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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090212-02-0701.html
麻生捨て身の「給付金解散」シナリオ(2/2)
2009年2月12日 文藝春秋
「五月二十四日投票」説
では、「反転攻勢」成功の可能性はあるのか。一月半ば、麻生が「七月のイタリアサミットにはぜひとも行きたい」と周辺に漏らしている、との情報が永田町を駆け巡った。サミットは七月八日から十日。サミット明けの衆議院解散なら、総選挙の日程は、任期満了の九月に限りなく近づくことになる。公明党が水面下で求めた日程は四月二十六日の総選挙。しかしこれは、事実上、話し合い解散の道しかなく、麻生には到底飲めない。
麻生にとってダメージとなっているのは、やはり党首力対決で小沢に逆転されたことだ。景気もさらに悪化し、政権浮揚の材料は見当たらない。麻生も解散に関する話題をことさら避けているかに見える。だが、周辺から漏れてくる麻生の本音はこうだ。「定額給付金を八割が反対していて、評判が悪いというが、じゃあみんな受け取らないのかというと、九割はもらうだろう。実際に手にしてみて、嬉しくない奴ぁいないんじゃないか」。実際に小渕内閣でも地域振興券を給付すると、支持率は上がった。麻生もそのピンポイントのタイミングをついて解散に踏み切ろうというわけだ。
麻生の思惑を察知した公明党も素早い動きを見せた。東京都選管が都議選日程を正式に決める一月二十一日の前々日。内定していた七月五日投票を一週間遅らせるよう、公明党都本部のドン・藤井富雄が自民党にねじこみ、先延ばしをごり押しした。公明党内では、告示期間中にサミットをはさむことから、「衆院選と都議選とのダブル選挙封じ」と説明されたが、実際は、総選挙から少しでも間をおいて都議選に備えたいという思惑なのだ。
定額給付金が行き渡るのは、五月にずれ込むとみられており、解散日程はそこから逆算して、絞り込んでいくことになる。「五月十二日公示、二十四日投票」などの日程が取り沙汰されているが、圧倒的な劣勢が続く中、麻生が勝機を見い出し、決断できるのか、なお予断を許さない。
対する民主党。一月十五日夜、東京・深沢の小沢邸から車で数分の小沢の後援者宅。人目を忍んで車を乗りつけたのは、民主党代表・小沢一郎、代表代行・菅直人、幹事長・鳩山由紀夫の三人だった。ホテルや料理屋を使わなかったのには理由がある。これは政権移行準備を具体化させるための“極秘トロイカ会談”だったのだ。足元が揺らぎ続ける自民党を尻目に、民主党に雑音は少ない。
小沢は、政権奪取後、「最初の百日が勝負を決する」と考えている。政権移行期に何をし、どういう形態の統治機構を作るかの研究は、党行政改革調査会長・松本剛明を中心としたメンバーですでに内々に進められてきた。一方で、総選挙勝利=政権交代を前提とした動きが表面化することを小沢は極度に嫌っている。各選挙区の前線で戦っている候補者が緩んでは、戦局が一瞬にしてひっくりかえってしまうことを知っているからだ。
小沢は「政府には現状で七十人の議員を配しているが、これを官房副長官や副大臣の増枠によって、百人の議員にまで増やして、官僚主導とは決別した政治主導の態勢をつくりあげる」と述べている。さらにいくつかの我がままな“研究テーマ”が与えられている。「国会の委員会に縛られるのはごめんだ。法的に首相出席を義務付けているものはないはずだ。国会も通常国会の百五十日間以外に臨時国会をあえて開く必要はない」、「記者クラブを廃止して、内外に開かれた姿にすべきだ。昼と夕のぶらさがり取材もやりたくない」。
霞が関もこうした動きに呼応し始めている。永田町に情報網を張り巡らせる財務省は「民主党政権も組み易し」の結論を得たとされる。その財務省の中心となっているのが主計局次長・香川俊介。かつて竹下内閣の官房副長官だった小沢の秘書官を務め、今や主計局内でも民主党政権を見越して、ほぼすべての案件について、香川の了解を取り付けることが暗黙のルールだという。香川も小沢のもとを訪ねる回数が増えた。予算案審議をめぐる与党の思惑も小沢に筒抜けだった。
外務省も負けてはいない。ジュネーブ国際機関政府代表部大使兼ジュネーブ総領事・宮川真喜雄を本省の国際協力局審議官として呼び戻したのだ。宮川も香川と同じ時期、小沢の秘書官として仕えた。日米間で燃え盛っていた電気通信交渉や建設市場開放交渉を決着させるため、単身米国に乗り込み、それを実現させた小沢を陰で支えたのが宮川だった。帰任命令は「小沢シフトを準備しておくため」というのが、省内の定説となっている。
最近ではいよいよ「首相になる覚悟」を固めたという小沢だが、依然として、小沢政権は短命との見方も根強い。では、その際、誰が後継指名を受けるのか。鳩山、菅、岡田克也らが小沢に意見することもなく大人しいのは、それぞれが期待に胸を膨らませているからに他ならない。不安材料といえば、国対委員長・山岡賢次の「裏献金疑惑」ぐらいだろう。与党幹部は「敵失でもなんでも勝ちは勝ち。国会で徹底追及する」と勢い込む。
捨て身の麻生と余裕の小沢の激突は、景気動向、定額給付金、醜聞――いずれにせよ、一瞬の風をどちらが掴むかが勝敗を分けるだろう。(文中敬称略)