暴力を煽り立てる右派メディア危機意識に満ちた白人排外主義 ゲーリー・フォーリー アメリカで、オバマ政権に反対して極右勢力の暴力が拡大している。この動きは中絶・同性愛、銃器規制に反対し、黒人やムスリムに敵対する白人至上主義と重なり、新たなファシズム運動の様相を示している。日本の主権回復を目指す会、在日特権を許さない市民の会などとも共通する動きに注意する必要がある。(本紙編集部) タウンミーティング攻撃 民主党下院議員が医療制度改革提案について討論するために組織したタウン・ミーティングにおける右翼暴徒の姿は、警鐘を鳴らすべきレベルに達している。特に、反対派右翼には非理性的興奮と、武装した暴力を含む暴力の脅しが見られる。このような噴出は、歴史上のファシズムの発展の多くの特徴を示しており、米国ではこれまで見られなかった規模のものである。 民主党下院議員が組織したタウン・ミーティングに反対する右翼動員のキャンペーンは、少なくとも現存の人々の記憶にある限り、アメリカの歴史における新しい現象である。リンチを求める群衆や魔女狩りは、残念ながら、アメリカの歴史に前例がないわけではない。現在の右翼の動員は、そこに表れている精神状態においてこれらに似ている。しかし、選挙で選ばれた他党の下院議員に反対して主要資本主義政党がこのような暴徒を動員するとか、ブルジョア民主主義的制度に反対するこのような武装暴力の脅かしをともなうことは、これまでになかったことである。 タウン・ミーティングに対するこれらの右翼の動員は、表向きはオバマ体制の増税の脅威に対して組織されたいわゆるティー・パーティーの延長である。六月十六日に「ハッフィントン・ポスト」(リベラル系ニュース集約ウェブサイト)は次のように報じた。バージニア州議会第九十九区の共和党指名候補者キャサリン・クラビルは、最近のティー・パーティーで演説し、反増税運動を防衛するために米国憲法修正第二条(州軍維持の権利の保証)の権利を使用できることを示唆した。この奇妙な表明が、バージニア州の政治的ブログ「ノット・ラリー・サバト」によって取り上げられた。 クラビルは次のように語った。「われわれには、弾薬箱に頼る(戦争に訴える)前に投票箱での戦いに勝利するチャンスがある」「これこそ、憲法修正第二項の利点である。わが修正第二項の権利は、専制に対する守りである」。民主党のタウン・ミーティングへの右翼暴徒参加者も、演説妨害を阻止されたときに口にする言葉が「修正第二項」であった。 「ハッフィントン・ポスト」は八月九日に次のように報告した。「反オバマ・デモに対してバランスを取るために地域の民主党フォーラムに出席した労働組合連合AFL―CIOのある幹部は、彼の言うところの『とんでもないあからさまな脅かし』を労働組合に回覧した」。 「土曜日の朝九時四十分に次のような電子メールが届いた。『わたしは今週末に地域の集会所に行くつもりだ。君たち労働組合員は御用心!われわれは君たちを待っている。君たちは地域の救急病院に準備させておいたほうがいいよ。今日は間抜けどもは銃を食らうだろう。集会所で会おうぜ』」。この脅迫メールは追跡され、南部保守的地域であるジョージア州発であることがわかった。このあたりの住民多数派は、最近の世論調査によれば、米国大統領がアメリカ市民であることを否定しているか信じていない。 この脅かしは唯一の例ではない。労働組合幹部たちは、脅かしが殺到しているとこぼしている。もっとも粗暴なものはウィスコンシン発のものである。「SEIU(サービス従業員労働組合)のある幹部(女性)は、このようなメールを五十通も受け取ったと語っている。その中には以下のようなものもある。公表するのに適切であるように編集してある。『君たち社会主義者のf×××たちは、まだ暴力が起こっていないときにずうずうしくも集会所での暴力をやめるように言うが、暴力が起こったのは君らのn×××指導者オバマに××××するように言われて君らのp×××がさらけ出されたからだ。