★阿修羅♪ > 国際4 > 594.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091130/198109/?P=1
2009年11月30日
EU(欧州連合)に加盟する27カ国すべてがリスボン条約を批准したことを受けて、ついにEU初代大統領(EU首脳会議の常任議長)が決まった。2009年11月19日のEU臨時首脳会議で選出されたのはベルギー首相のヘルマン・ファンロンパイ氏(62歳)だった。下馬評で名前が取り沙汰されたトニー・ブレア氏(前英首相)でも、メルケル氏(ドイツ首相)でもなかった。
たまたま私は11月上旬に『衝撃!EUパワー 世界最大「超国家」の誕生』(朝日新聞出版)を出版しばかりで、EUが21世紀の超国家として登場してくる最初の振り付けが大切である、と述べたところである。私にとってもかなり意外な人選であり、正直、非常にがっかりした。
大方の予測を裏切ってベルギー首相のファンロンパイ氏に決定
まずはファンロンパイ氏の簡単なプロフィールを押さえておこう。下の図を見ていただきたい。
ファンロンパイ氏がベルギー首相に就任したのは2008年12月30日のこと。首相としての実績も1年に満たない。フランス語を話す南部ワロン系とオランダ語圏の北部フラマン系の対立を調整し、ベルギー国家分裂の危機を回避した「調整型の人」と言われている。90年代にはベルギーの予算相を務め、債務残高の大幅削減に尽力した。ベルギー国内ではそれなりの偉業を達成していることは認めよう。悪い人物ではないのだろうが、今の世界情勢を俯瞰した場合、EU大統領にふさわしいとは思えないのである。
日本人から見れば「趣味が俳句」というのだから多少興味もわくが、英語に翻訳された俳句(オリジナルはオランダ語)を見ても、何を言いたいのかその価値が私にはわからなかった。言語については、母語のオランダ語のほかに英・仏・独語を操るそうだ。彼の経歴をひもとくとこのような項目が挙がるだけで、失礼を承知で書けば、世界最大の超国家EU大統領にふさわしい人物とは言いがたい。
【「ヨーロッパはジョージ・ワシントンを選ばなかった」】
EUの新しい基本条約である「リスボン条約」の原型づくりに尽力したジスカール・デスタン氏(1974〜81年の仏大統領)にしてみれば、この決定は納得できないものだろう。ファンロンパイ氏が選ばれたことに対して、彼は皮肉を込めて「ヨーロッパはジョージ・ワシントンを選ばなかった」と評した。
ジョージ・ワシントンと言えば、アメリカの初代大統領だ。アメリカという国は、イギリス本国との独立戦争後に13の植民地が一つにまとまってつくられたのが始まりで、その最初の大統領になったのが陸軍最高司令官だった英雄ジョージ・ワシントンである。初代大統領としてふさわしい格を持っていることは、皆が認めるところである。そのワシントン大統領のもとで初代国務長官を務めたのがトーマス・ジェファーソンで、彼はアメリカ独立宣言を起草した人物、また第3代大統領として知られている。
このように、ジョージ・ワシントン(初代)、トーマス・ジェファーソン(3代)、クインシー・アダムズ(6代)と連なる初期のアメリカ大統領の名前を挙げてみると、彼らがアメリカという国をつくり上げたことがよくわかる。「どういう人物を自分たちのリーダーとして選択するか」という極めて重要な問題は、「どういう国家をつくりたいか」というテーマと密接に関連しているのだ。13の州が、自分たちの御しやすい人物ではなく、最も優れた指導者を選んだからこそ合衆国はその後世界のリーダーの地位を確立したのだ、という意味合い(と現役指導者たちの不甲斐なさに対する落胆)がジスカール・デスタン氏の発言から読みとれる。
彼らアメリカ大統領に比べれば、ファンロンパイ氏は妥協の産物であり、今後EUを世界最大の人口とGDP(国内総生産)を持った国家として、中国やアメリカに伍していける国際的な指導力を発揮する人物であるとは考えにくい。カリスマを選んだ米国と無名を選んだEUは、極めて対照的に映る。これでは何のためにリスボン条約を無理して2009年中に批准させたのか疑問に思わざるを得ない。2010年にはイギリスの総選挙で保守党のキャメロン党首が首相になる公算が大きい。彼はEUに関してもリスボン条約に関してもかなり否定的である。大国イギリスが後戻りできないように今年中にやっかいなリスボン条約を批准しておこう、とアイルランド(国民投票)やチェコ(EUに否定的なクラウス大統領が批准を渋った)にかなりの妥協をした苦労を忘れたわけでもあるまい。
【「アメリカ追従はもうやらない」がEUの明確な意志】
念のために書き添えておくが、私は「(ファンロンパイ氏は)無名だから悪い」というのではない。無名であっても能力が高ければ問題はないわけだが、ことEUに関して言えば27カ国をまとめていかなくてはいけない。個性豊かなトップを抱える大国や賢い小国などの元首を代表して国際会議にも出なくてはいけない。今まではポルトガルの元首相であるバローゾ氏がEUの委員長として国際会議に出席してきたが、これからはファンロンパイ氏が大統領、バローゾ氏が首相という位置づけになる。だからヨーロッパにおいてさえ無名の「調整を得意とする」政治家が、全世界の注目を集めるEU初代大統領として果たして指導力を発揮できるのか、と懸念を表明せざるを得ないのである。
ジスカール・デスタン氏にしてみれば、世界的に人気の高いイギリスの前首相ブレア氏を期待していたのかも知れない。しかし、彼は直前に急速に下馬評から脱落してしまった。ジョージ・ブッシュ前米大統領にくっついてイラクに行った(ブッシュのプードル犬、という分かりやすい表現が頻繁に使われた)ことに対するヨーロッパ大陸側の指導者たちの反発が予想以上に強かった。EUの明確な意志として、アメリカ追従はもうやらない、と言うことでもある。
その場合、一番人気はドイツのメルケル首相である。ヨーロッパの一般市民のアンケート調査でも彼女がダントツトップになっていた。彼女はEU最大のドイツの首相と言うだけではなく、ロシアとの関係も良好に維持している。東方拡大を続けるEUにとっては東欧出身というのも重要なファクターである。しかし彼女は現段階でドイツの首相を辞めてEU大統領になることを選ばなかった。
サルコジ仏大統領を推挙する人はほとんどいなかった。彼はもともとブレア氏を推挙していたのだが、逆風が吹き始めたらあっさり降りて、ファンロンパイ支持に乗っかってしまった。最後までブレア氏を推していたのはイタリアのベルルスコーニ首相だが、彼もまた自身のスキャンダルなどで影響力が急低下していたので、乗っかる人はいなかった。
結局、年齢や対米、対ロなどを考えてメルケル以外に適任が不在、という状況となった。ファンロンパイ氏の名前が挙がったのは、選ばれる直前だった。決定の1週間前にあたる11月11日、EU議長国スウェーデンのラインフェルド首相はEU大統領の人選について多くの候補者がいると述べ、調整が難航していることを示唆していた。結局、推薦された候補者の中から反対者がいない、と言う理由で、ファンロンパイ氏が最終的に選ばれたのだろう。「ヨーロッパはジョージ・ワシントンを選ばなかった」というジスカール・デスタン氏の発言の意味するところは重い。
続きはこちら;http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091130/198109/?P=4