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【憲法記念日に寄せて:日本で最も有名な「憲法の対案」】 北一輝 『日本改造法案大綱』
自民党は、結党時の「党の政綱」で「現行憲法の自主的改正」を掲げ、
結党50周年の際に出した平成17年「新綱領」でも「新しい憲法の制定」を
筆頭に掲げている。
そんなに改憲がやりたいか?
ならば自民党の諸君には、現行憲法に代わるべき対案として今や憂国の
志士たちに最もよく知られている、この憲法案がふさわしい。
自民党の売国奴の諸君が、憲法改正の機運ばかりをいたずらに盛り上げて、
さらなる売国と亡国に向けた憲法の陵辱を行なうなら、愛国の志士たちは
売国「自慰民党」に然るべき粛清を施すであろう。
旧字旧仮名遣いの『日本改造法案大綱』は、現代人にとっては
読むだけでも一苦労なので、ここに全文平仮名に訳されたものを
紹介する。(なお、下に示した「ひらがな版」は、たまたまインターネット
検索で最初に見つけたものである。 平仮名への“翻訳”を完遂された
見知らぬ識者の御努力に感謝する。)
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日本改造法案大綱(全文 ひらがな版)
(転載元:http://www2s.biglobe.ne.jp/~shigeaki/KitaIkki.htm)
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北一輝「日本改造法案大綱」
日本改造法案大綱目次
緒 言
巻一 国民の天皇
憲法停止−天皇の原義−華族制廃止−普通選挙−国民自由の恢復−国家改造内閣−国家改造議会−皇室財産の国家下附
巻二 私有財産隈度
私有財産限度−私有財産限度超過額の国有−改造後の私有財産超過者−在郷軍人団会議
巻三 土地処分三則
私有地限度−私有地限度を超過せる土地の国納−土地徴集機関−将来の私有地限度超過者−徴集地の民有制−都市の土地市有制−国有地たるべき土地
巻四 大資本の国家統一
私人生産業限度−私人生産業限度を超過せる生産業の国有−資本徴集機関−改造後私人生産業限度を超過せる者−国家の生産的組織−その一銀行省−その二航海省−その三鉱業省−その四農業省−その五工業省−その六商業省−その七鉄道省−莫大なる国庫収入
巻五 労働者の権利
労働省の任務−労働賃銀−労働時間−労働者の利益配当−労働的株主制の立法−借地農業者の擁護−幼年労働の禁止−婦人労働
巻六 国民の生活権利
児童の権利−国家扶養の義務−国民教育の権利−婦人人権の擁護−国氏人権の擁護−勲功者の権利−私有財産の権利−平等分配の遺産相続制
巻七 朝鮮その他現在および将来の領土の改造方針
朝鮮の郡県制−朝鮮人の参政権−三原則の拡張−現在領土の改造順序−改造組織の全部施行せらるべき新領土
巻八 国家の権利
徴兵制の維持−開戦の積極的権利
結 言
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●緒 言
今や大日本帝国は内憂外患ならび到らんとする有史未曽有の国難に臨めり。国民の大多数が生活の不安に襲われて一に欧州諸国破壊の跡を学ばんとし、政権軍権財権を私せる者はただ竜袖に陰れて惶々その不義を維持せんとす。しかして外、英米独露ことごとく信を傷づけざるものなく、日露戦争をもってようやく保全を与えたる隣都支那すら酬ゆるにかえって排侮をもってす。真に東海粟島の孤立。一歩を誤らば宗祖の建国を一空せしめ危機誠に幕末維新の内憂外患を再現し来れり。
ただ天佑六千万同胞の上に柄たり。日本国民はすべからく国家存立の大義と国民平等の人権とに深甚なる理解を把握し、内外思想の清濁を判別採捨するに一点の過誤なかるべし。欧州諸国の大戦は天その驕侈乱倫を罰するに「ノア」の洪水をもってしたるもの。大破壊の後に狂乱狼狽する者に完備せる建築図を求むべからざるはもちろんのこと。これと相反して、わが日本は彼において破壊の五ヵ年を充実の五ヵ年として恵まれたり。彼は再建をいうべく我は改造に進むべし。全日本国民は心を冷やかにして天の賞罰かくのごとく異なる所以の根本より考察して、いかに大日本帝国を改造すべきかの大本を確立し、挙国一人の非議なき国論を定め、全日本国民の大同団結をもってついに天皇大権の発動を奏請し、天皇を奉じて速かに国家改造の根基を完うせざるべからず。
支那インド七億の同胞は実にわが扶導擁護を外にして自立の途なし。わが日本また五十年間に二倍せし人口増加率によりて百年後少なくも二億五千万人を養うべき大領土を余儀なくせらる。国家の百年は一人の百日に等し。この余儀なき明日を憂いかの悽惨たる隣邦を悲しむ者、如何ぞ直訳社会主義者の巾幗的平和論に安んずるを得べき。階級闘争による社会進化はあえてこれを否まず。しかし人類歴史ありて以来の民族競争国家競争に眼を蔽いて何のいわゆる科学的ぞ。欧米革命論の権威等ことごとくその浅薄皮相の哲学に立脚してついに「剣の福音」を悟得するあたわざる時、高遠なるアジア文明のギリシアは率先それみずからの精神に築かれたる国家改造を終ると共に、アジア聯盟の義旗を翻して真個到来すべき世界聯邦の牛耳を把り、もって四海同胞みなこれ仏子の天道を宣布して東西にその範を垂るべし。国家の武装を忌む者のごときの智見ついに幼童の類のみ。
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●●巻一 国民の天皇
●憲法停止
天皇は全日本国民と共に国家改造の根基を定めそがために天皇大権の発動にょりて三年間憲法を停止し両院を解散し全国に戒厳令を布く。
………………………………………………………………………………
注一 権力が非常の場合有害なる言論または投票を無視し得るは論なし。いかなる憲法をも議会をも絶対視するは英米の教権的「デモクラシー」の直訳なり。これ「デモクラシー」の本面目を蔽う保守頑迷の者、その笑うべき程度において日本の国体を説明するに高天ヶ原的論法をもってする者あると同じ。海軍拡張案の討議において東郷大将の一票が醜悪代議士の三票より価値なく、社会政策の採決において「カルル・マルクス」の一票が大倉喜八郎の七票より不義なりというあたわず。由来投票政治は数に絶対の価値を附して質がそれ以上に価値を認めらるべきものなるを無視したる旧時代の制度を伝統的に維持せるに過ぎず。
注二 「クーデター」を保守専制のための権力濫用と速断する者は歴史を無視する者なり。「ナポレオン」が保守的分子と妥協せざりし純革命的時代において「クーデター」は議会と新聞の大多数が王朝政治を復活せそとする分子に満ちたるをもつて革命遂行の唯一道程として行ないたるもの。また現時露国革命において「レニン」が機関銃を向けて妨害的勢力の充満する議会を解散したる事例に見るも「クーデター」を保守的権力者の所為と考うるははなはだしき俗見なり。
注三 「クーデター」は国家権力すなわち社会意志の直接的発動と見るべし。その進歩的なるものにつきて見るも国民の団集そのものに現わるることあり。日本の改造においては必ず国民の団集と元首との合体による権力発動たらざるべからず。
注四 両院を解散するの必要はそれによる貴族と富豪階級がこの改造決行において、天皇および国民と両立せざるをもつてなり。憲法を停止するの必要は彼らがその保護をまさに一掃せんとする現行法律に求むるをもってなり。戒厳令を布く必要は彼らの反抗的行動を弾圧するに最も拘束なれざる国家の自由を要するをもってなり。しかして無智半解の革命論を直訳してこの改造を妨ぐる言動をなす者の弾圧をも含む。
………………………………………………………………………………
●天皇の原義
天皇は国氏の総代表たり、国家の根柱たるの原理主義を明らかにす。
この理義を明らかにせんがために神武国祖の創業、明治大帝の革命にのっとりて宮中の一新を図り、現時の枢密顧問官その他の官吏を罷免しもって天皇を補佐し得べき器を広く天下に求む。
天皇を補佐すべき顧問を設く。顧問院議員は天皇に任命せられその人員を五十名とす。
顧問院議員は内閣会議の決議および議会の不信任決議に対して天皇に辞表を捧呈すべし。ただし内閣および議会に対して責任を負うものにあらず。
………………………………………………………………………………
注一 日本の国体は三段の進化をなるをもって天皇の意義また三段の進化をなせり。第一期は藤原氏より平氏の過度期に至る専制君主国時代なり。この間理論上天皇はすべての土地と人民とを私有財産として所有し生殺与奪の権を有したり。第二期は源氏より徳川氏に至るまでの貴族国時代なり。この間は各地の群雄または諸侯がおのおのその範囲において土地と人氏とを私有しその上に君臨したる幾多の小国家小君主として交戦し聯盟したるものなり。したがって天皇は第一期の意義に代うるに、これら小君主の盟主たる幕府に光栄を加冠するローマ法王として、国民信仰の伝統的中心としての意義をもってしたり。この進化は欧州中世史の諸侯国神聖皇帝ローマ法王と符節を合するごとし。第三期は武士と人氏との人格的覚醒によりおのおのその君主たる将軍または諸侯の私有より解放されんとしたる維新革命に始まれる民主国時代なり。この時よりの天皇は純然たる政治的中心の意義を有し、この国民運動の指揮者たりし以来現代民主国の総代表として国家を代表する者なり。すなわち維新革命以来の日本は天皇を政治的中心としたる近代的民主国なり。何ぞ我に乏しきものなるかのごとくかの「デモクラシー」の直訳輸入の要あらんや。この歴史と現代とを理解せざる頑迷国体論者と欧米崇拝者との争闘は実に非常なる不祥を天皇と国民との間に爆発せしむるものなり。両者の救うべからざる迷妄を戒しむ。
注二 国民の総代者が投票当選者たる制度の国家がある特異なる一人たる制度の国より優越なりと考うる「デモクラシー」は全く科学的根拠なし。国家はおのおのその国民精神と建国歴史を異にす。民国八年までの支那が前者たる理由によりて後者たるベルギーより合理的なりと言うあたわず。米人の「デモクラシー」とは社会は個人の自由意志による自由契約に成るといいし当時の幼稚極まる時代思想によりて、各欧州本国より離脱したる個々人が村落的結合をなして国を建てたるものなり。その投票神権説は当時の帝王神権説を反対方面より表現したる低能哲学なり。日本はかかる建国にもあらず、またかかる低能哲学に支配されたる時代もなし。国家の元首が売名的多弁を弄し下級俳優のごとき身振を晒して当選を争う制度は、沈黙は金なりを信条とし謙遜の美徳を教養せられる日本民族にとりては一に奇異なる風俗として傍観すれば足る。
注三 現代宮中は中世的弊習を復活したる上に欧州の皇室に残存せる別個のそれらを加えて、実に国祖建国の精神たる平等の国民の上の総司令者を遠ざかることはなはだし。明治大帝の革命はこの精神を再現して近代化せるもの。したがって同時に官中の廓清を決行したり。これを再びする必要は国家組織を根本的に改造する時ひとり宮中の建築をのみ傾柱壊壁のままに委するあたわざればなり。
注四 顧問院議員が内閣または議会の決議によりて弾劾せらるる制度の必要は、天皇の補佐を任とする理由によりて専恣を働く者多き現状に鑑みてなり。枢密院諸氏の頑迷と専恣とは革命前の露国宮廷と大差なし。天皇を累するものはすべてこの徒なり。
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●華族制廃止
華族制を廃止し、天皇と国民とを阻隔し来れる藩屏を撤去して明治維新を明らかにす。
貴族院を廃止して審議院を置き衆議院の決議を審議せしむ。
審議院は一回を限りとして衆議院の決議を拒否するを得。
審議院議員は各種の勲功者間の互選および勅選による。
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注一 貴族政治を覆滅したる維新革命は徹底的に遂行せられて貴族の領地をも解決したること、当時の一仏国を例外としたる欧州の各国が依然中世的領土を処分するあたわざりしよりも百歩を進めたるものなりき。しかるに大西郷ら革命精神の体現者世を去ると共に単に附随的に行動したる伊藤博文らは、進みたる我を解せずして後れたる彼らの貴族的中世的特権の残存せるものを模倣して輸入したり。華族制を廃止するは欧州の直訳制度を棄てて維新革命の本来に返えるもの。我の短所なりと考えて新なる長を学ぶものと速断すべからず。すでに彼らのあるものより進みたる民主国なり。
注二 二院制の一院制より過誤少なき所以は輿論がはなはだ多くの場合において感情的雷同的瞬間的なるをもってなり。上院が中世的遺物をもってせず各方面の勲功者をもって組織せらるるゆえん。
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●普通選挙
二十五歳以上の男子は大日本国民たる権利において平等普通に衆議院議員の被選挙権および選挙権を有す。
地方自治会またこれに同じ。
女子は参政権を有せず。
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注一 納税資格が選挙権の有無を決せる各国の制度は、議会の濫觴が皇室の徴税に対してその費途を監視せんとしたる英国に発すといえども、日本国自身の原則としては国民たる権利の上に立てざるべからず。すなわちいかなる国民も間接税の負担者ならざるはなしという納税資格の拡張せられたる普通選挙の義にあらず。徴兵が「国民の義務」なりという意義において選挙は「国民の権利」なり。
注二 国家を防護する国民の義務は国政を共治する国民の権利と一個不可分のものなり。日本国民たる人権の本質において、ローマの奴隷のごとく、また昇殿をも許されざる王朝時代の犬馬のごとく、純乎たる被治者としてある治者階級の命令の下にその生死を委すべき理なし。この権利とこの義務とは一切の条件によりて干犯さるることを許なず。したがって、たとい国外出征中の現役将卒といえども何らの制限なく投票しかつ投票せらるべし。
注三 女子の参政権を有せずと明示せる所以は日本現存の女子が覚醒に至らずという意味にあらず。欧州の中世史における騎士が婦人を崇拝しその眷顧を全うするを士の礼とせるに反し、日本中世史の武士は婦人の人格を彼と同一程度に尊重しつつ婦人の側より男子を崇拝し男子の眷顧を全うするを婦道とする礼に発達し来れり。この全然正反対なる発達は杜会生活のすべてにかける分科的発達となりて近代史に連なり、彼において婦人参政運動となれるもの我において良妻賢母主義となれり。政治は人生の活動における一小部分なり。国民の母国民の妻たる権利を擁護し得る制度の改造をなさば日本の婦人問題のすべては解決せらる。婦人を口舌の闘争に慣習せしむるはその天性を残賊することこれを戦場に用うるよりもはなはだし。欧米婦人の愚昧なる多弁、支那婦人間の強好なる口論を見たる者は日本婦人の正道に発達しつつあるに感謝せん。善き傾向に発達したるものは悪しき発達のものをして学ばしむる所あるべし。このゆえに現代をもって東西文明の融合時代という。直訳の醜はとくに婦人参政権間題に見る。(国民の生活権利参照)
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●国民自由の恢復
従来国民の自由を拘束して憲法の精神を毀損せる諸法律を廃止す。文官任用令。治安警察法。新聞紙条例。出版法等。
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注 周知の道理。ただ各種閥族等の維持に努むるのみ。
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●国家改造内閣
戒厳令施行中現時の各省の外に下掲の生産的各省を設け、さらに無任所大臣数名を置きて改造内閣を組織す。
改造内閣員は従来の軍閥、吏閥、財閥、党閥の人々を斥けて全国より広く偉器を選びてこの任に当らしむ。
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注 徳川の君臣をもって維新革命をなすあたわざる同一理由。ただし革命は必ずしも流血の多少によりて価値を決するものにあらず。あたかも外科手術において流血の多量おる理由をもって少量なる者を不徹底なりというあたわざるがごとし。要は手術者の力量と手術せらるべき患者の体質如何にあり。現時の日本は充実強健なる壮者なり、ロシア・支那のごときは全身腐肉朽骨の老廃患者なり。古今を達観し東西に卓出せる手術者のあらば日本の改造のごとき談笑の間に成るべし。
