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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090406-01-0901.html
検察の市場への介入、政治への介入を問う
2009年4月6日 ビデオニュース・ドットコム
ニュースコメンタリー(2009年04月04日)
証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕・起訴され、現在上告中の堀江貴文元ライブドア社長は2日、外国特派員協会で講演し、自身の起訴内容について改めて無罪を主張したうえで、検察庁は市場に大混乱を引き起こすことを承知で氏の逮捕を月曜日に行ったと述べ、検察庁の捜査手法を批判した。
また、同日、長年検察の取材を続けているジャーナリストの魚住昭氏にインタビューを行った。
ビデオニュース・ドットコムの4日のニュースコメンタリーでは、ジャーナリストの神保哲生と津田塾大学准教授の萱野稔人が、この問題を議論した。
神保: 今週、堀江貴文元ライブドア社長が外国特派員協会で講演をし、以下のように検察を批判した。
堀江貴文元ライブドア社長講演(09年4月2日 日本外国特派員協会)
(堀江氏)ライブドア事件について、私は無罪だと思っているが、仮に有罪だとしても非常に不公平だと私は考える。
ライブドアを強制捜査された翌日からライブドア株は大暴落したが、原因の多くはまず月曜日に強制捜査をしたということ。通常こういった経済事件は、市場への影響を最小限に留めるために金曜日に行うことが通例だ。なぜなら、土曜日と日曜日は市場が閉じているから、投資家はこういった大きなネガティブなニュースに対してクールダウンすることができる。冷静に考えることができるので普通は金曜日になるのだが、月曜日にやったということは、市場への影響を大きくしようという意思が非常に見える。
こういったものは検察の暴走だと私は思うし、こうやって暴走することによって市場に大混乱を引き起こすということがわかっていたがために、課徴金制度を2005年から導入している。にもかかわらず、その制度を適用せずに我々を摘発してしまった。
神保: ビデオニュースでは同じく今週、長く検察を取材してきたジャーナリストの魚住昭氏にインタビューをした。その一部も紹介したい。
魚住昭氏インタビュー(09年4月2日 インタビュアー:神保哲生)
(魚住氏)ライブドア事件でも、非常に形式犯に近いような、行政処理で済むような話をわざわざ東証をパンクさせてまで摘発している。あれは露骨な市場介入だった。ハードルを下げて市場なり、政治なりに介入していくという傾向はこのところずっとあった。
(神保)ライブドア事件のように市場への介入を辞さない、今回のように政治への介入を辞さないというのは、何か検察の内部で体質的な変化が起きているのか。長く検察を取材されてきた魚住さんはどう見ているか。
(魚住)たとえばロッキード事件の時は、田中角栄氏と検察が対決した。ロッキード事件を摘発した以降も、田中氏は政界で大きな力を持っていた。そのころは検察対自民党というのは、力関係が拮抗していた。それが、田中氏が倒れて金丸氏の脱税事件を93年に摘発して、自民党の一党支配が終わった。あの頃から検察と自民党の力関係が変わり始めた。
もう一つは、冷戦構造が90年代初頭に崩壊した。それまでは、自民党政権の腐敗を摘発しすぎると自由主義体制そのものが壊れるというブレーキがあった。だから、ある程度までは摘発するけれど、それ以上はやらないという暗黙の了解があった。ところが冷戦が終わって、政界にいくら手を突っ込んでも、いわゆる社会主義体制というものができる可能性はなくなった。いくらでもやれるようになった。
(神保)検察をチェックする機能や、検察を制御する機能は、どういうものが望ましいと考えているか。
(魚住)機構上は、ほとんど検察をチェックできない。検察庁法第14条というものがあって、法務大臣は個々の事件については、検事総長しか指揮できない。それは、他の省庁との一番大きな違いだ。
政権が代わって、政治が総力をあげて検察にブレーキをかける手は無いでは無いが、非常に難しいと思う。裁判所は裁判所で、検察の言いなりになることがほとんどだから、裁判所も政治もあまり期待ができない。
いわゆる司法官僚同士の一体感というのはすごく強い。それは戦前から戦後にずっと続いている。だから今でも「判検交流」といって、裁判所と検察の交流人事というのがあって、依然として一体感を持ち続けている。だから、同じ村の仲間だ。だから、状況としては検察をコントロールするのは難しい。そういう機構を作ってしまっているのだから。
神保: まず、堀江氏は、検察が市場への影響を全く無視してライブドアを摘発したことを指摘した。当時堀江氏は、お金を右から左に動かして労せずして巨万の富を築くIT長者のシンボルのような存在だった。当時の東京地検特捜部長は就任の会見で「額に汗して働いている人たちの苦労を無駄にしてはいけない」というような趣旨の発言をしていた。
萱野: 「けしからん」というわけだ。
神保: 「けしからん罪」を、検察的に言うと、虚偽記載と風説の流布ということで堀江氏を逮捕した。しかも月曜日に逮捕して市場は大混乱、ライブドア株はもとより、IT銘柄は軒並み大暴落、IT銘柄に引っ張られいた東証全体が大暴落を起こした。
