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「墓なし信者なし5千万円」宗教法人売り出し
9月23日14時35分配信 読売新聞
急増する「休眠宗教法人」が脱税などに悪用されている問題で、代表者が死亡するなどした一部の法人が不特定の人相手に大っぴらに売買されている実態が、仲介業者らの話でわかった。
最近はインターネット上で「税金対策」などと称し、買い手を募るサイトまで登場。「ペーパー(法人の名義だけ)なら2000万〜5000万円が相場」とも言われており、各地の寺社などで進む檀家(だんか)・信者離れや後継ぎ不在も背景の一つになっているとみられる。
◆人気は「単立」
「無税対応可能物件、お買い得!」「土地なし、檀家信者なし。一般の方OK。すぐに使用可能」
ネット上には、こんな宣伝文句で不動産と併せて宗教法人の売買仲介をうたうサイトが複数存在する。その一つを運営する業者は、大阪、香川、北海道などにある5件の“物件”リストを見せ、「金で代表を譲りたい、譲ってほしいという人たちの手伝いをしているだけ。どう使われようが私には関係ない」と言った。
業者によると、売買対象の法人は本堂や土地付きもあるが、多くは法人格だけの「ペーパー法人」。大抵は信者もいないうえ、一般企業より法人税などの負担が低いため、節税目当ての買い手には好都合だという。中でも人気は宗派などに属さない「単立」と呼ばれる法人。「単立なら本山の目がなく悪用がたやすいから」と、業者は明かした。
◆転売ビジネス
取引には、休眠法人の権利を買い集めて転売で利ざやを得ようとする仲介業者が介在しているケースが一般的とされる。
千葉県の単立法人の代表者になっている女性(68)のもとには昨年、事実上、休眠法人状態なのを聞きつけて「京都の僧侶」を名乗る男が訪れ、「真剣に宗教活動を始めたい人がいる。700万〜800万円で譲ってほしい」としつこく売却を迫ってきたという。しかし、読売新聞が取材すると、名刺にあった寺と男とは無関係だった。
資産家らからしばしば休眠法人の買収を依頼される大阪府の会社社長のもとには、転売目的の業者が出入りする。暴力団風の男が“物件”や代表者の委任状の束を取り出し、「どれでも、好きなのを選んでください」と勧めてきたこともあったという。
「売値が買値の5倍なんて話は、この世界ではざら」と、社長は打ち明けた。
◆「悪用が心配」
寺社から後継ぎの相談を受けることが多い大阪府の石材店経営者は「寺などが途絶えるのは忍びないという心情に加え、売却で老後のための〈退職金〉を、と考える人も多い」と話す。
兵庫県の山間部にある寺では5年前、住職(84)が脳出血で倒れ、妻が知人を通じて売却先を探し始め、東京や神戸などから問い合わせがきている。
妻は「値段次第だが、できれば寺の活動を続けてくれる人に譲りたい」と話す。しかし、寺関係者の名刺を勝手に作ってセールスに回る業者もいたといい、「変な人に渡って悪用されないか心配。このまま売ってよいか迷っている」という。
こうした実情について、平野武・龍谷大教授(宗教法)は「従来、宗教法人の譲渡は宗教関係者らの限られた人脈の中で行われていた印象がある。売買自体は違法ではないが、ネットなどで不特定多数が入手可能となると、悪用が広がる恐れがある」と指摘している。(社会部・中沢直紀、宮原洋) 最終更新:9月23日14時35分