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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090428-01-1501.html
やりたい放題の霞が関をどう止めるか
2009年4月28日 フォーサイト
官僚言いなりの麻生政権下、逆コースの動きが止まらない。突破口は、与野党が党派を超えて公務員制度改革に取り組むことしかない。
政界を大きく揺るがした西松建設事件。政権奪取目前の民主党・小沢一郎代表を襲った、公設第一秘書の唐突な逮捕。民主党関係者ならずとも、“小沢潰し”“民主党潰し”という謀略の匂いを感じるのは当然だ。
火に油を注いだのが、漆間巌・内閣官房副長官の「捜査は自民党議員には広がらない」発言だった。元警察庁長官であり、官僚トップの座にある漆間氏には、もちろん重要な捜査情報は報告が上がる。民主党が「国策捜査の証左」といきり立ったのも無理はない。
ただ、こんな発言をすれば、捜査が自民党に及ばざるを得なくなるのも自明の理。発言意図は理解に苦しむが、どうやら、「いかにも自分が仕切っているかのようにふるまって、記者に力を誇示したかっただけでは」(官邸詰め記者)というのが真相のようだ。
漆間氏のお粗末な失態からも、事件の内幕は垣間見える。官邸が司令塔となった“自民党政権による国策捜査”という見方はおそらく買いかぶりだ。麻生官邸にはそんな知略も能力もない。
むしろ今回の事件は、官僚機構に漂う“民主党政権への警戒感”を体現した、自然発生的な“霞が関による国策捜査”ではないか。「(政権交代後は)局長以上にいったん辞表を出してもらう」(鳩山由紀夫・民主党幹事長)といった話が、徐々に現実味を帯びる中、「霞が関幹部クラスの民主党への嫌悪感は、急速に高まっている」(経済官庁幹部)という。
検察も官僚機構の一機関としてこの空気は共有する。それが小沢代表秘書の逮捕という形で表出した、ということではなかろうか。
民主党政権への警戒感を裏から読めば、麻生内閣ほど、官僚機構にとって居心地よい体制はないのだ。
小泉内閣以来、「官から民へ」「官僚主導の打破」といった掛け声の下に進められてきた幾多の改革は、今や「改革のひずみ」を合言葉にすべて逆行。臥薪嘗胆の思いで改革に付き合わされてきた官僚らは、笑いが止まらない。まさに「霞が関に神風が吹く」(渡辺喜美元行政改革相)状況だ。
「もともと郵政民営化には反対だった」(麻生総理)、「政策金融機関の民営化は間違いだった」「一時期、規制改革はすべて善という信心がはやったが、誤った信心」(いずれも与謝野馨財務・金融・経済財政担当大臣)などなどの閣僚発言。二月号拙稿で紹介した「天下り容認政令」や、インターネットでの医薬品販売を禁止する厚生労働省令。いずれも、水面下に官僚や既得権益の影がちらつく。
「ヒーロー鳩山」の茶番劇
「かんぽの宿」の一括売却問題で名を上げ、すっかりヒーロー気取りの鳩山邦夫総務大臣も、実像は“改革巻き戻し派”のヒーローだ。
そもそも、鳩山氏は「一括売却」に疑義を唱えたが、「赤字垂れ流し部門の整理が目的である以上、全く的外れな問題提起」(財界関係者)である。施設ごとに切り売りすれば、一部の高収益物件は多少高く売れるかもしれないが、赤字を垂れ流す不採算施設は売れ残り、何ら意味をなさないからだ。
初手からトンチンカンなことを言った鳩山氏が、いつの間にか国民の支持を得たのは、「旧郵政官僚や郵政関連ファミリー法人が“自爆テロ”で全面支援」(政府関係者)したからにほかならない。
“自爆テロ”の構図は、かつての社会保険庁とそっくりだ。社会保険庁では、安倍政権下で社保庁解体法案が国会提出された折、職員が「宙に浮いた年金」などの不祥事を民主党やマスコミにリーク。“自爆テロ”で安倍政権を危機に追い込み、法案成立を断念させようとした。
今回は、郵政民営化を粉砕して“お家再興”するため、同様の“自爆テロ”で、一括売却問題への国民の不信感をかきたてる不正や失態の数々を、旧郵政官僚らが鳩山氏に情報提供しているのだ。「社保庁の“自爆テロ”部隊は長妻昭(民主党・衆議院議員)をスポークスマンにしたが、旧郵政は、経済オンチの鳩山を、格好のピエロ役としてフル活用」(同じ政府関係者)した。
旧郵政官僚の最大の目標は、西川善文・日本郵政社長を追放し、官僚の手に郵政を取り戻すことだ。矢は既に放たれている。日本郵政は一月末、旧郵政省出身の団宏明・郵政事業会社社長を持ち株会社副社長にすることを発表。「鳩山人事」とも言われるが、西川氏追放後の社長昇格をにらんだ布石であり、旧郵政官僚の入れ知恵であることは明らかだ。
東京中央郵便局建て替えに「待った」をかけたあたりから、次第に、鳩山氏のパフォーマンスの底の浅さ、怪しさは国民に見透かされつつある。もっともそれも官僚の想定の範囲内。鳩山氏の化けの皮が剥がれれば、次のピエロを見つけるだけだ。