堀江氏は、検察は意図的にあえて逮捕を月曜日に行ったのではないか、とまで言っている。検察というのはそういうところだと、堀江氏は言う。事の真相はわからないが、ただ検察が市場への影響を最小限にとどめようとしなかったのは間違いない。
また、魚住氏はインタビューで、同じく政界への影響について話していた。特に選挙への影響だ。捜査は悪いことがあれば行うべきだが、それによって選挙が大きく影響を受けるということはできるだけ避けるべきだ。それは、捜査機関の政治への介入になるからだ。
魚住氏は、田中角栄氏が亡くなってしまってから、検察を抑えられる政治家がいなくなったこと、しかも冷戦構造下では自民党を倒してはまずいという抑制が効いていたが、冷戦が終わりその遠慮がいらなくなったことで、検察は政治への介入を躊躇しなくなっていると指摘していた。
萱野: 検察が独善的に行動できるようになったと。
神保: それがいよいよ行くところまで行って、政治状況に影響することを気にしないどころか、意図的に影響させようとするところまでいったのが、今回の小沢氏の秘書の逮捕だったのではないか。歴史的な経緯から見て、検察が行くところまで行ってしまった可能性があり、これは懸念すべきことではないかと考えた。
しかも、堀江氏といい小沢氏の秘書といい、政治や経済活動に影響を及ぼしてまで、どうしてもやらなければいけないような「巨悪」だったのかというと、大いに疑問が残る。
萱野: これまでと比べて、検察の歯止めが効かなくなっている、自重が効かなくなってきているというのは確かだと思う。力関係の変化ということもあるが、検察そのものの性質が少し変わってきたということを問題にせざるを得ないと思う。
今回、マスコミでも始めの頃は、説明責任を検察も果たした方が良いのではないかという報道が少しはあった。政治資金規正法違反は、これまで1億円以上献金額があるとか、裏金として処理した場合に検察当局が介入するというのが通例だった。
神保: そもそも逮捕は裏で一億円の基準は、現在の検事総長の樋渡氏が自ら設定した基準だった。日歯連の村岡氏は1億円ちょうどだったので、逮捕はされず在宅起訴になった。今回は表のお金で3500万円だ。
萱野: なぜここで法の解釈、運用方法が変わったのかについては検察に説明責任がある。その部分が結局うやむやになってしまったと思う。
法の運用を動かして良いのかという問題がある。カール・シュミットの「主権論」に、有名な定義がある。そこでは、主権者とは「例外状態について決定する者」だと規定している。要は、法を超えて法を運用できる状態を作るのが主権者なのだと。それをやっている人が実際の主権者だということだ。法の運用をどうするかということに密接に関わってくる。
たとえば、ドメスティック・バイオレンスを考えると良いと思う。昔と今では、法の運用が全く違う。昔は家庭内の事情ということで、暴力沙汰があっても法はほとんど介入しなかった。それが、最近は介入するようになった。
しかし、刑法の規定の根本的に変わったわけではない。何が変わったのかといえば、運用の仕方が変わった。変えたのが何かというと、社会そのものだとしか言いようがない。法はそのものだけで機能するわけではなく、運用して初めて機能する。そうすると、どう運用するかという判断が、どうしても出てくる。そこにどういう力が入るかによって、どういう主権のあり方がその社会にあるのかが決まってくる。
今回、法の運用が明らかに変わったと。そこに、検察の判断が大きく働いていた。一方でこれが、政局に大きな影響を与える。政局とは要するに、次回の衆院選、選挙のことだ。
そもそも日本は、選挙があって議員が決められて、それが法を決めるということになっている。それを超えて、国民の決定そのものに影響を与えてしまった。選挙を左右するような行動をしたということだ。
主権者に選挙権があって選ぶということを超えて選挙にも影響をしているし、法の運用という点でも、主権者としてせせり出ている。シュミット的な言い方をするなら、今明らかに、主権者の位置に検察が躍り出ようとしている状況だと思う。
出演者プロフィール
神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオニュース・ドットコム代表/ビデオジャーナリスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修了。AP通信社記者を経て99年『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『ツバル-温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境問題と国際政治。05年より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
萱野 稔人(かやの・としひと)
津田塾大学国際関係学科准教授。1970年愛知県生まれ。03年パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師を経て、現職。著書に『国家とはなにか』、『権力の読み方』、共著に『「生きづらさ」について』など。