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http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2009/08/2_3.html
大野和興:「新自由主義を超えた構想力を」―農業政策を考える(2)
農業政策が抱える矛盾
民主党のマニフェスト修正に至る動きの中で、問題になったのは日米間の自由貿易協定である。民主党は7月27日に発表したマニフェストで「米国との間でFTAを締結し、貿易・投資の自由化を進める」と明記していた。これが農業関係者の間で問題となり、農協が抗議文を出すなどの騒動になった。
結局民主党は8月7日になって「締結」を「交渉を推進」に改め、さらに「その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない」との一文を加えて、決着を図った。自民党は民主党の敵失とばかりにこの問題を攻め立てたが、自民党にしても「日米」とはうたわないまでも、マニフェストに「FTA交渉を積極的に行う」と書き込んで、自由貿易推進を宣言している。
このことは、自民党と民主党の間で、政策全体を貫く軸足の置き方というか、枠組みそのものにかかわる課題の設定で本質的な違いはないことを示している。貿易や金融・投資の自由化をいうことに関し、何の疑問も持たずにその推進を主張しているからだ。両党ともいま人びとを取り巻く困難の大本の要因となっている新自由主義を修正したり変更したりといった考え方は、マニフェストを読んでも見えてこない。繰り返しになるが、そこにあるのは対症療法の羅列に過ぎない。
日米FTAをめぐる民主党の混乱は、その弱点をつかれたからに他ならない。そしてこの問題が民主党の戸別所得保障という農業政策の柱が内在的にもつ矛盾でもある。この制度を実施することで必要になる予算規模は、同党のマニフェストによると1.4兆円である。だが、自由貿易推進で海外から安い農産物やその加工品が入ってくると、国内の農産物価格はそれに押されていっそう下落することは目に見えている。販売価格と生産費の差額を補償するというのがこの制度の仕組み方だから、この差額はますます広がり、それに連れて必要経費もどんどん広がることになる。入り口(自由貿易)も出口(財政投入)も開けっ放しにしたまま対称療法的にセーフティーネットを張るという仕組みで、将来一体どうやって帯を結ぶのか、そこのところが見えてこない。
世界の農民を視野に入れた農業政策
小規模農家を含め、生活の安定を図って農業が継続できるようにするという民主党の戸別所得補償の考え方には反対ではなく、むしろいま必要な政策だと思っている。自民党の政策が、選挙目当てもあって次第にあいまいになりながらも、政策対象を農外資本を含む大規模・高能率農業に絞り込むことを志向しているのに比べたら、よほど農業の本質を捉えた優れた政策だといえる。だからこそ、この政策が内包する矛盾をきちんと見据え、大きな構想力で整合性を作り上げて欲しいと思う。
その構想力とは、新自由主義グローバリゼーションを所与の前提としていわれるままに受け入れるのではなく、それをどう修正し、貿易や金融・投資のあり方を含め、いまのグローバル資本主義を人間らしいものに変えていくための地球規模のマニフェストづくりということである。日本を含め米国やEUなどいわゆる先進諸国は、財政負担で自由貿易に揺らぐ自国の農民をサポートすることは出来る。だがアフリカや中南米、アジアの多くの国々では、そうした財政余力はなく、農民は裸で世界市場に投げ出され、農民として生きることができない状況にかれている。彼らが農民として生きていくためには新自由主義のもとでつくられた市場のルールそのものを変えていく必要がある。そしてそれは日本の農民が置かれた状況に重なってくる。
民主党の戸別所得補償政策もまた、新自由主義を所与の前提として受け入れるのではなく、同時代を生きる世界の農民が生きていける国際的な枠組みを構想し、そこに位置づけるという仕掛け方が必要なのではないか。これはそのまま、近い将来来るであろう世界的な食糧危機への対応策となる。そうした大きな構想を伴って戸別所得補償政策を提起することで、この制度に要する膨大な財政サポートも国民に納得してもらえるはずだ。(完)
>>農業政策を考える(1)を読む
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【プロフィール】 大野和興(おおの・かずおき)
1940年愛媛県生まれ。農業ジャーナリスト。四国山地の真只中の村で育ち、農業記者として約40年を日本とアジアの村を歩く。「日刊ベリタ」現編集長、「脱WTO草の根キャンペーン実行委員会」事務局長、「アジア農民交流センター」世話人。主な著書に「食大乱の時代」「日本の農業を考える」「百姓は越境する」「百姓が時代を創る」など。
投稿者: ニュース・スパイラル 日時: 2009年08月18日 11:09 | パーマリンク