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皆既日食を楽しむ余裕のない日本社会を蝕む「反知性」
このところの政局報道に食傷していた中にあって、昨日(22日)の日食は自然への興味を喚起させる絶好のイベントだった。天気が良ければ皆既日食が観測できたはずのトカラ列島や屋久島の天気が悪かったのは不運としか言いようがないが、たとえば屋久島は「1か月に35日雨が降る」と言われる多雨地域だから仕方がない。とはいえ、数日前までは皆既日食になった地域は「梅雨明け十日」の晴天に恵まれていたから、遠路はるばる同地域まで皆既日食を観測に出かけた人たちにとっては悔やまれてならないだろう。
船に乗って、晴天の地域まで移動して皆既日食を観測するツアーというのも企画され、参加者たちは首尾よく洋上で皆既日食を観測することができた。私はというと、天気予報は悪かったが、日本でももっとも少雨の地域に在住しているため、運が良ければ部分日食を見られるだろうと期待していたが、その通りになった。神戸、岡山、広島、高松、松山、徳島などの瀬戸内地方はだいたい同じような天気であって、雲の合間から部分日食を観測できたところが多かったようである。以下、地方紙各紙の記事を紹介する。
四国新聞(高松):
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/social/article.aspx?id=20090722000202
山陽新聞(岡山):
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2009/07/22/2009072211385583023-s.html
神戸新聞(神戸):
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002151389.shtml
中国新聞(広島):
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200907220276.html
愛媛新聞(松山):
http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20090722/news20090722239.html
徳島新聞(徳島):
http://www.topics.or.jp/localNews/news/2009/07/2009_124824359881.html
個人的な話をすると、1978年10月2日に部分日食を見た思い出が今も強く残っているが、残念ながら現在は当時のような好奇心は鈍磨してしまっている。しかし、数十年に一度という日本のどこかで皆既日食が見られるイベントに接すると、失っていた感性が少しはよみがえろうというものだ。
一方では多数の死傷者を出した山口県の水害もあった。自然は、時に人間に牙をむく。しかし、それ以上に私を考え込ませたのは、トカラ列島などで皆既日食の観測どころか暴風雨のために日食観測者たちに避難勧告が出されたというニュースに対して、少なからぬ掲示板の投稿者たちが「勝ち組、ざまあ」などとこれを喜ぶ書き込みが見られたことだ。その背景には、日食観測はおろか、一日一日を食いつなぐのが精一杯の状態に追い込まれた人々の多い現在日本の社会がある。
昨夜見たNHKテレビの日食特番では、1877年(明治20年)の皆既日食は富国強兵、1943年(昭和18年)のそれは戦時中の国威発揚に利用されたが、高度成長期の1963年(昭和38年)には市民の間に日食観測ブームが起きたことを紹介していた。それから46年、分厚かった中産階級がやせ細ってしまい、日食観測者の不運を喜ぶまでに落ちぶれた日本社会の惨状を目の当たりにしようとは、豊かな時代に少年期を送った私には想像もできなかった。
今回の日食では、皆既日食のエリアに当たった屋久島にも焦点が当たった。その屋久島に生長する屋久杉の年輪を、「炭素14分析」という方法を用いて調べることによって、太陽活動の周期を推定している宮原ひろ子・東京大学宇宙線研究所特任助教の研究について、今回の日食に関連したNHKの番組が紹介していた。
宮原さんの研究によると、太陽活動には11年の周期があるが、太陽活動が不活発になってイギリスのテムズ川が氷結した1600年頃には、これが14年周期になっていたのだという。そして、ほんの少し前まで太陽活動が比較的活発だった現代だが、再びこの周期が長くなる、つまり太陽活動が不活発化する兆候が見られるそうだ。
この太陽活動の不活発化については、しばらく前にマスコミでも報じられ、地球温暖化論に対する懐疑論者や陰謀論者たちが、「地球温暖化論者涙目」などとあざ笑っていた。自然現象に起因する気温の周期的な変動と、人間の活動に起因する気温の上昇という2つの因子を分けて考える人が驚くほど少ないことには唖然としたものである。昨夜のNHKの特番で宮原助教の研究成果が紹介されていたが、それによると、直近までの現代の太陽活動は活発だったが、それでも9〜13世紀にはもっと太陽活動が活発だった、それにもかかわらず現在は当時より平均気温が0.5度高く、これは人間活動の影響ではないかと考えられるとのことである。つまり、宮原助教の研究は、地球温暖化仮説を否定するものではなく、むしろ気候変動に人間活動が影響を与えているという、現在主流となっている仮説の正しさを裏づける傍証になっているのである。「地球温暖化のまやかし」論は、ここでもあっさりと退けられる。
仮説を立てて、それを実験や観測によって検証し、仮説を修正していくという作業は、自然科学の基本であり、人文・社会科学もその方法論を取り入れて発達してきたはずである。人生で初めて日食に接して感動した少年少女たちは、いつしかその方法論が支配する世界に足を踏み入れ、それが科学や技術の発展につながるはずなのだが、そのような知的な営為を無視して己の感覚だけに頼って疑似科学や陰謀論に走ることを「反知性(主義)」というのだろうと思う。そして、「日出ずる国」日本は、あたかも日食が進んでいくように、反知性に蝕まれて暗くなってきているように思えてならない。
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