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2008年10月20日 (月)
正鵠を射た橋下大阪府知事批判
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日本社会はいま、大きな曲がり角にさしかかっている。日本だけでなく、米国も同様に見える。新自由主義、市場原理主義が行き着くところまで行き着き、自己崩壊を始めた。弱肉強食奨励、格差拡大推進、セーフティーネット破壊の政策が、多くの国民を不幸にした。
一握りの人々に所得や富が集中し、多数の国民に苦しみが押し付けられた。「改革」の言葉は魅力的に響くが、「分配」における格差拡大が放置され、「再分配」による生活保障が軽視され、「改革」への人々の期待は消滅し、「改革」がもたらした「負の遺産」への正しい認識が広がり始めた。
「天夜叉日記」様、身に余るご紹介をありがとうございました。また、「さかえ古書店」様、拙著『知られざる真実−勾留地にて−』についての貴重なお言葉をありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
サブプライム金融危機は、市場原理主義、新自由主義の終焉を象徴し、日本では小泉元首相が退場し、小泉竹中経済政策の罪が確認されるようになった。小泉竹中経済政策は国民に対する背信でもあった。日本国民の犠牲の上に、外国資本への利益供与が実行された。政権交代が実現した段階で、すべての巨悪を明るみに晒さなければならない。
弱肉強食を奨励し、セーフティーネットを破壊して、社会の二極分化を推進し、多くの人々の生存権を脅かす政治から決別し、分配の公正を重視して、すべての国民が幸福な生活を営める社会構築を目指す政治を、新たに構築することが求められている。日本はいま、時代の分岐点に位置しているのだと思う。
「カナダde日本語」の美爾依さんが、橋下徹大阪府知事が朝日新聞社説に激怒する橋下知事の知的レベルについて、的確な記事を掲載された。橋下知事は時代のあだ花であるのだと思う。小泉元首相流のパフォーマンスで有権者を惑わす劇場型政治が席巻した余熱が、大阪府民の判断を歪めてしまったのだろう。橋下知事は、新自由主義、市場原理主義の余韻のなかで誕生した知事であるが、時代の転換とともに姿を消してゆくことになるのだろう。
民主主義のなかでの知事は独裁者ではない。知事の権能に基づいて、すべての府民の人権を尊重し、ルールに基づいて行政を執行する役割を担っているだけにすぎない。小泉元首相も首相が独裁者であると錯覚していたきらいがある。自民党という「民主主義」を掲げた政党であるにもかかわらず、「郵政民営化」に賛成しない議員を追放し、刺客を放つ手法は、反対意見の存在すら認めない、独裁者がとる行動だった。
メディアへの監視を強め、言論空間から反対意見を抹殺する「ファッショ」的な体質が、日本社会を息苦しいものに変質させた。橋下知事は小泉元首相をモデルとしているのか、その言動は権力を笠に着る高圧的なもので、他者に対する心配りを欠いている。
橋下知事の言動がこれまでメディアを賑わしてきた。メディアが社会の木鐸として、中立公正の立場から、橋下知事を批評すれば、誤りが是正されることも期待できる。しかし、政治権力に迎合するメディアは、橋下知事に対する当然の批判を抑制してきた。メディアの偏向が橋下知事の不適切な行動を助長してきた面も否めない。そのメディアの姿勢にようやく変化の兆しが見られ始めている。
大阪府民は府民自身の選択とはいえ、時代のあだ花と言える、人権意識の欠落した、傍若無人知事に、残り3年以上も府政を委ねるのだから、大変気の毒だと思う。
橋下知事の言動を列挙してみよう。
@大阪府の財政収支を改善するために、府職員の給与を強引に切り下げた。府職員が財政赤字拡大の原因であるかのような言動を示した。しかし、客観的に見て、府職員が財政赤字の原因ではない。