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●国家改造議会
戒厳令施行中普通選挙による国家改造議会を召集し改造を協議せしむ。
国家改造議会は天皇の宣布したる国家改造の根本方針を討論することを得ず。
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注一 これ国民が本隊にして天皇が号令者なる所以。権力濫用の「クーデター」にあらずして国民と共に国家の意志を発動する所以。
注二 これ法理論にあらずして事実論なり。露独の皇帝もかかる権限を有すべしという学究談論にあらずして、日本天皇陛下にのみ期待する国民の神格的信任なり。
注三 現時の資本万能官僚専制の問に普通選挙のみを行なうも選出なるる議員の多数または少数は改造に反対する者および反対する者より選挙費を得たる当選者なるをもってなり。ただし戒厳令中の議員選挙たり議会開会なるをもって有害なる侯補者または議員の権利を停止すべきを得るは論なし。
注四 かかる神格者を天皇としたることのみによりて維薪革命は仏国革命よりも悲惨と動乱なくしてしかも徹底的に成就したり。再びかかる神格的天皇によりて日本の国家改造はロシア革命の虐殺兵乱なく、ドイツ革命の痴鈍なる徐行を経過せずして整然たる秩序の下に貫徹すべし。
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●皇室財産の国家下附
天皇はみずから範を示して皇室所有の土地山林株券等を国家に下附す。
皇室費を年約三千万円とし、国庫より支出せしむ。
ただし、時勢の必要に応じ議会の協賛を経て増額することを得。
………………………………………………………………………………
注 現時の皇室財産は徳川氏のそれを継承せることに始まりて、天皇の原義に照すもかかる中世的財政をとるは矛眉なり。国民の天皇はその経済またことごとく国家の負担たるは自明の理なり。
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●●巻二 私有財産限度
●私有財産限度
日本国民一家の所有し得べき財産限度を壱百万円とす。
海外に財産を有する日本国民また同じ。
この限度を破る目的をもって財産を血族その他に贈与しまたは何らかの手段によりて他に所有せしむるを得ず。
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注一 一家とは父妻子女および直系の尊卑族を一括していう。
注二 限度を設けて壱百万円以下の私有財産を認むるは、一切のそれを許なざらんことを終局の目的とする諸種の社会革命説と社会および人性の理解を根本より異にするをもってなり。個人の自由なる活動または享楽はこれをその私有財産に求めざるべからず。貧富を無視したる画一的平等を考くることは誠に杜会万能説に出発するものにして、ある者はこの非難に対抗せんがために個人の名誉的不平等を認むる制度をもってせんというも、こは価値なき別問題なり。人は物質的享楽または物質的活動そのものにつきて画一的なるあたわざればなり。自由の物質的基本を保証す。
注三 外国に財産を有する国民にこの限度の及ぶは法律上当然なり。これを明示したる所以はこの限度より免かるる目的をもってする外国の財産を禁ずるを明らかにしたるもの。フランス革命の時の亡命貴族の例。租界に逃居して財産の安固を計る現時支那官僚富家の例。
注四 杜会主義が私有財産の確立せる近代革命の個人主義民主主義の進化を継承せるものなりとはこのゆえなり。民主的個人をもって組織なれざる社会は奴隷的社会万能の中世時代なり。しかして民主的個人の人格的基礎はすなわちその私有財産なり。私有財産を尊重せざる杜会主義は、いかなる議論を長論大著に構成するにせよ、要するに原始的共産時代の回顧のみ。
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●私有財産限度超過額の国有
私有財産限度超過額はすべて無償をもつて国家に納付せしむ。
この納付を拒む目的をもって現行法律に保護を求むるを得ず。
もしこれに違反したる者は天皇の範を蔑にし、国家改造の根基を危くするものと認め、戒厳令施行中は天皇に危害を加うる罪および国家に対する内乱の罪を適用してこれを死刑に処す。
………………………………………………………………………………
注一 経済的組織より見たるとき、現時の国家は統一国家にあらずして経済的戦国時代たり経済的封建制たらんとす。米国のごときは確実に経済的諸侯政治を築き終れるものなり。国家は、かって家の子郎党または武士らの私兵を養いて攻戦討伐せし時代より一現時の統一に至れり。国家はさらにその内容たる経済的統一をなさんがために、経済的私兵を養いて相殺傷しつつある今の経済的封建制を廃止し得べし。
注二 無償をもって徴集する所以は、現時の大資本家大地主らの富はその実社会共同の進歩と共同の生産による富が悪制度のため彼ら少数者に停滞し蓄積せられたるものにかかわるをもってなり。理由の第二は、公債をもってことごとくこれらを賠償する時は、彼らは公債に変形したる依然たる巨富をもって国家の経済的統一を致損し得べきかを有するをもってなり。第三の理由は、国家として不合理なる所有に対して賠償をなすあたわず、実にその資本をして有史未曽有の活用をなすべき切迫せる当面の経綸を有するをもってなり。
注三 違反者に対して死刑をもってせんというは必ずしも希望するところにあらず。またもとより無産階級の復讐的騒乱を是非するにもあらず。実に貴族の土地徴集を決行するに、大西郷が異議を唱うる諸藩あらば一挙討伐すべき準備をなしたる先哲の深慮に学ぶべしとするものなり。二、三十人の死刑を見ば天下ことごとく服せん。
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●改造後の私有財産超過者
国家改造後の将来、私有財産限度を超過したる富を有する者はその超過額を国家に納付すべし。
国家はこの合理的勤労に対してその納付金を国家に対する献金として受け明らかにその功労を表彰するの道を取るべし。
この納付を避くる目的をもって血族その他に分有せしめまたは贈与するを得ず。
違反者の罰則は、国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。
………………………………………………………………………………
注一 現時の致富と改造後の致富とが致富の原因を異にするを了解すべし。
注二 最少限度の生活基準に立脚せる諸多の杜会改造説に対して、最高限度の活動権域を規定したる根本精神を了解すべし。深甚なる理論あり。
注三 前世紀的社会主義に対する一般かつ有利の非難、すなわち各人平等の分配のために勤勉の動機を喪失すべしというごとき非難をこの私有財産限度制に移し加うるを得ず。第一、私有財産権を確認するがゆえに尠しも平等的共産主義に傾向せず。しかして私有財産に限度ありといえどもいささかも勤勉を傷けず。壱百万円以上の富は国有たるべきがゆえに、工夫は多くの賃銀を要せず商家は広き買客を欲せずと思考する者なし。
注四 私人壱百万円を有せば物質的享楽および活動において至らざる所なし。国民の国家内に生活する限り神聖なる人権の基礎として国家の擁護する所以。数百万数千万数億万の富に何ら立法的制限なきは国家の物質的統制を現代見るごとき無政府状態に放任するもの。国家が国際間に生活する限り国家の至上権において国家の所有に納付せしむる所以。
注五 私産限度超過者が法律を遵守せずして不可行に終るべしと狐疑するなかれ。刑法を遵守せずして放火殺人をあえてする者あるがゆえに刑法は空想なりという者なし。国憲を紊乱する者に課罰する別個重大精密なる法律を制定する所以なり。
………………………………………………………………………………
●在郷軍人団会議
天皇は戒厳令施行中、在郷軍人団をもつて改造内閣に直属したる機関とし、もって国家改造中の秩序を維持すると共に、各地方の私有財産限度超過者を調査し、その徴集に当らしむ。
在郷軍人団は在郷軍人の平等普通の互選による在郷軍人団会議を閉きてこの調査徴集に当る常設機関となす。
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注一 在郷軍人はかって兵役に服したる点において国民たる義務を最も多大に果したるのみならずその間の愛国的常識は国民の完全なる中堅たり得べし。かつその大多数は農民と労働者なるがゆえに、同時に国家の健全なる労働階級なり。しかしてすでに一糸紊れざる組織あるがゆえに、改造の断行において露独に見るごとき騒乱なく真に日本のみもっぱらにすべき天佑なり。
注二 ロシアの労兵会およびそれに倣いたるドイツその他の労兵会に比するとき在郷軍人団のいかに合理的なるかを見るべし。在郷軍人団は兵卒の素質を有する労働者なる点において、労兵会の最も組織立てるものとも見らるべし。
注三 現役兵をもって現在労働しつつあるものと結合して、同族相屠ふる彼らは悲しむべき不幸なり。かつ日本の軍隊は外敵に備うるものにして白己の国民の弾圧に用うべきにあらず。
注四 国民の資産納税等に関与する各官庁を用いざる所以はそれらと大富豪との納托はすでに脱税等に見るごとく事々国家を欺きて止まざればなり。第二の理由はこの改造が官僚の力による改造にあらずして国民みずからが国民のためにする改造なる根本精神に基づく重大なる眼目。
注五 もとより在郷軍人団がその調査と徴集に一の過誤失当なきを期するために必要なる官庁をして必要に応じて協力補佐せしむるは論なし。しかしてまたもとより在郷軍人団会議は各種の労働団体によりて協力補佐せらるるは論なし。
注六 現在の在郷軍人会そのものにあらず。平等普通の互選と明示せるを見よ。
………………………………………………………………………………
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●●巻三 土地処分三則
●私有地限度
日本国民一家の所有し得べき私有地限度は時価拾万円とす。
この限度を破る目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむるを得ず。
………………………………………………………………………………
注一 国民の自由を保護し得る国家は同時に国民の自由を制限し得るは論なし。外国の侵略またはその他の暴力より完全にその土地を私有し得る所以はすべて国家の保護による。資本的経済組織のために国内に不法なる土地兼併が行なわれて、大多数国民がその生活基礎たる土地を奪取せられつつあるを見るとき、国家は当然に土地兼併者の自由を制限すべし。
注二 時価拾万円として小地主と小作人との存立を認むる点は、一切の地主を廃止せんと主張する社会主義的思想と根拠を異にす。また土地は神の人類に与えたる人権なりというがごとき愚論の価値なきは論なし。すべてに平等ならざる個々人はその経済的能力享楽および経済的運命においても画一ならず。ゆえに小地主と小作人の存在することは神意ともいうべく、かつ杜会の存立および発達のために必然的に経由しつつある過程なり。
………………………………………………………………………………
●私有地限度を超過せる土地の国納
私有地限度以上を超過せる土地はこれを国家に納付せしむ。
国家はその賠償として三分利付公債を交付す。ただし私産限度以上に及ばず。
その私有財産と賠償公債との加算が私産限度を超過する者はその超過額だけ賠償公債を交付せず。
違反者の罰則は戒厳令施行中前掲に同じ。
………………………………………………………………………………
注一 日本現時の大地主はその経済的諸侯たる形において中世貴族の土地を所有せるに似たるも、所有権の本質において全く近代的のものなり。中世の所有権思想はその所有が奪取なると否とを問わず強者の権利の上に立てるものなりき。維新革命は所有権の思想が強力による占有にあらずして労働に基づく所有に一変すると共に、強力がその強力を失いてその所有権を喪失したるもの。これに反してこの私有地限度超過を徴集することは近代的所有権思想の変更にあらず。単に国家の統一と国民大多数の自由のために少数者の所有権を制限するものに過ぎず。ゆえに私有財産限度以下において所有権に伴う権利として賠償を得るものなり。
注二 ゆえに中世貴族の所有地を現今に至るも解決するあたわずしてついに独立間題にまで破裂せしめたるアイルランドの土地問題と、この私有地限度制とはその思想においても進歩の程度においても雲泥の差あるを知るべし。また現時ロシアの土地没収のごときは明らかに維新革命を五十年後の今において拙劣に試みつつあるものに過ぎず。彼が多くの点すなわち軍事政治学術その他の思想において遙かに後進国なるは論なし。土地問題において英語の直訳や「レニン」の崇拝は佳人の醜婦を羨むの類。
………………………………………………………………………………
●土地徴集機関
在郷軍人団会議は在郷軍人団の監視の下に私有地限度超過者の土地の評価徴集に当るべし。
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注 前掲の如し。
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●将来の私有地限度超過者
将来その所有地が私有地限度を超過したる者はその超過せる土地を国家に納付して賠償の交付を求むべし。
この納付を拒む目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむることを得ず。違反者の罰則は、国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。
●徴集地の民有制
国家は皇室下附の土地および私有地限度超過者より納付したる土地を分割して土地を有せざる農業者に給付し、年賦金をもってその所有たらしむ。
年賦金額年賦期間等は別に法律をもって定む。
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注一 社会主義的議論の多くが大地主の土地兼併を移して国家そのものを一大地主となし、もって国民は国家の所有の土地を借耕する平等の小作人たるべしというは原理としては非難なし。これに反対してロシアの革命的思想家の多くは国民平等の土地分配を主張してまた別個の理論を土地民有制に築くもの多し。しかしながらかかる物質的生活の問題はある両一の原則を予断してすべてを演繹すべきものにあらず。もし原則というものあらば、ただ国家の保護によりてのみ各人の土地所有権を享受せしむるがゆえに、最高の所有者たる国家が国有とも民有とも決定し得べしということこれのみ。ロシアに民有論の起るは正当なると共に、アイルランドの貴族領が国有たるべきも可能なり。すなわち二者のいずれかを決し得る国家はその国情の如何を考えて最善の処分をなせば可なりとす。日本が大地主の土地を徴集することは最高の所有者たる国家の権利にして国有なり。しかして日本が小農法の国情なるに考えてこれを自作農の所有権に移し、もって土地民有制を取ることも日本としての物質生活より築かるべき幾多の理論を有す。かつ動かすべからざる原理は都市の住宅地と異なりて農業者の土地は資本と等しくその経済生活の基本たるをもって、資本が限度以内において各人の所有権を認めらるるごとく、土地またその限度内において確実なる所有権を設定さるることは国民的人権なりとす。
注二 この日本改造法案を一貫する原理は、国民の財産所有権を否定するものにあらずして、全国民にその所有権を保障し享楽せしめんとするに在り。熱心なる音楽家が借用の楽器にて満足せざるごとく、勤勉なる農夫は借用地を耕してその勤勉を持続し得るものにあらず。人類を公共的動物とのみ、考うる革命論の偏局せることは、私利的欲望を経済生活の動機なりと立論する旧派経済学と同じ。共に両極の誤謬なり。人類は公共的と私利的との欲望を併有す。したがって改造なるべき社会組織また人性を無視したるこれら両極の学究的憶説に誘導さるることあたわず。
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●都市の土地市有制
都市の土地はすべてこれを市有とす。市はその賠償として三分利付市債を交付す。
