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(2010年1月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
記事転載元:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2495
1945年以降ずっと、米国は「自由な世界」のリーダーたることを自認してきた。ところが今、オバマ政権は国際政治の舞台で、好ましくない意外な事態の展開に直面している。発展途上国の中で戦略上最も重要な4大民主主義国家――ブラジル、インド、南アフリカ、トルコ ――が、次第に米国の外交政策と反目し合うようになってきたのだ。
これらの国は大きな国際問題について常に米国の側につくのではなく、それと同じくらいの確率で中国やイランなどの専制国家と歩調を合わせる。
米国はこうした事態に気づくのが遅かった。恐らくは、それが非常に意外であり、不自然なことだったからだろう。大半の米国人は、仲間の民主主義国家は国際問題について、自分たちと同じ価値観や意見を共有するものだと考えている。
前回の大統領選の最中、共和党の大統領候補だったジョン・マケイン議員は、専制国家に対抗する民主主義国家の国際同盟の形成を訴えた。バラク・オバマ大統領の上級顧問の中にも、民主主義国家の国際連盟について熱心に論じる人がいた。
民主主義国家とて自然と結束するものではない
しかし、ここへきて、世界の民主主義国家が自然と結束するという前提は、根拠がないものだったことがはっきりしてきた。それを裏づける一番新しい材料は、コペンハーゲンで開催された気候変動サミットで見られた。
「不十分ながら前例のない合意」、COP15で米大統領
米国の代表団は協議の最終日に、オバマ大統領と南ア、ブラジル、インドの首脳の間で一対一の首脳会談を設定しようとしたが、ことごとく失敗した。インドの代表団に至っては、マンモハン・シン首相が既に空港に向けて出発したと言って会談を断った。
このため、オバマ氏は中国の温家宝首相との土壇場の首脳会談に駆けつけた際に、温首相がほかでもないブラジル、南ア、インドの首脳たちと既に交渉を始めていたことを知り、多少馬鹿を見た気がしたに違いない。
米国大統領がテーブルに着けるよう、その場にいた各国首脳が席を詰めなければならなかったことは、象徴的だった。
多くを物語るコペンハーゲン・サミット
起きているのは、そんな象徴的な出来事ばかりではない。コペンハーゲン・サミットでは、ブラジル、南ア、インドの3カ国は、途上国であるという地位が民主主義国家であるという地位よりも重要だと判断した。
これら3カ国は中国と同じように、途上国の温室効果ガス排出量の上限を米国や欧州連合(EU)の排出量よりも低いレベルに設定することは、根本的に不公正だと主張。既に大気中に放出された二酸化炭素(CO2)の大部分は、工業化が進んだ西側諸国に責任がある以上、なおのことだ、と訴えた。
ブラジルと中国の指導者たちが全く同じきつい冗談を口にしたことが、現状を雄弁に物語っている――彼らは米国のことを、宴会でがつがつ飲み食いした挙句、隣人たちをコーヒーに招いて、勘定を分担するよう頼む金持ちになぞらえたのである。
もし気候変動が孤立した事例だったとすれば、この一件は必然的に貧富の差で各国が線引きされる、重要ながらも例外的な問題として一蹴できるかもしれない。
だが実際、ブラジルと南ア、インドとトルコ――それぞれ中南米、アフリカ、アジア、大中東圏において最も重要な4大民主主義国家――を見ると、米国、あるいはもっと広範な「民主主義国家の共同体」にとって頼りになる同盟国は一国たりともないことは明白だ。
米国にとって頼りになる同盟国は?
カダフィ大佐、「南半球版NATO」構想を呼び掛け 南米アフリカサミット
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は過去1年間、中国と実入りの大きい石油協定を結び、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領を擁護するような発言をした。そのうえ、イランの大統領選に際してはマハムード・アフマディネジャド大統領の「勝利」に祝いの言葉を述べたうえ、ブラジル公式訪問に招いて同大統領を歓迎してみせた。
一方、南アは2006年から2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国を務めた際、毎度のように中国、ロシア両国と歩調を合わせ、人権問題に関する制裁決議を阻止したり、ジンバブエ、ウズベキスタン、イランなどの独裁政権を擁護したりした。
また、冷戦時代は米国の重要な同盟国と見なされ、その後はイスラム教国の中で唯一、世俗主義を取る親欧米派の民主主義国と称えられたトルコも、もはや西側にとって頼りになる同盟国ではない。米国が主導したイラク侵攻以来ずっと、トルコの世論調査には、かなり強い反米主義が表れている。
穏健なイスラム主義を掲げる公正発展党(AK党)政権は、中東における米国の敵――ハマスやヒズボラ、イランなど――に積極的に関与する一方、イスラエルに対する敵対姿勢を強めて米国を警戒させた。
一方、インドの指導者たちは、米国と「特別な関係」を築いたことを大事にしているように見える。しかし、そのインドもしばしば、気候変動から新多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)、イランやミャンマーに対する制裁追求に至るまで、様々な国際問題で米国に反対する立場を取る。
途上国としてのアイデンティティー
では、一体何が起きているのだろうか? その答えは、ブラジル、南ア、トルコ、インドはいずれも、民主主義国家であるというアイデンティティーが今、白人が支配する豊かな西側諸国に属さない途上国としてのアイデンティティーと拮抗している――あるいは、それに負けている――国だということである。
4カ国はすべて、国内においては自らを社会正義の擁護者と見なし、国外においてはより公正な世界秩序の擁護者と見なす与党を戴いている。
ブラジルの労働者党、インドの国民会議派、トルコのAK党、南アのアフリカ民族会議(ANC)はいずれもグローバリゼーションに適応したが、グローバル資本主義、そして米国に対する昔からの疑念を払拭したわけではない。
オバマ氏は、前任のジョージ・ブッシュ氏よりは格段に好ましい人物だと見られているが、それでも彼が米国大統領であることには変わりない。台頭するグローバルな新興勢力として、そして発展途上国として、ブラジル、インド、南ア、トルコはしばしば、民主主義の米国よりも台頭する中国との方が共通点が多いと感じるのだろう。
By Gideon Rachman