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事業仕分け 俎上に載った柔整問題,メスはどこまで入るのか
http://mtpro.medical-tribune.co.jp
「国民の保険料が無駄に使われている事実,医師は知らせる努力を」
柔道整復師療養費の国庫負担という,医療業界で長年“アンタッチャブル”とされてきた問題が,行政刷新会議の事業仕分けによって見直される可能性が出てきた。昨日(11月15日)に東京都内で開かれた日本臨床整形外科学会シンポジウム「国民の健康と医療制度を考える」では,医師や保険者,マスコミ関係者らが登壇し,柔道整復の何が問題か,医師たちは今何をすべきか,熱い議論を繰り広げた.
「不正治療の疑念はぬぐえない」
柔道整復問題については,過去にいくつかの新聞・テレビで取り上げられているが,直近で力を入れているのは朝日新聞だろう。昨年(2008年)6月には「接骨院『ケガ3カ所の患者』突出 保険対象外も請求か 厚労省調査」という記事が1面に掲載された。接骨院や整骨院で柔道整復師の治療を受けた患者の50.5%が,3か所以上のけがをしていたとして健康保険の請求が行われていたことがわかった,とする記事である(正確には「治療」ではなく「療養」だが,ここでは記事や国の資料のママとする)。
柔道整復は「骨折,脱臼,打撲,捻挫の患部を整復すること」とされ,施術料が療養の給付に代えて支給される。医療機関の治療を受けている負傷部位は支給対象にならないし,神経痛,関節リウマチ,肩こり,腰痛などの慢性疾患は施術対象にならない。対象部位に施術を行った場合には,柔道整復師が患者に代わって自己負担分以外の額を健康保険に請求できる「受領委任」という仕組みがある。
問題は,この受領委任での請求が繰り返し大量に,かつ長期にわたって行われていることにある。肩こり,あるいは腰痛1か所で施術を受けても,腰と両膝関節の3か所を捻挫したことにされ,数か月たったら損傷部位を変えられる。水増し・転がしでの保険請求が繰り返し行われているのだ。医師の同意もねつ造される。架空請求も横行している。柔道整復師からレセプトを買い取って保険者への請求を代行する中間会社も水増しを加える。こうして膨らんだ柔道整復にかかる療養費は,2007年度推計で3,377億円(厚生労働省)に達している。
患者の健康被害も後を絶たない。日本臨床整形外科学会が今年(2009年)10月までに会員に対して行ったアンケートでは,4か月で108件の医療類似行為にかかわる症例が報告された。マッサージや指圧による圧迫骨折,ベーカー嚢腫をマッサージして嚢腫破裂,カイロプラクティックによる椎体骨折,骨腫瘍やペルテスに数週間マッサージや電気治療,アキレス腱断裂に3週間マッサージ,変形性股関節症や骨粗鬆症にマッサージ……といった具合だ。
そうした問題が,行政刷新会議の事業仕分けで対象事業に挙げられた。11月11日に出された結論要旨は下※に抜粋した通り。「柔道整復師の治療については,不正治療の疑念はぬぐえない」とはっきり指摘されている。
高い学費,入学仲介のブローカーも
保険者としてシンポジウムに登壇した「保険者機能を推進する会」柔整部会の池田政弘氏によると,柔道整復の問題は,(1)受領委任払い,(2)審査支払い機関的な仕組みがない,(3)柔道整復師の急激な増加,(4)不正請求・水増し請求に対する疑義,(5)利用者の認識レベルがきわめて低い―の5点に整理される。
「保険者としてチェックしようにも,療養費支給申請書の負傷原因記載欄には,『業務災害・通勤災害以外の災害による』とあらかじめ印字されていて,機能していない。レセプトに疑義があっても詳細はなかなかチェックできないし,点検業者に頼んでも柔道整復関連団体から圧力がかかったりする」,「問い合わせが入ると,点検業者もおびえて腰が引けてしまう。受領委任を厚生労働省が認めていることによっても,疑義事案に突っ込みにくくなっている」と同氏は説明する。
(5)については,患者にとっては「保険で安くマッサージしてもらえて何が悪いのか」という思いが先に立ちがちだから,問題への認識も広まらない。日本臨床整形外科学会医療システム委員会委員長の山根敏彦氏は,「ひどい健康被害を被った患者に,被害届を出したほうがよいと話しても,患者は(整骨院に行った)自分が悪いのだからと言って動かない。訴訟になりそうになっても,柔道整復師は『自分たちは医師ではなく,診断能力はないからわからない』と言って逃げてしまう」と,医療安全面から解決する道筋も立たない事情を語る。
柔道整復師の養成コース(3か年)は現在全国に98校,1学年総数8,368人。学費が私立大学並みに高いこともあって年々養成校数が増えているが,年9回募集があったり,1科目入試だったりと,入学しやすさが目につく。その一方で,養成数や教育の質を管理する仕組みもない。調査した愛媛大学大学院(医療情報学分野)教授の石原謙氏は,「これで運動器のスペシャリストですと患者に喧伝するのはおかしい。『卒業したら医師並みに稼げます』という甘言に誘われて入学する学生たちがかわいそうだ」と訴える。
国家資格であるにもかかわらず,こうした状況が放置されてきた理由は何か。政界や闇社会との密接なつながりから,行政,医師団体,マスコミなども深く切り込むことができなかったと指摘するのは,コラムニストの勝谷誠彦氏だ。「テレビで柔道整復問題を指摘すると,すぐに脅迫電話がかかってくる。柔道整復専門学校への入学を仲介するブローカーまでいる。これは闇社会なんです。国家資格なのに,こんなグレーな職業を残していてよいのか」
「フグの調理免許がないところでフグを食べますか?」と患者に話して欲しい
民主党政権になってようやく議論の日の目を浴びた柔道整復問題だが,どこまでどのように適正化されるかは,今後の医師や保険者,被保険者,政治家,マスコミの認識にかかってくると言える。
勝谷氏は,長年柔道整復問題を取り上げてきた立場から,整形外科医たちにも腰が引けている部分があると指摘。「世間に『同業者の利権争い,医師の弱い者いじめ』と受け取られるという懸念があるのではないか。だが,きれいごとを言っていてはだめだ。被保険者が被害を受けていること,不正はまかり通らないことをわからせなければならない。患者さんに『フグの調理免許がないところでフグを食べますか?』と話して欲しい。ぜひ一歩踏み出して欲しい」。
柔道整復問題は,健康保険組合の財政問題でもある。ある健保組合では,整骨院のリピーターや不正請求を正しただけで,年1億円近かった柔道整復療養費が2年で半分以下になったという。日本医師会社会保険診療報酬検討委員会委員長の安達秀樹氏は「健康保険の間違った使い方の結果として患者被害が出ていること,健康保険が使える範囲はここまでなんだということを,健康保険組合が知らせる努力をしなければならない」と指摘。
山根氏も「柔道整復は不可触とされてきた雰囲気を払拭するのにどれだけのエネルギーがいるのかわからない。だが,最終的に国民の医療費が無駄に使われているという事実がある。これは知られなければならない」と,関係者1人1人の努力を訴えた。