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「憲法改正に向けて国民的議論を深めていきたい」−。安倍晋三首相は2月28日の施政方針演説でも改憲に言及した。7月の参院選までは「安倍カラー」を抑えるとの観測もあるが、同15日には自民党憲法改正推進本部が政権奪還後、初会合を開いた。昨年4月発表の同党の「日本国憲法改正草案」。日本弁護士連合会(日弁連)憲法委員会副委員長の伊藤真弁護士は、その内容を立憲主義の否定と批判する。(小坂井文彦)
「自民の改憲草案は、人権を保護するための立憲主義を否定している。先進国が共通する理念を放棄すれば、日本は世界から『違う国』とみられてしまう」
伊藤弁護士は自民党改憲草案の最大の問題点をこう断じた。
「立憲主義とは、憲法で国家権力を縛ること。多くの人が勘違いをしているようだが、憲法は国民の権利を制限するものではないし、法律の親分でもない。草案はその立憲主義とは逆向きで、国民の権利を後退させ、義務を拡大させている」
具体的に見てみた。まずは前文。草案には「国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」と現行憲法にはない「国防義務」が盛り込まれている。伊藤弁護士は「個人のモラルに委ねるべき問題で、立憲主義にそぐわない」と解説する。
草案3条では国旗と国歌について「国旗は日章旗とし、国歌は君が代」と新たに定め、尊重する義務も課す。この条文を伊藤弁護士は現行憲法の19条「思想及び良心の自由を侵してはならない」に抵触するとみる。一方、現行の19条は、草案では「保障する」と表現を後退させた。
現行の12条「自由及び権利は、(中略)保持しなければならない」はどうか。草案は「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と変更する。国民の「権利」を「責務」に転換、人権よりも公益、つまり国の政策を優先する姿勢だ。
さらに草案19条には「個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない」という個人情報保護が加えられている。
一見、もっともにも見えるが、伊藤弁護士は「情報取得の制限は民主主義を阻害する。政治家や公務員の適格性を明確に判断できなくなる懸念がある」と、憲法に盛り込むことを批判する。
婚姻を規定する現行24条について、草案では「家族は、互いに助け合わなければならない」という一文が加えられている。これも当然のように見えなくもないが、伊藤弁護士は「立憲主義の本質は個人の尊重。家族に個人よりも重い価値がある、という考えは憲法にそぐわない。そもそも家族の形に、国家が介入すること自体が危うい」と語る。
表現の自由を保障した21条にも、草案は制限をかける。「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という条文が追加されている。伊藤弁護士は「表現があいまい。結社自体を禁止する点で、表現の自由を大きく制約する」と指摘した。
改憲は、1955年の自民党の結党以来の党是だ。しかし、なぜいま、急ぐ必要があるのか。
自民党は公表した「改憲草案Q&A」の中で、こう答えている。「現行憲法は連合国軍の占領下において、同司令部が指示した草案を基に制定された。国民の自由な意思が反映されていない」
いわゆる「押しつけ憲法からの脱却」という説だ。だが、伊藤弁護士は焦点となる現行9条についても「草案に関わった当時の首相、幣原喜重郎は回顧録で『自らの信念で戦争放棄を盛り込んだ』と語っている。マッカーサーも回顧録で、9条は幣原に指示されたと話している」と反論する。
「日本人が審議し、討論、議決をした。その現行憲法が、多くの国民を解放したのは事実だ」
実際、現行1条の「天皇は、日本国の象徴であり」のくだりは、草案では「日本国の元首であり」に変えられている。「元首という表現で天皇の機能を拡大する。それは国民主権を弱める恐れがある」(伊藤弁護士)
注目の9条のある第2章の表題についても、「「戦争の放棄」から草案では「安全保障」に変えられ、現行の「戦争を放棄」は残すが、「国の交戦権は、これを認めない」は削除し、「自衛権の発動を妨げるものではない」へ変更。さらに「国防軍」の保持を加えた。
伊藤弁護士は「無限定の自衛権を認め、日本の旗印である平和主義が否定される」。草案25条では、政府による緊急時の在外国民の保護規定もあり、「海外派兵の根拠にされてしまう可能性もある」と危ぶむ。
ただ、「改憲ムード」は、ムードから現実に移りつつある。伊藤弁護士は「現行憲法で、これまで問題はなかった。立憲主義で人権が守られてきたことを忘れてはいけない」と強調した。
◆まず96条 着々と
安倍首相は1月30日の衆院代表質問でも「まず多くの党派が主張する憲法96条の改正に取り組む」と表明。憲法改正への意欲を見せた。
96条の改正内容は、改憲発議の条件を各院の総議員の3分の2から過半数に下げることだ。
同首相は第1次安倍内閣でも、改憲手続きにかかわる国民投票法を2007年5月に成立(10年5月に施行)させた。しかし、民主党への政権交代で、改憲の議論は一気に下火となった。
だが、昨年暮れの総選挙で、自民党は公約に改憲を盛り込み大勝。同じく改憲を志向する維新の会も議席を伸ばした。
憲法改正発議に必要な衆院議員数は320人。現在、自民は294人で、維新の会の54人を加えれば、そのハードルは超えている。
一方、参院の必要数は162人。自民は統一会派を組む無所属議員を含めて83人で、維新は3人。しかし、次期参院選の結果次第では、民主党内の改憲派などの数を考慮すれば、改憲は現実味を帯びてくる。
超党派の議員連盟の動きも加速し始めた。2007年12月に結成し、安倍首相が09年11月から会長を務めている創生「日本」の参加議員数は衆参合わせて約100人。首相のほか、9人が閣僚に名を連ねている。
自民の改憲推進本部が会合を開いた2月15日、創生「日本」も役員会を開催した。推進本部は「参院選までは論議を急がない」と改憲を参院選の焦点にしない考えのようだが、創生「日本」は今月5日の総会で、従来の理念「戦後レジームからの脱却」から一方踏み出し、明確に「改憲」を柱に据えるという。参加議員からは「改憲の環境整備を担うべきだ」という声も出ている。
[デスクメモ]
自民党の改憲草案には「徴兵制」は記されていない。だが、米国流を踏襲するのであれば、あえて要らないのだろう。環太平洋連携協定(TPP)への事実上の参加表明で、再び小泉改革的な格差拡大が復活する。食べられなければ軍隊へ、は万国共通の現象だ。次期参院選は戦後日本の結節点になる。(牧)
2013年3月1日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013030102000140.html
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