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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090519-02-1401.html
官僚利権が粉砕される日(1)/上杉 隆(ジャーナリスト)
2009年5月19日 VOICE
民主党が政権を獲る確率は……
まず、いいたいことがある。民主党政権が誕生すれば「ねじれ」が解消し、意思決定が容易になって国会運営がスムーズに進むという声があるが、この議論は的外れ、ということだ。
一昨年の参院選で民主党が勝利し、「ねじれ」が生まれたからこそ、年金問題や揮発油税の暫定税率の問題がクローズアップされた。道路整備事業の財源不足を補うため、揮発油税などの暫定税率が適用されたのは1970年代のことである。当初はまさに「暫定的」な措置だったが、5年ごとに延長が繰り返され、今日にまで至ってしまった。これは自民党道路族の既得権益で、「ねじれ」がなければ、いまだ表沙汰になっていなかった可能性が高い。
もし民主党政権が発足すれば、ねじれは解消し、法案もスムーズに国会を通過するだろう。国会運営を考えればそちらのほうが望ましいかもしれない。しかし、長期的に見てどちらが日本をよい国に導くかといえば、一概に判断はできない。
そもそも世界の議会を見渡せば、どの国もねじればかりではないか。それを前提として、ではどうするか、を考えるのが政治の本質である。
かつて中国は中国国民党と中国共産党が手を結び、「国共合作」を行なった。フランスでも右派政党の大統領と左派政党の首相が共存する「コアビタシオン」のような保革連立政権が生まれた。アメリカのオバマ政権も金融危機に対処するため、共和党から閣僚を選び、挙国一致をめざした。いずれも時々の情勢に応じ、ねじれを克服する方法を考えた結果であって、その努力自体を放棄して「ねじれはよくない」「一院制が望ましい」などと論じるのは、あまりに浅薄すぎる。
民主党が政権を獲得する確率はどのくらいあるだろう。現段階で五分五分、と私は読んでいる。少し前までその確率は9割5分だったが、3月3日以降、永田町の情勢は一変してしまった。小沢一郎代表の公設第一秘書が政治資金規正法違反で逮捕されて以来、民主党圧勝、というムードは一気に吹き飛んだ。
情けないのは、それ以降の民主党の対応だ。「次の総理になる人間の秘書を逮捕するのはおかしい」「国策捜査である」などと批判しているが、裏を返せば、この程度の問題で政権が取れないなら、もともと民主党に政権担当能力などなかったのである。野党であった民主党が叩かれ慣れていないのは当然だが、与党になれば、その叩かれ度合いはいまの比でない。そういう意味で今回の事件は、民主党の政権担当能力を示す1つの試金石になりえる。
民主党はもっと、自らが何を訴えるべきかを考えねばならない。今回の事件で小沢代表の辞任を求める声は6割に上ったが、麻生内閣の不支持率も7割もある。数字だけで考えるなら、麻生総理こそ辞めなければならないし、そういう論陣を張らず、これは大した問題ではない、と国民を納得させることも、いまの民主党はできていない。
3月放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ!』で小沢民主党をめぐる討論が行なわれ、私や元東京地検特捜部の郷原信郎氏が、検察の捜査に対して批判的な発言を4時間繰り返し行なった。すると番組が始まる前は6割あった「小沢代表は辞めるべき」という意見が終了直前には3割に減り、逆に「辞めるべきでない」という意見が3割から6割に増えたのである。わずか4時間、それも第三者による説明で逆転するほどの世論なら、民主党がほんとうに一丸になって皆で説明責任を果たせば、変化しないはずがないではないか。
一方で民主党議員のあたかも半数が代表続投に反対し、小沢降ろしに動いている、という動きもいわれるが、これは大手メディアによるミスリードである。私はほとんど毎週、民主党の会見に出席し、党内をくまなく取材していたが、とてもそのような動きがあるようには見えなかった。表立って続投に反対しているのは、小宮山洋子氏、近藤洋介氏、仙谷由人氏の3人ぐらいで、野田佳彦広報委員長、前原誠司副代表、菅直人代表代行たちは皆、「小沢代表に辞任を迫った」という報道を否定している。彼らは基本的に、小沢代表を支えるつもりなのだ。
