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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090526-02-0501.html
小沢民主党、未熟さの根源=仙谷由人(その2)
2009年5月26日 中央公論
仙谷由人−−民主党・衆議院議員
聞き手・橋本五郎−−読売新聞東京本社特別編集委員
薄れる責任野党という自覚
橋本 とはいえ、政権交代を望む世論は健在です。では、仮に民主党が勝ったらどんな政権運営を行うのか? 実は、ここのところもいまひとつ見えて来ない。政権獲得前夜だというのに、例えば深刻な経済危機の打開に向けて財務大臣は誰がやる、といった“政権移行チーム”の姿もない。民主党が着々と準備を進めているという姿が見えれば、国民も安心して託す気持ちになれると思うのですが。
仙谷 一つには、これもやはり党内ガバナンスの問題があると思います。執行部と現場との関係がよく言えば柔軟で自由、悪く言えば現場任せなんですね。例えばこの間の予算委員会にしても、今度消費者庁の設置を決めた消費者問題特別委員会にしても、「民主党としてこうした方針で論議に臨む」という基本姿勢が党三役から提示されることは、ほとんどありませんでし
た。まあ現場で頑張ってくれと。予算委員会や消費者問題特別委員会も現場の各委員の言ってみれば個人芸で回す。よく言えば執行部は現場の考えを尊重するようなところが多分にあるわけです。
こういう実態は安全保障をはじめとする他の課題、党務でも同じようなものですから、国民の目から見れば頼りなく映るかもしれませんね。自民党があの体たらくだから支持を集めていますが、民主党政権を熱望する熱いうねりのようなものにならない原因は、そこにもあるのでしょう。
橋本 政権の座に就いたら、すぐに「ソマリアはどうする?」「北朝鮮への対応は?」という話になります。福沢諭吉が「外交を論じる時には外務大臣の気持ちでしなければならないから、それほど壮快に単純化して語れない」という趣旨のことを述べていますが、今の民主党にはまさに「外相の気持ち」で対応してもらわなければ困るわけです。でも、実際に政権にあるのと同じ気持ちで発言し行動している姿は、残念ながらうかがえません。
仙谷 大変耳の痛いお話で、国民から本当に信頼を寄せられる党への脱皮を急ぐ必要性を痛感しています。将来構想とともに、現実に直面している課題にどのように対応していくのかを明確にしないといけないんですが、ここ二、三年、様々な政策課題について、「責任野党」という矜持が薄れているようには思いますね。
例えば、党は二〇〇五年の衆院選まで、年金目的税としての消費税率三%アップを掲げていました。その後、小沢さんが代表に就任して「野党なのになぜ財源を語る必要があるのか」と、これを引っ込めた。そのほうが楽ですから。そして〇七年の参院選で大勝利を収めた結果、「消費税アップには反対」というのが政策の基本になって、どうも無責任になっている。そのほうが当面の支持を得られやすいのは明らかなのですが、個人的には果たしていつまでもそれでいいのかという思いはあります。
外交についても、前原君が自衛隊の海外派遣などに関して積極的な発言をメディアで行ったりすると、党内では「突出した意見は差し控えるべき」という声が必ず出てくるんですね。「民主党にとって得にならない」という雰囲気にはなっています。
橋本 産みの苦しみというか、野党民主党もあえて逆風に立ち向かう、苦渋する姿が見えないと、本物の支持を得ることはできないのではないでしょうか。麻生自民党にも見えないけれど、民主党にもないですよね。
仙谷 他者に責任を転嫁するつもりはないのですが、党内の雰囲気としては与党があまりにもいい加減なために、自分たちもそれでいいんだというか、安心している面があるのは事実ですね。自民党のレベル低下に合わせて、我々も「責任野党」としての自覚が薄れてきている。
皮肉なことに今の消費税の問題一つとってみても、一〇年前ぐらいには党内で「若い世代に負の遺産を残してはいけない、未来への責任がある」というようなことが盛んに論議されていたと思うのですが、まさにそれが必要なはずの現在は後景に退いてしまっているのです。むろん中堅、若手を中心に、これではだめだという強い危機感を抱いている人たちも多くいますけど、ちょっと情けない現状にあることを率直に認めざるをえません。
与野党の幹部は東京の人
橋本 ただ、実際問題、自民党と民主党の政策にどれだけ違いがあるのかといえば、ほとんどないのが現実でしょう。そのうえで“民主党らしさ”をアピールするとしたら、第一に政権の陣容。例えばですが、財務大臣を榊原英資さんがやるとなれば、「それでいいのか」という異論も出て、大きな話題になるでしょう。民主党の「本気度」は十分伝わる。そういう意味でも、早く政権移行チームを固めて明らかにするべきなんですよ。
仙谷 政策面で、民主党としてどんな方向性を提起し、メッセージを発信すれば現状を打開できるのかを考えた時に、僕は小泉改革の負の側面にスポットを当てるべきだと思うんですね。改革による痛みが広がって、分野によっては我慢の限界を超えるレベルになっている。
