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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090902-02-1301.html
いつもの恫喝が始まった
2009年9月2日 The JOURNAL
アメリカの新聞が鳩山次期総理を「反米」だと批判している。いつもながらの恫喝の手口である。日本の新聞は官僚の愚民政策のお先棒を担ぎ、愚かな国民を作る事が仕事だが、アメリカの新聞は国益のために他国を恫喝するのが仕事である。
昔の話だが、宮沢内閣の時代にこういう事があった。アメリカに金融バブルが発生し、一夜にして巨万の富を得る者が出始めた頃、宮沢総理が国会の予算委員会で「日本のバブル経済にもあったが、物作りを忘れた最近のアメリカ経済の風潮には疑問を感ずる」と発言した。これを日本のバカ新聞が「宮沢総理はアメリカ人を怠け者と言った」と書いた。
するとろくに取材もしないアメリカ人特派員たちがそのままの英訳記事を本社に送った。記事は大ニュースとなり、新聞・テレビがトップの扱いで連日報道した。日米経済戦争がピークの頃だったから、アメリカ議会は過剰に反応した。「戦争に勝ったのはどっちだ。怠け者が戦争に勝てるのか」、「日本はまだアメリカの強さを知らないようだ。もう一度原爆を落とさないといかん」などと議員からは過激な発言が相次いだ。
私は宮沢総理の発言をそのままアメリカに伝えれば誤解は解けると思い、当時提携していたアメリカの議会中継専門局C−SPANと組んで双方向の衛生討論番組を企画した。伊藤忠商事本社のスタジオを借り、加藤紘一官房長官と松永信雄元駐米大使を日本側ゲストに、ワシントンにあるC−SPANのスタジオにはアメリカの議員を呼んで討論を行い、宮沢総理の予算委員会発言をそのまま放送すると同時に視聴者から電話の質問を受けるコール・イン番組である。それを全米1000局のケーブルテレビ局に中継した。
加藤官房長官はアメリカの怒りを収めようと冒頭から低姿勢を貫き、アメリカの素晴らしさを繰り返し強調した。ところがアメリカの視聴者からの電話は「マスコミや政治家の言うことなど真に受けるアメリカ人はいませんよ」と言うものだった。「我々の社会には日本人もいて、日本人がどういう人たちか良く分かっています。政治家の発言を取り上げて騒ぐのはマスコミの常だから、そんなことで信頼関係が揺らぐことにはなりません」と至って冷静だった。丁度小錦が横綱になるかどうかが騒がれていた頃で、「それより小錦を横綱にしてください」と要望された加藤官房長官は拍子抜けした。
「アメリカ人怠け者」報道はやがて誰も騒がなくなり、みんなの記憶からも消え去った。だからワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが騒いだぐらいで、日本側が騒ぐ必要は全くない。ところが日本には必ずそれに乗じて騒ぐバカがいる。アメリカの手先となって国益を侵す評論家やジャーナリストがごろごろ居る。この国には売国商売が成り立つ仕組みがあるのが困る。
外交というのは握手をしながら足を蹴る。パンチを浴びせて追いつめた次の瞬間優しくして相手を籠絡する。そのアメとムチの使い分けに学者やマスコミや評論家も動員される。今回の「反米」報道もアメリカ側はいつもながらのやり口である。
今アメリカが日本から引き出したいのは冷戦中に日本がせっせと貯め込んだマネーである。安保条約に「ただ乗りして」日本が貯め込んだ金を今度は安保条約を利用して日本から引き出したい。それが冷戦後のアメリカの戦略である。そのためには「北朝鮮の脅威」が最も有効な道具となる。北朝鮮がミサイルを発射し、核実験を行う度に日本はアメリカにすがりつく。そうしてブラックボックスがある、つまり日本だけでは使えないMDやイージス艦など高価な兵器を次々に買い込んだ。
昔の自民党政権はアメリカの言いなりになるような顔をしながら実は言いなりにはならなかった。頭を下げてもみ手をしながら金だけはしっかり懐に入れた。野党の反対を口実に兵器も簡単には買わなかった。自民党は表向き社会党と対立しているように見せながら社会党と役割を分担してアメリカに対抗した。ところが中曽根政権の頃からそれが変わってきた。従属の度合いが増した。今では海兵隊のグアム移転経費も負担するし、インド洋では金も取らずに石油を提供している。国富が安全保障を名目に流出する。
過日、イスラエルの諜報機関モサド前長官の話を聞いた。イスラエルは四方を敵に囲まれて出来た国である。それが建国から18年間アメリカから武器の支援を受けられなかった。かつてのアメリカにはイスラエルへの武器供与を禁止する法律があり、それに違反して逮捕された人間が今年ブッシュ大統領の退任に伴う恩赦で釈放された。自力で生きてきたからこそイスラエルはグローバル・プレーヤーになれたとモサド前長官は言った。
日本では自力で生きると言うと、すぐ非武装中立か、核武装かという子供の議論になる。そんなことを他国の前で議論するバカは世界中いない。自立と言っても他国との協力を排する話ではない。覚悟をすれば良いだけの話だ。覚悟さえすれば現状を何も変えずに、黙って秘かに可能なところから手を打つ。他国に手の内を見せない事が最良の抑止力である。イスラエルは今でも核兵器を持っているのかいないのかを明らかにしない。明らかにするメリットなど何もないからだ。
アメリカと敵対する事は全く愚かなことだが、言いなりになる事はそれ以上に愚かである。世界最先端の少子高齢化を迎える日本には真似をすべきモデルがない。これからは全て自分の頭で考え、生き残る知恵を出さなければならない。日本は否応なく自立への道を歩まざるを得ないのである。その時につまらない恫喝や売国商売人に過剰反応する暇など全くない。
(田中良紹)