賠償額の限度および私有財産とその加算が私有財産限度を超過したる者は前掲に同じ。
土地徴集機関また前掲に同じ。
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注一 都市と限りて町村住宅地を除外せる所以は、公有とすべき理由が町村の程度においては完成せざるをもってなり。
注二 都市地価の騰貴する理由は農業地のごとく所有者の労力に原因するものにあらずして大部分都市の発達そのものによる。都市はその発達より結果せる利益を単なる占有者に奪わるるあたわず。もってこれを市有とするものなり。
注三 都市はその借地料の莫大なる収入をもって市の経済を遺憾なからしむるを得。したがって都市の積極的発達はこの財源によりて自由なると共に、その発達より結果する借地料の騰貴はまた循環的に市の財源を豊かにす。
注四 家屋は衣服と等しく各人の趣味必要に基づくものなり。三坪の邸宅に甘ずる者あるべく、数拾万円の高楼を建つるものあるべし。ある時代の社会主義者の市立の家屋を考えしごときは市民の全部に居常かつ終生画一なる兵隊服を着用せしむべしというと一般、愚論なり。
注五 すでに都市の私有地を許なざるがゆえに、設定せられたる地上権より利得を計ることを得ず。すなわち借家をもって利得をなす者は家屋そのものよりの利得にして、地上権に伴う利益を計上するを得ず。このために市は五年目ごとに借地料の評価をなす。
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●国有地たるべき土地
大森林または大資本を要すべき未開墾地または大農法を利とする土地はこれを国有とし国家みずからその経営に当るべし。
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注一 下掲大資本の国家統一の原則による。
注二 わが日本においては国氏生活の基礎たる土地の国際的分配において将来大領土を取得せざるべからざる運命にあり。したがって国有として国家の経営すべき土地の莫大なるを考うべし。要するにすべてを通じて公的所有と私的所有の併立を根本原則とす。
注三 日本の土地問題は単に国内の地主対小作人のみを解決して得べからず。土地の国際的分配において不法過多なる所有者の存在することに革命的理論を拡張せずしては、言論行動一瞥の価値なし。(「国家の権利」参照)
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●●巻四 大資本の国家統一
●私人生産業限度
私人生産業の限度を資本壱千万円とす。海外における国民の私人生産業また同じ。
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注一 私有財産限度と私人生産限度とを同一視すべからず。合資株式合名または自己の財産にあらざる借入金をもって生産を営む後者の制限は財産の制限たる前者と全く別事なり。
注二 限度を設けて私人生産業を認むる所以は前掲の諸注より推して明なるごとく幾多の理由あり。人の経済的活動の動機の一が私欲にありというもその一。新たなる試みが公共的認識を待つあたわずして常に個人の創造的活動によるというもその二。いかに発達するも公共的生産が国民生活の全部を蔽うあたわずして、現実的将来は依然として小資本による私人経済が大部分を占むるものなりというもその三。国民自由の人権は生産的活動の自由において表われたるものにつきて保護助長すべきものなりというもその四。数うるに尽きざるこれらの理由は社会主義がその建設的理論において未だ全く世の首肯を得ざる欠陥を示すものなり。「マルクス」と「クロポトキン」とは未開なる前世紀時代の先哲として尊重すれば可。
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●私人生産業限度を超過せる生産業の国有
私人生産業限度を超過せる生産業はすべてこれを国家に集中し国家の統一的経営となす。
賠償金は三分利付公債をもって交付す。賠償の限度および私有財産との関係等すべて私有財産限度の規定による。
違反者の罰則は戒厳令施行中前掲に同じ。
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注一 大資本が社会的生産の蓄積なりということは社会主義の原理にして明白なること説明を要せず。しからば社会すなわち国家が自己の蓄積せるものを自己に収得し得るはまた論なし。
注二 現時の大資本が私人の利益のために私人の経営に委せらるることは人命を殺活し得べき軍隊が大名の利益のために大名に私用せらるることと同じ。国内に私兵を養いて私利私欲のために攻伐しつつある現代支那が政治的に統一せるものというあたわざるごとく、鉄道電信のごとき明白なる社会的機関をすら私人の私有たらしめて甘んずる米国は金権督軍の内乱時代なり。国民の安寧秩序を保持することが国家の唯一任務なりとせば、国民の死活栄辱を日夜にわたり終生を通じて脅威しつつあるこれらを処分せずしては国家なきに同じ。無政府党は怖るるの要なし。国家が国家みずからの義務と権能とを無視することを畏るべしとなす。
注三 積極的に見るとき大資本の国家的統一による国家経営は米国の「トラスト」ドイツの「カルテル」をさらに合埋的にして国家がその主体たるものなり。「トラスト」「カルテル」が分立的競争より遙かに有埋なる実証と理論によりて国家的生産の将来を推定すべし。
注四 大生産業の微集においてそれらを有し、さらに上地徴集においても各所にそれらを有する大富豪らは、要するにただ壱百万円を所有し得るのみなり。これと同時に壱百万円以下の株券を有し合資を有する者は、その干与せる株式会社・合資会杜の徴集せらるるとき一の傷害なき賠償を受くるものなり。すなわちいわゆる上流階級なるものを除ける中産以下の全国民には寸毫の動揺を与えず。
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●資本徴集機関
私人生産業限度を超過せる資本の徴集機関は在郷軍人団会議たること前掲に同じ。
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注 私有財産限度超過者の調査と徴集が根本なるをもって土地超過者と資本超過の処分に当ることはただ根本を収めて枝葉に及ぶものに過ぎず。在郷軍人団をもってする時、必ずしも三年の戒厳令を要せず。
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●改造後私人生産業限度を超過せる者
改造後の将来、事業の発達その他の理由によりて資本が私人生産業限度を超過したる時はすべて国家の経営に移すべし。国家は賠償公債を交付しかつ継承したる該事業の当事者にその人を任ずるを原則とす。
違反者の罰則は国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。
その事業が未だ私人生産業限度の資本に達せざる時といえどもその性質上大資本を利としまた国家経営を合理なりと認むる時は、国家に申達し双方協議のうえ国家の経営に移すことを得。
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注一 壱千万円以上の生産業が国営たるべきために起る疑惑は事業家の奮闘心を挫折せしむべしということなり。これに対して人類は公共的動物なりという共産主義者の人生観が半面より最も有かに説明し尽したるは人の知るごとし。かつ利己的欲望そのものを解剖するも、事業家の事業経営においてはその手腕の発揮を見る自己満足、その経営的手腕の社会に認識せらるるを欲する功名的動機が多大に合有せらるるを発見すべし。現代の将軍らが愛国心のほかにこれら功名的動機、軍事的手腕を発揮せんとする自己満足の動機のために戦場に死戦するを見よ。かの戦国時代の将軍らが一州を略せば一州を領し一城を抜けば一城の主たりという私利的経済的欲望を掲げたる争闘より劣るものなし。もとよりあえてすべてを事業家の公共的動機に要めず。その利己的欲望中に合有さるるかかる幾多の動機は、その事業を発展せしめたる国家的認識と、国家に移れる事業をその人に経営せしむる手腕発揮の自己満足とによりて、実に争いて私人生産業限度を超過せんとする奮闘心を刺戟し鞭撻すべし。いわんやかかる改造組繊の後においては、公共的動物たる人類の美性はこれを阻害する悪制度なきがために、いちじるしく国民の心意行動を支配するに至るは確定したる理論を有す。
注二 私人壱百万円の私的財産を有するに至らば、一切の私利的欲求を断ちてただ社会国家のために尽くすべき欲望に生活せしむべし。私人壱千万円の私的産業に至らばその事業の基礎および範囲において直接かつ密接して国家社会の便益福利以外一点の私的動機を混在せしむべきものにあらず。ゆえにこの二者の制限は現今まで放任せられたる道徳性を国家の根本法として法律化するに過ぎざるなり。 ………………………………………………………………………………
●国家の生産的組織
■その一 銀行省
私人生産業限度以上の各種大銀行より徴集せる資本、および私有財産限度超過者より徴集したる財産をもって資本とす。
海外投資において豊富なる資本と統一的活動。他の生産的各省への貸付。私人銀行への貸付。通貨と物価との合理的調整。絶対的安全を保証する国民預金等。
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注一 現時の分立せる銀行とこの銀行省との対外能力を考うる時、その差等はほとんど支那の私兵と日本の統一軍隊ほどの懸隔を見るべし。私兵を糾合して対外利権を争うがごときは資本の乏しき日本にとりて必敗なり。
注二 貿易順調にして外国より貨幣の流入横隘しために物価騰貴に至る恐ある時、銀行省はその金塊を貯蔵して国家非常の用に備うると共に、物価を合理的に調整するを得べし。経済界の好況をかえって反対に国民生活の憂患とする現下の大矛盾は一に国家が「金権」を有せざるに基づく。
注三 国民膏血の貯金または事業の運命を決すべき預金等が銀行の破産によりて消散することは国民生活の一大不安なり。いかに岩下清周に重刑を課するも幾万人の被害者に何の補いたらず。大日本帝国が国民と共に亡びざる限り銀行省の預金に不安なし。
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■その二 航海省
私人生産業限度以上の航海業者より徴集したる船舶資本をもって遠洋航路を主とし海上の優勝を争うべし。造船造艦業の経営等。
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注 これ海上の鉄道国有に過ぎず。その外国同業者との競争能力等は「トラスト」「カルテル」より推論し得べく、以下の各省みな同じ。
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■その三 鉱業省
資本または価格が私人生産業限度以上なる各種大鉱山を徴集して経営す。銀行省の投資に伴う海外鉱業の経営。新領土取得の時私人鉱業と併行して国有鉱山の積極的開発等。
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注一 資本のみならず鉱山の価格を明示せる所以。機械その他の設備を資本として鉱山そのものの価格が資本なることを忘れんとする誤解を防ぐ。
注二 国民の屍山血河によりて獲得したる鉱山(例えぱ撫順炭鉱のごとき)を少数者に壟断しつつある現時の状態は実に最悪なる政治というのほかなし。愛国心の頽廃も無政府党の出現も国家みずからが招くもの。
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■その四 農業省
国有地の経営。台湾製糖業および森林の経営。台湾、北海道、樺太、朝鮮の開墾。南北満洲、将来の新領土における開墾、または大農法の耕地を継承せる時の経営。
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注 台湾における糖業および森林に対する富豪等の罪悪が国家の不任不義に帰せらるるごときは国家および国民の忍び得べきものにあらず。将来台湾の幾十倍なる大領土を南北満洲および極東シベリアに取得すべき運命において、同一なる罪悪を国家国民の資任に嫁せらるることは日本の国際的威厳信用を汚辱し、土地の国際的分配の公正のために特に日本の享有せる領土拡張の生活権利を損傷ん、いかなる大帝国建設も百年の寿を全うするあたわざるべし。
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■その五 工業省
徴集したる各種大工業を調整し統一し拡張して真の大工業組織として、各種の工業ことごとく外国のそれらと比肩するを得べし。私人の企てざる国家的欠陥たるべき工業の経営。海軍製鉄所、陸軍兵器廠の移管経営等。
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注 工業の「トラスト」的「カルテル」的組織は賢本乏しく列強より後れたる日本には特に急務なり。また今回の大戦に暴露せられたるごとく日本は自営自給するあたわざる幾多の工業あり。自己の私利を目的とする資本制度に依頼して晏如たることは、今日および今後日本の国際的危機の忍ぶあたわざるところなり。
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■その六 商業省
国家生産または私人生産による一切の農業的工業的貨物を案配し、国内物価の調節をなし、海外貿易における積極的活動をなす。
この目的のためにすべて関税はこの省の計算によりて内閣に提出す。
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注一 すでに私有財産限度あり、私有地限度あり、私人生産業限度あり。私人は悪用すべき大資本を奪われたるがゆえに国家の物価調節に反抗して買占め売り惜しみ符をなすことあたわず。したがって国家の物価調節は一糸紊れず整然として行なわるべし。大地主と投機商人との有する大資本が米穀の買占め売り惜しみを自由ならしめて現時の米価騰貴を現出しつつあるを見よ。すべての物価問題ことごとくここに発す。彼らの大資木を奪わずして物価調節をいうごときは抱腹すべき空想政治なり。
注二 国内の物価が世界的原因、すなわち世界大戦中のごとき世界的物価騰貴のために騰貴するときは、国家は一般国民の購買能力と世界市価との差額を輸出税として課税すべし。公私生産品一律に課税さるるは論なし。かくして国内物価の暴騰を防ぐと同時に、貿易上の利益を国庫に収得するを得べし。ただしこれらは非常変態の経済状態にして輸出税を課するごとき原則にあらざるは論なし。しかも非常に遭遇したるとき国民の不安騒乱を招くがごとき国家組織をもってして、如何ぞ大日本帝国の世界的使命を全うするを得べき。将来一大戦争を覚悟するならば特に非常時に安泰なるべき改造を要す。
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■その七 鉄道省
今の鉄道院に代え、朝鮮鉄道、南満鉄道等の統一。将来新領土の鉄道を継承し、さらに布設経営の積極的活動等。
私人生産業限度以下の支線鉄道はこれを私人経営に開放すべし。
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注一 鮮血の南満鉄道が富豪に壟断さるるの不義と危険とは鉱業省の注に述べたるがごとし。もし将来の大領土における諸多の鉄道を再び南満鉄道に学ばしむることあらば国民に闘志なきこと明白なり。
注二 鉄道の国有なるがゆえに現時のごとく民間の鉄道布設が阻害せらるるは、第一国民の経済的自由を蹂躙するのみならず、国有鉄道そのものの利益を滅殺するものなり。陸上の鉄道なるがゆえに山間僻村の支線をも国有とし、海上の鉄道なるがゆえに全世界に通ずる幹線をも民有とすべしとは道理に合せざるもはなはだし。鉄道の国有たるべきものと民有たるべきものと、また実に私人生産業限度の原則および大資本の国家統一の原則の下に律せらるべし。国家の大本は一にして二なし。
