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日本郵政社長に大蔵OB 「見直し後」のかたち後回し (金子勝)
http://www.asyura2.com/09/senkyo73/msg/730.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 10 月 24 日 10:47:22: mY9T/8MdR98ug
わからないことだらけです。
「脱官僚依存」の公約に反するとか、天下りや、天下り先を渡り歩く「渡り」じゃないかとかの批判は、それは確かにそうです。でもそれ以上に、なぜ、いま、斎藤次郎さんという大蔵次官をやった人を日本郵政の新社長に選んだのか、鳩山政権はこの人のもとで郵政民営化を具体的にどう見直したいのか。肝心なことがまったく見えません。
社長人事を急ぐ前に、政府として見直し後の郵政事業の形態をどうするのか、国民に説明することが大事だった。与党3党の協議でも持ち株会社と4事業会社(郵便局、日本郵便、ゆうちよ銀行、かんぽ生命)を見直すことは合意していますが、そこから先はどうなのか。
今回の人事について与党内で協議した形跡が見えません。政府内で議論したとも報じられていない。関係閣僚会議で話し合ってもいない。今の政府は意思決定が壊れているようにしか見えない。亀井静香・郵政改革担当相が暴走し、国民新党が望む形にしようとしているようにも見える。ほかの重要政策でもそうですが、この政権は各省の大臣や副大臣、政務官が個別にどんどん打ち出している。これでは政府の体をなしていません。
見直しをするのは、このままでは巨大新会社が民業を圧迫する恐れが強いからか、三つの事業(郵便、貯金、保険)にばらけることが非効率だからか、過疎地や遠隔地のサービス低下を防ぐためなのか。まず、見直しのシナリオをていねいに作ることです。予算編成に比べたら、はるかにゆっくりでいい。
日本郵政の西川善文社長は、閣議決定された見直しの基本方針について亀井氏から説明を受け、「私かやってきたこと、これからやるうとすることと大きな隔たりがある」として辞任を表明したということですが、後任の社長を選ぶ際には基本方針をもとに政府が練り上げた見直しのシナリオを提示することが必要ではないでしょうか。
選考過程を透明にするためにも、シナリオを実行するのにふさわしい人材の選考基準を明らかにし、探し出し、依頼し、ゴーサインを出す。これがスジというものです。
私も郵政民営化の見直しは必要だと考えています。自公連立政権は「骨太の方針」で民営化をうたいました。民営化のもともとの発想は「金融立国」であり、自由化して金融を強め、米国に続け、だった。でも昨年の金融危機でご本尊の米国モデルがダメだとわかってしまった。
巨大な郵貯が「民業圧迫」をしていると言われて民営化を進めたものの、実際には地銀や信金が扱っていた現場にゆうちよ銀行が出てきて、民業を圧迫している。さらに「かんぽの宿」など、改革利権とでも言えるような問題が浮上した。外国を見ても、ドイツでは分社化した郵便と郵貯の一体化が進んでいるし、ニュージーランドでも民営化を見直しています。
問題はどういう観点から見直していくかです。
過疎地の小さな郵便局に入ると、よく真ん中で仕切っているんですよ。郵便、貯金、保険の三つの事業ごとに。別会社の職員にするんですが、単体としては成り立だない。だって、山の中ではがきと切手と小荷物だけ扱って採算が取れるわけがないでしょう。銀行も信金もない土地で、そこに住むおじいちゃんやおばあちゃんの年金や貯金を扱っているから、局として事業が成り立つんです。
このまま民営化して、全国で別々の会社としてやっていくことは無理が大きい。改めざるをえない実態がある。3分社化は一体化した組織に戻すとともに政府が当面株を持ち続け、時間をかけて見直すというのが現実的でしょう。
ところが、亀井氏の言動を見ていると、もしかすると、本当にかつての「公社」に戻すかもしれない。もともとあそこにいた人たちにとっては、既得権益をめちゃくちゃに削られ、ぼろぼろになっていますから、拍手喝采でしょう。
構造改革路線のなかで郵政民営化が受け入れられた理由の一つに、財政規律の問題がありました。国債や、いわゆる特殊法人が発行する債券を郵貯が買うために、財政規律がゆるんでしまいがちだった。だから私を含め、「入り口」を押さえようという議論をしてきました。かといって即・民営化ではありません。預金の預け入れ限度額を引き下げるだけでも実効性はあったでしょう。
いま、10年度予算の概算要求が95兆円にまで膨らむ一方で、不況で税収減が深刻になっている。このまま税収が30兆円台に落ちてしまうと、国債発行高が完全に上回る状態になります。財務省としては国債の値崩れを防ぐため、また民間金融機関に安心して引き受けてもらうためにも、公的性格の強い郵貯に買い取らせたいところでしょう。これも大きな懸念材料です。
亀井氏はいわゆるケインジアン的な人で、不況対策として、財政の肥大化、概算要求の拡大を許容している。この人が大物の大蔵OBを日本郵政の次期社長に決めた。どういうことが起きるかというと、国債を発行する側と引き受ける側が、いわば「財務ファミリーによってつながるわけです。財政規律はどうなっていくのでしょうか。また、巨額の財政赤字を抱えている現状を考えるにつけ、民意の賛成は得られるのでしょうか。
鳩山政権自体が戦略、シナリオを持たずにばらばらな意思決定をしている現象と裏表なのですが、これはひょっとして財務省主導の復活ではないでしょうか。「政治主導か官僚主導か」ではなく、結果的に「官庁の中の官庁」と言われる旧大蔵省、現財務省の権限だけが肥大化していく。観察していると、そんなふうに見えてきます。
郵政は長い間、旧大蔵省と旧郵政省の権限争いの場でした。それが、いまは郵政省の流れをくむ総務省が外され、名実ともに財務省の軍門に下ったと。そう言われても仕方がないのが今回の社長人事です。
郵政改革には様々な利害があまりにも錯綜しています。いまからでも遅くはない。専門家を集めたタスクフォース(作業チーム)を早急に作り、内閣主導で取り組むべきでしょう。