ウィスコンシン州ラシーンでのわれわれの集会に君らも来たらいい。君らのb×××のだれかがこの海兵隊員に触れてみたまえ。間違って私のほうを見るか話しかけてみたまえ。わたしは君たちの無知なボディーガードたちが長い間忘れていたものだ。君たちはf×××思い知るだろう』」。 暴徒に喝采を送る放送 右翼の動員は、医療改革提案に関する大量の恐ろしい話によって促進された。医療ビジネスに既得権を持つ者たちがこのような戦術に訴えるのは、初めてではない。しかし、今日では、このプロパガンダは陰謀論の性格を帯びている。法律案は老人や障害者が生きるか死ぬかを決定する「死の委員会」を呼びかけている、という最も凶暴なしろものである。 最近では、陰謀論は右翼グループの命の糧になっており、彼らは国を乗っ取ろうとする移民や国連に対してアメリカの主権の防衛を準備しているのだと主張している。このような陰謀論は、ナチズムの特徴のひとつであった。たとえば、ユダヤ人が世界の乗っ取りをたくらんでいる、というような主張である。陰謀論は、近年、毒キノコのように頭をもたげている。しかし、サラ・ペイリン(共和党副大統領候補)やアイオワ州選出上院議員のチャック・グラスレーのような主要資本主義政党の指導者がこれを支持したのは初めてのことである。 タウン・ミーティングの暴徒は、巨大な支持者を持つ右翼報道機関にあおられている。フォックスTVネットワーク、セアン・ハニティ、グレン・ベック、ルー・ドブスのようなTVトークショーのホストたち、ルシュ・リンボーのようなラジオのびっくりジョッキーである。たとえば、セアン・ハニティは八月三日の彼の番組で、タウン・ミーティングの暴徒による襲撃に以下のように反応した。「これこそ、これを阻止するために行われていることだ。やったね、君たち」。 彼は続けて次のように言った。「これまでのタウンホール・ミーティングで、君たちはよくやった。君たちは官僚どもに立ち向かった。彼らのいんちきな決まり文句、議論、スローガンに対抗した。今や世論調査は反オバマに向かっている。(下院議長ナンシー・)ペロシや(上院多数党院内総務ハリー・)レイドも、今や独自の世論調査専門家を動員して君たちをだまし、PR闘争に勝利する方法を探っており、保険会社を攻撃しなければならないと指示している」。 他の右翼トークショーのホストたち、ジム・クインやローズ・テネントも、放送の中で暴徒を喝采している。「まだまだ彼らを死ぬほど怖がらせる時間がある」。八月三日の放送で、彼らは繰り返しタウンホール・イベントにおける女性抗議者のビデオを流した。テネントはこの女性を喝采した。「ウヮーオ!、がんばれ彼女!、ウヮーオ!」 ある右翼TVの暴徒扇動家は、視聴者に「暴徒に加わる」ように促した。一九九〇年代にいわゆる共和党革命とともに登場したこの右翼ブロードキャスターのスター集団は、本質的に、一九六〇年代の改革、女性や少数派有色人種が自分たちより有利に扱われていることに対する高齢白人男性の怒りの反発をあおってきた。今や、この偏狭の増幅器が政治的アジテーション装置になっている。 これは、欧州における一九二〇年代や三〇年代のファシズムの勃興のもうひとつの特徴である。フランスの「ブルバール・ペーパー」やドイツの「ブレッター(3流紙)」のような俗悪大衆紙がそうであった。右翼の主張は、マスメディアの大多数はリベラルに偏っており、したがって右翼スター集団はバランスを回復するために必要とされていると、いうものである。しかし、大手新聞はすべて大企業に支配され、彼らの利益に奉仕しているというのが事実である。いわゆるリベラル派新聞は、考える能力を持った人民に対するある程度の信頼性を維持しなければならない。このことは右翼メディアには当てはまらない。彼らは偏狭者の偏見を単に強めているだけであり、今や偏狭者を興奮に駆り立てている。 