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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090305-02-1201.html
小泉に麻生を「笑っちゃう」資格があるのか(堤堯=ジャーナリスト)
2009年3月5日 リベラルタイム
郵政民営化は壮大な「改革詐欺」だ。
見直しを主張する者を「守旧派」扱いしてはいけない
「郵政民営化には反対だった」
首相・麻生太郎のセリフを、元首相・小泉純一郎が「呆れて笑っちゃう」と揶揄した。小泉に笑う資格があるのか。
いわゆる小泉改革は、郵政民営化も含めて、小泉が自画自讃するほど立派な政治的成果を挙げたか。むしろ逆ではないのか。
郵政民営化に反対だったのは、麻生だけではない。法案をマジメに読んだ議員ほど反対した。三十七人の自民党議員が職を賭して反対した。改革に名を借りた巨大な詐欺のカラクリに気付いたからだ。
現にカラクリの一端が「かんぽの宿」疑惑で露呈した。日本郵政が一万円で払い下げた物件が六千万円の物件に化ける。ベラボーな話だ。鳥取県岩美町の「かんぽの宿」はほんの一例だ。沖縄でも一千円の物件が四千九百万円の物件に化けている。
さらに日本郵政は全国に散らばる「かんぽの宿」等七十九の物件を、オリックス不動産に一括売却しようとした。オリックスは二千四百億円をかけた物件を百九億円で取得する。物件の中には三百億円をかけた「ラフレさいたま」がある。その資産価値だけでも百五十億円と目される。総務相・鳩山邦夫が「待った」をかけたのは当然だ。
その鳩山を元郵政民営化担当相・竹中平蔵が「民間のことは民間にまかせろ」と批判した。冗談ではない。日本郵政の株式は一〇〇%政府が保有する。その施設はいうなら国有財産、国民の共有財産だ。それが二束三文で叩き売られ、巨大な利権と化している。担当相が疑問を呈するのは当然だ。
オリックスCEO・宮内義彦は規制改革推進会議議長を永くつとめ、その「改革利権漁り」は知る人ぞ知る、いまや農業、医療にもおよぶ。一括購入した物件の多くを、おそらく老人ホーム等の保養施設にでもしようとしたのだろう。
いずれの物件もほぼ一等地に建ち、建物は視察した鳩山によれば「いやあ、立派なものです」。これら国民の共有財産を、宮内はヌレ手でアワの掠奪を図った。入札の経緯にも疑問がある。
そんな宮内を竹中は弁護して「宮内氏は郵政改革に関係ない」というが、これまた冗談ではない。政権中枢に十一年も食い込み、郵政カイカクの必要を自著にも記している。
オリックスはリーマン・ブラザーズと資本提携していた。かのホリエモンに八百億円の資金を与え、日本買い占めの先兵とした投資銀行だ。オリックス株の五七%を大手外資が握っている。つまりは宮内も外資の手先といえる。日本郵政は「かんぽの宿」の売却に関して、メリルリンチ日本証券に六億円のアドバイザリー料を支払う契約を結んでいる。何をアドバイス(助言)されたのか、社長・西川善文に訊いてみたいところだ。この西川を社長に据えたのは小泉・竹中・宮内のトリオだ。四人がグルになって国民の資産を叩き売っている。
問題は「かんぽの宿」だけではない。本欄で何度も触れたが、郵政カイカクはアメリカの要請に応じた。アメリカ大手保険会社の社長が「竹中委員会」に五回も臨席したのが何よりの証拠だ。
さらにはアメリカ通商代表ロバート・ゼーリックが竹中に宛てた手紙が国会でバクロされた。竹中の金融財政相就任を祝い、「竹中さん、オメデトウ」と書き出され、今後とも一層の協力、いや服従を要請する手紙だ。郵政カイカクについて、ああしろ・こうしろと要請項目を並べ立てる。
アメリカの郵政は国営だ。なのにブッシュは小泉に民営化を迫った。リーマンは歴代ブッシュ・ファミリーが重用した銀行だ。彼らは日本の郵政を分割・民営化して、その株を狙う。核心は郵貯・簡保に蓄えられた三百四十兆円――日本人の最後の貯金の乗っ取りだ。参院が法案を否決した時、ウォール街の機関紙=ウォール・ストリート・ジャーナルは書いた。
「これで三兆ドルはしばらくお預けになった。しかし小泉は頑張るだろう」
異様に震える手
たしかに小泉は頑張った。反対する議員に刺客を送り、生き残った者を除名した。だいたい法案を通した衆院を解散すること自体おかしい。
「麻生は解散には反対したが、郵政民営化には賛成だった」
と小泉は洩らしたが、麻生ならずとも、憲法上も問題視される解散だった。元首相・森喜朗が洩らしている。
「小泉さんはいっておった。オレ以外はみんな反対だったからなあと」
よほどアメリカからの圧力があったとしか思えない。それを押し隠すために、刺客騒ぎを演出した。
