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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090612-05-1401.html
上昇気流に乗る日本経済(3)/大前研一(ビジネス・ブレークスルー代表取締役)
2009年6月12日 VOICE
東京中を「六本木ヒルズ」化せよ
そのような景気刺激策を打ったうえで、さらに長期的な視点に立つなら、日本経済が完全復活するために、2つの課題が浮かび上がってくるだろう。
その第1は、道州制の導入である。日本を11の道州に分け、世界から資金・企業・雇用を呼び込む繁栄の単位を「国」から「地域」に変える。そして、そのような地域がそれぞれ“アイデアコンテスト”ができる仕組みを作り上げるべきだ。
定額給付金をどうするといった、くだらない話で国論を二分するのでなく、「九州はこれをやる」「北海道はこれをやる」と、それぞれの道州が自分たちに合ったやり方を考える。そしてそのために必要な立法、徴税、行政の単位を自らつくりあげ、世界経済を呼び込むための「戦略事業単位」を確立するのだ。
日本はいま、海外の投資家からほとんど投資対象と見なされていない。しかし道州制が成立し、魅力的な計画を立てる道州が増えれば、その道州は世界の“ホームレスマネー”を引き込んで、大いに栄えることができる。
中国やインドに投資が向かっている、というのは間違いで、それはすべてメガシティ単位である。国全体に向かうカネなどない。あくまでも大連、天津、蘇州、バンガロール、ハイデラバードといった地域が受け皿となっており、お互いに激しい投資導入合戦を演じている。この競争こそが戦略を先鋭化させ、「他人のふんどし」で繁栄する知恵となっていくのである。
そもそも国境なきボーダレス経済のなかで、九州と北海道がとるべき将来戦略は明らかに違う。たとえば北海道であれば、ロシアとの関係をもっと積極的に構築する。香港が広東州開発の拠点となったように、北海道を極東シベリア開発の最前線基地にする、といえば、世界中からお金や企業が集まるだろう。時差を設けて札幌に取引市場をつくり、世界でいちばん最初に開く市場をつくっても面白い。そうすれば参勤交代のように、東京に物乞いに来る必要もなくなる。
地方はこれまでいつも、中央が決めたただ1つの答えに従ってきた。しかし北海道から沖縄まで、その答えは本来、千差万別のはずだ。中央集権から完全に解き放たれ、道州別に違う繁栄の方程式を手に入れるのである。
そして第2は、「5年、10年、20年先の日本をどうするか」というビジョンを考えることである。たとえば現在の東京は、とても「近代都市」と呼べるようなものではない。戦後の焼け跡からなし崩し的に成立したもので、消防車が入れない路地もあれば、遮断機が1時間も開かない“開かずの踏み切り”もある。こういう不都合な部分を徹底的に改善する。
すなわち東京という街を、根本的に作り直すのだ。住民には一時的に都営住宅に移ってもらい、そのあいだにまず、公的資金でもって21世紀にふさわしい近代的な地盤をつくる。上下水道や電気・通信などの地下埋設はもちろん、道路を拡張し、大地震が来ても液状化しないよう地盤改良を行なうのだ。道路が広くなれば容積率も高く取れる。都心近くであれば現在の3、4倍の容積率になり、高層建築をつくることができる。そうなれば、現在東京近郊に住んでいる人が皆、都心に住めるだろう。パリには東京都心部の3倍、ニューヨークにはさらに多くの人が住んでいる。公共交通機関が世界一発達している東京でそのような改造を行なえば、ほとんどの人が通勤20分圏内に住めるようになる。
この上層部分については、公的資金を使わなくとも民間で十分資金が集まる。容積率を伸ばせば、4〜5%の利回りを生み出せるプロジェクトはいくらでも可能だろう。そこで基盤整備部分の公的資金(債券)を買った人の住民税は半分にして、実質7〜8%で回るようにすることもできる。そうすれば、郵便貯金や銀行に預金するのをやめて「東京を作り直す債券」を買ってみようか、と考える人もたくさん出るに違いない。パリの都市整備に100年かかったことを踏まえるなら、おそらく東京改造には40〜50年の年月を要するだろう。それが完成したとき、いわば東京中が「六本木ヒルズ」や「横浜みなとみらい21」のようになる。ビルだけでは閑散とするだろうから、余った土地には大きな公園や学校、病院などの公共施設をたくさんつくればよい。そうなれば、海外でも「東京に住みたい」と思う人が増えて、ますますお金が入りやすくなる。
都市に人が集まりすぎることの弊害を唱える意見もあるが、空念仏にすぎない。いま通勤している人たちが3分の1以下の時間で会社に通えるだけで、彼らの人生はどれだけ豊かになるだろうか。首都移転の議論にしても同じだ。世界にはオーストラリア、ブラジル、カナダなど首都移転を行なった国がいくつもあるが、成功例は1つもない。アメリカにしてもワシントンという特別区をつくったが、結局、人が集まっているのはニューヨークやロサンゼルス、シカゴなどである。大きな無駄をつくるより、現実にいまある都市を、もっと安全で安心して住める魅力的な場所にするにはどうするか、ということを考えるのが第一ではないか。
いまこそ政治家はグローバルビジョンを語れ
