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9条のタガを緩め、憲法解釈の突破を企てる
民主党・新防衛大綱
1 「新安保防衛懇報告書」 のねらい
「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」 (座長・佐藤茂雄京阪電鉄CEO)の報告書の危険性については、本誌112号で 「民主党政権がハト派の装いを捨てて、タカ派に転ずる危険性」 を指摘し、 114号で 「70年代以来の安保・防衛政策の大転換の企て」 として指摘したし、市民連絡会のウェブサイトでも9月3日付で 「『政権交代』 を機に、安保・防衛政策の基本的転換をねらう 安保防衛懇報告書の 『平和創造国家』 論の危険性について」 を掲載した。
新安保懇報告書は政権交代の結果が生み出した歴史的な過渡期を、安保防衛政策の反動的転換の好機と考えるもので、日本の安保防衛政策を日米同盟による中国仮想敵視戦略を、南西諸島防衛と沖縄−普天間基地の辺野古 「移設」 軸に再編成しようとするものだ。これは三木内閣以来、この国の保守勢力が採用してきた日本の防衛戦略の大きな転換となるものに他ならない。これを本年末に民主党政権の下ではじめて作成する 「防衛大綱」 の下敷きにしようと考えられている。もしもこのような新防衛大綱を許せば、私たちは歴史に重大な禍根を残すことになる。
2 民主党外交防衛調査会の提言
民主党ではまず、外交・安全保障調査会(中川正春会長、長島昭久事務局長)がこの道を走り出した。同調査会はすでに防衛大綱に向けた提言案をまとめ、党全体の方針にしようとしている。党内のリベラルな部分からは批判も起きている。それは従来の保守勢力がとってきた安保・防衛政策に不満を持つ防衛族と財界が、執拗に要請してきた 「転換」 の具体化を図るもので、極めて危険な内容を持つものだ。それは以下のような特徴を持っている。
◎従来の 「基盤的防衛力構想」 から脱却し、特定地域への部隊配備を柱とした 「静的抑止力」 から、機動力重視の 「動的抑止力」 へと転換する。
◎外交安保の司令塔としての官邸機能を見直し、日本版NSC(国家安全保障会議)の新設など、政策立案・情報集約機能を強化する。
◎中国海軍力の増強に対抗し、沖縄陸自第15旅団(約2100人)の師団(約8000人)化、先島諸島への陸自配備など、南西諸島防衛戦略を強化する。九州・沖縄での米軍基地の日米共同使用を拡大する、などとしている。
これらを先取りして防衛省はすでに、今年12月に行われる第4師団(福岡県春日市)と第1空挺団(千葉県習志野市)の日出生台での演習で、そこを離島に見立てて離島奪回作戦の実働演習にする予定と言われる。来年1月に行われる日米共同方面隊指揮所演習(ヤマサクラ)に南西諸島防衛を盛り込むことも決めている。
◎若い自衛官を増やし、自衛隊の人的構成をピラミッド型に改編する。
◎国際平和協力活動への自衛隊随時派遣を可能にする 「海外派兵恒久法」 を制定する。
◎武器輸出3原則を見直す。具体的には、まず、米英などNATO加盟国や、韓国、オーストラリアなど19カ国を対象に、戦闘機などの共同開発を可能にする方向で緩和する。3原則の緩和によって、日米で共同開発してきたMDの海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の将来型を第B国に供与することも可能にする。
◎自衛隊内部の呼称のうち、例えば陸自の 「普通科」 を 「歩兵」 に、「1佐」 を 「大佐」 に変更し、他国群と同様の用語に統一し、幕僚長や、統合幕僚長は天皇の認証官にする、など、旧軍の復活と見まがうばかりだ。
これらの反動的な政策転換は2001年に結成され、最近、その名称から 「若手」 をとった 「新世紀の安全保障体制を考える若手議員の会」 などの主張とあい呼応している。「議員の会」 の代表幹事の一人である民主党の長島昭久は 「安保・外交には与党も野党もない。あるのは国益だけだ」 とあけすけにその主張するところを説明している。
民主党内の議論や、国会での議論もまともに行われないままに、新防衛大綱の準備過程で、民主党調査会での提言の作成と防衛省による先取り的な既成事実化が進んでいる。
3 新防衛大綱づくりがめざすもの
2009年、憲法第9条を敵視し、一貫してその改悪を企ててきた自民党を中心とする政権が倒れ、民主党を主軸とする連立政権が成立し、「政権交代」 が実現した。それは多くの人びとに新鮮な期待を持たせた。
しかし、それから1年数ヶ月を経て、その期待の多くは色あせてしまった。普天間基地の撤去・県外移転という公約は破られ、辺野古移設を明記した 「日米合意」 が強行され、社民党が連立政権から離脱し、鳩山首相は辞職した。いま、沖縄県知事選が戦われている最中であるが、自公両党に支持された現職さえも 「県内移設は不可能」 というほど、沖縄の民意の大多数は県外・国外移設を望んでいる。与党・民主党は候補も立てられず、事実上、県内移設反対の伊波候補の勝利を妨害する方向で、迷走している。
すでに見たように、年末に予定されている新 「防衛大綱」 の策定をめぐる動きのなかで、武器輸出3原則の緩和や、PKO5原則の緩和、集団的自衛権の憲法解釈の緩和など、自民党政権時代でもできなかったような、九条のしばりを突破する危険な動きが相次いでいる。
参議院ではしばらく棚上げになっていた憲法審査会規程の策定に自民党と民主党が合意した。国会の比例定数削減の動きもつづいている。日米安保条約50周年を経て、新政権は軍事同盟体制をなくすのではなく、逆に米国に追従し、グローバルな規模での作戦に対応できる日米安保体制として再編強化しようとしている。これはまさに歴史の反動といわなくてはならない。
4 私たちの対抗構想
いま、菅内閣がすすめているこれらの逆流に反対する。
アジア太平洋戦争の敗北と、米軍による占領という歴史の激変から、サンフランシスコ単独講和を経て、日本社会は日米安保条約と日本国憲法の二つの法体系の対立の中で推移してきた。 21世紀の世界の中で、戦争の違法性が広く認識され、核兵器の廃絶を願う国際世論が普遍化しつつあるこの時代に、この安保と憲法の対立は日米軍事同盟の維持という方向ではなく、もうひとつの日米関係、日米平和友好条約に変える方向で解決が図られなくてはならない。
日本は東アジアの平和と共生を実現する 「共同体」 を実現する方向へ、大きく舵を伐らなくてはならない。憲法第9条をもつ日本は、とりわけ東北アジアの緊張と紛争の緩和と解決のために、尖閣諸島問題の日中両国の対話による平和的解決、戦後、平和条約のない日本とロシアの関係の改善と領土問題の解決、日朝国交回復の実現と両国の戦後処理に関わる諸懸案の解決、および朝鮮半島の非核化のための6者協議の前進などを実現しなくてはならない。
これらのことを通じて東北アジアの海を平和の海へと変えなくてはならない。鳩山首相が放棄した 「東アジア共同体」 は東アジアの希望であり、私たちは民衆の交流を通じて、粘り強く、その道を進む必要がある。
(高田健 「私と憲法」 115号所収 11月25日)
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