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●莫大なる国庫収入
生産的各省よりの莫大なる収入はほとんど消費的各省および下掲国民の生活保障の支出に応ずるを得べし。したがって基本的租税以外各種の悪税はことごとく廃止すべし。
生産的各省は私人生産者と同一に課税せらるるは論なし。
塩、煙草の専売制はこれを廃止し、国家生産と私人生産との併立する原則によりて、私人生産業限度以下の生産を私人に開放して公私一律に課税す。
遺産相続税は親子権利を犯すものなるをもって単に手数料の徴収に止む。
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注一 国家の徴集し得べき資本の概算は推想するを得べきも、その真実を去るはなはだ遠きことは在郷軍人団の調査徴集を必要とする所以なり。
注二 国家の生産的収入の増大するに従いて、ただに悪税のみ、ならず多くの租税を廃止し得るの時来るべきは推想し得べし。
注三 遺産相続を機として国家が収得を計らんとする社会政策者流の人権的思想に不徹底なるを思考すべし。
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●●巻五 労働者の権利
●労働省の任務
内閣に労働省を設け国家生産および個人生産に雇傭さるる一切労働者の権利を保護するを任務とす。
労働争議は別に法律の定むるところによりて労働省これを裁決す。この裁決は生産的各省個人生産者および労働者の一律に服従すべきものなり。
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注一 労働者とは力役または智能をもって公私の生産業に雇傭せらるる者をいう。したがって軍人・官吏・教師等は労働者にあらず。たとえば巡査が生活権利を主張する時はその所属たる内務省が決定すべく、教師が増給運動をなす時は文部省が解決すべし。労働省の与かるところにあらず。
注二 同盟罷工は工場閉鎖と共にこの立法に至るべき過程の階級闘争時代の一時的現象なり。永久的に認めらるべき労働者の特権にあらざると共に、一躍この改造組織を確定したる国家にとりては断然禁止すべきものなり。ただしこの改造を行なわずしてしかもいたずらに同盟罷業を禁圧せんとするは、大多数国民の自衛権を蹂躙する重大なる暴虐なりとす。
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●労働賃銀
労働賃銀は自由契約を原則とす。
その争議は前掲の法律の下に労働省これを決定す。
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注一 自由契約とせる所以は国民の自由をすべてに通ぜる原則として国家の干渉を背理と認むるによる。真理は一社会主義の専有にあらずして自由主義経済学の理想にまた犯すべからざるものあり。等しく労働者というも各人の能率に差等あり。特に将来日本領土内に居住しまたは国民権を取得する者多き時、国家が一々の異民族につきその能率と賃銀とに干渉し得べきにあらず。現今においては資本制度の圧迫によりて労働者は自由契約の名の下に全然自由を拘束せられたる賃銀契約をなしつつあり。しかも改造後の労働者は真個その自由を保持していささかの損傷なかるべきは論なし。
注二 自由(すなわち差別観)を忘れてただ観念的平等に立脚したる時代の社会主義的理想家は国民に徴兵制のごとく労働強制を課せんと考えしことあり。人生は労働のみによりて生くるものにあらず。また個々人の天才は労働の余暇をもって発揮し得べきものにあらず。何人が大経世家たるか大発明家、大哲学者、大芸術家たるかは、彼らの立案するごとく杜会が認めて労働を免除すという事前に察知すべからずしてことごとく事後に認識せらるるものなればなり。社会主義の原理が実行時代に入れる今日となりてはそれに付帯せる空想的糟粕は一切棄却すべし。
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●労働時間
労働時間は一律に八時問制とし日曜祭日を休業して賃銀を支払うべし。
農業労働者は農期繁忙中労働時間の延長に応じて賃銀を加算すべし。
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注 説明の要なし。ただし余の時間をもって修養に享楽に自由なる人権に基づきて、家庭的労働をなしまた他の営業をなすは等しく個人の自由なり。
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●労働者の利益配当
私人生産に雇傭せらるる労働者はその純益の二分の一を配当せらるべし。
この配当は智能的労働者および力役的労働者を総括したるものにして、各自の俸給賃銀に比例して分配す。
労働者はその代表を選びて事業の経営計画および収支決算に干与す。
農業労働者と地主との間またこれに同じ。
国家的生産に雇傭せらるる労働者はこの利益配当に代わるべき半期ごとの給付を得べし。事業の経営収支決算に干与する代りに衆議院を通じて国民として国家の全生産に発言すべし。
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注一 労働者はその労働を売却するものなりとは旧派経済学の誤説なり。企業家がその企業的能力をその資本たる機械・鉱山・土地等に加えて利益を計ると同じく、労働者はそれらの資本に労働を加えて利益を計る者なり。機械そのものは人類の知識を結晶したる祖先の遺産たり、社会の共同的産物たり。鉱山土地等そのものは全く自然の存在にしてそれを所有せしむるすべての力は国家なり。しかしてこれらの資本より利益を得んとしてここに各種の人力を要す。企業家は企業的能力を提供し労働者は智能的力役的能力を提供す。労働者の月給または日給は企業家の年俸と等しく作業中の生活費のみ。一方の提供者には生活費のみを与えてその提供のために生れたる利益を与えず他方の提供者のみ生活費のほかにすべての利益を専有すべしとは、その不合理にして無智なることほとんど下等動物の杜会組織というのほかなし。労働者が経営計画に参与するの権はこの一方の提供者としてなり。
注二 国家生産の労働者に利益配当を用いざる所以は、国家は全生産の永遠的経営を本旨とするがゆえに、全国家の生産的活動のためにある省にはことさらに投売を行なわしめて損失を顧みざることあるごとく、ある省を犠牲としてある省の対外競争をもっぱらならしむることもあるべきをもってなり。かかる場合において各別に利益配当をなす時に非常なる不公平を生じ甲省の労働者の利益配当を奪いて乙省のそれに与うるがごときを生ずべし。したがってまた生産方針に干与するの権は国家全局の生産成績を達観し得べき衆議院においてせざるべからざる所以となる。
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●労働的株主制の立法
私人生産業中株式組織の事業はそれに雇傭さるる肉体的精神的労働者をして、みずからその株主たり得る権利を設定すべし。
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注一 これ自己の労働と自己の資本とが不可分的に活動するものなり。事業に対する分担者としての当然なる権利に基づきて制定さるべし。別個生産能率をも思考すべし。
注二 私人生産業限度内の事業において将来半世紀一世紀問は現代のごとき腐敗破綻を来たす怖れあるものと推定すべし。したがって、労働的株主を併存せしむることは内容的根本的につねに該事業を健確に支持すべし。
注三 労働的株主の発言権は労働争議を株主会議内において決定し、一切の社会的不安なからしむべし。
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●借地農業者の擁護
私有地限度内の小地主に対して土地を借耕する小作人を擁護するために、国家は別個国民人権の基本に立てる法律を制定すべし。
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注一 限度以上の土地を分有せしむる大本は別に存せり。しかも小地主対小作人の間を規定して一切の横暴脅威を抜除すべき細則を要す。
注二 一切の地主なからしめんと叫ぶ前世紀の旧革命論を、私有限度内の小地主対小作人の間に巣くわしむべからず。旧杜会の惰勢を存せしむるすべてのところに、旧世紀の革命論は繁殖すべし。
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●幼年労働の禁止
満十六歳以下の幼年労働を禁止す。これに違反して雇傭したる者は重大なる罰金または体刑に処す。
尊族保護の下に尊族において労働する者はこの限りにあらず。
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注 国民人権の上より説明を要せず。満十六歳以下とせるは下掲の国民教育期間なるをもってなり。体刑を課する所以は国家の児童を保護するに最も厳励なるべきをもってなり。実に国家の生産的利益の方面より見るも幼童にして残賊するよりもその天賦を完全に啓発すべき教育を施したる後の労働が幾百倍の利益なるは論なし。四海同胞の人道を世界に宜布せんとする者が、みずからの国家内における幼少なる同胞を酷使して何の国民道徳ぞ。
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●婦人労働
婦人の労働は男子と共に自由にして平等なり。ただし改造後の大方針として国家はついに婦人に労働を負荷せしめざる国是を決定して施設すべし。
国家非常の際に処し婦人が男子の労働に代わり得べきために男子と平等なる国民教育を受けしむ。(「国民の生活権利」参照)。
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注一 現時の農業発達の程度においては婦人を炎天に晒らしてその美を破り、または貧困者多き近き将来においては婦人を工場に駆使してその楽を奪うとも止むを得ざる人間生活なり。しかしながら大多数婦人の使命は国民の母たることなり。妻として男子を助くる家政労働のほかに、母として保姆の労働をなし、小学教師に劣らざる教育的労働をなしつつある者は婦人なり。婦人はすでに男子のあたわざる分科的労働を十に分に負荷して生れたる者。これらの使命的労働を廃せしめて全く天性に合せざる労働を課するは、ただに婦人そのものを残賊するのみならず、直にその夫を残賊しその子女を残賊する者なり。この改造によりて男子の労働者の利得が優に妻子の生活を保証するに至らば、良妻賢母主義の国民思想によりて婦人労働者は漸次的に労働界を去るべし。
注二 この点は女子参政権問題におけるがごとく、日本と欧米とが全然発達の傾向を異にし来たりかつ異にすべき将来を示すものなり。日本婦人の人格は欧米のごとく男子の職業を争いて認めらるべき将来を仮想するの要なし。国家組織が下掲のごとく母としてまた妻としての婦人の生活を保証し、婦人が男子と平等の国民教育を受くるならば、その妻としての労働、母としての労働が人格的尊敬をもって認識せらるるは論なし。
注三 婦人は家庭の光にして人生の花なり。婦人が妻たり母たる労働のみとならば、夫たる労働者の品性を向上せしめ、次代の国民たる子女をますます優秀ならしめ、各家庭の集合たる国家は百花爛漫春光駘蕩たるべし。とくに杜会的婦人の天地として、音楽・美術・文芸・教育・学術等の広漠たる未墾地あり。この原野は六千年間婦人に耕やし播かれずして残れり。婦人が男子と等しき牛馬の労働に服すべき者ならば天は彼の心身を優美繊弱に作らず。
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●●巻六 国民の生活権利
●児童の権利
満十五歳未満の父母または父なき児童は、国家の児童たる権利において、一律に国家の養育および教育を受くべし。国家はその費用を児童の保護者を経て給付す。
父生存してしかも父に遺棄せられたる児童また同じ。ただしこの場合において国家は別途その父に対して賠償を命じ、従わざるものは労働を課して賠償に充てしむ。
父母の遺産を相続せる児童、または母の資産あるいは特種能力において教養せられ得る児童は、国家と協議の上この権利を放棄せしめらるべし。
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注一 人の居常かつ終生の憂惧は子女の安全なる生長にあり。封建時代の武士がすべて後顧の憂なきがためにその道義的奮進または犠牲的冒険を敢行し得たるごとく、国民はその子女の国家的保障のため戦場においても平和のそれにおいてもなんら後顧の憂なし。その児童の権利として児童そのものを権利主体とせるは、父母の如何にかかわらず、第二の国民たる点において国民的人権を有するをもってなり。
注二 父なき児童が孤児と同一なる権利を有する所以は、婦人は男子たる父と同一なる労働をなすあたわざる原則に基づく。慈悲深き賢母を労働の苦役に駆り貞節なる良妻を売淫の汚濁に投ずるは、夫たり子女たる国民の忍ぶあたわざるところ。国家は夫と子女と婦人そのものとのためにその義務を完うせざるべからず。ただし母その人の生活は母自身の維持すべきものとす。
注三 父生存して遺棄せられたる児童また同じきはすべてこの理由による。結婚と単なる情交とを差別せず、しかして賠償を別途に命じて同居を父に強いざる所以は、遺棄んたる事情が背徳にせよまたは積極的活動のためにせよ干渉すべからざる別事なればなり。
注四 父母共になき児童を孤児院に収容せざる所以は、孤児院の弊害はなはだしきと、児童の保護者として血族長者の保護に優る者なきをもってなり。全然保護者なき孤児は国家の収容すべきは論なし
注五 以上児童の権利はおのずから同時に母性保護となる。
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●国家扶養の義務
貧困にして実男子また養男子なき六十歳以上の男女、および父または男子なくして貧困かつ労働に堪えざる不具廃疾は国家これが扶養の義務を負う。
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注一 実男子または養男子として婦人に扶養の義務を負荷せしめざる所以は、婦人は自己一人以上を生活せしむる労働力なき原則による。かつその女が他家に嫁して余力ある者といえども、その老親の扶養を夫の資産労働に依頼せしむることは、父母の屈従不安を招きさらに婦人をして夫の前にその人格的尊重を傷づくるに至らしむ。すなわち婦人に老親を負担せしめざるは日本古来の不文律にして同時に婦人人権の擁護なり。
注二 実男子または養男子に貧困なる老親を扶養せしむるは欧米の贋的個人主義と雲泥の差あるもの。かの「ロイドジョージ」氏の試みたる養老年金法案のごときは、国民の大部分が扶養すべき男子を有するがゆえに、日本においてはここに掲ぐる例外的不幸を除きて無用なる立法なりとす。
注三 不具廃疾者をその兄弟遠族または慈善家の冷遇に委するは不幸なる者に虐待を加うると同じ。その母または女子に負荷せしめざる所以は、愛情ありといえども扶養能力なきがゆえに、結局その兄弟または娘の夫の負担となりて、立法の精神を殺すものとなるをもってなり。
注四 兵役義務のために不具廃疾となれる者の国家扶養の義務は別に法律をもってその扶養を完うすべし。もとより別個の問題なり。
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●国民教育の権利
国民教育の期間を、満六歳より満十六歳までの十ヵ年間とし、男女を同一に教育す。
学制を根本的に改革して、十年間を一貫せしめ、日本精華に基づく世界的常識を養成し、国民個々の心身を充実具足せしめて、おのおのその天賦を発揮し得べき基本を作る。
英語を廃して国際語(えすぺらんと)を課し第二国語とす。
女子の形式的また特殊的課目を廃止し小学、高等小学、中学校に重複するものを廃して一貫の順序を正しくす。
体育は男女一律に丹田の鍛冶より結果する心身の充実具足に一変す。したがって従来の機械的直訳的運動および兵式訓練を廃止すべし。
男女の遊戯は撃剣・柔道・大弓・薙刀・鎖鎌等を個人的または団体的に興味づけたるものとし従来の直訳的遊戯を廃止す。
