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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090119-02-1301.html
続・麻生政権蟻地獄
2009年1月19日 The Commons
昨年11月のはじめに「麻生政権蟻地獄」というコラムを書いた。麻生総理は通常国会が始まる前までに解散を断行しないと「蟻地獄に落ちる」という趣旨のコラムである。国会がない時の総理は最高権力者として思い通りに振る舞うことが出来る。しかし国会が始まればそうはいかない。国会には十重二十重の計略が待ち受けている。それが独裁政治とは異なる民主主義政治の民主主義たる由縁である。
国会が始まれば総理の前にはまず野党が立ちふさがる。それを力で押し除けようとすれば国民の目に権力の横暴と映る。気に入らなくとも野党の言い分を勘案しながら政治の道筋を作る必要がある。しかし野党の反対は想定の範囲内である。やっかいなのはそれよりも味方が背後から撃ってくる鉄砲である。
与党の人間は正面から総理に逆らう事は出来ない。逆らうためには与党の陣営から外に出なければならない。今回の渡辺喜美氏の行動はそうしたものだが、これは目に見える反逆だから野党と同じに対応すればよい。しかし本当に怖いのは目に見えない後ろからの弾丸である。それが野党との対立を口実に、与党の手によって国会対策の中に入り込む可能性がある。総理を擁護するように見える動きが実は総理の首を絞める場合で、政治の世界にはそうした事が珍しくない。
例えば安倍元総理が政権を投げ出したのは病気のせいになっているが、私が前から指摘しているようにあれは自民党に追い込まれた結果である。インド洋での海上給油を継続するため安倍元総理が切望した臨時国会の早期招集を自民党国対は黙殺した。安倍元総理にしてみれば、自分の総理在任中に自衛隊がインド洋から引き上げる場面に立ち会わなければならない。あちこちで国際公約をしてきた面子は丸つぶれになる。恥をかかされて退陣に追い込まれるよりも自分から辞めてやるというのが安倍元総理の心情だったと推察するが、そこまで追い込んだのは自民党である。
また自民党国対は、安倍政権誕生以来「安倍カラーを打ち出すため」と称して重要法案を次々強行採決した。勿論安倍元総理のお墨付きを得た上での強行採決だから、国対に罪はないと言うことも出来るが、政治を知っている者ならば、誰でも首をひねりたくなるほど不必要な強行採決を連発した。特に教育基本法の改正などは自民党内も含めて大方の意見が民主党案を取り入れた修正が望ましいとしていたにもかかわらず、安倍政権は対決姿勢を鮮明にして強行採決に持ち込んだ。
そうした姿勢の積み重ねが参議院選挙での惨敗をもたらす。赤城農水相の絆創膏事件ばかりがやり玉に挙げられたが、国民の心理の底には「何故これほど野党を無視して強行するのか」という素朴な疑問があった。選挙中、東北・北海道を旅していた私は至る所でそうした国民の声を聞いた。安倍元総理は気づいていないが、政権の首を絞めていたのは自民党国対の「安倍カラー」忠実路線だったのである。国対が分かっていて意識的にやった可能性も否定できない。安倍元総理の政権運営に不安を持つ勢力が福田氏への交代を求めて後ろから鉄砲を撃った可能性もあるのである。
私の見るところ、自民党が麻生政権を支えようとしていたのは10月末までである。麻生総理が10月末に解散を回避したところから状況は変わった。自民党はシナリオなき政局に突入することになった。そこで政府与党を担う面々が腹に一物を持ちながら態度を変えざるを得なくなった。解散権を持つ総理がやらないと言うのなら仕方がない。その路線を追究するとどれほど痛い目に遭うかを思い知らせるしかない。麻生政権の首を絞めることになると知りながら全員が従順を貫くことにした。
本気で支えるつもりなら諫言を厭わないのが本当である。しかし今の自民党はそうではない。大島国対委員長も、細田幹事長も、与謝野財政金融担当大臣も自分が思ってもいない道を歩いているように私には見える。前に自民党の現状は太平洋戦争末期の日本とよく似ていると書いた。このまま行くと自民党は玉砕するまで解散をやらずに頑張るつもりに見える。そうなると耐えられない者は後ろから鉄砲を撃つか、離脱するしかなくなる。
野党はこれまで早期解散を求めてきたが、こうなるとじっと見守るのが得策のように思えてくる。日本国のためには「政策よりも政局」で、早期解散に追い込み国民の信任を得た政権が政策を繰り出すことが最善なのだが、玉砕戦法の敵に対して戦いを挑むと思わぬ損害を被ることがある。それよりも同士討ちを見守る戦術の方が「スマート・パワー」になる。
なるべく早く第二次補正予算を成立させ、定額給付金の支給に道を開くと、支給の現場となる市町村からは悲鳴が上がる。日本全国一斉支給は難しいから支給の時期にバラつきが出る。それで支給する側にも受け取る側にもイライラが募る。国民は定額給付金の意味をもう一度考え直すことになる。次に来年度予算審議が始まれば消費税の問題も出てくるし道路財源の問題もある。否応なく与党の同士討ちが起こる。それが麻生政権の崩壊を早めるだけでなく自民党の力を削ぐ。
そうなると民主党は今国会にかける筈だったエネルギーを衆議院選挙と来年の参議院選挙の準備に当てることが出来る。政権交代が実現したら民主党が直ちにやるべきは参議院での単独過半数獲得である。その「政局」をやりきらないと思うような「政策」は実現できない。その準備はすでに始められていると思うが、こうした状況のすべては10月末に麻生総理が解散を回避したことに始まる。そして通常国会が始まれば「蟻地獄」に嵌ることが明白であるのに自民党は麻生政権を代えなかった。
かつて森元総理を引きずりおろした時の自民党とは大違いである。自民党は「安倍、福田に続いて麻生も辞める事になれば国民の支持を失う」と言うが、国民は麻生に代われる人材が枯渇した自民党に失望している。渡辺喜美氏をはじめ麻生政権に異を唱える中堅・若手はいずれも大将の器にはなれない軽量級揃いだ。もはや自民党の終末としか思えない状況が続いているが、ただ一つ気になるのは「窮鼠猫を噛む」の例えである。追い込まれた麻生政権が民主党のスキャンダル暴露に血道を上げたりすると、政治は大混乱して金融危機対策どころの話ではなくなる。
まもなくオバマ新大統領が誕生する。おそらくこれまでの国際通貨体制を大変化させる「オバマ・ショック」が世界を驚かす事になると私は思っているが、そうした大変化に日本の政治が対応できなくなる混乱だけは避けて欲しい。しかし今の与党にそれを受け止めるだけの余裕があるかどうかが不安である。
(田中良紹)