このような報道の背景には記者クラブの問題があるのだろう。野党である民主党の記者クラブには各紙、せいぜい2、3人くらいしか記者を送り込んでいない。一方、与党である自民党の記者クラブにはその何倍もの記者を配している。だから、どうしても情報量に濃淡が出てしまい、党内の特定グループからの偏った情報に頼る傾向にあるのではないか。民主党を庇うつもりはないが、「民主党内が反小沢で固まる」というのは、あまりに私の取材実感と懸け離れている。
「党内のバラバラ」はすでに解決済み
それでは、事がうまく進んで民主党が政権を取ったとしよう。民主党中心の政権や、民主党を含めた連立政権などの可能性が考えられる。
そのとき代表は誰になるだろうか。いまのところ小沢代表の続投が有力だが、仮に辞任した場合、あるいは衆院が解散した瞬間に代表を退く可能性もある。そのとき、現時点で次の代表になる可能性が高いのは、現副代表の岡田克也氏だろう。小沢代表は指名権をもっていないから、おそらく代表選が行なわれるが、このとき菅代表代行や鳩山由紀夫幹事長など現在の執行部には連帯責任が生じるから立候補は厳しい。前原前代表の場合、小沢代表とよく似ていて、応援する強固なファンがいる一方で、「拒否反応」を示す層も少なくない。
その点で、岡田副代表は、どのグループにも属しておらず、積極的に応援する人もいない代わりに、文句をいう人もいない。消極的ではあるが、皆が一致しやすいのだ。代表経験者でもあるし、2005年に代表を辞めたあとに地方行脚を行ない、300ある選挙区をくまなく回った。当初はお詫びのためだったが、途中からミニ集会などの3、4人の集まりにも参加するなど、出自の経世会流の方法で地方の掘り起こしに力を注いだ。この4年間でかなりの信頼をつけているという点でも、最有力候補といっていい。
また、民主党はさまざまな党の人たちが集まった寄り合い所帯で、はたして政策面で一致が見られるか、という懸念もあるようだ。しかしこの類の心配は無用であろう。そもそも党内がバラバラといっても、それは自民党も同じだし、民主党のほうがその断絶が深いかといえば、民主党と自由党が合併したときに結ばれた小沢・横路政策協定によって、この問題はすでに乗り越えられている。なにしろ民主党でいちばん右寄りであった小沢氏が、民主党でいちばん左寄りである旧社会党の横路孝弘氏と協定を結んだのである。
政治法則の1つに、「いちばん遠いところを取り込めば、そのあいだの批判はすべて抑えられる」というものがある。たとえば日中平和友好条約を積極的に推進したのは田中角栄氏だが、最終的に中国と条約を結んだのは台湾派である福田赳夫氏だった。台湾派の福田氏が踏み込むことで、自民党内の中間派をすべて抑え込んだのだ。同様に小沢氏と横路氏の合意によって、中間派からの批判は影を潜めた。
しかもこの合意が強固であるのは、政策でなく選挙目的、という点だ。小沢氏にとっては連合(日本労働組合総連合会)のような労組の票が欲しく、横路氏にとっては小沢氏的な後援会活動を主体とする選挙態勢が欲しかった。これは自民党と公明党がお互いの票を求めて自公連立を組んだようなもので、選挙協力によるWin‐Win関係の構築にほかならない。メディアはすぐに「政策」といいがちだが、選挙を前にすれば、政策や意見の食い違いなど、簡単に乗り越えられてしまう。
ただ一点、波乱が起きそうなのは、外交・安保問題であろう。先の政策協定においても、この部分だけは玉虫色の合意になっている。
具体的にいえば、インド洋における給油問題が論点になるのではないか。当時、民主党は給油活動を認めるテロ対策特別措置法に反対の立場をとったが、このとき小沢氏や前原氏の考えは、「給油だけでは不十分」というものだった。小沢氏の立場は「ISAF(国際治安支援部隊)への参加などを通じた国連中心外交によって、もっと『普通の国』としての役割を果たすべき」、前原氏は「日米同盟に基づいて、アメリカにもっと協力すべき」というもので、根本は異なるが、「給油だけでは不十分」という点では一致していた。
しかし横路氏の考えは、「給油活動は憲法が定める武力行使に当たり、憲法違反になる」というもので、結論は同じでも、理屈は逆である。この問題をめぐって意見の食い違いが表面化する可能性はある。
しかしそれでも、最終的には政権を取った時点で皆、党首の意見に従うことになるだろう。自民党にしても、安倍政権や麻生政権が誕生したからといって、親中派の河野洋平氏が党を割ることはなかった。かつて誕生した自社さ連立政権の例を出すまでもなく、政治力学とはそういうものである。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。