この国民教育は国民の権利として受くるものなるをもって無月謝、教科書給付中食の学校支弁を方針とす。
男生徒に無用なる服装の画一を強制せず。
校舎はその前期を各町村に存する小学校舎とし、後期を高等小学校舎とし、一切物質的設備に浪費せず。
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注一 男女共中学程度終業をもって国民たる常道常識を教育せらるるもの。ようやく文字を解し得るか得ざるかの小学程度をもって国民教育の終了とするは国民個々の不具と国家の薄弱を来すものなり。これ教育すべき国家の窮乏せると、教育せらるべき国民に余裕なかりしをもってなり。一貫したる十年間の教育は、その終了と同時に完全具足したる男女たるべく、さらにその基本をもっておのおのその使命的啓発に向って進むを得べし。
注二 女子を男子と同に一教育する所以は、国民教育が常識教育にしてある分科的専攻を許すべき年齢にあらざると共に、満十六歳までの女子は男子と差別すべき必要も理由もなきをもってなり。したがって女学校特有の形式的課目女礼式、茶湯、生花のごときまた女子の専科とせる裁縫、料理、育児等の特殊課目は全然廃止すべきものとなる。前者を強制するは無用にして有害なり。後者は各家庭において父母の助手としてみずから修得すべし。女子に礼式作法が必須課目ならば男子にも男子のそれがしかるべく、茶の湯、生花がしかるならば男子に謡曲を課せざれぱ不可。車夫の娘に「ビフテキ」の焼方を教授し外交官の妹に袴の裁方を説明し、月経なき少女に育児を講義するごとき、今の女子教育のすべては乱暴愚劣真に百鬼夜行の態なり。学校はすべてにあらず。各人の欲するところに随い各家の生活事情に応じて学ぶべき幾多のものを有す。
注三 一切にわたりて英語を廃する所以。英語は国民教育として必要にもあらず、また義務にもあらず。現代日本の進歩において英語国氏が世界的知識の供給者にあらず。また日本は英語を強制せらるる英領インド人にあらず。英語が日本人の思想に与えつつある害毒は英国人が支那人を亡国民たらしめたる阿片輸入と同じ。ただ英語ほど普及せずしてしかも英語思想以上に影響を与えたるドイツ語によりてその害毒の緩和せられたる天佑を有するのみ。英語国民の浅薄なる思想を通じて空洞なる会堂建築として輸入されたるキリスト教。人格権の歴史的覚醒たる民主々義が哲学的根拠を欠如したる民本主義となりて輸入されつつある「デモクラシー」。英米人の持続せんとする国際的特権のために宣伝されつつある平和主義・非軍国主義が、その特権を打破せんがために存する日本の軍備および戦闘的精神に対する非難として輸入されつつある内容皆無の文化運動。単にこれらをのみ視るも一利に対して千百害あること阿片輸入の支那を思わしむ。言語は直ちに思想となり思想は直ちに支配となる。一英語の能否をもって浮薄軽兆なる知識階級なるものを作り、店頭に書冊に談話にその単語を挿入して得々情々として恥無き国民に何の自主的人格あらんや。国民教育において英語を全廃すべきは勿論、特殊の必要なる専攻者を除きて全国より英語を駆遂することは、国家改造が国民精神の復活的躍動たる根本義においてとくに急務なりとす。
注四 国際語を第二国語として採用する所以。しかしながら実に他の欧米諸国に見ざる国字改良、漢字廃止、言文一致、ローマ字採用等の議論百出に見るごとく、国民全部の大苦悩は日本の言語文字のはなはだしく劣悪なることにある。その最も急進的なるローマ字採用を決行するとき、幾分文字の不便は免るべきも言語の組織そのものが思想の配列表現においてことごとく心理的法則に背反せることは、英語を訳し漢文を読むにすべて日本文が顛倒して配列せられたるを発見すべし。国語間題は文字または単語のみの問題にあらずして言語の組繊根抵よりの革命ならざるべからず。しかして不幸なる幸は中学教育に英語を課し来れる慣習のために、その程度の教育者も被教育者も、何らかの言語を習得すべきことを必須的に確信せることなり。国際語の合理的組織と簡明正確と短日月の修得とは世人の知るごとし。成年者が三月または半年にて足る国際語の修得が、中学程度の児童、一二年にして完成すべきことは、英語が五年間没頭してなお何の実用に応ずる完成を得ざる比にあらず。児童は国際語をもって国民教育期間に世界的常識を得べし。しかして欧米の革命的団体は大戦のはるかに以前これをもって国際語とせんと決議せしほどのもの。最も不便なる国語に苦しむ日本はその苦痛を逃るるためにまず第二国語として並用する時、自然淘汰の理法によりて五十年の後には国民全部がおのずから国際語を第一国語として使用するに至るべし。したがって今日の日本語は特殊の研究者にとりて梵語、「ラテン」語の取扱を受くべし。
注五 国際語の採用がとくに当面に切迫せる必要ありという積極的理由。下掲国家の権利に説くごとく、日本は最も近き将来において極東・シベリア・濠州等をその主権下に置くとき、現在の欧米各国語を有する者のほかに新たにインド人・支那人・朝鮮人の移住を迎うるがゆえに、ほとんど世界すべての言語をわが新領土内に雑用せしめざるべからず。これに対して朝鮮に日本語を強制したるごとく我みずから不便に苦しむ国語を比較的好良なる国語を有する欧人に強制するあたわず。インド人・支那人の国語また決して日本語より劣悪なるというあたわず。この難間題は実に三、五年の将来に迫れるものなり。主権国民がシベリアにおいて露語を語り濠州において英語を語る顛倒事をなすあたわざるならば、日本領土内に一律なる公語を決定し彼らが日本人と語るときの彼らの公語たらしめざるべからず。劣悪なる者が亡びて優秀なる者が残存する自然淘汰律は日本語と国際語の存亡を決するごとく、百年を出でずして日本領土内の欧州各国語、支那、インド、朝鮮語はまた当然に国際語のために亡ぶべし。言語の統一なくして大領土を有することはただ瓦解に至るまでの槿花一朝の栄のみ。
注六 体育を丹田本位と決定する所以は、ただ肉体の一面のみを見るも根本的体育たるをもってなり。すでに日本の各方面に先覚者の簇出して実証を示しつつあるところなり。これらに示さるるごとくインドに起りたるアジア文明は世界より封鎖せられたる日本を選びて天の保存したるもの。単に手足を動かし器具に依頼し散歩遠足をもって肉体の強健を求むる直訳的体育は実に根本を忘れて枝葉に走りたる彼らの悪摸倣なり。特に女子をして優美繊麗のままに発達したる強健を得せしむるには丹田の根本を整うる以外一の途なし。変性男子のごとき醜き手足を作りてしかも健康の根本を培わざる直訳体操はとくに厳禁を要す。
注七 兵式体操を廃止する所以は、その形式また実に丹田の充実を忘れたる外形的整頓に促われたるものによるも一理由なり。かつ下掲のごとく日本国民は永久に兵役の義務を有し、かつ一年志願兵特権はこれらの訓練あるを一理由となすをもってそれをも廃止するがゆえに、兵役においてすべきことはすべて兵営においてすべし。さらに他の一理由は日本の将来は陸上にあると同一以上の程度において海上にあるがゆえに、国民教育においてただ陸軍的摸倣をなさしめて海兵的訓育を閑却することの矛盾なるをもってなり。国民教育の要は根本の具足充実にあり。丹田本位の心身を鍛冶し十年間一貫の常識教育を施さばもって海兵に用うべくもって陸兵に用うべし。兵の素質において二等卒も今の少尉級に劣らず。
注八 単純なる遊戯として男子が撃剣柔道に遊び女子が長刀鎖鎌を戯るるはその興味において「べースボール」「フートボール」等と雲泥の相違あり。精神的価値等を挙げて遊戯の本旨を傷くべからず。こは生徒の自由に一任すべし。現今の武器の前に立ちてこれらに尚武的価値を求むるに及ばず。日本人の一般生活に没交渉なる直訳的遊戯を課するの滑稽さは床柱を背にして小猿のごとく跪坐する洋服姿と同じ。
注九 国民教育の児童に対して無月謝、教科書給付、中食の学校支弁とする所以は、国家の児童に対する父母としての日常義務を果すものなり。現今の中学程度における月謝と教科書とは一般国民に対する門戸閉鎖なり。無月謝より生ずる負担は各市町村これを負うべく、教科書は国庫の経費をもつて全国の学校に配布すべし。中食の学校支弁の理由は第一に登校児童のために毎朝母を労苦せしめざることなり。第二の理由はその中食に一塊の「パン」薩摩芋、麦の握飯等の簡単なる粗食をなさしめ、もって滋養価値を云々して真の生活を悟得せざる科学的迷信を打破するにあり。第三の理由は幼童の純白なる頭脳に口腹の欲に過ぎざる物質的差等をもって一切を高下せんとする現代までの悪徳を印象せしめざるにあり。学校としては簡単なる事務にして、もし児童の家庭が悪感化によりて食事を肯んせざる者あらば教師の権威をもってその保護者を召喚訓責すべし。
注一〇 今の中学程度の男生徒に制服として靴洋服を強制することは実に門戸閉鎖の有力なる一理由なり。その不合理なることあたかも現時の欧米に「キモノ」服が普及したるをもってそれを室内の制服として強制せんというと一般なり。和服の不便なる裁方なりというは別問題なり。居常の衣服を登校に用ゆるを得ざる大々的不便をその父母の経済に課して何の便不便ぞ。実に今の日本教育のすべては教育にあらずして.ただ外形の摸倣なりとす。
注一一 校舎に巨費を投ずるはまた最悪なる直訳的摸倣なり。この国民教育の根本的革命は戒厳令施行中より実施すべきものなるをもって、現時の校舎を直ちに使用すべきことを明示したり。器械的科目たる理化学においても今の中学校程度において別個の教室を設備するごとき摸倣的浪費の一。
注一二 以上の国民教育の説明によりて大学および大学予備校の方針、またそれが生徒の自費たること等は推想し得べし。しかして不用なるべき各地の中学女学校舎はあるいはこれを取り毀ち、または大学予備校の校舎または単科大学の校舎となすを得。
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●婦人人権の擁護
その夫またはその子が自己の労働を重視して婦人の分科的労働を侮蔑する言動はこれを婦人人権の蹂躙と認む。婦人はこれを告訴してその権利を保護せらるる法律を得べし。
有婦の男子にして蓄妾またはその他の婦人と姦したる者は婦の訴によりて婦人の姦通罪を課罰す。
売淫婦の罰則を廃止しそれを買う有婦の男子はこれを拘留しまたは罰金に処す。
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注一 現行法律における離婚の理由たる虐待云々の意味にあらず。かつこの訴は必ずしも離婚を目的とせず、実に婦人が男子の労働に衣食するかの誤解ありて、男子の労働がその実かえって婦人の分科的労働の助力あるがゆえに行なわるるを忘却する横暴なる行為を禁じ、特に法律をもって婦人の人権を擁護するものなり。もしこの立法が男子の道念によりて行なわれざるならば忌むべき婦人労働となり婦人参政権運動となるべし。
注二 男子の姦通罪を罪することは第一に一夫一婦たる国民道徳の大本を明らかにするがためなり。国家の興廃はことごとく男女の大本の清濁にあり。現時の欧州諸国に「ノア」の洪水が来れる所以を考え、同胞残害して地獄を現世に示しつつあるロシアを考えよ。いかに早くすでにこの大本が腐爛し尽したるかを見ん。日本国民が全アジアの盟主たる大使命あるならば、人倫の大本を厳守励行する立法は実に一日を忘るべからず。第二の理由は国家の児童に対して大父母たる立場においてその生みの父母は単なる保姆の任を負うものなり。保姆の一方が残虐なる苦痛を他の一方に加えて横暴と悲惨とを居常見聞せしめらるる児童の悪感化に対して、国家は大父母の権利において残虐なる一方を処罰すべし。第三の理由は婦人人権の擁護なり。
注三 この一夫一婦制の励行はかの白由恋愛論の改訳革命家と人生の理解を根本より異にせるものなり。かれに従えば男子の姦通罪を罰する法律の代りに女子の姦通罪を罰する現行法律を廃止せば足れりというべし。自由恋愛論の価値は恋愛の自由を拘束する時代の政治的経済的宗教的阻害者を打破せんとする点にあり。これを途方もなき一夫一婦制に対する反逆と考うるは、あたかも政治的特権者に向つて叫ばれたる政治の自由を平等なる国民間に脱線せしめて、相犯さざる各自の自由を蹂躙することも等しく政治の自由なりという低能者の昏迷なり。国民平等の自由が特権にあらざるごとく一夫一婦制は何らの特権にあらず。自由は自由の侵害者を拘束せざるべからず。一夫一婦は妻の恋愛を自由ならしめんがために夫の濫用せんとする恋愛の自由を拘束せんとするなり。彼らの昏迷せる自由の解釈は、自由をもって放火の自由殺人の自由も自由なりと結論せしむるものなり。すべての自由が社会と個人その人の利益のために制限さるるごとく、恋愛の自由また国民道徳とその保護者とのために制限せらるるは論なし。この一夫一婦制は理想的自由恋愛論の徹底したる境地なり。ただし今はこれを説くの時期到来せず。
注四 現行法律が売淫婦人をのみ罰して買淫男子を罰せざるは姦通罪が婦人をのみ、罰して男子に及ばざると等しき片務的横暴なり。貞操の売買はこの改造組織の後においては漸次消滅すべきことを信ずと共に、しばらくの近き将来に存在すべきそれらに対して、国家は両者共に法律をもって臨まざる方針を取るべし。ただし有婦の男子が淫を買うは明らかに一夫一婦の大本を紊る者なるをもって別個の意味において加罰するものなり。拘留罰金をもってせるは婦の訴なき場合において姦通罪を検挙せざる原則による。かくして軽き国家の制裁を受くることによりて、男子は家族に対する権威を失し交友における信用を損する重大なる苦痛を受くるをもっておのずから身を慎みまたもって婦人人権の擁護となり、全家族生活の保障を加うることとなるべし。
注五 独身の男子を除外せるは決してその性欲を正義化する所以にあらず。婦人が純潔を維持するごとく男子がその童貞を完うして結婚することは双方の道義的責務なり。そのこれを罰せざる理由は、末婚婦人が純潔を破るも法律の干与せざると等しく道徳的制裁の範囲に属するをもってなり。
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●国民人権の擁護
日本国民は平等自由の国民たる人権を保障せらる。もしこの人権を侵害する各種の官吏は別に法律の定むる所によりて半年以上三年以下の体刑を課すべし。
末決監にある刑事被告の人権を損傷せざる制度を定むべし。また被告は弁護士のほかに自己を証明し弁護し得べき知己友人その他を弁護人たらしむべき完全の人権を有すべし。
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注一 人権を蹂躙してかえって得々たることわが国の官吏のごときは少なし。これ欧米諸国より一歩を先んぜんとする国民的覚醒を裏切る大汚濁なり。体刑と明示せる所以はその弊風実に体刑をもってせずんば一掃するあたわざる官吏横暴国なるをもってなり。この戦慄より来たる反省改過は鏡にかけて見るがごとし。
注二 末決監にある被告を予備囚徒として待遇しつつあることは純然たる封建の遺風なり。これを反対に無罪なる者と仮定するとき現時のごとき凌辱なし。警察また然り。要するに有罪を仮定するがゆえに末決期の日数を刑期に加算する等のことあるにて明らかなり。この根本にして明白ならば末決監中の人権蹂躙はおのずからにして跡を絶つべし。
注三 被告人は罪人にあらずしたがって弁護人の自由を無視または制限さるる理由なし。特に職業弁護人と限らるるがために被告の平常事件の真相に通ずる者をもって直接に法官と対せしむるあたわず。ために事件の鑑察、法の適用において遺憾多く、被告の不利および延いて法官の判断を誤り法の威厳を損傷するはなはだしき現状なり。
注四 社会主義者のある者のごとく一切の犯罪なき理想郷を改造後の翌日より期待するは空想なり。もとより現今の政治的経済的組織より生ずる犯罪の大多数は直ちに跡を絶つべきは論なし。国家の改造とはその物質的生活の外包的部分なり。終局は国民精神の神的革命ならざるべからず。十年一貫の国民教育が改造の根本的内容的部分なり。
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●勲功者の権利
国家に対しまたは世界に対して勲功ある者は、戦争・政治・学術・発明・生産・芸術を差別せず、一律に勲位を受け、審議院議員の互選資格を得、いちじるしく増額せられたる年金を給付せらるべし。
婦人また同一なるは論なし。ただし政治に干与せざる原則によりて審議院議員の互選資格を除く。
