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ウォール街で高まる排出権デリバティブへの期待−COP15開幕へ 【Bloomberg.co.jp】
【記事転載元:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=ab0dz7Eq9byc】
12月4日(ブルームバーグ):ウガンダのあちらこちらの地域で、数千人の女性たちが新品の調理用こんろで夕飯を温めている。こんろの値段は8ドル(約700円)。粘土と金属でできたこの調理器具を使えば、東アフリカで一般的な直火での調理と比較して燃やす木炭の量を約3分の2に抑えることができる。
ウガンダから約4000マイル(約6400キロメートル)離れたロンドンにある自動車ブランド「ランドローバー」のディーラーでは、「レンジローバーボーグ」が9万ポンド(約1290万円)で販売されている。フロントガラスに張られた青いステッカーには、このガソリン車の購入から最初の走行距離4万 5000マイル(約7万2421キロメートル)は「カーボンニュートラル」であると記載されている。それは、ランドローバーが、ウガンダで新品の調理用こんろを提供することにより温暖化ガスの排出削減を支援しているからだ。カーボンニュートラルとは、排出される二酸化炭素(CO2)の量が相殺されることを意味する。
これら2つの世界は、米JPモルガン・チェースのブライス・マスターズ氏の事務所で融合した。マスターズ氏(40)は商品担当の世界責任者として同社の環境事業を統括している。JPモルガンは2007年、ランドローバーが英クライメートケアからCO2排出権を購入する取引を仲介した。クライメートケアは世界各地で省エネプロジェクトの開発を手掛けている。ランドローバーはこの排出権を、同社製自動車のCO2排出量を相殺するために利用している。
市場規模は最大2兆ドル
米ウォール街の金融機関にとって、この種のCO2排出量の任意取引は、米国が温暖化ガス排出取引プログラムの義務付けを開始する日に備えたリハーサルのようなものだ。世界の192カ国が今月7日からデンマークのコペンハーゲンで開幕する第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に備えており、この会議では米国と中国も含めた温暖化対策の新たな枠組みの策定が目指される。米中両国は世界最大のCO2排出国。JPモルガンやゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタンレーなどの金融機関は交渉の行方を注意深く見守っている。
京都議定書は、欧州でCO2取引制度が創設されるきっかけとなった。銀行各行は米国でも同様の制度が設立されることを望んでいる。京都議定書は12年に期限を迎える。
米上院は、米国が排出する温暖化ガスの取引にキャップ・アンド・トレード方式(政府が定めた総排出量に基づいて企業などに排出枠を割り当て、排出枠の一部を取引することを認める方式)を導入するクリーンエネルギー法案について審議している。同様の法案は下院で6月に可決された。計画が実行に移されれば米国の産業は一変し、電力や石油、ガス会社のほかガス掘削会社、セメントメーカーなどの大手企業はCO2などの温暖化ガスの排出量を算定し、排出量に応じてコストを支払うことを余儀なくされる見込みだ。
キャップ・アンド・トレード方式が導入されると、米国の排出権市場規模は3000億−2兆ドルと推計されている。
銀行がけん引役に
銀行各行は、この産声を上げつつある市場の仲介業者になることを目指している。米国の温暖化対策法案が成立するまでには1年以上を要する可能性もあるが、ウォール街の金融機関は既に、ロビイストの採用や、顧客に売却するための「カーボンオフセット」を提供できる企業との取引に数億ドルを投じている。カーボンオフセットとは、排出するCO2を他の場所でのクリーンエネルギー事業などによって相殺しようとする取り組み。
例えばJPモルガンは08年初めにクライメートケアを買収した。買収額は公表していない。今月には、カーボンオフセット関連プロジェクトの開発で最大手のエコセキュリティーズ・グループ(ロンドン)に対する2億1000万ドルでの買収を完了する見通しだ。
マスターズ氏は、CO2取引システムの義務付けが地球を救うことにつながるなら、銀行各行はけん引役を担うことを許されるべきだと主張。CO2関連のデリバティブ(金融派生商品)は企業による長期的な価格リスクのヘッジに役立つと予想されるため、システムの一部に組み込まれる必要があるとの見方を示す。
マスターズ氏は「これにより、資本投入先の大規模な変更が必要になる。金融機関の極めて深い関与なしに気候変動対策の成功はあり得ない」と語る。
デリバティブの細分化を懸念
ワシントンの議員らはウォール街の金融機関が何らかの新たな取引を手掛けることに警戒心を抱いているが、注目しているのはデリバティブだ。デリバティブのうち最も悪名高いのは債務担保証券(CDO)であり、それを保証するためのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だ。CDSは債券保有者をデフォルト(債務不履行)から保護する保険のような契約。CDOは、サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンなどの債券を一まとめにし、細分化して投資家に売却されるものだ。
米上院のマリア・カントウェル議員(民主、ワシントン州)は「排出権先物も細分化され、いずれ問題になるだろう」と述べ、「市場関係者が作り出そうとしている次なる取引手段を先取りすることはできない」との見方を示す。
マスターズ氏は、排出権市場では、デリバティブはCDOやCDSのようなものではなく、企業にとって事業に関連する他の商品同様にCO2の価格を固定できる先物やオプション、スワップのような役割を担うとみている。
流動性vs規制強化
マスターズ氏は「最悪のシナリオは、環境に関する目標の達成に結び付かない法案が提出されることだ。そうなれば、途方もないスケールの犯罪と言える」と指摘する。
国際環境保護団体フレンズ・オブ・ジ・アースの政策担当シニアアナリスト、ミシェル・チャン氏(サンフランシスコ在勤)は納得していない。「金融に関する改革や新規制の検証が終わっていない段階で、本当に新たに2兆ドル規模の市場を創出すべきなのだろうか。衝撃的な規模の信用危機から立ち直ろうともがいているわれわれの現状は、現実の世界で起こっていることだ」と警告する。
キャップ・アンド・トレード方式の支持者らは、今後長い年月をかけて米国の産業の在り方が変化し温暖化ガスが急減すると期待している。ただ、さらなる流動性を求める銀行側と規制強化を望む議員側との議論が決着しないかぎり、何かが実現する可能性は極めて低い。
(英語原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌2010年1月号に掲載)