また、タウン・ミーティングの暴徒をあおっている右翼宣伝家は、一般に、オバマは本当はアメリカ市民ではないという「バーサー」理論を支持している。ハワイにおけるオバマの出生の議論の余地のない証拠があるにもかかわらず、である。ことの本質はレイシズムにあるので、どんな証拠も「バーサー」の信念を揺るがすことはできない。南部で最も広範に「バーサー理論」が支持されている理由はここにある。南部ではオバマの市民権に関する事実を認める人々は少数派に過ぎない。 二〇〇八年の大統領選挙において、白人の票は圧倒的に共和党であった。たとえば、アラバマでは八八%であった。全体として、共和党多数派はオバマが真のアメリカ人であると確信してはいないが、もっともこれが集中しているのは南部の白人である。 七月二十八日に、AP通信社は次のように報じた。「フォックス・ニュース・チャンネル」のコメンテーターであるグレン・ベックは、バラク・オバマ大統領はレイシストであると考えると語った。ベックは火曜日の「フォックス・アンド・フレンド」モーニング・ショーのゲスト出演中にこれを表明した。彼は、オバマは「白人や白人文化に対する深い憎しみ」を持った人物であることを暴露している、と語った。 同じように、七月二十日にベックは次のように宣言した。「皆さん、心配しなければなりません。(なぜなら)大統領はアメリカを作り直そうとしています。皆さんが考えるような方法で作り直そうとしているだけではありません。彼は、まったくくそったれな場所にアメリカを作り直そうとしているのです。フランスとベネズエラを混ぜ合わせたような。彼は自由の灯台を取り上げ、それを言い訳がましい、いや何といったらいいか、ヨーロッパ的な、富をばらまく、社会主義的ワンダーランドに変えようとしているのです」。実際には、世界保健機関のランキングによれば、医療ではフランスはナンバー・ワンであり、米国は三十七位である。 経済危機とレイシストの反発 タウン・ホールの暴徒参加者が送っている合図の主要なものは、「社会主義を阻止せよ」であり、「国を取り戻したい」というものである。医療の問題がタウン・ホールの暴徒にとって基本的問題でないことは明らかである。真の問題は、白人の優位性の歴史的な没落である。 八月十日の「ハッフィントン・ポスト」に、センク・ウイグルは次のように書いている。「しかし、これは医療保険の問題ではない。医療の問題ですらない。これらの人々は、医療オプションが制約され自分や家族にとって費用が増えることを心配して駆り立てられているのだろうか。そうではない。それは彼らにとって肝心なことではない。医療の選択肢とは何の関係もない。彼らがこの国で権力を、支配を失いつつある、という消沈する気持ちが本質である。権力の手綱が彼らの手から離れつつあり、大きな声で叫ぶことのほかに、どうしていいかわからないのである」。 右翼活動家の登場は、米国の二つの基本的歴史的変化と符合する。すなわち、アメリカ経済の衰退と白人多数派の崩壊である。カリフォルニア州のような重要な州で、白人はすでに少数派になっている。現在の人口統計学的趨勢が続けば、三十年以内に白人は全国的に少数派になるだろう。共和党は、前面に何人かの象徴的黒人を並べているにもかかわらず、ほとんど排他的な白人の党である。したがって、数の減少を活動の拡大によって埋め合わせる必要がある。また、右翼暴徒の暴行や偏執に訴えることによって、議会政治の外部での発展を促すことができる。 アラブ・アメリカ研究所の代表であるジェームズ・ゾグビーは、八月七日の「ハッフィントン・ポスト」に次のように書いた。「もちろん、すべての不満の背景には真の問題がある。アメリカの経済危機は、二〇〇八年秋の金融部門の崩壊によって始まっただけではない。これまで長期にわたって、アメリカ経済の転換は確実に進んできた。