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貫かれた「疑わしきは罰せず」
― 痴漢冤罪で発せられたメッセージ ―
http://homepage2.nifty.com/otani-office/flashup/n090427.html
5月21日の裁判員制度の実施まで、あと1か月を切った。そこでこのコラム、今週から3回連続で裁判についてふれておこうと思う。
19日のサンデープロジェクト(テレビ朝日系列)に防衛医科大教授の名倉正博さん(63)が生で出演して下さった。名倉さんは痴漢冤罪事件の被害者。その5日ほど前、最高裁第3小法廷で逆転無罪判決を受けた。3年前の4月、小田急線の電車内で女子高校生(当時17)の下着の中に手を入れたなどとして逮捕されたのだ。
もちろん名倉さんにはまったく身に覚えがない。完全否認したのだが、1、2審とも懲役1年10か月の実刑判決。勤務先の防衛医大は即刻、休職扱い。それどころか、裁判所は保釈にあたって小田急線に乗ってはならないという条件までつけたのだ。
スタジオで名倉さんは「もし、最高裁でも無実が認められなかったら、妻とは離婚し、息子、娘とは親子の縁を切って、こんな夫は、父は、いなかったと思ってくれ、と伝えるつもりでした」と言うなり、眼鏡を外して涙をぬぐっていた。だが、事前に打ち合わせをしたディレクターに聞くと、「実は死を覚悟しておられたようです」と言う。
殺人など重大事件を裁く裁判員制度に痴漢事件は含まれていない。とは言え、名倉さんに逆転無罪を言い渡した最高裁判決は、この制度の実施を目前にして日本の司法の原点に立ち返る示唆に富んだものだった。そもそも、痴漢事件で最高裁が破棄差し戻しではなく、自ら判決を下す自判とし、加えて無罪を言い渡した例は過去にない。
その中で、名倉さんを無罪とした那須弘平裁判官は、補足意見で「冤罪で国民を処罰するのは国家による人権侵害の最たるものである」とし、さらに「疑わしきは被告人の利益」の推定無罪の原則にもふれ、「この原則は突き詰めれば冤罪防止のためのものである」とまで言い切っている。これを私は裁判員制度を前にした最高裁の、全国の裁判官、警察・検察、何より国民に向けた強烈なメッセージと受け止めた。
この制度で市民が裁判員になりたくない、とする大きな理由の一つに「冤罪事件に加担したくない。もし、無実の人を死刑や無期懲役にしてしまったら、一生後悔し続けることになる」というものがある。これに対して最高裁が「疑わしきは罰せずの鉄則は貫かれます。だからみなさん安心して裁判員になって下さい」と言い切ったとも取れるのだ。
こうした無罪判決が出ると早速、警察から「こんな判決が出るようでは、もう痴漢事件の立件は無理だ」なんて開き直りとも取れる声が聞こえてくる。何を言うか。日本の警察は、行きずり殺人も死体なき殺人も解決してきたのだ。痴漢事件一つ、まともに捜査できなくてどうするんだ。
地位も名誉も家族も失いかけた大の男が、はからずも流した涙。その涙の重さを司法が、国民が感じ続けることができるかどうか。そこに裁判員制度の成功の可否がかかっているような気がする。
(日刊スポーツ・大阪エリア版「フラッシュアップ」平成21年4月27日掲載)
裁判員制度(最高裁判所)
http://www.saibanin.courts.go.jp/
えん罪事件(Yahoo!ニュース)
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/innocence/
冤罪(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/冤罪