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注一 国民は平等なると共に自由なり。自由とはすなわち差別の義なり。国民が平等に国家的保障を得ることはますます国民の自由を伸張してその差別的能力を発揮せしむるものなり。かの勲位を忌み上院制を否む革命的思想家は、人類の進化程度を過上に評価せる神学者的要求に発足する者なりと見るべし。
注二 勲功に伴う年金が現時のごとき消極的の小額なるは不可なり。すべての光栄はそれを維持すべき物質的条件を欠くべからず。
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●私有財産の権利
限度以下の私有財産は国家または他の国民の犯すべからざる国民の権利なり。国家は将来ますます国民の大多数をして数十万数万の私有財産を有せしむることを国策の基本とするものなり。
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注一 社会主義共産主義を誤解してその私有財産を分与するものなるかのごとく考え、または国民のすべてにその日暮しその年暮しの生活をなさしむるものと考うるがごときは、現実的改造の要求せられつつある現代社会革命説の躍進的進歩を解せざる者なり。したがってこの改造後の国民にしていかなる思想に導かるるにせよ、国民の財産権を狙す者は、人類社会の存する限り存すべき法律の原則によりて、強窃盗として罰せられまたは乞食として待遇せらるるは論なし。
注二 年々多大の収益ありて近く私産限度を超過すべくしかして超過額を国家に納付するを欲せざる目的をもつて、限度以下の時において、白己自身の欲望に従いて消費せんとするはまた国民権利なり。この権利は国家の保障する所有権の行吏にしてその消費が道徳的なると酒色遊蕩なるとを問うの要なし。人はおのおのその人を中心または分子としたる小社会を国家内に有し、ある者は国境を超越したる大社会の中心または分子たり。したがってその消費せるところを収得する者は国家の手を経由せざる国民なり。私産限度制は国家の国民を審せざる程度の富の限度を定むるもののみ。これを誤解して限度超過額の上納を促すものとしまたは国民の独自放胆なる消費を拘束するものと考うべからず。
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●平等分配の遺産相続制
特定の意志を表示せざる限り、父の遺産はその子女に平等なる分配をもって相続せらる。父の妻たるその母また同じ。
母の遺産は夫たる父においてすべて相続せらるべし。
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注一 遺産相続の正義を規定するに見るも、合理的改造案が必ず近代的個人主義の要求を一基調とすることを知るべし。
注二 現代日本にのみ、存する長子相続制は家長的中世期の腐屍のみ。父母の愛の百千分の一に足らざる長子の愛情利害に一切弟妹の運命を盲従せしむるは没人情の極。本然の人情そのものがすべての法律道徳の根源なるを忘るべからず。
注三 遺産相続に際して国家が課税の理由なきことは、相続者則被相続者の肉体的延長なるをもってなり。
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●●巻七 朝鮮その他現在および将来の領土の改造方針
●朝鮮の郡県制
朝鮮を日本内地と同一なる行政法の下に置く。朝鮮は日本の属邦にあらずまた日本人の植民地にあらず。日韓合併の本旨に照して日本帝国の一部たり一行政区たる大本を明らかにす。
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注一 朝鮮をして日本のアイルランドたらしむるごときことあらば、将来大ローマ帝国を築かんとする日本は全然その能力なきことを第一歩において立証するものなり。由来朝鮮人と日本人とは米国内の白人と黒人とのごとき人種的差別あるものにあらず。単に一人種中最も近き民族に過ぎざるなり。したがって過般の暴動と米国市中の黒白人争闘とを比較するときその恥辱の程度において日本は幾百倍を感ぜざるべからず。朝鮮間題は同人種間の問題なるがゆえにいわゆる人種差別撤廃問題の中に入らず。ただ一に統治国たる日本そのものの能力問題たり、責任問題たり、道義間題たりとす。
注二 朝鮮人が異民族たる点はその言語と風俗との一部なり。国民生活の根本たる思想においては有史以来日本の文明交渉が朝鮮を経由したるによりて明らかなるごとく全然同一系統に属するものなり。しかして現在吾人の血液がいかに多量に朝鮮人のそれを混じたるかは人類学上日本民族は朝鮮・支那・南洋および土着人の化学的結晶なりとせらるるにても明白なり。とくに純潔の朝鮮人の血液を多量に引ける者は彼と文明交渉の密接せし王朝時代の貴族に多く、現に公脚華族と称せらるる人々の面貌多く朝鮮人に似たるはすべてその類型を現すものなり。すでに王朝貴族に朝鮮人の血液が多量なりということは、実にその貴族の血液が皇室に入り得べき特権階級たりし点において、日本の元首そのものが朝鮮人と没交渉にあらずということなり。あえて今次の朝鮮太子と日本皇女との結合をもって日鮮の融合が試みらるるにあらず。これ決して人種問題の範囲にあらず。
注三 要するにすべての原因は朝鮮が日本、支那・ロシアの三大圏に介在して自立するあたわざりし地理的約束と、その道義的廃頽より一切の政治・産業・学術・思想の腐敗萎微を来して内外相応じて亡びたるものなり。朝鮮そのものの歴史が示すごとく、また清国がこれを属国とせんがために起りたる日清戦争、および満洲に来たれるロシアがそれを侵略せんとせしがために破れたる日露戦争に示すごとく、その亡国たるべき内外呼応の原因は統治者が日本たらざる時は露支両国のいずれかなりしは明白なり。日本の国防に取りて彼が日本の脅威たる強国の領有または同盟者たる危機は、あたかも英国に取りてベルギーがドイツの領土たり同盟国たるそれと同じき存亡問題なり。今次の大戦においてもしベルギーがドイツと握手ししかして英国の軍隊がそれを撃破してベルギーに滞陣せしとせよ。彼は講和会議においてその独立を承認せざるのみならず明らかにその領有を主張すべきは論なし。朝鮮の亡国的腐救はことごとく事大的国是となりて現われ、日清戦争においては清国に従い、日露戦争においてはロシアを迎え、いささかも英国とベルギーの結託に似たるものなかりしは開戦原因を顧れば明白なり。この間においてかの革命党のみは大局を達観し日本と結びて独立を企画して労苦止まざりしといえども、ついに日露開戦に至るまで国政を把りて志を行なうあたわざりき。しかして戦争中日本の朝鮮における立場は英国のベルギーにおけるごとくならず、朝鮮全部を掩有するに実力をもってしたり。国内の革命党は依然として志を得ず、露国また依然として強大を維持し講和条件は単なる休戦条約として調印せられたり。自立しあたわざる地理的約束と真個契盟するあたわざる亡国的腐敗のために、日本は露国の復讐戦に対する自衛的必要に基づきて独立擁護の誓明を取り消したることが真相なり。これ侵略主義にあらず、またいうところの軍国主義にあらず。朝鮮を領有する結果より見て、あたかも百万円を貯蓄したる結果より見て、それが高利貸によると忠実なる労働によるとを考査せずして等しく守銭奴と詈り侵略者と誣ゆるは昏迷者の狂言なり、重大なる罪悪なり。朝鮮の亡国史を知り露国の脅威に戦裸したる危機を顧るならば、アイルランド独立問題を朝鮮に直訳して論及するの理なし。空疎守旧の学説と薄弱なる意志と衆愚の喝采を足れりとする虚栄と、実に通俗政治家の標本たる「ウイルソン」輩の通弁に得々たりしいわゆる学者なる者の反省を要す。
注四 ゆえに日本存立の露防上より朝鮮は永久に独立を考うべきものにあらず。ロシアの脅威が「ツァール」の亡びたるをもって去れりと考うるごときは歯牙に足らざる浅慮。「ツァール」が侵略し来れると「レニン」が幾多の謬妄を付帯せる社会革命説を奉じて殺到し来るべきと、日本が国防上朝鮮に拠りて戦うことは国家の国際的権利なり。特にロシアの脅威は過渡時代の「レニン」にあらずして「レニン」なき後真に再建せらるべき十年後の将来に存す。ようやく中世史の革命を学びつつある未開後進なる彼に対するには現代的再建を想像するよりも、反動の襲来または真乎の建国者によりて「ピーター」大帝の再現をも打算外に置くあたわず。
注五 この国防上朝鮮を独立せしめずということは、英人がインドを独立せしめずまたアフリカ植民地を独立せしめずということとは全く別事なり。インドが英国の属邦たり英領アフリカが植民地たるに対して、朝鮮は日本の属邦にあらずまた植民地にあらずと明示せし所以なり。インドまたはアフリカの住民が全然英人と人種を異にせるに対して、日鮮人は古来の混血融合のみならず同一人種中の最も近き異民族なる点において属邦たるべからずまた植民地たるべからず。朝鮮は日本の一部たること北海道と等しく正に「西海道」たるべし。日本皇室と朝鮮王室との結合は実に日鮮人のついに一民族たるべき大本を具体化したるものにして、泣く泣く匈奴に皇女を降嫁せしめたる政略的のものにあらず。実に現時の対鮮策なるものは甚だしく英国の植民政策を模倣したるがゆえに、根本精神よりして日韓合併の天道に反するものなり。朝鮮が日本の西海道なる所以を明らかにするとき百般の施設ことごとく日鮮人の融合統一を来たなざるものなく、独立問題のごとき希うといえども生起せざるは論なし。
注六 「コルシカ」島民の大皇帝は「コルシカ」独立の戦陣に孚まれ独立の憤を抱きて敵国の士官学校に学べり。しかも革命フランスが「コルシカ」をフランスの本国と平等ならしめ「コルシカ」島民をフランス人の自由に開放するや、独立党の青年士官はフランスに対する愛国心を「エルパ」島に葬るまで変ぜざりき。日本海を庭池として南北満洲と極東シベリアとに革命大帝国を建つる時、朝鮮は特にその心臓肺肝の重きをなさんとす。日本本国の一部としての平等、日本人としての自由を対鮮策の眼目となす。
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●朝鮮人の参政権
約二十年後を期し朝鮮人に日本人と同一なる参政権を得せしむ。
この準備のために約十年後より地方自治制を実施して参政権の運用に慣習せしむ。
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注一 これ流行のいわゆる民族自決主義にあらざるは論なし。朝鮮が日本の西海道たり朝鮮人が日本人と大差なき民族たる理由によりて、日本国民たる国民権を最初にかつ完全に賦与せらるるを明らかにするものなり。
注二 ナポレオンの世界統一主義に対して起れる民族主義が近世史の一大潮流なりしは言うの要なし。ただこれがかの暗昧なる「ウイルソン」の口より民族自決主義と呼ばるるに至りて空想化し滑稽化したるなり。自決とはそもそも何ぞや。ある民族がその国家組織を失う所以は外部的圧迫と内部的廃頽とによりて自決するかを欠けるがためなり。覚醒せる民族が内的興奮によりて外部的圧迫を排斥せんとする時、これ無用なる自決の文字を加えざる伝来の民族主義なり。幾多の民族の中において自決するを得る覚醒的民族と然らざる者とあるは、あたかも等しき人間の中において自決するあたわざる八十歳の老婆あり十歳の少女あるがごとし。民族主義の本旨は人道主義というがごとき合理的命題なり。これを民族自決主義と名づくるに至りては人道主義の命題に代うるに人間自決主義というがごとき笑倒の沙汰。老幼男女を論ぜず各人の人格を認識する人道主義を滑稽化して八十歳の老婆にも生活を自決せしむべく十歳の少女にも恋愛を自決せしむべしといわば如何。ある民族は老婆のごとくある民族は少女のごとし。この国際間にかける民族の老幼をも圧迫し虐遇せざるべき人道主義がすなわち民族主義の終局理想たるべきものなり。現時の強国中各種老幼の民族を包有せざるものなきこと各家庭において老婆少女を有するがごとし。これらに向って自決を迫らば各家庭の分散すべきごとく一切の強国は分解すべし。強国の無用をいうか。しからば「ウイルソン」は「ヴェルサイユ」に行かずしてスイスの社会党大会に列席すべかりしなり。しかしてその主張を堂々たる非国家主義世界統一主義に宣明する彼らは大いなる歓迎をもって噴飯すべきこの命題の製造者を潮弄すべし。
注三 実に朝鮮は含併以前自決の力なかりしことは八十歳の老婆のごとく、合併以後未だ自決のかなきこと十歳の少女のごとし。末節枝葉においていかなる非難あるにせよ、朝鮮はロシアの玄関に老婆のごとく窮死すべかりし者を、日本の懐に抱かれて少女のごとく生長しつつあるはこれを無視するあたわず。すでに日本の懐に眠れる以上、日本建国の天道によりて一点差別なき日本人なり。日本人とし日本人たる権利においてその生長と共に参政権を取得すべき者なるは論なし。
注四 約十年といい約に十年という年限を予定したるは、過去の専制政府等が民権運動に譲歩するときなるべく長く専制を維持せんと欲する期間の留保にあらず。数百年問の半亡国史は実に朝鮮人の道念をも生活をも腐敗し尽したるをもって、真の国家的覚醒ある鮮人はこれを現在新精神によりて教育せられつつある人々の生長に待つのほかなきをもってなり。教育とは必ずしも「サーベル」教帥にあらず。必ずしも日本語の教科書にあらず。愛国的暴動のごときこれを覚醒して顧るとき貴重なる政治教育の一なり。医学に万能の薬品なきにかかわらず政治学に参政権を神権視することは欧米の迷信なり。かの投票神権説に累せられて、鮮人にまず参政権を与えて政治的訓練をなすべしと考うるは、その権利の根本たる覚醒的生長を閑却したる愚人の云為なりとす。日本は真個父兄的愛情をもって、かかる短時日間にこの道義的使命を果たし、もって異民族を利得の目的とせる白人のいわゆる植民政策なるものに鉄槌一下せざるべからず。
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●三原則の拡張
私有財産限度、私有地限度、私人生産業限度の三大原則は大日本帝国の根本組織なるをもって現在および将来の帝国領土内に拡張せらるるものなり。
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注一 東洋拓殖会杜の横暴は実に当年の東インド会社に学ばんとする一大罪悪なり。日本のアジアに与えられたる使命は英人の罪悪を再びするを許さず。拓殖会社の土地は土地私有限度によりて一度国家に徴集すると共に、朝鮮にある内鮮人は平等の権利においてその分配を受くべし。日本建国の精神は内外人によりて正義を二にせざることを誇りとす。朝鮮におけるいわゆる拓殖政策なるものまた実に欧人の罪悪的制度を直訳したるもの多し。日本はすべてにかいて悪摸倣より蝉脱してその本に返らざるべからず。
注二 将来の帝国領土中、先住国民の大富豪大地主ありて多大の土地を独占しまたは生産業を専有する時これを是認するごときあらば、日本国家はただ彼らの不義なる財産の保護を負担せしめられ、日本国民はただその小作人たり労働者たるに過ぎざるべし。これ主権国民たる自負と欲望において忍ぶあたわざるところ。ためについに国家の法律を狂げて自国民を保護し彼らの財産を奪わんとする非違を頻出し不仁の名を国家に冠せしむるに至る。ゆえに日本本国においてまずこの三大原則を確立して拡張せられたる領土に臨むとき、真の公平無私はおのずからにして得べし。大領土を有する名実具足の大日本帝国を考うるものこの三大原則を確立する日本みずからの改造が実に将来の建設に避くべからざる準備なるを悟得すべし。
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●現在領土の改造順序
朝鮮・台湾・樺太等の改造はこの三大原則を決定するに止め、漸を追いてその余を施行し、十年ないし二十年後において日本人と同一なる生活権利の各条を得せしむるを方針とす。
ただし日本内地の改造を終り戒厳令を撤廃すると同時に三大原則の施行に着手す。
これらの領土内に在郷軍人団なきをもって、国家任命の改造執行機関をして土地資本財産の調査徴集に当らしむ。
改造執行機関は日本内地の改造に経験を得たる官吏または同じき在郷軍人団中より任命す。
