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http://eco.nikkei.co.jp/column/ekouma/article.aspx?id=MMECck000028052009&page=1
(リンク先に画像有、日本バイオ炭普及会についての説明有)
間伐材や農業廃棄物を原料にして作る木炭(バイオ炭=bio char)に世界的な注目が集まっている。砕いた炭を農地や林地に埋めれば土壌の性質を改良し生産性を高めるだけでなく、燃やせば二酸化炭素(CO2)として大気中に放出してしまうはずの炭素を地中に固定する効果もあり、地球温暖化対策にもつながる。木炭の効能を長く研究してきた小川真・大阪工業大学客員教授は、温暖化対策も含め木炭利用の拡大を目指し企業や大学の研究者を集めて日本バイオ炭普及会を発足させた。木炭を巡る新たな動きや利用法について聞いた。
――木炭がなぜいま注目されるのですか。
小川真 日本バイオ炭普及会会長
「日本では昔から土壌を豊かにするのに炭を使うことはよく知られており、私自身も間伐材や竹材、農業廃棄物から炭を作って農地や林地の土壌改良に使う研究に取り組んできた。ただなかなか経済的に引き合うものではない」
「それが世界的に注目を集めるようになったのはここ2、3年のことだ。きっかけは米コーネル大学の農業土壌の専門家であるヨハネス・レーマン博士(准教授)とブラジル・アマゾン奥地のテラプレタという場所の出合いからだ。レーマン博士がその地域の農業生産性が高いことを不思議に思い土壌を調べたところ炭の破片がたくさん見つかった」
「テラプラタは『黒い土』という意味だ。どうもそこにはかつて高い農業技術を持つ文明が存在し炭を土壌に混ぜて使っていたらしい。今は滅びてしまい技術も伝えられていないが、土壌は改良された結果、周囲のやせ土に比べて農業に適しているとみられる」
「レーマン博士がこの発見に驚いて関係者に呼びかけて火がつき、2007年には第1回の国際バイオ炭イニシアティブ(IBI)と名づけた国際学会を開くまでになった」
――米国の研究者が炭の効用を再発見したというわけですね。
「私は以前から炭の利用について論文も書き海外でも話していたので国際会議にも声がかかったのだが、欧米の動きが非常に急テンポで、日本もうかうかしていられないと思い国内で組織づくりに乗り出した」
――欧米の動きが早いのはなぜですか。
炭を入れて菌をつけることで大きく育ったトマトの根(左、小川氏提供)
(クリックすると拡大します)
「温暖化対策につながると考え、大きな資本がバックに付いたかららしい。廃木材や農業廃棄物を炭にして土の中に埋めると土壌改良に役立つだけでなく炭素の固定化にもなる。燃やしてCO2にするより環境にはるかにいい」
「その点は日本国内の研究者も10年ほど前から主張しているのだが、仮に炭を埋めることで排出量取引のクレジット(排出枠)を得る仕組みができたとしても国内ではなかなか引き合わない。木炭の原料となる材料を集めてくるのにコストがかかるからだ」
「しかし米国の農業資本は違う。落花生や大豆の殻、サトウキビの絞りガラなどの廃棄物が山ほどある。燃やすしかなかった農業廃棄物から土壌改良剤が造れ、さらにクレジットを得られれば二重、三重の利益になる。手間ひまかけた日本の農地では炭を混ぜてもいまさらそれほど見違える土壌改良効果は出ないが、米国の粗放的な農地だと効果は大きいとみられる」
――炭を混ぜるとなぜ農地の生産性が高まるのですか。
「炭を混ぜることで土壌が空気と水をほどよく取り込むからだ。植物の根は水だけでなく空気にも適度に触れていないとよく育たない。炭を混ぜ込んだ場所に根が寄ってきて黒い柔らかい土になる。酸性土壌を中和する働きもある」
「また土壌中の共生微生物が炭の微小な穴の中に入り込む。特に空中の窒素分を固定する菌が穴の中で増える。これで土壌は窒素肥料を与えたのと同じような効果が得られる」
「私たちの研究で1990年代初めにわかったのだが、熱帯地方で焼畑の焼け跡には消し炭がいっぱい残っている。これを拾って無窒素培地に入れると微生物がいっぱい出てくる。窒素固定菌が消し炭の中に入り込んでいるのだ」
「焼畑が上手な人は雨が降る前に火を付けるという。これは消し炭の効能を経験的に知っているからではないかと思う。完全に燃えきった灰では意味がない。消し炭だからこそ効果がある」
――炭素の固定化のために木材などを炭にするという行為は一歩間違えば、森林破壊と温暖化を促進することにはなりませんか。
出雲市の海岸での植樹活動。砂浜に炭を混ぜて植える(小川氏提供)
(クリックすると拡大します)
「炭は土壌中で非常に長期間にわたってとどまるためCO2の固定化になるのは確かだ。しかしどのくらい安定なのか、長期で見て炭素固定効果は確かなのかきちんとアセスメントする必要はある。ポスト京都議定書の枠組みで対策手段とするなら手法の標準化も含めてしっかり課題を詰めていかなければならない」
「その点、欧米でのブームはやや上滑りな感じで心配だ。アフリカなどの途上国でバイオ炭を利用したらいいなどの主張もあるが、森林破壊を助長しかねないので慎重になるべきだ」
「評価をしたうえで適切な地域で適切な利用をすれば、農業生産性の向上と温暖化対策を両立する手法になるはずだ。日本バイオ炭普及会では長期でみてCO2削減が実現しているかを調べるライフサイクルアセスメントの研究プロジェクトに取り組むつもりだ」