アメリカの大手資本──ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、そしてリーマンらは、今回の「百年に一度の津波」を受けた。倒産・合併の後ゴールドマンとモルガンの二社が残った。ともに投資銀行の看板を捨てて普通銀行に戻らざるを得なかったが、二〇〇五年の時点では、明らかに日本人の最後の貯金三百四十兆円を狙った。
筆者は当時、アフリカの草原で展開される弱肉強食のシーンを想起した。日本という縞馬に襲いかかるライオンの群れだ。彼らはカネにものをいわせて新会社の株を買い占め、簡保百五十兆円、ついで郵貯百九十兆円を次々に貪るつもりだったに違いない。
このような状況を、アメリカのいうがままに演出したのが小泉、竹中、宮内のトリオだ。コトが成れば、新設される巨大銀行の頭取に竹中あるいは宮内が就いたかもしれない。西川はそれまでの繋ぎだ。
郵政民営化騒ぎは、巨大な複合詐欺事件だったと思える。その一端が「かんぽの宿」で漏れ出した。総務相・鳩山邦夫が「相当に根は深い」とつぶやくのも道理だ。国会に呼ばれた西川の、資料を持つ手が異様に震える様が何事かを物語る。
「郵政改革が成れば、政治も経済も外交も年金も教育も全てが上手くいく」
と小泉や竹中は詐欺師のようなセリフを連呼した。ホリエモンを旗印に押し立て、自民党本部で出陣式を挙げさせた。小泉はホリエモンを「新しい時代を切り開く人材だ」と持ち上げ、竹中は「ホリエモンさんの存在は小泉改革の成果です。小泉、ホリエモン、私の三人で改革を推し進めます」と連呼した。
そのホリエモンは、いまや司直の手に捕らわれ、裁判沙汰が続いている。小泉も竹中も一言もない。
繰り返すが、日本郵政の株も資産も、目下のところは国民の共有財産だ。株の売却に麻生が「待った」をかけ、資産の売却に鳩山が「待った」をかけた。共に巨大な詐欺を阻止して国民の財産を守ろうとしている。
竹中は「売却が遅れれば、それだけ資産が劣化する」という。しかし株についていえば、麻生のいうように「株価が低い時に売るバカはいない」。むしろ将来、大手外資の牙から守るべく、売却を禁じたほうがよい。もともと施設は、職員や会員の保養施設で、料金を低く設定している。出血サービスで赤字は予定されていた。赤字を理由に「早く売却しろ」というのは当たらない。料金を民間ベースにすれば、十分に採算が取れる。「早く売れ」というのは「早く食べたい」からだ。
麻生は郵政民営化の「見直し」を主張している。立法の最終時点で、種々の危惧を抱いた議員らの強い要望で、「三年を経て見直す」という条項を加えた。この三月で見直しの時期がくる。
存分な見直しが必要だ。さらには当時のユーフォリア(熱狂)に覆い隠されて見えなかった一連の経緯について、あらためての検証が必要だ。誰が何を意図して、どう動いたのか、だ。
「君は国賊だ!」
郵政を民営でやっているのは世界で二、三しかない。ニュージーランドは外資の買い占めに遭い、慌てて国営に戻した。イギリスも同様だ。ブレア首相は日本の要人にいった。
「日本だけが逆行しているようですね」
小泉は「ドイツの民営化は上手くいっているじゃないか」といったが、種々の不都合が出て、見直しの気運が高まっている。分割・誕生したドイツポストの社長が逮捕されるというおまけまでついた。日本でもコトの次第によっては逮捕者が出るかもしれない。
小泉の「笑っちゃう」発言、加えて定額給付金の再可決反対発言について、知人の政治記者はいう。
「このままでは火の粉が飛んで来ると怖れた小泉が、麻生降ろしに出た。新たな権力闘争と見たほうがわかりがいいですよ」
西川はオリックスとの契約を取り消した。形勢利あらずと見て、尻尾を巻いた撤退だ。トリオと相談の結果だろう。鳩山が追及の手をゆるめないのは当然だ。
宮内は規制緩和の名のもと、労働基準法を骨抜きにした。昨今の派遣切り騒動も彼に由来する。一九九四年二月、財界人十二人が合宿して議論した。「舞浜会議」と呼ばれる。テーマは「企業は誰のものか」で、アメリカ仕込みのグローバリズムをいい立てる宮内を、新日鐵社長・今井敬は「君は国賊だ!」と一喝した。
いまさらながら、今井の炯眼に感じ入る。小泉カイカクは壮大な「改革詐欺」だ。郵政選挙は票のフリコメ詐欺だ。筆者は小泉の「笑っちゃう」発言を詐欺師の居直りと見る。麻生は余計なセリフをいわずに、不言実行で見直しを粛々と進めればよい。それが小泉への答になる。
野党は民営化に反対した。ならば
「麻生さんも反対だったんですか。それじゃこれから一緒に大いに見直しをやりましょう」と協力するのがスジではないか。むしろ麻生の見直し論を奇貨として、完全な骨抜きを策すべきではないか。小泉と一緒になって麻生を笑っている場合ではない。コトは国民の共有財産に関する。
小泉は引退を宣言している。一部のメディアは小泉の尻馬に乗って麻生を笑うが、問題の軽重を見誤っている。見直しを主張する者を再び「守旧派」扱いして圧殺してはいけない。郵政民営化を詐欺師らの「聖域」にしてはならない。(文中敬称略)
リベラルタイム4月号 永田町仄聞録