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注一 日本の改造を終りたる後に着手する所以は、無智と事情不通とのために日本内地と同時に着手するときは、内地の粉囂を誤伝したる不安騒擾を醸すべきをもってなり。第二の理由は在郷軍人団なる好適の機関なく、今の植民政策的頭脳の総督府等にこの大任に当らしむるは明白に不正不義を残して改造の精神を傷くるのみならず、あるいは意外の変を招くべきをもってなり。第三の理由は三年間の日月は日本の整然たる改造組織を伝聞せしむるに十分なるがために、日本大多数国民の歓喜を伝えて彼らの大多数国民また速やかにその福利恵沢に浴せんことを欲するに至るべきをもってなり。
注二 過般朝鮮の内乱は今の総督政治が一因ならずとはいわず。しかも根本原因は日本資本家の侵略が官憲と相結びて彼らの土地を奪い財産を掠めて不安を生活に加え怨恨を糊ろの資に結びたることに存するを知らざるべからず。「ウイルソン」輩の呼号何の影響あらん。国家の内外を毒してついに大ローマをも亡ぼしたるものの金権政治なりしことを忘るべからず。
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●改造組織の全部施行せらるべき新領土
将来取得すべき新領土の住民がその文化において日木人とほぼ等しき程度にある者に対しては、取得と同時にこの改造組織の全部を施行すべし。ただし日本本国より派遺せられたる改造執行機関によりて改造せらるるものなり。
その領土取得の後移住し来れる異人種異民族は、十年間居住の後国民権を賦与せられ日本国民と同一無差別なる権利を有すべし。
朝鮮人台湾人等の未だ日本人と同一なる国民権を取得すべき時期に達せざる者といえども、この新領土に移住したる者は居住三年の後右に同じ。
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注一 たとえば濠州を取得したる時その住民の文化程度は直ちにこの改造組織の下に生活するを得べし。極東シベリアのごときはその程度まず三大原則を施行し順を追いて施行すべきものなり。
注二 将来の新領土は異人種異民族の差別を撤廃して日本みずからその範を欧米に示すべきは論なし。濠州にインド人種、支那民族を迎え、極東シベリアに支那・朝鮮民族を迎えて先住の白人種とを統一し、もって東西文明の融合を支配し得る者地球上只一の大日本帝国あるのみ。したがってこの改造組織をそれらの領土に施行して主権国民みずから私利横暴を制すると共に、先住の白人富豪を一掃して世界同胞のために真個楽園の根基を築き置くことが必要なり。単なる地図上の彩色を拡張することは児戯なり。天道宣布のために選ばれたる日本国民はまさに天譴に亡びんとする英国の二舞をなさざるは論なし。
注三 朝鮮人台湾人がその故郷にありて未だ取得する時期に達せざる国民権をこの領土において三年後に取得し得べき理由は、すでに移住し居住するほどの者は大体において優秀なるをもってなり。第二に白人の新移住者、インド人、支那人の移住者が取得するところを、すでに早く日本国民たりし彼らに拒絶すべき理由なきをもってなり。第三の理由は東西文明の融合を促進するために、特に日本の思想制度に感化せられたる彼らの移住を急とするがゆえなり。
注四 日本人の改造執行機関をもってして土着人に当らしめざる所以は主権本来の性質として説明の要なし。
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●●巻八 国家の権利
●徴兵制の維持
国家は国際問における国家の生存および発達の権利として現時の徴兵制を永久にわたりて維持す。
徴兵猶予一年志願等はこれを廃止す。
現役兵に対して国家は俸給を給付す。
兵営または軍艦内においては階級的表章以外の物質的生活の階級を廃止す。
現在および将来の領土内における異民族に対しては義勇兵制を採用するものあるべし。
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注一 支那において傭兵というもの英米において義勇兵と名付く。すなわち雇傭契約による兵士なり。これ彼らの国民精神に適合する制度なり。米国の建国が社会契約説を理想として植民せる者の契約結合なるは前説のごとし。英国また実にその謬説の誕生地なるをもって、今なお「ジョンブル、ソサイテー」と名づくるごとく英帝国そのものを組合視し会社視してことごとく社会契約説に基づく立法ならざるなし。したがってその国防においても組合と組合員との間に雇傭契約を締結するは、米の建国としてまた英の国家組織として少しも不可なし。しかもこのゆえをもって「ヴェルサイユ」会議において英米が傭兵制度を日本に強いたるは何たる迷妄ぞ。日本は建国精神より、また現代国民思想のすべてにおいて、日本帝国を契約によりて組織したるものと一考せしこともなし。日本国民の国家観は国家は有機的不可分なる一大家族なりという近代の社会有機体説を、深遠博大なる哲学的思索と宗教的信仰とにより発現せしめたる古来一貫の信念なり。徴兵制度の形式は独仏に学びたるも、徴兵制度の精神たる国民皆兵の義務は、中世封建の期間を除きて、上世建国時代に発源しさらに現代に復興して漲隘しつつある国民的大信念なり。日本の講和委員は何がゆえに英米と日本とが国民精神の根本、国家組織の信念より異にする所以を指摘して、日本国民本有の国家有機体的信仰を彼らに訓ゆることなかりしか。徴兵制そのものが直ちにいわゆる軍国主義にあらざることは、徴兵制なりしがゆえに辛うじてドイツを防止するを得たるフランスが、会議の人々より軍国主義なりしとて攻撃せられざりしがごとし。日本の講和委員は何がゆえに、「カイゼリスム」と日本の国家有機体的信仰より結果せる国民皆兵主義とを混同して臨みし無智の昏迷者に学ばしむるところなかりしか。軍国主義なるか否かは傭兵と徴兵とによりて決せらるるものにあらず。軍備に依頼して弱国を併呑しもって私欲をほしいままにせんとする意味のものが軍国主義ならぱかって陸上においてドイツが然りしごとく、海上において英国のなしつつあるものは実に遺憾なく完成したる海上軍国主義なり。この軍国主義が、単に自己が間題外なる傭兵制なりというの理由をもって、他の徴兵によりてかかる軍国主義者の侵害を防衛せんとするものに己の冠を冠せんとせしは悪むべし。かの愚昧なる善人がかかる悪魔のラッパ卒に使役せられてそれを日本に向つて吹きしことは米国史上空前の恥辱なりとす。
注二 したがって傭兵と徴兵との強弱を論ずることは無用なる詮議なり。英米の国情においては必ずしも強兵を意味せずして、日本の建国と信念とにおいては備兵は必ず弱兵なるは論なし。これ徴兵制を明確に永久の制度なりとせる所以なり。ただドイツが最後に破れたるがゆえに徴兵制の価値を疑うは非常なる妄断なることを注意す。一人と五人と角力してすでに三人を倒したる者が他の二人より足を奪われたるを見てその人を弱者なりというあたわず。特にドイツの実戦したる軍隊は徴兵制のフランスとロシアにして、甲の徴兵国が乙の徴兵国に破られたりといい得べし。今次の大戦における英米はただ海上封鎖によりて食料と軍需品とを遮断したる任務に働きし者。英米の傭兵とドイツの徴兵との優劣は実戦によりて立証せられたるものにあらず。ただ退却将軍の報告文として古今独歩の文豪「ヘーグ」元師によりて英国傭兵の光栄は十分に認知せられたるは周知のごとし。
注三 ある理想またはある信仰に基づきて徴兵を拒否せんとする者の欧米に多きをもって、日本が国家の権利として主張するを非議する者あらん。しかしながら政治の自由、経済の自由、恋愛の自由が他の社会的生活を犯さざる自由の意味において、思想の自由信仰の自由また絶対的のものにあらざるは論なし。自由の誤解せる解釈より来る思想の自由信仰の自由は、自由恋愛説の注に説明したるところを移して直ちに説明とするを得べし。思想または信仰の点を考うるとき、実に価値なきまたは有害なるものを神のごとく裁決し得るの大処に立つを要す。インド人が生殖器の形像たる「リンガム」を頸に掛け寡婦がみずから薪を抱いて夫に殉死することを天国に行く道なりと信仰すとも、チベット人蒙古人が諸神と動物との生殖行為の彫像図画を礼拝して極楽行を信仰すとも、キリスト教徒中の旧教一派が一度結婚したる者の離別は地獄の火に焼かると信仰すとも、これらの信仰が信仰なるがゆえに自由なりと認むるあたわざることは、恋愛なるがゆえに自由なりと認むるあたわざると同じき意味と程度において然り。思想信仰の価値はその民族精神または世界思想に戦いて凱歌を挙げたる時に認めらるるものなり。戦の中途においてまたは退却あるいは降伏の状態において信仰の自由を鳴号するごとき信仰は、ついに十字架上「我れ勝てり」として国家と世界の上にその自曲を建設する価値なきものなり。かの兵役忌避を本旨とする「クェーカー」宗のごときは、小乗教のキリストにおいてすら天国の戦を指し、地上においてなお我れ刃を出さんがために来れりと宣してついにローマを天火に亡したる一面を有するにかかわらず、ただその殺すなかれの一項を盾として盲守するに過ぎざる者。同じき一神教において「マホメット」は刃を出さんがために来れるを明言して「殺すべし」と教うるにあらずや。「コーラン」と共に剣を示して殺すべしという信仰と殺すなかれという信仰とを両立せしむるにLibertyなる「アルファベット」七個に依頼せんとするがごとき浅薄なる信念にて何の信仰ぞ。「クェーカー」宗の価値は天理教より遙かに以下にして「リンガム」礼拝よりいささか以上なる程度のものなり。彼らの信仰が強固にして犠牲を甘んずる事例を挙げて対抗するならば宗教の低級なるものにおいてかかる例の他に無数なるものを挙ぐべく、さらにかく頑迷移さざるもの多きがゆえに殺すべしという回教の信仰によりて答えざるべからず。神は全智にして全能なるがゆえに、いにしえ「ノア」の洪水をもって大殺戮をなし、現時また六月二十八日に始まりて六月二十八日に終れる五年間の屍山血河あり。神を信じてしかも殺すことを否む「クェーカー」宗徒は、神の能力と智見がこの殺戮を防ぐあたわざりし完き者にあらずという信仰根本の矛盾に立つ者。キリストその人すら彼の弟子らに向いて明らかに「我が神」「汝の神」として神その者に自他彼此大小高級を差別したり。日本国民の神は「クェーカー」教徒の神に対して弥陀の利剣を揮うべきのみ。生死の煩悶を天空に求むるごとき低級極まる小乗的信仰をもって、インド文明の密封せられたる宝庫としてようやくまなに二十世紀の今日を待ちて開かれんとする日本民族の大乗的信仰に対せんとするごときは、真に竜車に向う蟷螂の斧。信仰すでに然り。いわんや学者文士輩の口耳より濫造せられたる思想なるものの自由をや。将来「クェーカー」宗のごときまた浅薄なる非戦主義のごときを輸入して徴兵忌避を企つる者あらば、刑罰は断々としてその最も重きものを課して可なり。
注四 徴兵猶予一年志願兵等は現時の教育的差等より結果せるものなるをもって、十年一貫の国民教育によりてこれらを存置する善悪一切の理由は消失すべし。とくにその兵質が、前注説明のごとく今の少尉級に匹敵すべきをもっておのずから現役年限の短縮となるべく、一年または一年半の軍隊的軍艦的訓練はいかなる専門的使命ある者も身心の根源を培養してその使命の大成を準備せしむるものなり。今の徴兵猶予は速成学士の「ローズ」物を官庁会社に売出さんとする現経済組織より来れるもの。とくに彼らのほとんどすべては今の大学教育なる高等職業紹介所に入ることをもって一種の特権階級のごとく考え、心裏実に徴兵忌避の私を包蔵してその猶予を求むるものならざるはなし。この一点を寛過するは実に国家の大綱を紊るもの。他に百利ありと仮想するも存置せしむべき除外例にあらず。
注五 現役兵に俸給を給付すべきは国家の当然なる義務なり。俸給が傭兵のそれと全く別個の義なるは論なし。国民の義務にせよ、父母妻子の負担ある男子よりその労働を奪いて何らの賠償をななざることは国家の権利を濫用するものなり。この権利濫用の下に血涙を呑みし爆発は眼前に見るロシアの労兵会の蹶起なり。軍隊の強盛を念とする軍事当局すらこの強兵をなす根源を提唱する者なく、すべての国民の義務なる道念に忍びて一にただ忘却に封じつつあるとき、兵卒そのものが憤恨に爆発するの日はすなわち労働者と結合したる労兵会の出現ならざるべからず。「ボルセヴィキ」はこれを防ぐべく、「ボルセヴィキ」を必然する義務の忘却は可なりというの理なし。あるいは国庫の負担堪えざるをいわん。しからば多大なる俸給による傭兵をもって戦いし英米を見よ。生産各省の収入優に余りあり。
注六 兵営または軍艦内における将校と兵卒との物質的生活を平等にする所以は自明の理なり。古来将は卒伍の飲食に後れて飲食すというがごとく、口腹の欲に過ぎざる飲食に差等を設けて部下の反感を平時に養成し戦時にも改めざるごときはほとんど軍隊組織の大精神を知らざる者なり。敗戦国または亡国の将校がつねに兵卒の粗食飢餓を冷視しておのれ独り美酒佳肴を列べしは一の例外なき史実なり。これに反して皇帝に堕落せざる以前のナポレオン軍の連勝せし精神的原因は、彼の無欲とその物質的生活が兵卒と大差なかりし平等の理解に立ちしがゆえなり。日本の最も近き将来はナポレオンの軍隊を必要とす。乃木将軍が軍事眼より見て許すべからざる大錯誤をなしてかの大犠牲を来たせしにかかわらず、彼が旅順包囲軍より寛過されし理由の一はおのれみずから兵卒と同じき弁当を食いし平等の義務を履行せしがゆえなり。士卒を殺して士卒に赦さるる将軍は日本の最も近き将来において千百人といえども足れりとせざる必要あり。まさかに兵卒と同じき飲食にては戦争に堪えずという者あるまじ。これその飲食をなす兵卒が戦争するあたわずというもの。かかる唾棄すべき思想が上級将士を支配するとき、その国の往くべき唯一の途は革命か亡国かなり。労兵会を作らしむべき宮廷の権臣と腐欺将校とは、実に日本に「レニン」の宣伝を導くべき内応者なりというべし。ただし家庭等の隊外生活において物質的差別あるべきは兵卒が等しくその範囲において貧富に応じたる自由あるがごとし。
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●開戦の積極的権利
国家は自已防衛のほかに不義の強力に抑圧さるる他の国家または民族のために戦争を開始するの権利を有す。(すなわち当面の現実問題としてインドの独立および支那の保全のために開戦するごときは国家の権利なり)。
国家はまた国家自身の発達の結果他に不法の大領土を独占して人類共存の天道を無視する者に対して戦争を開始するの権利を有す。(すなわち当面の現実問題として濠州または極東シベリアを取得せんがためにその領有者に向って開戦するごときは国家の権利なり)。
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注一 近代に至つて世界列強が戦争を開始せんとするときことごとく自他を欺く旧道徳的名分を掲げ、またはこれを自己防衛の口実に求むるは国家生活の権利を半解するより来る卑怯なり。真の徹底的理解はおのずからにして正々堂々たる宣布となるもの。日本が積極的発展のために戦うことの単なる我利私欲にあらざることは、他の民族が積極的覚醒のために占有者または侵略者を排除せんとする現状打破の自己的行動が正義視せらるるごとく正義なり。自利が罪悪にあらざることは自滅が道徳にあらざると同じ。したがって利己そのものは不義にあらずして他の正当なる利己を侵害しておのれを利せんとするに至って正義を逸す。正義とは現在の状態そのものにあらざるは論なし。英国がインドを牛馬視しておのれを利しつつある現状が正義にあらざるごとく、日本および近接のアジア七億の民族より濠州を封鎖しつつある現状は同一なる不義なり。支那を併呑し朝鮮を領有せんとしたる「ツァール」の利己が当時の状態において不義なりしごとく、広漠不毛のシベリアを独占して他の利己を無視せんとするならば「レニン」政府現在の状態また正義にあらず。正義とは利己と利己との間を画定せんとするもの。国家内の階級争闘がこの画定線の正義に反したるがために争わるるごとく、国際間の開戦が正義なる場合は現状の不義なる画定線を変改して正義に画定せんとする時なり。英国は全世界に跨る大富豪にして露国は地球北半の大地主なり。散粟の島峽を画定線として国際間における無産者の地位にある日本は、正義の名において彼らの独占より奪取する開戦の権利なきか。国内における無産階級の闘争を認容しつつひとり国際的無産者の戦争を侵略主義なり軍国主義なりと考うる欧米社会主義者は根本思想の自己矛眉なり。「ヒュース」が労働者出身なりとも、「レニン」が社会主義者の尊敬すべき同志なりとも、国際的対立より見て彼らが〔大地主〕たることは、昔時魚売りたりし大倉喜八郎、貧書生たりし加藤高明が無産階級より見て富豪たると同じ。国内の無産階級が組織的結合をなしてかの解決を準備しまたは流血に訴えて不正義なる現状を打破することが彼らに主張せらるるならば、国際的無産者たる日本がかの組織的結合たる陸海軍を充実し、さらに戦争開始に訴えて国際的画定線の不正義を匡すことまた無条件に是認せらるべし。もしこれが侵略主義軍国主義ならば日本は全世界無産階級の歓呼声裡に黄金の冠としてこれを頭上に加うべし。合理化せられたる民主社会主義そのものの名においても日本は濠州と極東シベリアとを要求す。いかなる豊作をもってすとも日本は数年の後において食うべき土地を有せず。国内の分配よりも国際間の分配を決せざれば日本の社会問題は永遠無窮に解決されざるなり。ただドイツの社会主義にこの国際的理解なく、かつ中世組織の「カイゼル」政府に支配せられたるがために、英領分配の合理的要求が中世的組織の破滅に殉じて不義の名を頒ちたることを注意すべし。したがって今の軍閥と財閥の日本がこの要求を掲ぐるならばドイツの轍を踏むべきは天日を指すごとし。改造せられたる合理的国家、革命的大帝国が国際的正義を叫ぶときこれに対抗し得べき一学説なし。