橋本 それも非常に重要なポイントだと思います。特に、ズタズタにされた地方をどうするのか。今の日本は金融危機と地方の危機という二大危機に直面しています。安倍さんにしろ、福田さん、麻生さんもずっと東京のど真ん中で育った人ですから、地方の痛みが分かるかという疑問がある。そこを民主党が正すというのでないと困る。
仙谷 “育ち”の話をすれば、ウチのトップに近い人たちも似たようなものです(笑)。ともあれ、おっしゃるように地方切り捨ての小泉改革以降、田舎にあった目に見えない絆のようなものが崩壊を始めて、コミュニティとしての存亡の危機にさらされている地域がたくさんある。私の地元の徳島もおそらく橋本さんのご出身の秋田でもそうでしょうが、このところの経済危機のあおりで下請け製造業などが次々に倒れ、どうやって食べていくのかもいっそう深刻な問題になっています。
橋本 状況は極めて厳しいですね。そうした中で一縷の光明を見出すとすれば、農業を見直そうという動きが出てきていることでしょうか。そうしたテーマも含めて、日本社会なかんずく地方の再生をどうやって図っていくべきかの総合戦略が必要だし、それを新政権に期待する国民も少なくないと思うのですよ。
洗練された“小泉政治”を目指せ
橋本 さて、いずれにせよ遅くとも秋までには民主党政権誕生なるか否かの総選挙が行われます。ただ、本来なら大攻勢に打って出るべき民主党は、小沢問題で逆に防御を余儀なくされているような状況だし、一方の自民党は相変わらず……。
仙谷 麻生さんは国のトップとして初めてオバマ大統領に会ったりだとか、派手な“外交ショー”を演出して見せましたが、得たものはほとんどないでしょ。国内政治でも予想外の景気の落ち込みに足をすくわれたように振る舞いながら、実際にはそれを理由に解散総選挙を先延ばしするなど、奇貨として悪乗りしてるんじゃないかと思えますね。とにかく、論理一貫性のないのが麻生政治の特徴です。
橋本 今回の「追加経済対策」についてはどうですか?
仙谷 経済問題に限って言えば、今の税収不足が秋まで続けば相当な歳入欠陥が生じることになります。今度の景気対策にしても、そんなに効かないんじゃないでしょうか。そうすると、これからさらにバタバタ倒産する企業が出てきて、失業者が増える。そうなった時に何か有効な手を打ち出せるのかは、はなはだ疑問だと言わざるをえません。
経済対策にしろ何にしろ、今の自民党政治は、霞が関のかろうじて残った知恵をかき集めて発生した事態に対処するといった趣。結局、スローガンに掲げていた「脱官僚」も、中央集権から分権自治への転換という課題も何ら前進させることができないまま、総選挙を迎えることになるのではないでしょうか。一方のわが党もご指摘のような内情ですから、このままの状況が変わらなければ、お互いに攻めるというより“守り合い”“負け合い”の選挙になるかもしれません。
橋本 現状だと、民主党は勝てたとしても圧倒的な議席を得るのは難しい情勢です。自民党がねじれ国会で苦労したように、今度は民主党が厳しい国会運営を強いられます。参議院での社民党の五議席が、とてつもなく重い意味を持つことになるかもしれません。ところで、選挙制度についてはどうお考えですか? 政界の人材不足は小選挙区制のせいだという人もいます。
仙谷 衆議院に関しては、比例代表を減らして小選挙区での議席を厚くすべしというのが、僕の持論です。さっきの地方の問題と関連するのですが、田舎にきちんと議席を配分しつつ一票の格差を抑制していくためには、比例部分を都市部の小選挙区に回すのが最も合理的だからです。
橋本 僕は民主党がこれまでの自民党政治から反面教師として学ぶべきことは多いと思うんです。やはり大事なのは、この国をどうしていくのかという総合戦略としっかりした指令体制です。それに基づいて安全保障なら安全保障、金融なら金融の専門チームを設けて、あらゆる事態に即応できる体制を構築する必要がある。しかし、今の民主党にはそれがない。
仙谷 日本ではトップリーダーが少人数のチームを選んで事を運ぶというやり方は許されないという雰囲気が、いまだにあるでしょう。「お友達政治」なんて揶揄されたり。しかし、リーダーがある路線を選択して前に進んでいこうとする時には、おっしゃるような機動的な戦略チームが欠かせない。それがないと的確な政策遂行が難しい時代であることは事実ですね。
橋本 民主党は、まずは小泉政治をソフィスティケートしたやり方を目指すべきですよ。
仙谷 なるほど(笑)。小泉さんは“右脳”の人だったけれど、もっと論理的、知性的なリーダーとそれを支える強力な戦略チームを構築すべしということですね。それがあってはじめて、欧米の政治家などとも対等に渡り合える。
橋本 極限まで達した国民の政治不信を拭う責任は、自民党と同じくらいの大きさで民主党も負わなければならない。政権政党として信頼できる存在になるためにも、仙谷さんにはこれからも「言うべきことは言う」存在であってほしいと思います。
(終わり)
せんごくよしと−−民主党・衆議院議員
はしもとごろう−−読売新聞東京本社特別編集委員