府職員が勤勉に働くべきことは当然だが、大型プロジェクトの見直し、天下りや天下り機関の廃止など、優先すべき歳出削減策が講じられずに府職員を諸悪の根源のように扱った。メディアと府民を味方につけて、罪なき府職員をスケープゴートにする手法は卑劣極まりない。
A大阪府職員に対しては、「「たばこを吸うための休息なんてあり得ない」と言い切り、条例で認められている1日2回の15分「有給休息」をなくし、執務時間中は禁煙にする方針を示しながら、本人は、公務時間中に公用車でホテル内のスポーツジムに通っていたことも明らかにされた。
B山口県光市の母子殺害事件をめぐり、橋下氏は昨春、民放のテレビ番組で、少年だった被告の弁護団を批判し、「弁護団を許せないと思うんだったら懲戒請求をかけてもらいたい」と視聴者に呼びかけた。知事就任前の発言だが、刑事被告人の人権、刑事被告人の利益を守る弁護士の役割を無視した、弁護士とは思えぬ発言を示した。
C第2京阪道路の用地買収に応じなかった門真市の北巣本保育園の畑が行政代執行で強制収用されたことが報道された。保育園では、月末の芋掘り交流会に向け、園児たちが育ててきたサツマイモや落花生が引き抜かれ、整地された。登園前の保育園園児が現場に立ち寄り、刈り取られた野菜を前に涙ぐむ場面もニュースで伝えられた。
D学力テストの結果公表をめぐり、橋下知事は「くそ教育委員会、教育委員会のくそやろう」と発言した。また、「2009年度から(テスト結果の)開示・非開示によって、予算をつけるかどうか決めさせてもらう」と、市町村への予算配分にも反映させる考えを示した。
Bに関連して、光市母子殺害事件の被告弁護団への懲戒請求呼びかけを巡る民事訴訟に関する10月3日付朝日新聞社説に対して、橋下知事は10月19日に開かれた陸上自衛隊記念行事の祝辞の中で、「人の悪口ばっかり言ってるような朝日新聞のような大人が増えると日本はダメになります」と発言した。
橋下氏は祝辞のなかでさらに、「一線を越えた批判や、からかい半分の批判には徹底して対抗しないといけない」と述べた。「カナダde日本語」の美爾依さんが、朝日新聞社説を掲載してくださったので、本記事末尾に転載するが、社説の内容は「一線を越えた批判」でも「からかい半分の批判」でもない。また、朝日一紙だけが橋下知事を批判しているわけでもない。
橋下氏は民事訴訟敗訴に際しての記者会見で「心からお詫び申し上げる」と発言していたのに、控訴した。説明のできない行動だ。選挙で選出された知事であるから、罷免することは容易ではない。
Cの保育園強制代執行実施に関する報道に対して橋下知事は、「政治的な主張や反対の理由はあると思うが、園の所有者は園児たちの涙を利用して阻止しようとした。一番卑劣な行為だ」と批判した。
保育園は行政代執行実施の通知に対して、土地の強制収用の執行停止を大阪地裁に申し立てたが却下され、大阪高裁に即時抗告していた。大阪高裁は10月30日に決定を出すとしていたが、大阪府は高裁決定を待たずに代執行を実施した。
保育園の保護者ら64人は、10月15日に「月末の芋掘りまで待って下さい」「子どもたちは世話をしてきた落花生の収穫ができないと悲しんでいます」などとつづった要請書を国交相や府知事らに提出していた。
大阪高裁決定を10月30日に控えていたのだから、10月末日まで執行を延期する程度の譲歩はあって当然ではなかったか。保育園側も法の規定に沿った対応を示しているなかで、園児の心を踏みにじる形で公権力を行使したことを正当と評価することはできない。
Dの学力テストの狙いは、学校や学校設置者の市町村教委が子どもの学力状況を把握し、学力向上に向けた指導改善につなげることである。結果を公表するためのテストではない。学力テストの参加主体は市町村教委であり、結果を公表するか否かは、学校運営に直接責任を持つ市町村教委の判断を尊重するのが筋である。そもそも府が強制力を働かせることが正しくない。