製造業基盤の消失は、かっては繁栄し安定していた多くの共同体の崩壊に示されるような劇的な社会的混乱をもたらした。工場が閉鎖されると、働き口が消失し経済の安定がおびやかされただけでなく、人々は移動を強いられ、近隣社会は消滅し、家族は危機に立たされた」。 「一九九〇年代を通じて、ウォール街はもうけていたが、多くの中産階級アメリカ人は搾り取られていた。実質所得は低下し、医療、教育、基本的日用品の費用は上昇し、多くの人々の生活水準の低下をもたらしただけでなく、アメリカの歴史上初めて、中産階級のかなりの部分が、子どもたちが両親と同じ経済的状態を達成できるかどうか疑問に思い始めた」。 「9・11のトラウマとハリケーン『カトリーナ』がダブル・パンチとなり、アメリカ人の安全保障感覚と政府の能力への信頼が大きく揺さぶられた」。 「これに加えて、移民排斥主義者/人種差別主義者の潮流が、南(発展途上国)からの移民の増大や新しい外来者への恐怖(特に9・11以後はイスラム教徒)や根強い反黒人感情によって強まり、これらの致死的毒物の材料は今や鍋の中で沸騰し始めている。」 タウン・ミーティングの右翼暴徒のほとんどは中年以上の白人である(メディアがインタビューした参加者はすべて、古典的なプチブル・タイプ、小企業家、セールスマンであった)。失業青年やひどい扱いを受けた復員軍人のような、極右やファッシズム運動の脅威を歴史的に代表してきた人々は、公然デモストレーションの中ではあまり目立っていない。しかし、黒人大統領候補の勝利以降は、いまだ小さい準軍事民兵組織が大きく成長し始めている。 さらに、右翼の政治支配の時代に成長した民間軍事組織「ブラックウォーター」が、一種の殺人会社として姿を現した(8月4日付「ネーション」を参照)。銃の売り上げが大幅に上昇し、オバマに対する暗殺の脅迫が急増している。 これらの現象はすべて、嵐の天候を指し示している。歴史的変化が近づいており、脅威が現実になろうとしている。発展途上国においては、過去にこのような危機がファシズムを登場させてきた。右翼のタウンホール集会、右翼メディアの役割、そして右翼の銃の脅かしは、そのような文化的状況が米国にも同様に存在することを示している。 ファシスト運動の基本的構成要素となりうる組織の配置はすでに登場している。しかし、たとえば一九二〇年代のフランスやドイツにおいても、同様の(もっと強力であったが)酵素が出現したが、大ブルジョアジーが基本的利益を維持するには劇的な処置が必要であると確信するようなレベルにまで経済的社会的危機が達するまでは、ファシストの権力奪取の差し迫った脅威にはならなかった。 現在米国に存在する状況は、このような状況にはほど程遠い。資本家は自分たちの利益に対する重大な脅威に直面しているわけではない。彼らは政治的舞台を完全に支配しており、労働者組織や社会的組織は非常に弱い。さらに注目されるのは、タウンホール集会における右翼の行動には反労働組合の脅威が含まれており、集会における発言の自由を防衛するために駆けつけることができる組織は労働組合しかないことである。確かにこのことに右翼は気づいていない。労働組合指導者や一般の労働組合員は、このことについても考える必要がある。 もちろん、歴史的なファシズム運動は集団主義的綱領を持っていたが、これに対して今日のアメリカの右翼は過激な個人主義を説いている。しかし、過去においても、ファシストは矛盾したことを語ってきた。ヒットラーは、ゲルマン民族主義者であるというより社会ダーウィン主義者であった。ドイツが破れたとき、敗北を限定するために何もせず、ドイツが破れたのならドイツ人が最適者ではないことが証明されたのであり、したがって彼らには生き残る権利はないと公言した。 タウン・ミーティングの右翼は、同じような矛盾を示している。彼らは発言を抑圧しながら発言の権利を行使することを主張している。暴徒による支配を押し付けながら個人の権利の防衛を主張している。