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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090920-02-0901.html
記者会見をオープンにするのは簡単なことですよ
2009年9月20日 ビデオニュース・ドットコム
神保哲生(ビデオニュース・ドットコム)
記者会見をオープンにするのは簡単なことですよ。だって、世界中で普通にやっていることなんですから。日本だけができないなんて、変でしょう。
今回は首相が公約違反をしてくれたおかげで、にわかに記者クラブ問題に関心が集まってくれたとみえて、記者クラブ問題のイロハのイをご存じない方にまで、この問題に興味を持っていただき、コメントなども頂いているようです。
開放開放と言うが、具体的な案が出ていないではないかとの指摘も、こういう場で発言するのならもう少し勉強してくださいよとの思いもありますが、これは世界標準のことをやってくださいと言っているだけであり、とても簡単なことなので、中身を列挙しておきます。
<世界標準の記者会見基準とは>
・記者会見は報道に携わる者に対しては原則フルオープン。フルオープンの意味は、無条件で参加できるということ。「報道に携わる者」の意味は、それが生業であるかどうか、それが主要な職業であるかどうかは問わない。ただし、報道目的以外の者(見物、冷やかし、報道以外の目的)は除外するという意味。その理由は、それがそもそも記者会見の目的だからです。記者会見というのは報道の向こう側にいる読者や視聴者などのパブリックに対して、報道機関やジャーナリストを通じて行政機関が情報を公開する行政機関の一ファンクションに過ぎません。
・現行の記者クラブは任意の親睦団体に過ぎないので、それを解散する必要はまったくありません。また、私などはそこに入りたくもありません。ただし、特定の民間企業の集まり(任意団体)である日本新聞協会加盟社のみが参加資格をもった記者クラブが、国民の共有の資産である公官庁の施設を独占的に占有している状態には、憲法上の問題も含め、多々問題がある。行政機関が、ある民間業界の中の特定の企業だけを優遇することに、行政の中立性の観点からも問題があることは、今更説明を要さないはず。実は大手メディアは記者会見室の隣に記者クラブ室があり、そこに常駐しているため、記者会見は「5分前になって「これから会見やりまーす」で会見ができてしまっている。外部から会見のために出て行かなければならない私たちは、それでは会見に間に合わない。記者クラブという親睦団体はどうぞお続けくださいだが、記者クラブ室は、記者会見参加資格を持つ記者の控え室として使えるようにすべき。もちろんそこに各社が机や電話を置かせるところまで便宜を図るのなら、その分の料金を徴収すべし。
・セキュリティはチェックが必要。これは会見がフルオープンになるか否かにかかわらず、そもそもやっているべきこと。日本はまだそこが緩すぎる。元々現行の記者クラブ制度のもとでも、セキュリティチェックはすべきだった。NHKや朝日新聞の記者ならセキュリティの問題がなく、ネットメディアやフリーランスの記者はセキュリティリスクがあるというのは単なる偏見。むしろ最近では既存のメディア関係者の方が、さまざまな犯罪や不祥事を起こしてはいないか。
・セキュリティチェックは、だいたいこんな具合で行われています。(ただし、私の経験則はややアメリカの制度に偏っているかもしれません。)
1)記者会見への参加希望者は事前登録制とする。(パスを発行するもよし。毎回入り口で登録を確認するもよし。前者の方が一度で済むので楽かも。)
2)官邸を含む各報道担当部署が、記者会見参加資格について明確なガイドラインを示し、そのガイドラインに基づいて、登録希望者が報道に携わる者であること(上記の定義を参照)を確認の上、登録する。(これもだいたい世界標準)
3)外国首脳にも接触する可能性のある官邸、外務省などの官庁は、持ち物検査を実施する。これも世界中で常識です。まあ靴を投げられてしまうくらいはしょうがないですね。ただこれも、もし靴底に何か潜ませていれば、金属探知機が鳴りますから。
4)聞いたことのないようなメディアで申請してきた場合は、
・その事業者の主な事業内容が報道目的と判断できるか(つまり公共への情報提供を目的とした事業と言えるかどうか)
・発行頻度、更新頻度、発行期間
・フリーの場合も、過去にどこの媒体で記事・リポートを発表してきたかに基づき、「報道に携わる者」が担保されているかを判断。ブロガーや個人サイトで記事を公表した者、著作のための取材をしている者の場合も同じ。
・物理的なキャパについて
会見に参加したい人が大勢いて会見室に入りきらなくなったらどうするのかという話がある。
実際にこれが問題になる記者会見はほとんど皆無だろうが、もしそうだとすれば、そもそも記者クラブしか会見に参加できないことを前提に記者会見室を設定していることが問題。部屋を変えるなり、改築するなりしましょう。(何度もいいますが、実際にはそんなことをする必要はないはずです。)
