったことから、文明の発展は制約されていた。 その後のBC3000頃に、オリエントにおいて灌漑技術の開発が行われ、劇的な収量増をもたらすことが可能な「灌漑農業」に発展した。しかし、この農法もやがては塩害に悩まされ、オリエント文明は衰退することになった。 農法に革新が見られたのは古代のギリシア・ローマであると言えるだろう。「二圃式農業」と呼ばれるこの方式は、小麦の生産と休耕・放牧を繰り返すものであった。休耕と糞によって地力を回復させることの出来るこの持続的な農業モデルは、ローマ帝国の繁栄の基盤を作ったといわれている。 これを「三圃式農業」に発展させたのは、中世ヨーロッパである。秋麦の生産、春麦の生産、休耕・放牧を繰り返すものであり、封建社会下における繁栄の基盤を創った。さらに、18〜19世紀には「四圃式農業」にまで発展させられた。これは輪栽式(ノーフォーク)とも呼ばれ、冬麦の生産、根菜の生産、夏麦の生産、地力回復牧草の生産を繰り返すものであり、地力回復に根菜や牧草が寄与させられることによって、より効率的な生産が可能になった農業モデルである。 農業の発展と文明の発展は、「オリエント」→「地中海沿岸」→「欧州大陸」という地域的な流れと一致して、同期していることは面白い。しかも、その基礎・土台は、「土壌」=「地力」の維持にある、という点は注目に値する。 ■ 第二次緑の革命 ―「有機農法」 もう一人の後継者(?)である「有機農法」は、持続的農業、再生可能農業とも言われており、以下のような方法(の組み合わせ)により、土壌の肥沃化、土壌の保水力・旱魃耐性・免疫力をつけさせる技術を言う。
-------------------------------------------------------------------------------- この方法は、総体的には現在の「緑の革命」の方向性(企業型、人為型・商業的品種改変、大規模型、開発型、機械化、石油依存、化学肥料依存、農薬依存、遺伝子組み換え容認など)とは大きく対立するものであると言えるだろう。 この「有機農法」が、「土壌」の保全や「地力」の強化という観点においては、十分に機能するであろうことは容易に想像できる。また、先に述べた「オリエント」→「地中海沿岸」→「欧州大陸」という文明と農業の発展の歴史を引き継ぐものでもあり、歴史的には正当なる発展の方向性であるとも言えるだろう。 しかしながら、我々の持っている一般的常識からすると、「本当にこれで収量が維持できるの?」、「現在の緑の革命による農法を代替することで食糧危機が起きないのか?」という疑問が湧かざるを得ない。 ここで、2点の引用を紹介したい。 (以下、引用) 「インドのタミール・ナードゥ州にある100年続くいくつかの紅茶のプランテーションでは・・・研究者が近隣の森林から得たミミズを再導入したところ、いくつかのプランテーションの収穫は282%にも上昇し、1年1ヘクタール当たりで5500ドルもの利益を上げた。・・・アジア国々では、東京大学の科学者なども参加して、より少ない水量での米の集約農法を推進しており、それはSRI(稲集約栽培法)と呼ばれるもので、その起源は2000年もさかのぼる事が出来る。 ・・・インドネシアでは、生産高が80%近くも上昇し、水の使用は40%、肥料の使用は50%減少し、総生産コストは5分の1に減少した。・・・UNEPとUNCTADは、アフリカの24カ国にある114の小規模農地を最近調査した。それによれば、有機農法あるいは有機に近い農法を実践しているところでは、生産高は2倍以上となったことが分かった。その生産高の増加は東アフリカにおいて128%に上昇した。 ・・・この研究によれば、有機農法は、伝統的な手法や化学物質を使う従来の集約農法よりも優れていることが分かった。 ・・・また、改善された土壌の肥沃さ、より良い保水力、干ばつへの耐性といった力強い環境的な利益も見いだされた。その調査により、有機農法を知ることで、地域の教育の改善がなされうるという役割が明らかとなった。」