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2009/08/14 今回は米国を代表するジャーナリスト、グレッグ・パラストの最新コラムを以下に翻訳して掲載。早くも暗礁に乗り上げたオバマ政権の医療制度改革の大失敗を鋭く批判している。 それにしてもバラク・オバマの大統領就任以来の“チェンジ”ぶりには驚かされる。あれだけブッシュ政権を批判しておきながら、ホワイトハウス入りしてからやってることはほとんどブッシュ政権と同じだ。ロビイストを排除すると言っておいて、実際には政策のほとんどをロビイストと相談して決めているし、脚本・演出付きのテレビ向け演説とバラエティ番組好き以外は、相変わらずディック・チェイニー同様の秘密主義である。戦争も拷問も実際には止める様子がない。共和党と民主党の団結を目指し、保守派とリベラル派の妥協点をさぐる政策決定手法は、かえって保守派・リベラル派双方から攻撃されるような材料を作ってしまったようにみえる。 8月13日現在、米世論調査会社ラスムセンによればオバマ大統領の支持率は47%で、ついに過半数割れになった。逆に不支持率は52%である。合衆国でマトモな選挙システムが機能していると仮定すると、このままの傾向でいけば、オバマ政権は4年で終わるだろう。(ひょっとしたら4年もたないかもしれない)しかし皮肉なことに、オバマがロビイストたちの要求に従う理由は、前回同様に大統領再選キャンペーン費用の大半をロビイストが調達してくれることを期待してのことなのである。そして選挙資金が潤沢である限り、国民の意向など簡単にひっくり返せるのが、アメリカの民主主義システムの現実なのだ。 医療制度改革とオバマ:98%チェイニー? by グレッグ・パラスト:2009年8月13日付コラム 800億ドルの何だって? あらゆる新聞報道、ニュース報道を検索したが、医療制度改革で議論を通過した内容について、大統領にこの重要な質問をした記者は一人もいなかった:何が800億ドルになったのか? 6月22日、オバマ大統領は大手製薬企業各社との交渉により医薬品の価格を800億ドル値下げすることで合意したと発表した。大統領はさらに大手製薬業界を褒め称えて言った:「(合意により)医療費の高騰の痛手は軽減されるだろう。」 まあ、ウチの近所じゃ、800億ドルは大金だって話になってるが、そうなのか? 私はさっそく政府の医療費統計(HHS.gov)をチェックしてみた。愛用の電卓に新しい電池を入れて、米政府が見積もる今後10年間の処方せん薬費用を足し算してみた。合計で3兆6,000億ドルだ。 言い換えると、オバマと製薬業界が合意した値下げ額は、総額3兆6,000億ドルのうちわずか800億ドル。たったの2%だ。 ありがとうよ、バラク!大物連中を相手に見事にやってくれたな。組織の大ボスたちの強奪行為からアメリカ国民を救ってくれたんだ。2%だけな。スゲエ! 見方を変えてみよう:ウォルマートに行ったら店内の液晶スクリーンに“大特価”と表示されていたとする。さっそく、組合つぶしの大企業からは買わないという約束を反故にして、500ドルのテレビに飛びついたら、それを見た奥さんが言う:「でもあなた、割引率を見てよ!たったの2%オフじゃないの!10ドル安いだけなのよ!」 でもまあ、2%だって何もないよりマシだよな。あれ?そうじゃないの? 製薬業界の大物たちは、実際には医薬品の値下げに合意したわけではない。製薬業界がオバマと約束した内容は、もっとヌルいものだ。彼らが約束したのは、今後10年間で、本来値上げするはずだった分の総額を下げるということなのだ。オワカリかな?言い換えると、オバマの取り決めは、“節約”期間の10 年間で、年額2500億ドルから年額5000億ドル上昇すると予測された医薬品価格の値上げ分を確定し、そこから2%下げるというものだ。 我々は引き続き製薬業界から酷い目に遭わされるわけだが、オバマは値上げを抑えるという。 では、800億ドルと引き替えに、オバマは何を諦めることになったのか?製薬業界の筆頭ロビイストであるビリー・トーザンは、メディケア(高齢者向け医療保険制度)分の医薬品購入に際して値下げ交渉をするという選挙公約をオバマが破棄したと得意満面に話している。しかも、米国民がカナダからもっと安い医薬品を購入できるようになると言っていたオバマの公約さえ、どこかに消えてしまった! 米国民の負担はどうなる?医学情報紙ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンの報道によれば、ヨーロッパの13カ国では医薬品の価格規制に成功し、著名ブランドの処方せん薬費用を35%から55%値下げすることになったという。オバマの場合、2%で諦めてしまった。 米復員軍人援護局は、その交渉力により特許薬を40%割引で購入することができる。ジョージ・ブッシュ前大統領は同様の値引き交渉をメディケアに適用するのを止めさせるという暴挙に出たが、オバマはそれをひっくり返すと言っていた。ところが、トーザンの睡眠薬でめまいがしたのか、ブッシュの常軌を逸した割高な値引き交渉禁止政策を、オバマは今後10年間継続すると同意しているのだ。 オバマと製薬業界との交渉では、何が起きていたのか?それを調べるために、私はC-SPAN(米ケーブルサテライトネットワーク)へ電話し、製薬業界との交渉を記録したビデオテープのコピーを入手しようとした。驚いたことに、2008年1月にCNN放送で「(製薬業界との)交渉はC-SPANで放送されるようにする。」と語っていたオバマ大統領の選挙公約にもかかわらず、C-SPANにはテープは存在しないという。 私は途方にくれてしまった。ブッシュ政権のエネルギー政策のために、ディック・チェイニー副大統領が大手石油企業幹部を集めて秘密交渉を行っていたことが明らかになった時、我々はその秘密主義を非難していたのだ。 チェイニーの行った、ロビイストや財界の大物たちを集めた秘密会議は、薄気味悪く、卑劣な、邪悪な行為だ。 しかし、オバマ政権がロビイストや財界の大物たちを集めて行った秘密会議もまた、オバマ大統領が確約するように、公共の利益に関わるものだったのだ。 チェイニーの秘密会談が怪しく腐敗したものであることは、チェイニーの口の歪みから理解できた。 オバマは公然と笑って見せている。 二人の違いがおわかりだろうか?その差は2%だ。 警告: さあ、病院業界ロビイストとの交渉にいってみよう。 まず手始めに、オバマ大統領は原則を曲げて、製薬業界ロビイストのビリー・トーザンとの汚らわしい密室交渉を行い、今後10年間で医薬品価格の値引きを2%に制限することに合意した。ニューヨークタイムズ紙によれば、アメリカ病院協会のロビイスト、チップ・カプランとも取り決めがあったそうだ。 オバマ政権が皆さんに見せたくない数字をここに示そう。病院業界は今後10年間で、価格の値上げにより収入をおよそ6兆ドル(5兆8530億ドル)まで増加させることが許された。これはオバマの“改革”前の予測額に比較して、わずか1550億ドル下がったにすぎない。 合計すると、我が国の今後10年間の年間総医療費用26兆ドルのうち、オバマの密室取引によって“削減”される額は0.5%ほどである。 またしても、ロビイストたちは大金を手にし、国民は酷い目に遭わされるわけだ。 違うと言ってくれよ、大統領殿。 |