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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090917/205011/?top
省エネ製品を買うほど、地球温暖化のリスクが高まる――。こんな皮肉な状況が、国内で起きつつある。 ダイキン工業やパナソニック、三菱電機などエアコン大手は、9月からこんなシールを新製品に張り始めた。「家庭用エアコンには最大でCO2(温暖化ガス)3600kgに相当するフロン類が封入されています」。 日本人は毎日、1人当たり約6kgのCO2(二酸化炭素)を排出している。3600kgは、約1年半の排出量に相当する。 省エネ性能を売りにするエアコンに、なぜ、消費者が購入をためらうような情報を表示するのか。 ダイキンの岡田慎也・執行役員はこう語る。「ネガティブな情報を開示することで、今後エアコンを売りづらくなるのは事実だ。しかし、逃げずに問題を見据える必要がある」。 問題とは、家庭用エアコンが構造的に抱える「負」の側面のことだ。 家電リサイクル法の限界 エアコンを省エネ化するには大きく2つの方法がある。 まずは、コンプレッサーなど部品の消費電力を抑えること。しかし「こうした方法は長年の技術改良により、限界に近づきつつある」と日本冷凍空調工業会の岸本哲郎・専務理事は語る。 そこで各社が力を入れているのが、ヒートポンプ性能の向上だ。空気中の熱を有効活用することで、エネルギーの利用効率を高める技術のことだ。ここで重要になるのが、熱交換を担う「冷媒」。熱交換効率が向上するほど電力消費量が減り、省エネにつながる。 最近のエアコンは冷媒として、代替フロン「HFC(ハイドロフルオロカーボン)」を利用する。HFCは人体に無害で、特定フロンのようにオゾン層を破壊しない。そのため、モントリオール議定書で特定フロンの製造が規制された後、急速に普及してきた。 だがそれは、両刃の剣でもある。エアコンに使う一般的なHFCはCO2の約2000倍と、非常に強力な温暖化効果を持つ物質だからだ。 エアコンの冷却、暖房効率を上げるにはHFCが空気と触れる表面積を増やす必要がある。「冷媒を通す管を細くするなど、技術改良で克服できる」とダイキンの岡田執行役員は話す。だが一般的には、使用するHFCの量を増やすのが手っ取り早い。 ここで、冒頭に述べた矛盾に直面することになる。電力消費量を削減するためには、温暖化物質であるHFCを多く使わざるを得ない。代替フロンの問題に詳しい群馬大学の西薗大実教授はこう指摘する。「最近の省エネエアコンは、以前より横長になり大型化している。これは、それだけ内部に多くのHFCを抱えるようになったことを意味している」。 国内では1億台以上の家庭用エアコンが稼働しているとされ、1台当たり約1kgのHFCが充填されている。これをCO2換算すると、約2億トンの温暖化ガスが家庭に存在する計算になる。日本の年間CO2排出量は約13億トン。無視できるレベルではない。 もちろん、HFCが適切に処理されていれば問題はない。エアコンは家電リサイクル法の対象製品で、消費者が廃棄する場合は、小売店などを通じて家電メーカーが引き取ることになる。 だが、この仕組みはうまく機能していない。日本では年間約700万台のエアコンが販売されているが、きちんと回収できているのは約200万台で、回収率は3割程度に過ぎない。廃棄の際には消費者がお金を払う必要があり、引っ越し時などに不法廃棄する例が後を絶たないためだ。 業務用では年間16%漏洩も さらに、エアコンには銅や鉄が多く使われている。スクラップ業者が金属だけを抽出し、中国などに輸出している例も多い。こうした場合、HFCは回収されず、温暖化ガスとして空気中に放出されることにになる。 産業技術総合研究所の田原聖隆・主任研究員の試算によると、「12年間エアコンを使って廃棄した場合、ライフサイクル全体で排出される温暖化ガスの最大 49%をHFCが占める」という。使用中の電力消費を削減してCO2排出を減らしても、7割が回収されないなら、努力はHFCの排出により相殺されてしまう。 問題なのはエアコンだけではない。より深刻なのはスーパーやコンビニエンスストアなどで使われる、別置き型ショーケースだ。充填されているHFCの量が家庭用エアコンよりも多く、温暖化効果がより強い種類のHFCが使われているからだ。 設置したら移動しない家庭用エアコンとは違い、スーパーなどではレイアウト変更が頻繁にあり、そのたびにHFCが放出される。経済産業省によると、ショーケースに使われているHFCのうち、年間16%が漏れているという。 業務用のエアコンやショーケースを廃棄する際は、「フロン回収・破壊法」にのっとって処理する必要があるが、こちらも家電リサイクル法と同様の「ざる法」だ。HFCを不法処理すると罰金刑などを科せられるが、いまだに刑事罰の例はない。お金を払ってきちんと処理した事業者が「損」をする、本末転倒の状況になっている。 ショーケースを利用する小売業者にも温度差がある。大手スーパーで比較すると、セブン&アイ・ホールディングスはチェーン全体のHFCストックを把握しているのに対し、イオンは「今は個別店舗での集計しかしていない。来年度に向けて準備している」(広報)。小さな個人商店では、問題点すら認識していないところが多い。 問題をさらに複雑にしているのが、現時点では安全性や熱交換効率で、HFCを超える冷媒が存在しないことだ。温暖化という難点を無視すれば、HFCの使い勝手は非常に良い。そのため、国内のHFC市中在庫はマグマのようにたまり続けている。 こうした状況を認識し、HFCに関する意識を高めてもらいたい。これが9月に始まった「見える化」シールの意義だ。今年度末までに、家庭用業務用を問わず、発売されるすべての空調機器にシールが張られることになる。 代替冷媒の開発を急げ わずかながらも光は見えている。三洋電機はHFCではなく、CO2を冷媒に使った飲料ショーケースを既に販売した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は空調機器メーカーのサンデンと共同で、コンビニ向けショーケースの開発している。冷媒に使うのは温暖化効果を持たないアンモニアだ。エアコンでも、ダイキンやパナソニックなどがNEDOと共同で、代替冷媒の開発を進めている。 国内の排出量取引制度にも問題がある。現在では、HFCを利用したヒートポンプ機器を使って省エネに成功した場合でも、クレジットが付与されている。確かにそれでCO2を削減できるのは事実だ。しかし、それが本当に温暖化防止に役立つのか。HFCの回収率も含んで、議論を深める必要がある。 経産省によると、2007年に排出されたHFCの量はCO2換算で1140万トン。日本の温暖化ガス排出量の約1%を占めている。このまま手をこまぬいていれば、2020年には温暖化ガス排出量の4〜5%がHFC由来になるとの試算もある。HFCに関して言えば、日本は「環境先進国」とは程遠い状況だ。 鳩山由紀夫政権は温暖化ガスの排出量を「2020年までに1990年比で25%削減する」と公約に掲げた。これまで見過ごされてきたHFCの問題にどう取り組むか。CO2だけを見ていては、問題の本質を見失うことになる。 |
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