市町村別の結果を公表すれば、ランキングのみが独り歩きすることを止めることができない。所得水準や家庭環境、住環境などがテスト結果には強く影響するだろう。こうした属性との因果関係が強いと予想されるテスト結果を公表し、市町村間の序列が不当に取り扱われることについて、警戒感をもって対応を検討するのが、正しい姿勢である。
橋下氏の言動に対しては賛否両論が存在するだろう。メディアが問題を取り上げるなら、必ず両論を示すべきである。政治的理由で偏向した報道を繰り返すことが、誤った言動を野放しにする原因になる。
「市場原理主義」、「新自由主義」、「言論ファッショ」に対する見直しの機運が、草の根から広がり始めている。国民は正しい情報が適正に提供されれば、これまでの判断の誤りにも気付くはずである。橋本知事は気づいていないのかも知れないが、時代は大きく変化しつつある。昨日まで通用したことが明日は通用しないかも知れないのだ。
日本社会はすっかり住みにくい、生きにくい社会に変質してしまったが、政治を刷新して、すべての国民を幸福にする社会に作り変えなければならない。総選挙が近付いている。この総選挙で選択を誤ることは許されない。国民が正しい選択を示すことができるよう、草の根からの情報発信を拡大しなければならないと思う。
橋下TV発言―弁護士資格を返上しては(朝日新聞社説 10月3日)
歯切れのよさで人気のある橋下徹・大阪府知事のタレント弁護士時代の発言に、「弁護士失格」といわんばかりの厳しい判決が言い渡された。
山口県光市の母子殺害事件をめぐり、橋下氏は昨春、民放のテレビ番組で、少年だった被告の弁護団を批判し、「弁護団を許せないと思うんだったら懲戒請求をかけてもらいたい」と視聴者に呼びかけた。
その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判で、広島地裁は橋下氏に総額800万円の支払いを命じた。判決で「少数派の基本的人権を保護する弁護士の使命や職責を正しく理解していない」とまで言われたのだから、橋下氏は深く恥じなければならない。
この事件では、少年は一、二審で起訴事実を認め、無期懲役の判決を受けた。だが、差し戻しの控訴審で殺意や強姦(ごうかん)目的を否認した。
少年の新たな主張について、橋下氏は大阪の読売テレビ制作の番組で、弁護団が組み立てたとしか考えられないと批判した。弁護団の懲戒を弁護士会に請求するよう呼びかけ、「一斉にかけてくださったら弁護士会も処分出さないわけにはいかない」と続けた。
こうした橋下氏の発言について、広島地裁は次のように判断した。刑事事件で被告が主張を変えることはしばしばある。その主張を弁護団が創作したかどうかは、橋下氏が弁護士であれば速断を避けるべきだった。発言は根拠がなく、名誉棄損にあたる――。きわめて常識的な判断だ。
そもそも橋下氏は、みずから携わってきた弁護士の責任をわかっていないのではないか。弁護士は被告の利益や権利を守るのが仕事である。弁護団の方針が世間の常識にそぐわず、気に入らないからといって、懲戒請求をしようとあおるのは、弁護士のやることではない。
光市の事件では、殺意の否認に転じた被告・弁護団を一方的に非難するテレビ報道などが相次いだ。そうした番組作りについて、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は公正性の原則からはずれるとして、厳しく批判した。
偏った番組作りをした放送局が許されないのは当然だが、法律の専門家として出演した橋下氏の責任はさらに重い。問題の発言をきっかけに、ネット上で弁護団への懲戒請求の動きが広がり、懲戒請求は全国で計8千件を超える異常な事態になった。
橋下氏は判決後、弁護団に謝罪する一方で、控訴する意向を示した。判決を真剣に受け止めるならば、控訴をしないだけでなく、弁護士の資格を返上してはどうか。謝罪が形ばかりのものとみられれば、知事としての資質にも疑問が投げかけられるだろう。