注二 インド独立問題は来るべき第二世界大戦の「サラエヴォ」なりと覚悟すべし。しかして日本の世界的天職は当然に実力援助となりて現るべし。たとい英国が彼らのいわゆる自治を許容して「ジョンブル、ソサイテー」の組合を脱せしめざらんと計るときも、彼にして全然没交渉なる独立を欲して蹶起するならばもとより然るべきは論なし。大戦中におけるインド独立運動の失敗はすべて日本が日英同盟の忠僕たりしがためにして、したがって英国が一時的全勝将軍たるがために瞬時雌伏するに過ぎず。しかして日本の実力援功につきて大方針とすべきは海上においてのみ彼の独立を援護することなり。インドの独立はなお米国の独立のごとし。米国の十三州独立戦はその始めつねに英兵に敷られつつ幾年を経過したる後、最も有力なる実力援助を与えたるフランス海軍が英国海軍を「メーン」岬に決定的に一撃破して陸兵輸送を不可能ならしめたることに存す。外力の援助なくして植民米人が戦うべき武力を有せざりしごとく、一切の武器を奪われしインド独立軍に対してほしいままに鎮圧軍を輸送せしむるならばその独立は永久に期待すべからざるものなり。実に米国の独立を決定したる者がフランス海軍なりしごとく、インド独立の能否を決定する者は一にただ英国海軍を撃破し得べき日本および日本の同盟すべき国家の海軍力如何にあり。日本の陸軍援助は多く有用ならず。かえって戦後にかける利権設定等の禍因を播き、インドそのものよりは何らの報謝を求めざる天道宣布の本義に汚点を印しやすきは予め深く戒むべし。「レニン」政府のなお存続して陸上よりの援助を仮想すとも、決定的成否はすでに海軍力を喪失せる露国にあらず。日本はこの改造に基づく国家の大富力をもって海軍力の躍進的準備を急ぐべし。日英両国は中立的関係に立つあたわずして、彼の従属的現状を維推するか彼の分割を結果する征服者たるかの二なり。日本が永遠に政治的言語的思想的属邦としてインドの志士を屠らんとせば止む。国を挙げて道に殉ずる天道の使徒として世界に臨まんとせば、英国の海上軍国主義を砕破するに足るべき軍国的組織は不可欠なり。「カイゼル」は海上にあり。これフランスが陸上の英国に対して軍国的組織を放棄し得ざりし所以。日本に加冠せられたる軍国主義とはインド独立の「エホバ」なり。この万軍の「エホバ」を冒涜して誣妄を逞しうするいわゆる平和主義なる者は、その暴戻悪逆を持続せんとして「エホバ」の怒を怖るる悪魔の甘語なりとす。英人を直訳する輩は「レニン」を宣伝するよりも百倍の有害なり。
注三 支那はまた大戦の結果によりて急転直下純然たるインドたらんとす。日本がインドの独立を欲するごとく支那の保全を希うならば、眼前に迫れる支那と英国との衝突は日英同盟を存立せしめざるものなり。英国が早くすでに支那を財政的准保護国とせることは説明の要なし。たとい平家全滅の前の隆盛のごときにせよ、英国が今次の大戦において本国を脅威せしドイツと、インドを脅威せし露国とに恐怖なきに至れることは、支那においてに国がまた同様なる脅威を満蒙と青島より加えたる恐怖を除去したるものなり。英国は日本をほかにして支那に恐るべき実力を見ず。しかして日本の奴隷的臣従は大戦中と講和会議とにおいて彼の十分に安意したるところ。すなわち彼はチベット独立の交渉中に青海・四川・甘粛の一部を包有する要求を加え来れり。これ日露戦争によりてロシアが南下の途を日本の満洲に塞がれたるがゆえに、直路中央アジアより中部支那に殺到せんとせし大道の継承を要求するもの。インドを基点としてすでにアフガニスタンに及びペルシャに及びたる彼が中央アジアに進出するは論なく、極東海上の基点香港と相応じて中部支那以南の割取を考え始めたるは明白なり。これ往年ロシアの満洲に進出したるよりも支那の一大危機。しかして支那保全主義を堅持する日本は彼との衝突においてその支那経略の根拠地香港の有害なることは、日露戦争における旅順・ウラジオストックの根拠地に優るとも劣らず。彼は日本の口舌的抗議等を眼中に置かず天下無敵の全勝将軍として支那に臨むべし。これ単なる推定にあらず。事実をもって立証せらるるの日はすなわち日英両国が海上に見ゆるの日なり。支那保全にかける日英開戦はすでに論議時代にあらざるなり。
注四 日本は支那において東洋のドイツを学ばんとする野心国なりという世界の批評に対して男子的に是認ししかして男子的に反省し改過すべし。周知のごとく英独協商は香港を根拠とせる英国と青島を根拠とせるドイツとが、支那分割のアフリカ大陸のごとく実現すべきことを確信して、北支那をドイツに中央支那以南を英国に妥協したるものなり。かの津浦鉄道が南北に分割されて列車を直通するあたわず、南段の英資に対して北段の独資なるはまず投資的分割に現われたるもの。しかるに今次の大戦中において日本はドイツの青島を領有して支那に還付せざらんことを企つると共に、ドイツの投資を継承しさらに北支那に投資的侵略を学びたることことごとくドイツの跡を追う者ならざるはなし。天道は甲国の罪悪を罰して乙国の同一なるそれを助くるものにあらず。日本が東洋のドイツなりといわれ、ドイツと等しき軍国主義侵略主義の国なりといわれ、列国環視の問「ウイルソン」輩の口舌に萎縮して面上三斗の汗を拭うの恥晒しをなせしものことごとくこれ天意。あえて軍閥内閣と党閥内閣とに差等を付するの要なし。明治大帝なき後の歴代内閣のなすところことごとく大帝降世の大因縁たる日露戦争の精神に叛逆せざるものなし。一幸徳秋水のみが大逆罪にあらず。その罪まさに大帝の陵墓を発くの大逆政策を改めずして支那の排日を怒り米国の排日に憂えなおかつ浩々然として天佑を夢む。彼らは講和会議において英国の保護を蒙りてドイツの利権を継承することを認容せられたるとき相賀して「国難去れり」といえり。何ぞ然らん。英国は英独協商の相手方を日本に代えたるがゆえに、今や該協商の目的たりし中部支那以南の領有を現実ならしめんとしてここに青海・四川・甘粛を包有せるチベット独立の要求となりて現れたるなり。早くすでに楊子江流域は英国人勢力範囲なりといわるる今日、日本を相手方として英独協商を日英協商として支那に臨む時、明治大帝は何のために日露大戦を戦いしかを解すべからざらんとす。日本は「ヴェルサイユ」に救われたる同盟の誼によりて英国の支那本部併合に報謝すべしというか。排日の声が支那と米国とに一斉に挙れる所以は日露戦争によりて保全されたる支那と、日露戦争を有力に後援して日本に支那を保全せしめたる米国とが、天に代りて当年の保全者に脚下の陥穽を警告するものなり。驕児「カイゼル」は世界的排斥に反省せずして陥穽に墜落したり。米支両国の排日に省悟一番して日露戦争の天道宣布に帰る時、日本は排日の実に天寵限りなきを見るべし。英国の恩恵の下に青島に租借地を得るよりも、英国そのものの香港を奪いて日本の海軍根拠地とせよ。香港に根拠せば青島のごときは無用の長物なり。山東苦力として輸出せざるべからざるほどに人口漲隘せる支那の貧弱なる一角に没頭するよりも、支那そのものより広大にして豊饒なる英国の濠州を併合せよ。日本にとりて支那はただ分割されざれば足る。四千年住み古したる支那を富源なるかのごとく垂挺する小胆国民にして、如何ぞ世界的大帝国を築くを得べき。日本が首を抬げて英領を直視する時、支那の排日は根本的に永久的に跡を絶つべし。
注五 この支那保全主義の徹底より見る時、日本の極東シベリア領有は日本の積極的権利たると同時に、支那を北方より脅威せるロシアの伝統的国是を打破するもの。日本が東清鉄道を取得して、極東シベリアとを結合する時、内外蒙古は支那みずからの力をもって露国の侵略を防禦するを得べし。かくして日本は北に大なる円を画きて支那を保全し、支那また日本の前営たるべし。ロシアの外蒙古進出に押されて日本また内蒙古に進出して防備を試みんとする軍閥の支那保全策は、ある程度において支那を保全しつつある程度において支那を分割する者、その無策と不徹底と断じてアジア聯盟の盟主たるべき器にあらず。とくに「セミョノフ」輩を用いて内外蒙古の独立を策しつつあるごときは誠に小策士の陰険手段。国家の有する開戦の積極的権利を心解せば公々然日本および支那の必要を主張して「レニン」その人に向つて極東シベリアの割譲を要求すべし。「チェック、スローバック」援助のろ実の蔭に国家の当然なる権利を陰蔽するがゆえに野心を包蔵すとなして敵味方の警戒を受くるなり。日本の対外行動は取るべからざる者より寸土を得ざると共に、天日照覧の下いやしくも奪うべくんば全地球をも大なりとせざるべき大丈夫の健脚に立つべし。
注六 要するに日本は日本海・朝鮮・支那の確定的安全のために、すなわち日露戦争の結論のために、極東シベリアを領有すべくロシアに対する大陸軍を欠くべからず。しかしてインド独立の援護、支那保全の確保、および日本の南方領土を取得すべき運命の三大国是において、英国と絶対的に両立せざるがゆえに実に大海軍を急務とす。もし今次の大戦に際して大西郷あり明治大帝ありしならば、ドイツの陸軍と東西呼応して一挙露国を屈服せしめ、海軍また東西に相分れて英国艦隊を本国とインド濠州との防備に両分せしめ十分なる優勢を持しておのおのこれを撃破し、朞年ならずして早くすでに北露・南濠に大帝国を築きたりしはず。ドイツの敗因実にその始めにおいて背後に迫れる露軍のためにパリ占領の好機を逸し、さらに英国艦隊全部を本国に集中せしめたるがために一挙根本を屠るあたわざるのみならず、かえってその艦隊を「キール」軍港に封鎖せられて国内物質の空乏を来しわずかに潜航艇戦の窮策に訴うるや、またかえって米国を脅威してこれを敵に駆りしに基づく。開戦当初より露の陸軍と英の海軍とを両分し得べき日本一国の向背実に世界大戦の勝敗を決したるを見るべし。日本は明らかに英独の間に「キャスチングヴォト」としてその力をもってドイツを亡ぼし英国を活かせしもの。しかるを挙国一致この天寵を逆用してかえって両立すべからざる敵国の犬馬につき、救国の恩主倒まにその脚下に俯伏して糞土に値せざる小群島と一青島とを哀訴す。国政を執って国を亡ぼさんとするかくのごとき者に加うべき大逆罪の法文なきを如何せん。
注七 ただ一大事因縁を告ぐ。「ヴェルサイユ」にかける調印はドイツを目的として聯合したる列強が、さらに英国を第二のドイツとして新たなる聯合軍を組織すべき天与の一大転機。日本は米独その他を糾合して世界大戦の真個決論を英国に対して求むべしということこれなり。講和会議はインド洋の波濤を「テーブル」とすべし。米国の恐怖たる日本移民。日本の脅威たるフィリッピンの米領。対支投資における日米の紛争。一見両立すべからざるかのごときこれらが、その実いかに日米両国を同盟的提携に導くべき天の計らいなるかのごとき妙諦は今これをいうの「時」にあらず。一にただこの根本的改造後に出現すべき偉器に待つものなり。天皇に指揮せられたる全日本国民の超法律的運動をもってまず今の政治的経済的特権階級を切開して棄つるを急とする所以のもの、内憂を痛み外患に悩ましむるすべての禍因ただこの一大腫物に発するをもってなり。日本は今や皆無か全部かの断崖に立てり。国家改造の急迫は維新革命にも優れり。ただ天寵はこの切開手術において日本の健康体なることに在りとす。
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●●結 言
「マルクス」と「クロポトキン」とを墨守する者は革命論においてローマ法皇を奉戴せそとする自己矛盾なり。英米の自由主義がおのおのその民族思想の結べる果実なるごとく、独人たる「マルクス」の社会主義露人たる「クロポトキン」の共産主義が幾多の相異扞格せる理論をもって存立することはおのおのその民族思想の開ける花なり。その価値の相対的のものにして絶対的にあらざるは勿論のこと。
ゆえに強いてこの日本改造法案大綱を名づけて日本民族の社会革命論なりという者あらばはなはだしき不可なし。しかしながらもしこの日本改造法案大綱に示されたる原理が国家の権利を神聖化するを見て「マルクス」の階級闘争説を奉じて対抗し、あるいは個人の財産権を正義化するを見て「クロポトキン」の相互扶助説を戴きて非議せそと試むる者あらば、それは疑問なく「マルクス」と「クロポトキン」の智見到らざるのみと考うべし。彼らは旧時代に生れその見るところ欧米の小天地に限られたるのみならず、浅薄極まる哲学に立脚したるがゆえに、躍進せる現代日本より視る時単に分科的価値を有する一に先哲に過ぎざるは論なし。過去に欧米の思想が日本の表面を洗いしとも今後日本文明の大波濤が欧米を振憾するの日なきを断ずるは何たる非科学的態度ぞ。「エジプト」「バビロン」の文明に代りてギリシア文明あり。ギリシア文明に代りてローマ文明あり。ローマ文明に代りて近世各国の文明あり。文明推移の歴史をただ過去の西洋史に認めてしかも二十世紀に至りてようやく真に融合統一したる全世界史の編纂が始まらんとする時、ひとり世界史と将来とにおいてのみその推移を思考するあたわずとするか。インド文明の西したる小乗的思想が西洋の宗教哲学となり、インドそのものに跡を絶ち、経過したる支那またただ形骸を存してひとり東海の粟島に大乗的宝蔵を密封んたるもの。ここに日本化し更に近代化し世界化して来るべき第二大戦の後に復興して全世界を照す時往年の「ルネサンス」何ぞ比するを得べき。東西文明の融合とは日本化し世界化したるアジア思想をもって今の低級なるいわゆる文明国民を啓蒙することに存す。
天行健なり。国は興り国は亡ぶ。欧州諸国が数百年以上に「ジンキス」汗「オゴタイ」汗ら蒙古民族の支配を許さざりしごとく、「アングロサクソン」族をして地球に濶歩せしむるなお幾年かある。歴史は進歩す。進歩に階梯あり。東西を通じたる歴史的進歩においておのおのその戦国時代につぎて封建国家の集合的統一を見たるごとく、現時までの国際的戦国時代につぎて来るべき可能なる世界の平和は、必ず世界の大小国家の上に君臨する最強なる国家の出現によりて維持さるる封建的平和ならざるべからず。国境を撤去したる世界の平和を考うる各種の主義はその理想の設定において、これを可能ならしむる幾多の根本的条件すなわち人類がさらに重大なる科学的発明と神性的躍進とを得たる後なるべきことを無視したるもの。全世界に与えられたる現実の理想は何の国家何の民族が豊臣徳川たり神聖皇帝たるかの一事あるのみ。日本民族は主権の原始的意義、統治権の上の最高の統治権が国際的に復活して、「各国家を統治する最高国家」の出現を覚悟すべし。「神の国はすべて謎をもつて語らる。」かつてとるこの弦月旗ありき。「ヴェルサイユ」宮殿の会議が世界の暗夜なりしことはそれを主裁したる米国の星旗が黙示す。英国を破りてとるこを復活せしめ、インドを独立せしめ、支那を自立せしめたる後は、日本の旭日旗が全人類に天日の光を与うべし。世界の各地に予言されつつある「キリスト」の再現とは実に「マホメット」の形をもってする日本民族の経典と剣なり。
日本国民は速かにこの日本改造法案大綱に基づきて国家の政治的経済的組織を改造しもって来るべき史上未曽有の国難に面すべし。日本はアジア文明のギリシアとしてすでに強露ぺルシャを「サラミス」の海戦に砕破したり。支那・インド七億民の覚醒実にこの時をもって始まる。戦なき平和は天国の道にあらず。
大正八年八月稿於上海
北 一輝
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