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http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20090325ddn003040028000c.html
クローズアップ2009:小沢氏秘書起訴 異例の立件に波紋
◇検察「表金でも重大悪質」
約9カ月に及んだ西松建設に対する東京地検特捜部の捜査は小沢一郎民主党代表の側近の起訴に至ったが、「ヤミ献金」ではなく政治資金収支報告書に記載のある「表のカネ」をとらえて摘発するという異例の手法は大きな波紋を呼んだ。今回の捜査は、政治資金の透明化を実現させる挑戦か、あるいは「暴挙」なのか。【安高晋、坂本高志】
「特定の建設業者から多額の金銭提供を受けていた事実を国民の目から覆い隠したもので、重大悪質な事案」
24日夕、起訴を発表した東京地検の谷川恒太次席検事は冒頭、理由を説明する異例のコメントを読み上げ、捜査の必要性を強調した。だが、記者から「なぜ悪質といえるのか」「大久保被告の認識は」と尋ねられると、同席した佐久間達哉特捜部長が「公判で明らかにする」と詳しい説明を避け続けた。収支報告書に記載のある献金を立件した意義を問われると、「寄付者の名義を変えてしまうことをどう評価するか。みなさんにご判断いただきたい」と述べた。
地検は摘発の意義を強調するが、捜査は曲折を経た。特捜部が当初注目したのは海外で作られた裏金の使い道だった。タイ政府高官への資金提供などさまざまな疑惑が浮かび、今年1月に外為法違反で逮捕した前社長、国沢幹雄被告(70)らを追及したが、事件に発展させる十分な証拠がそろわなかった。
一方、「新政治問題研究会」などのダミーを経由し小沢氏を含む与野党議員や自治体首長側に多額の献金が流れた実態についても、裏金ルートと併せて内偵が進められた。しかし、団体側と議員側双方が献金額などを記載している「表金」だったことが大きな障壁だった。
これまで政治家や周辺が政治資金規正法違反に問われたのは、報告書に記載がない「ヤミ献金」が大半。90年代までは金丸信元自民党副総裁など略式起訴にとどめたケースもあった。03年の坂井隆憲衆院議員(当時)の事件で初めて同法違反だけで議員本人を逮捕、起訴したが、ヤミ献金は億単位だった。
小沢氏側は「西松献金先」の中で受領額が突出していたとはいえ、逮捕容疑は資金管理団体「陸山会」への2100万円の献金に過ぎなかった。起訴時に民主党岩手県第4区総支部への献金も加えて立件額は総額3500万円になったものの、法務・検察内部でも「この程度の額で、しかも全部表献金というのはどうか」と疑問視する向きもある。
積極捜査を支持した幹部らは「情報公開の質が求められる時代。公表しても、うそを書くのは決算を粉飾する企業と同じ」と強調。公共事業での談合を背景に、西松側に受注増という狙いがあり、小沢氏側もその意図を知りつつ献金を上納させたと捜査で明らかにすれば「形式犯」との批判をかわせるという読みもあったとみられる。
また、半年以内に総選挙がある時期に政権交代を目指す野党第1党の党首をターゲットにした点についても憶測を呼んだ。佐久間特捜部長は「政治的意図を持って事件をやることはあり得ない」と強調し「事件の重大悪質性を考えると、選挙が秋までに行われることを考えても放置できないと判断した」と述べた。今月末に1100万円分の時効が迫っており、立件可能な虚偽記載の額が更に減る恐れもあって、この時期の着手につながった。
ある検察OBは「政治とカネの問題では、わいろを直接受け取る露骨なものは影を潜めた。特捜部は前例から飛び出してでも規正法を武器にするしかないのだろう」と評した。
◇続投、民主内にも批判
民主党の小沢一郎代表は「政権交代実現で国民主導の政治を実現させるという目標を党の皆さんに理解いただいた」として代表続投を決めた。しかし、続投を了承した常任幹事会では異論や苦言も相次ぎ、「続投容認」といっても暫定色は覆いようもなかった。小沢氏は厳しい党運営を強いられることになる。
「一人で決するにはあまりにも大きな問題なので、役員会、常任幹事会の皆さまのご判断を仰いだ」。小沢氏は24日の記者会見で声を詰まらせ、目に涙を浮かべながら語った。「政権交代を実現することで官僚機構の上に立った自公政権を覆すのが、私の政治家としての最後の仕事だ」
だが、反応には厳しいものがあった。
「国民に疑念が残る中、果たして本当に良い決断なのか」。前原誠司副代表は常任幹事会で、続投に異論を唱えた。さらに「1社から多額の献金をもらっていた事実はあり、道義的責任は残る」と厳しく指摘した。岡田克也副代表も「代表の意見も了とするけれども、国民の信頼をきちんと勝ち得るような努力をしてもらいたい」と苦言を呈した。渡部恒三最高顧問は「今度の総選挙が国民の期待に応える最後の機会。それに勝てるかどうかで判断してほしい」とクギを刺した。
党内では、参院選を圧勝に導いた実績と党全体に配慮した人事配置などバランスをとった党運営が表向きの批判を抑え、退陣を求める声は大きなうねりにはなってこなかった。24日午後には石井一副代表ら参院議員約20人が集まり、続投支持を確認。鳩山由紀夫幹事長は同日夕に小沢氏と会い「頼むよ。このまま行きたい」と打ち明けられ、役員会などを「続投支持」の結論に導く役割を担った。
だが、24日は役員会などに出席しなかった党所属議員からも厳しい反応が相次いだ。
24日昼過ぎの代議士会で、横光克彦衆院議員は「過ちを改むるにはばかることなかれ。新生・民主党で次の衆院選に向かうことこそ国民のためだ」と小沢氏の自発的辞任を求めた。小宮山洋子「次の内閣」文部科学担当は毎日新聞の取材に「代表には辞めていただいた方がいい。言い訳しながらの選挙では勝てない」と語った。【白戸圭一、野口武則】
◇二階氏重点捜査へ
西松建設の違法献金を巡る捜査は今後、時効にかからない04〜06年に献金やパーティー券購入を受けた他の与野党議員や自民党派閥にも拡大する公算が大きい。特に二階俊博経済産業相の派閥の政治団体「新しい波」は838万円と最多のパーティー券購入を受け、二階氏が代表の「自民党和歌山県第3選挙区支部」は西松社員の名義を使い年間300万円が提供されており、立件に向け重点的に捜査する見通しだ。
特捜部に西松幹部らは「ダミーを介した献金やパーティー券購入は、西松の金と相手先に伝えていた」と供述したとされる。各議員側に違法性の認識があったか確認する必要があるが、認識や受領額などによって立件のハードルをどう設定するのか。「スピード違反で言うなら(小沢氏側は)50キロオーバー。10キロオーバー(の議員側)までやる必要があるか」(捜査幹部)との慎重論もある中、検察は難しい選択を迫られる。