彼らが国家を支配したとき、国家に対する彼らの態度は根本的に変わる可能性がある。彼らは税金反対を主張しているが、米国軍隊の増強を支持している。 オバマに対する右翼の非難は、ファシストやナチスの場合のように、罵倒するだけの無内容なものである。このような非難の言葉の供給者は、意味することがわかるような言葉を選ぶという考え方を明らかに持っていない。また、彼らは他者の自由な発言の権利を抑圧しながら発言の自由を行使していると主張する。ある抗議参加者は、ナチス・ドイツはゆりかごから墓場までの国家医療制度を持っていた、それがどうなったかを見よ、と語るほど無知であった。実際には、ドイツの国家医療制度は十九世紀末にビスマルクによって創設されたもので、その目的は社会主義運動の台頭を阻止することであった。 極右に対する資本家の反応 資本主義はときどき、ブルジョア「民主主義」的枠組みをファシスト国家に完全に置き換えることを強いられることなく、ファシスト型動員を支援する必要を感じる場合がある。近年、多くの欧州諸国にかなりのネオファシズム運動が存在しているが、資本が恒久的なファシスト的オプションに移行しようとしているという兆候も、極右政党がすでにファシスト型活動を組織する用意ができているという兆候もない。これらの発展の矛盾した性格は、紛れもないファシスト派と議会内極右派の間には時間的な隔たりがあるという事実によって説明される。しかし、彼らは資本にとって、左翼をおじけづかせる手段として役立つのである。 現在のところ、タウン・ミーティングにおける右翼の動員は、ニュースから姿を消している。この主要な理由のひとつは、民主党が集会の組織を変更し、右翼が圧倒したり舞台として利用することを困難にしたからである。しかし、右翼放送局集団は、力が実証されたとしている。 もちろん、オバマ政権は退却の口実ができてほっとしているかもしれない。改革提案は一週間以上提出できず、矛盾したものになった。オバマ政権は、右翼と同じように、資本主義に奉仕するが、より柔軟な仕方で奉仕するだけである。しかし、資本の一部は、医療改革をめぐる過去の対立に示されたように、柔軟性が必要であるとは確信していない。彼らは今、オバマが「道を踏み外さずに」進むように右翼を利用しているのである。 しかし同時に、極右は共和党の一部の政治家を悩ませており、共和党の分裂の脅威となっている。もっとも重要なことは、極右の攻撃性が、労働者階級や民主的な心を持った人々の間に反発を引き起こす可能性があることである。これこそ資本がもっとも望まないことである。これがもし起これば、極右ネットワークへの支持は急速に衰退する可能性がある。グレン・ベックのオバマは「人種差別主義者だ」という非難は、すでに彼の主要なスポンサーを失う結果をもたらしている。 ある程度、資本家が望んでいない反発が始まっているように思われる。極右の乱暴な言葉や扇動は、共和党指導部や医療会社の資金供給者によって支持されたが、超党派的合意を追求するという口実で製薬業界や保険業界との妥協を正当化しようとするオバマの試みを愚かしいものにした。 たとえば、「ニューヨークタイムズ」のコラムニストであるフランク・リッチは、八月二十二日付の社説と向き合っているページの記事の中で、次のように書いた。「オバマ政権が製薬業界や保険業界を銀行と同じように丁重に扱ったためにオバマが重大な改革を達成できなければ、それは恥ずべきことである。無分別な群衆に化した野党に何らかの意味で迎合して改革を達成できないとすれば、こっけいである」。 パウル・クルグマンは、八月二十日付けのニューヨークタイムズのコラムの中で、オバマに対する幻滅は長い時間をかけて高まったものであることを指摘した。「オバマ大統領を民主党の頂点に押し上げ選挙の勝利で主要な役割を演じた進歩的基盤の中の反発は、長い時間をかけて高まったものである。