(出所: 朝日新聞、2009年2月18日) 「・・・ミシガン大学の研究者たちは、「保守的なケース」と「現実的なケース」の2モデルを立てました。「控え目なケース」では、世界的な農業生産(先進国と開発途上国の双方の生産)に先進国の有機農業と慣行生産との収量比を適用しました。先進国では10の食品範疇での収量比が一般に低かったことから、それを全世界に適用することは、わずかに少ないカロリーで全世界が完全に有機農業で生産されることとなり、2,786Kcal/人/日の代わりに2,641Kcal/人/日となります。とはいえ、この数値は、健康な成人に示唆される2200〜2500Kcal/人/日よりも上であって、この控え目な評価でも現在の人口には十分な食料生産があることになります。・・・ですが、より現実的な想定は、比較的低い開発途上国の収量比を先進国の有機農業への転換に適用することを意味します。その結果は驚くべきことに、4,381Kcal/人/日で、現在の人口には十分以上のカロリーでした。まことに、それは、2100年に100〜110億人前後でピークになるとされる人口を養うのに十分でしょう。」(出所: 長野県農業大学校 吉田太郎 「有機農業で世界が養えるか」) (引用おわり) ■ 最後に まず第一に、なぜ我々の持っている一般常識的見解とは違う結論が導き出されたのか?という疑問が起こる。これについては、これまでは「緑の革命」全盛期時代であり、これに反するような情報が我々に伝わっていなかった、ということが考えられるだろう。 しかしながら、これまでの社会のなかには、「緑の革命」による農法を成立させる前提条件があったことも否定してはならない。つまり、資本主義の発展、産業構造の変化、都市化、人件費の高騰、潤沢な石油供給という20世紀に起こった劇的な変化が、農業に対して「緑の革命」の要求(収量増、機械化、石油依存、低コスト化)以外の選択肢を許さなかったのだ、ということも理解しなければならないだろう。 逆に、今世紀を見るならば、環境汚染、気候変動、オイルピーク、砂漠化などが大きな問題として注目され、また経済面においても世界が金融危機を経験することでケインズ主義(財政出動の重要性)が再び見直されている。すなわち、世界レベルで大きなパラダイム・シフトが起きている。グリーン・ニューディールという考え方は、その一つの具体化した姿であるといえるだろう。 そして、GHG(温室効果ガス)が、キャップ・アンド・トレード・システムや環境税のもとで、有価(費用)になるという動きは世の趨勢となっている。「土壌」の保全や「地力」の強化というのは、(本来)GHG(?)を生きた有機物・生命の形で土壌に埋め込んで構造化することであるし、農薬や化学肥料から離れることは、脱石油ということと同義である。そして、世界で導入・浸透しつつある制度(キャップ・アンド・トレード・システム、環境税、環境ODA、グリーン・ニューディールなど)は、全て、こうした動きを後押しするものである。 こうした世界レベルの大きな動きを踏まえたとき、「緑の革命」を常識とした(石油依存型・環境負担型の)農法が、変化せざるを得ないことは明瞭であると言えるだろう。また、「低・不耕起農法」についても、現在のまさに変化過程における過渡期的な農法であると言えるものの、これは(持続可能性という緑の革命の抱える問題を解決していないということで)本質的な問題を抱えているので、恐らく長くは継続できない可能性が高い。 したがって、恐らく、一部「有機農法」的(恐らく有機農法そのものではないが、有機農法のエッセンスを一部取り入れたような)農法に徐々に移行していくであろうことは、十分に想像できるであろうと思われる。その最終形態を想定、または設計しながら、必要な要件を産業構造の中に組み込んで行くことが、グリーン・ニューディール政策に求められているものであると言えるだろう。 (以下、参考文献) 朝日新聞、2009年2月18日 (おわり)
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