・物理的に全員が入りきらない時の世界標準ルールは代表取材(プール取材)です。これは属性の同じメディアがカメラや音声や取材の記事録や質問したい内容をシェアするもの。例えば、民放でビデオカメラ1台、スチールカメラ1台、外国メディアでスチール1台、テレビカメラ1台、ネットメディアでスチール、カメラ1台とし、それぞれの媒体は自分の属するメディアからその映像を入手してシェアする。
ペンの記者やテレビの記者までが物理的な制約で会見室に入りきらないことはほとんど考えられないが、もし何らかの特殊な理由でそのようなことになり、しかも会見場もどうしても変更できない(これも普通は考えにくい)というのなら、ペンも代表取材になることはあり得ます。私も何度かそういう経験があります。
これは例えば国内の新聞1人、地方紙1人、雑誌記者1人、テレビ記者1人、外国記者1人、ネット記者1人が代表取材社となり、会見にでれない記者からの質問もとりまとめた上で、会見のメモをシェアするというもの。会見に出席した記者は、頼まれた質問だけはしつこく食い下がってでも全部聞かなければならないし、会見でのやりとりも一言一句書きとめなければならないので、結構大変です。海外ではプールになった場合はAPやロイターの通信社が代表になる場合が多く、私も何度か必死になってメモを取った経験があります。しかも代表として会見に入ったメディアは、会見の議事録や写真、映像がプールに参加する各社に行き渡るまでは、そのメモや映像を報道で使用することができません。
いずれにしても、記者のキャパが溢れることがないように会見場所を確保する第一義的な義務は行政側にあります。全員が入れない会見は、メディア全体でボイコットするくらいでないと、メディアは権力には勝てません。
それがどうしてもできない場合は、代表取材を組む仕組みをメディア側は予め作っておく必要があります。
とにかく、キャパが足りないから、特定の社だけが入れている今の状態のままでいくという選択肢は最初からあり得ません。キャパが足りないなら、まずはキャパを広げるよう要求し、それが通らないなら(あるいはそれが実現するまでは)、代表取材になる。これが世界標準です。
ましてや、昨日のTBSのアクセスで武田さんが言っていた、会見がフルオープンになったら今でさえ朝日やNHKが10人も記者を参加させているのに、それがもっと多くなるという話は論外です。キャパが問題ないのなら、何人来ても構いませんが、キャパが問題になっている理由が、1社が10人も記者を送ってきているからだというのなら、単に各社1人とか2人に限するルールを作ればいいだけです。10人くるというのは、社内で変な縄張り争いをやっているか、もしくは裁判の傍聴券にアルバイトを並ばせるのと同じで、たくさん記者を入れておけば、誰かが質問を当ててもらえるだろうということなのでしょうが、いずれにしてもこれは単なるルールの無視です。これを理由に記者会見をオープンにできないというのは、とても真顔でする話とは思えません。各社1人にするルールが厭でキャパがオーバーフローするのが仕方がないというのなら、代表取材になるだけです。
5)この基準に対して、異議申し立てができるような制度を設ける。政治家やその役所の政策に批判的な記者が、それを理由に排除されることが決してあってはらないので、異議申し立てをするための第三者機関を設けます。行政が自分に都合の悪いメディアを排除することを許さないようにするため、これも必須条件となります。もちろんそれを理由に排除されたと思われる記者は厳重に抗議し、その旨を自分のメディアで徹底的に報じればいいでしょうし、他のメディアにとってもこれは「明日は我が身」なのですから、それを見殺しにせずに、応援することになるでしょう。アンフェアな排除が、結果的にその政治家や行政機関にとってマイナスになるような状況を作ることが大切だと思います。
結論としては、
・報道目的の人にはフルオープンとする。通行人や見物はご遠慮ください。
・記者クラブは勝手に続けていてください。私は関わりたくありませんが。
・セキュリティチェックはいずれにしてもすべき。事前登録制で結構。
・キャパが問題なら会見室を広げるか代表取材に。ただ、1社10人はやめてね。
プロフィール
神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。15歳で渡米、コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て93年に独立。テレビ朝日『ニュースステーション』などに所属した後、99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』、『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』、『ツバル−温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境、開発経済、メディア倫理。