パブリック・オプション(公的医療保険制度)をめぐる闘いには現実政治の実質がかかわるが、大統領の優先権と総合的アプローチに関する広範な疑問が反映している」。 クルグマンの記事によれば、進歩派の我慢の限界を超えたものは、オバマ政権が医療法案から「パブリック・オプション」を引っ込めたことである。実際、世論調査は、「パブリック・オプション」が含まれない医療改革法案に対する支持が急落したことを示している。しかし、「パブリック・オプション」は、現行制度に対する唯一の現実的代替案であるシングル・ペイヤー制度(一元的な公的健康保険制度)の推進をそらせるものであった、とクルグマンは説明している。進歩派は、あいまいな「パブリック・オプション」をつかまされ、いまやそれさえ引っ込められようとしているのを見て怒っている。 幻滅の叫びは明らかにオバマ政権をおびえさせ、「パブリック・オプション」を放棄する意図はない(しかし、にせものの、貧困者課税バージョン)、必要なら共和党の賛成がなくても通過させる、と主張した。 しかし、「パブリック・オプション」に関するオバマ政権の後退に対する反発は、オバマ政権が提出しようとしているいわゆる医療改革の弱点と矛盾した性格を際立たせた。この叫びは、シングル・ペイヤー制度の要求を復活させた。また、真の医療改革を達成する唯一の道は、シングル・ペイヤー制度を要求する、ブルジョア政治家に従属しない独立した大衆運動を構築することであることを示している。 あらゆる社会改革に反対し、大衆の利益を守る組織を脅迫している右翼狂信者の、軍隊を動員するという脅かしは、大衆的社会組織の再組織化と再活性化によってのみ対抗できる。この対立の中では、長年にわたってこのタイプの活動の第一人者であったAFLがよい例を提出している。タウン・ミーティングを防衛する方法についての指示を送り、防衛のモニターを組織している。SEIU(サービス従業員労組)もこれを行っている。労働組合の動員はブルジョア政治家を防衛するために行われているのであるが(官僚の常用手段)、活動家の権利の脅威に対する不可欠の対応である。 来るべき時期には、労働組合は、自分自身を守り彼らが代表している人々の権利を守る方法を再学習しなければならないだろう。また、南部や西部の後進性と偏狭の最後の巣窟の中で極右を追及する必要がある。これらの地域労働者を組織する必要がある。組織化を追求すれば、労働組合が物理的脅威に直面することは疑いない。これらの地域(無保険者の比率が全国でもっとも高い)に住む貧しい人々を地域の右翼デマゴーグの影響下に放置することは恥ずべきことである。 右翼の暴発は、労働組合官僚にさえ不吉な前兆を示した。また、憎悪をあおる右翼メディアの暴徒扇動家に対する抗議を組織し、彼らの情報工作を暴露する必要がある。これから数か月の間に、右翼が敵視する集会や組織の自己防衛の組織化について考え始めることがいかに必要かが示されるであろう。民主党でさえ、このことを考えなければならないだろう。 また、社会主義者組織にとっては、ファシスト運動の性格に関する教育活動への関心を高める必要がある。ドイツやイタリアの完全なファシズムの先例だけでなく、フランス、英国、一九三〇年代の米国の、初期段階のファシズム運動についても学ぶ必要がある。ソシアリスト・アクションは、すでにこれを開始している。 ▲ ゲーリー・フォーリーは、米国で発行されている月刊新聞「ソシアリスト・アクション」の、フロリダ在住の国際編集者である。フォーリーは以前は、第四インターナショナルの雑誌「インターコンチネンタルプレス/インプレコール」および「インターナショナル・ビューポイント」のジャーナリストであった。(「インターナショナル・ビューポイント」09年9月号)
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