差し戻された“マンガ法案”
改革はすべて逆コースへ、という流れの中で、曲がりなりにも改革続行中なのが公務員制度改革だ。
昨年六月に国家公務員制度改革基本法が成立したばかりで、さすがにすぐストップをかけ難いからだ。谷公士(まさひと)・人事院総裁との対決で脚光を浴びた甘利明・行革担当大臣の下、三月中に、基本法のプログラムに沿った具体的な関連法案を提出する運びだ。
しかし、法案の原案を覗いてみると、改革とは程遠い。本来真っ先に取り組むべき人事制度の“中身”の改革は、現行制度温存に固執する霞が関の総意を受け、実質的に手つかず。
一方、「内閣人事局」の“器”だけは格好をつけようとしたため、縄張り拡大・ポスト争奪の絶好の草刈場と捉えた官僚らがここぞとばかり参戦。分捕り合戦の余波で“器”の有り様まですっかりねじ曲げられる始末だ。
まず、基本法では「内閣人事局」のはずが、今回の法案原案では、いつの間にか「内閣人事・行政管理局」に名称変更している。総務省・人事院・財務省の“人事関連”の部局を統合するはずが、なぜか「総務省の人事・恩給局と行政管理局が母体」が金科玉条となり、「いまの行政管理局で担っている、人事と関係ない部門(電子政府推進や独立行政法人関連)も移すので」というのが名称変更の根拠だ。
全く本末転倒の話だが、要するに、総務省の旧総務庁系の官僚らが、現在の縄張りを保ったまま、内閣の機関に乗り込んで“格上げ・焼け太り”を果たそうと狙っただけだ。鳩山大臣はここでも官僚に乗せられ、「内閣に持っていって、行革をビシバシやる」などと意味不明の理由を述べ、“格上げ・焼け太り”プランの旗振り役を務めた。
また基本法では、官房長官の下に「内閣人事局長」を置くはずだったが、法案原案では「人事・行政管理局長は官房副長官より格下」とされる。前出の漆間氏が、自分と横並びのポストができて権限が侵されることを嫌い、「局長は官房副長官の部下」にするようこだわったためだ。
漆間氏は、冒頭で記した失態で、いつ進退を問われてもおかしくない状況だが、「ご本人は自分のポストの権限を守ることで頭が一杯。人事局長ポストができるのは来年だから、少なくとも二、三年は副長官を続けるつもりだろう」(政府関係者)という。
さらに、これを見ていた財務省出身の福田進・官房副長官補まで悪乗りし、「人事・行政管理局長は官房副長官補の調整に服する」と条文に書き込ませたというから、もはやマンガの世界だ。
これは、「官邸官僚と財務省が、行管局焼け太りを容認する引き換えに、両者の権益を確保。漆間・福田・松田(隆利、行管局出身の公務員制度改革事務局次長)ら三人の談合だ」(経済官庁幹部)との声もある。
さすがに、こうした馬鹿げた動きには、与野党双方が反発。三月十三日の自民党行革推進本部会合では、中川秀直元幹事長、塩崎恭久元官房長官らが関連法案に強く反対し、差し戻しに至った。決着の行方は不明だが、「こんな案を出してきた時点で、政治主導という大目的に反する。この内閣に本件法案提出の資格はない」(改革派官僚OB)ということだろう。
中川元幹事長は同日、「各省局長などの幹部職員は、時の総理と一定程度政治の結果責任を共有するよう、一般職とは別の、大臣に準ずる特別職にすべき。与野党の枠を超えて、議員立法で実現したい」とも発言したが、要注意だ。
というのは、民主党はかねて、「基本法では、幹部の新たな人事制度を作ることになっているのに、政府の検討が進んでいない」と批判し、「幹部は一般職員とは別の人事制度にすべき」(松本剛明・民主党行革調査会長)と主張している。
一方、自民党では、塩崎氏らが「天下り根絶を進めるためには、幹部の人事・給与制度改革を加速しないといけない。特別職にし、給与は年俸制に」と主張する。言い方は異なるが、目指す内容はかなり似通っているのだ。
与野党双方の意見が重なる中で、政府側の検討が進んでいない理由は簡単だ。霞が関の幹部官僚にとっては、地位の不安定な「特別職」になるより、降格やクビのない現行の「一般職」のままでいる方が望ましい。そこで、「人事院の勧告をもらわないと、そんな改革はできない」など、のらりくらりと逃げ切ろうとしていたところに、「議員立法」発言が飛び出したのだ。
もしこれが本当に進めば、与野党双方の国会議員に対し、霞が関幹部との距離感を問う“踏み絵”法案になる可能性もある。
党派を超えた議論となれば、渡辺元行革相も乗り出すはずだ。渡辺氏は「公務員制度改革は党派を超えた共通課題」と主張する。選挙前に公務員制度改革を前進させ、どんな政権でも即機能する官僚機構の基盤を作っておくべきということだ。
逆に、今国会で関連法案が廃案になれば、喜ぶのは改革潰しを画策する官僚だ。党派を超えて、政治の力を見せてもらいたい場面である。
筆者/ジャーナリスト・白石 均 Shiraishi Hitoshi
フォーサイト2009年4月号より