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【記事転載元:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2293】
プーチン首相は大統領時代から日本との領土問題解決に熱心だった。だが、日本との対話が始まったかと思えば、すぐに元の状態になってしまうことに、いつも落胆していた。彼は今までに、少なくとも3回は大きな落胆に包まれている。
ロシア政府高官、北方領土問題で「不法占拠」発言に不快感
こうやって落胆が続くのは、ある種の悪循環だと言えるだろう。11月末にロシア大統領府長官のセルゲイ・ナルイシキン氏が来日し、鳩山由紀夫首相と会談した。北方領土問題は会談の大きなテーマだった。やはり悪循環は続いているのだろうか。
ナルイシキン長官は、領土問題についての対話が成果を出すには、以下の3つの条件があると主張していた。
(1)国際法の枠内で行われるべき、(2)お互いの立場への尊敬と理解のもとで行われるべき、(3)感情的、政治的な対立につながる言動をなくすべき、ということである。また「両国の原則的な立場は、まだ正反対である」ことを踏まえながらも、「対話」を続けるつもりであると強調していた。
しかし、ナルイシキン長官と一緒に来日していたロシア代表団のメンバーから聞いたところ、プーチン首相を中心としたロシア中枢の政治家たちは今の日本の対応に落胆しているという。ナルイシキン長官と鳩山首相との「対話」は、何か実りがあったのだろうか。
歩み寄りそうで、結局、もの別れに終わってきた対話
「落胆」の悪循環を理解するために、今までの「対話」の経緯を振り返ってみよう。
1997年から98年にかけて、当時のエリツィン大統領と橋本首相の間で「ネクタイなし」会談が2回行われた。しかしこの会談は成功しなかった。その理由は、2回目の会談(場所は静岡県・川奈)で、日本側は4島を2島ずつに分けることに賛成したものの、国後と択捉に関しては、日本の主権の承認を要求していたからである。
日本は歯舞・色丹を引き渡すことになるものの、ロシアからしてみれば、これでは事実上「4島返還」にも等しいので、「受け入れられない」と反発した。その時以降、問題解決の具体的な案は出なくなり、両国の歩み寄りができない状況となった。
このように、ロシアと日本が平和条約を結べるかどうかは、国後・択捉の所有権をどう定義するかが大きなポイントとなってくる。
2000年にプーチン政権が誕生して、話し合いは両国の外務省のレベルで進んだ。その中で、4島を2島ずつに分けて別々に討議する合意ができたが、具体的には進展しなかった。その後、小泉政権時代に、外務省内の「ロシアンスクール」バッシングに伴って、合意へのプロセスはつぶされてしまった(ロシアンスクールとは、省内でロシア語を専門外国語とするグループを指し、その中で東郷和彦氏らを中心とするグループは「2島プラスアルファ」での解決を考えていた)。これはプーチンの最初の落胆である。その結果、ロシアには、「2島返還」という妥協を否定する声が強くなった。
この状態を突破する新しいチャンスとなったのは、2008年のメドベージェフ大統領政権の誕生である。2008年11月の麻生前首相との会談で、メドベージェフ大統領は北方領土問題解決への強い意欲を示した。
また、2009年5月に来日したプーチンは、「対話」を通じて両国が受け入れられる選択肢を検討しようというメッセージを発した。その「対話」の場となるのは、7月にイタリアで開催されるサミットのはずだった。
ところがサミットの直前に、日本の国会が北方4島を「固有の領土」として定義し、また、麻生首相が「4島の不法占拠」と発言したことなどがあって、またもや問題解決の実現は遠のいてしまった。これはプーチンにとって2回目の落胆だった。
2009年9月に鳩山政権が誕生すると、クレムリンは問題解決のチャンスが来たと受け止めた。2回鳩山首相に会ったメドベージェフ大統領は、鳩山首相にはやる気があるという印象を受けた。「両国は原則論の立場に固執することなく、歩み寄らなければならない」というのが、メドベージェフ大統領から鳩山首相に送られたメッセージだった。
しかし11月下旬、日本政府は「ロシアが北方4島を不法占拠している」という政府答弁書を決定した。対話が始まらないうちにまたつまずいてしまったのだ。これはプーチンにとって3回目の落胆である。
中国の成長を考えれば、残された時間は少ない
こうした状況の中で、ロシアのナルイシキン長官は鳩山首相に会った。会談後の発表によれば、鳩山首相は「ロシアを『アジア太平洋地域のパートナー』と位置づけ、日露間の経済関係を『車の両輪』の片輪として発展させたい」との考えを表明した。
両国をつなぐ1つの車輪が経済協力だとすれば、もう片方の車輪は北方領土問題である。注目に値するのは麻生前首相と違って、鳩山首相が2つの車輪を結びつけなかったことである。ナルイシキン長官は会談の後に、「鳩山首相の領土問題の捉え方はバランスが取れている」と発言を評価していた。しかし、これだけで領土問題の解決へ向けた本格的な対話が始まるとは考えられない。
経済と領土問題だけではなく、日本とロシアをつなぐもう1つの車輪がある。それは米国・中国という超大国の狭間に置かれている日本とロシアの「戦略」である。
中国が大国化している成長のペースを考えると、日ロが領土問題を片づけて本当のパートナーシップを構築するまでの時間は、あと10年しか残っていないと確信している。
しかし、帰国するナルイシキン長官が乗っていた飛行機に、日本からある言葉が聞こえてきた。「ロシアによる北方4島の不法占拠は、日本国民の共通の認識」という前原誠司・沖縄北方担当相の言葉である。政府の有力大臣の1人がこう言ってしまっては、政府間の対話が難しくなる。プーチンは4回目の落胆をすることになるかもしれない。