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(2010年1月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
【記事転載元JBpress:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2562】
中国からの撤退もあり得るというグーグルの脅し、鉄鉱石の価格交渉、米国による台湾への武器売却――。この3つの出来事の共通点は何か? いずれも、中国のハッタリに、やれるならやってみろと挑んだ例だ。
中国からの撤退を検討しているというグーグルの突然の発表は、資本主義下における最も理想主義的な企業の1つである同社が権威主義的な圧力に屈した4年間に終止符を打つものだ。
グーグルは4年前、中国進出を認めてもらう見返りに自らの信念を曲げ、検索結果を検閲することに同意した。この決断は大きな懸念を呼び、情報に自由にアクセスできるようにするという同社の哲学を歓迎していた熱心なファンからも失望の声が相次いだ。
グーグルほど強大な会社までが中国政府の要求に屈した時、当局はこれを、自分たちが今やほぼ誰でもひざまずかせることができる証拠だと解釈したに違いない。もし中国でビジネスをしたいのなら、我々の言う通りの条件でやれ、というのが暗黙のメッセージだった。
グーグルでさえ屈したなら、すべて意のままになると思った中国政府
経済力の中国シフトが鮮明になるにつれ、そして新たに富を得た数億人の消費者を顧客にしようと世界中から企業が群がってくるにつれ、中国政府は間違いなく、企業の行動も自分たちの思うように統制できると考えたのだろう。
しかし、グーグルはついに反旗を翻した。直接のきっかけは、同社のサービス「Gmail」のアカウントに、連携の取れたサイバー攻撃が何度も仕掛けられたことだった。
同社によれば、セキュリティーを破られたことが最近発覚したため調査を進めたところ、中国での人権擁護運動の支援者数十人のメールアカウントが「フィッシング」をはじめとするオンライン詐欺のプログラムによって日常的にアクセスされていたことが分かったという。
グーグルは「中国における事業の実行可能性を再検討する」と述べた声明文の中で、「ウェブ上での言論の自由をさらに制限しようとする過去1年間の試み」の存在をほのめかした。この物言いからは、インターネット監視の技術を高めた――そしてより攻撃的になった――中国当局に対する同社の幻滅が深まっていることが読み取れる。
建国60周年など当局が神経質になる記念日の多かった昨年、中国ではユーチューブ、フェースブック、ツイッターなど数多くのインターネットサービスが利用できなくなった。グーグルでも、2006年1月に中国でのサービスを始める際に感じた「不快感」がついに限界に達したのだ。
同社の決断が純粋に倫理的な観点からなされたものかどうかは分からない。商業的な観点から撤退を決め、それを倫理的な観点からの怒りでカムフラージュしている可能性もあるだろう。しかし理由はともあれ、グーグルは中国政府のハッタリに対し、やれるものならやってみろと挑んだのである。
最大顧客の中国を無視して日本企業と交渉を始めた鉱業大手
同じようなことが、サイバースペース以外の場所でも起きている。泥臭い鉄鉱石の世界である。
ブラジルのヴァーレ、英豪系のリオ・ティントとBHPビリトンの鉱業大手が最近、日本の顧客企業とベンチマーク(指標)価格の設定交渉に入った。幹部らによれば、ここで決まるベンチマーク価格が「これがお気に召さなければ他社にどうぞ」というスタイルで中国に提示されるという。
海路で輸出される鉄鉱石の半分以上を宝鋼集団をはじめとする中国企業が買い付けていることを考えれば、中国に対するこの冷遇ぶりは尋常ではない。
しかし、こうした事態を招く原因となったのは、どうやっても攻撃できないように見えた中国の強い立場だった。鉄鉱石の大手生産者は、昨年の価格交渉における中国側のやり方は強引すぎると強い怒りを覚えていた。中国は価格面で譲歩しなかったうえに、中国在勤のリオ・ティントの幹部、スターン・フー氏と社員3人の身柄を商業上の秘密を盗んだという容疑で拘束したからだ。
グーグルと同様、鉱業大手もこれで堪忍袋の緒が切れた。そこで各社は事業の一部を(少なくとも、価格決定という重要な事業を)ほかの国に移した。その結果、中国の鉄鋼メーカーは鉄鉱石の調達に高い値段を払わされる羽目になるかもしれない。
中国のハッタリに挑んだ3つ目の事例は、米国防総省が先週決めた台湾への武器売却である。中国は以前から、売却に反対する姿勢を強めてきていた。軍事交流も既に中断させていた。そして今週に入り、最新のミサイル迎撃システムの試験を予告なく実施し、成功したと高らかに謳い上げた。
中国の不快感をよそに台湾に武器を売る米国
中国がこのタイミングで試験を行ったのは不快感を示すためだと見られるが、恐らく米国はそんなことは意に介さず台湾に武器を売却するだろう。ここでも、中国は自らの力を過大評価し、やり過ぎた可能性がある。
中国にとって昨年は良い年だった。すっかりおとなしくなった欧米諸国と比べ、中国の銀行は資産内容が比較的健全であることを、消費者は消費マインドがさほど弱くないことを見せつけた。経済もはるかに回復力があることを示した。
バラク・オバマ米大統領が初めての訪中で見せたボディランゲージは、時代が中国に有利な方向に傾いているという、既に明白だったことを改めて浮き彫りにした。しかし、こうした成功が中国政府を舞い上がらせ、慢心させたのかもしれない。
コペンハーゲンで開催された気候変動サミットで、二酸化炭素(CO2)の排出量削減の対価として資金援助を求めた要求が米国に完全に拒否されたことが示すように、常に中国の思い通りに物事が運ぶわけではない。支援が必要な途上国の顔と、敬意を払うことを他国に求める新興大国の顔とを使い分けることは、ますます難しくなってきている。
中国には百度(バイドゥ)という国産検索エンジンがある。いざとなれば、グーグルなしでもやっていけるだろう。
強硬姿勢が過ぎると・・・
しかし、強硬すぎる姿勢を取らないように中国が注意すべき分野はほかにもある。その最たる例が為替レートの問題である。人民元が事実上ドルに再度ペッグされたために、ドル安に伴って元が安くなり、中国の輸出競争力が非常に強くなっている。実際、昨年12月には輸出額が前年比18%という高い伸びを示した。
中国はこれまで、米国の議員から不満を聞かされたり、中国製タイヤへの関税上乗せなど象徴的な制裁を数件受けたりするだけで済んでいた。しかしグーグルの一件は、誰にでも我慢の限界があること、今年の米国が中間選挙を控えていることを考えれば特にそうであることを改めて教えてくれた。
By David Pilling