そういう意味で、いまほど日本経済にとって大きなビジョンが必要とされている時期はない。この国をどうするか、が真剣に議論され、そのための政治が確立されるべきなのだ。民主党の岡田克也幹事長は、次期総選挙の争点は企業献金の禁止と世襲制の禁止だと述べたが、そんな瑣末なことを議論している時代ではない。
日本には1500兆円の豊富な資金があり、有能な人材もいる。世界からヒト・カネ・モノを導入することによって国民の負担は減る。さらにいえば、この国は(アメリカや世界の多くの国と異なり)自国民以外の誰からもお金を借りていない。誰にも遠慮することなく、やりたいことができるのだ。
かつての細川内閣や小泉内閣のような高い支持率をもった政権が、時流を明確に読み取って適切なビジョンを打ち出せば、いくらでもよい方向に向かって走り出せる。そしてそのビジョンとは、先ほどから繰り返し述べているように、国内だけにとどまらず、グローバル市場・グローバル資金と日本を結び付けるものでなくてはならない。
すでに日本企業はそのような考えに基づいて、世界戦略を始めている。金融危機の最中、彼らは国内からの撤収を進めているのだ。典型がある自動車部品会社で、世界に30ほどある工場のうち、日本の工場ばかりを閉じている。日本は人件費が高いうえ、労働組合も強い。政府は非協力的で、税金も世界一高額だ。不況によって雇用を調整しようとすれば、マスコミに非難される。国内市場もこれ以上、大きく伸びる余地はない。だからこそ、今回の需要の落ち込みを口実に、閉鎖に踏み切っているのだ。
一方で東南アジアには、日本の7倍の人口がいる。インドや中国を入れれば、さらにその数は増える。市場としてもちょうど日本の30年くらい前の状態で、伸びる余地が大きい。労働者としても彼らは手先が器用で、日本の5分の1の賃金で喜んで働いてくれる。
もはや日本企業は完全に「アメリカ化」している、といってよい。アメリカのメーカーが80年代に国内生産を縮小して世界に出て行ったように、日本企業もほぼ同じようなペースで生産を国外に移している。国内/国外という分け方ではなく、地球全体が市場であって、そのなかで最適生産地を探す、という発想なのだ。東南アジアなどに至ってはまさに「国内」という感覚で、かつての東北地方と同じような認識を、現在の日本企業はタイやベトナムに対して抱いている。いまから10年以上前、1995年に1ドルが79円を付けたあたりから、日本企業は意を決してグローバル化の戦略を進めてきたのだ。
そのような発想に学び、日本政治もまた、世界に対する認識を改めねばならない。世界中が自分たちのマーケットであり、工場である。それに対してどのような投資を行ない、いかにお金を引っ張ってわが国を豊かにするか、という視点が必要とされているのだ。少子高齢化で日本に将来性がなくても、企業は世界のどこかで生き残っていかねばならない。答えは、世界のどこかにあるはずだ。
そこでは政治手法や言葉の定義自体が大きく変わってくる。典型が「食料自給率」だろう。もはやこれだけグローバル化が進み、世界の最適耕作地を選択できる現状を鑑みれば、他国であっても日本の苗や肥料、あるいは資本でつくった農作物については、自国の自給率に換算すべきである。その一方で、輸入の自由化も行なう。つまりは中国の山東省あたりなら、24時間で日本に農作物を送ることができるから、いわば埼玉県や千葉県のような東京郊外と見なせばよい。
そう考えれば、食料“自給率”を100パーセントにすることも不可能ではない。食料確保という意味でいえば、こちらのほうがはるかに安全だ。なにしろ日本の農民の平均年齢は60歳を超えている。彼らにすべてを依存するほうが、よほど危険ではないか。
そもそも日本のような狭い土地でいくら田畑を集約しても、ウクライナやアルゼンチンといった大農法が可能な耕作地にかなうはずがない。もっといってしまえば、大豆にしろ、コメにしろ、日本は世界の最適地ではない。
日本企業の住む世界は大きくなった。日本の役所や政治の住む世界はむしろ矮小化している。資金と技術をもつ日本はその悩み(資源や食糧など)を世界的規模で解決する、と考えれば、大きく視野が広がってくる。今回のプーチン首相の訪日で、原子炉の燃料などの備蓄にロシアが使える、というまったく新しい展望が開けた。使用済み核燃料の冷却には50年かかるが、受け入れてくれる日本の自治体はない。それならばシベリアの永久凍土を借りる、という発想が可能なことが初めて分かったのだ。国内で解決の難しい問題も、ロシアと平和条約を結び、友好関係を深めることで大きく進展する、という新しい発想が必要である。
そのように発想を転換するだけで、日本政治は何をなすべきか、というビジョンが見えてくる。本来政策とは、そのように構築されるべきなのだ。そのようなビジョン、そしてそれを実行する正しい意志をもったリーダーが、いまこそ求められている。
9月までには必ず行なわれる総選挙を、景気対策や世襲の是非などという些末な政策論争で終わらせてはならない。待ったなしの日本の改革を実行するための政策論争を、二大政党には期待したい。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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