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http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2010/02/post_210.html
しかし共産中国と戦火を交えた朝鮮戦争でアメリカは勝つ事が出来なかった。そのトラウマがアメリカをベトナム戦争に駆り立てる。ところが正義と信じた戦いでベトナムの民衆を敵に回し、世界には反米闘争が吹き荒れ、財政は破綻状態となった。1973年、アメリカは建国以来初めて戦争に敗れた。「反共は正義なのか?」。疑問が生まれる。翌74年、ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任に追い込まれた。大統領辞任も建国以来初めてである。国民は何を信じて良いのか分からなくなった。そこから「反共ではなく民主主義を強くする以外にアメリカの再生はない」との思いが生まれ、民主主義を強くするための政治改革が叫ばれた。 そうした中でロッキード事件が暴露された。アメリカ議会上院多国籍企業小委員会が暴露したのはアメリカの軍需産業ロッキード社と世界各国に存在する秘密代理人との関係である。秘密代理人は日本が児玉誉士夫であるように各国とも「親米反共主義者」であった。アメリカの「反共主義」は世界中に腐敗の構造を作り出していた。ロッキード事件はアメリカが「反共主義」から脱皮して「民主主義」を掲げるための儀式である。 そのためヨーロッパではロッキード社から賄賂を受けた政治家は誰も訴追されていない。西ドイツの国防大臣、オランダ女王の夫君、イタリア大統領など名前を挙げられた政治家は誰も捕まらなかった。アメリカの国内問題で自国の政治家を逮捕するような真似はしないのがヨーロッパである。しかし日本だけは田中元総理を逮捕して大騒ぎした。日本ではロッキード事件が「政治とカネ」の問題となった。 ロッキード事件を「政治とカネ」の問題にすり替えた事で、それからのアメリカがフィリッピンのマルコス政権を潰し、韓国のチョン・ドファン政権を潰した事に日本は鈍感である。二人とも「親米反共主義者」だが、一人は「独裁20年」、もう一人は「軍事政権」であった。それをアメリカは許さない事を示した。その時日本の自民党政権は「独裁30年」を続けていた。だから細川政権が誕生した時、アメリカは異様なほどの期待感を表明した。しかし自民党もメディアもその事に鈍感であった。 民主主義を強くするためにアメリカがやった事は「官僚主導からの脱却」である。ベトナム戦争に介入する誤りは、ペンタゴンやCIAなど官僚の情報に頼りすぎたからだと考えられた。それを脱却するためアメリカは議会の情報機能を強化した。議員に情報提供する議会調査局を大幅に増員し、大統領府が作成する予算をチェックする議会予算局を作り、議会審議を国民にテレビ公開する仕組みを作った。「官僚主導からの脱却」は議会の機能強化から始まったのである。 次に情報公開法を整備して行政府に対する情報公開を徹底した。資産公開は議員だけでなく、税金で雇われる行政府と司法府の官僚も対象にした。またアカウンタビリティという考えが導入された。これは国民から預かった税金について行政府には「説明責任」があるというものである。 ところが「政治とカネ」で騒いだ日本はアメリカの政治改革を見ていない。そのため情報公開も、アカウンタビリティもアメリカとは異なり官僚に都合の良い解釈となった。資産公開は国会議員だけが対象となり、説明責任は行政府の官僚ではなく政治家を縛る道具となった。選挙の洗礼を受ける政治家がなぜ説明責任を求められるのかが私には分からない。説明責任が求められるのは国民が排除する事のできない官僚に対してである。 ソ連が崩壊して冷戦構造が転換した時、世界は真剣にその後の生きる道を模索した。ところが日本だけはまた「政治とカネ」で国中が騒いでいた。金丸脱税事件の影響で国会は「政治とカネ」の議論一色となり、誰も冷戦の崩壊を議論しなかった。宮沢総理は「冷戦の終結で世界は平和になり、日本も平和の配当を受けられる」と驚くべきピンボケ発言を繰り返した。 当時米国議会を取材していた私は、アメリカの認識とのあまりの落差に恐ろしくなり、外務省の高官に霞が関の内部で冷戦の終結をどう議論しているのかを尋ねた。すると霞が関でも議論されていない事が分かった。東西冷戦構造の一方の軸が崩壊したのだから、世界が不安定な構造になる事は目に見えている。イデオロギー支配が消滅する事で、それまで抑えられてきた民族主義が勃興し複雑な対立が生まれる事も予想できる。アメリカは更なる軍備強化を進め、冷戦型思考から脱して現実的利益を追求する姿勢に変わっていた。世界で最も冷戦の恩恵を受けてきた日本にとって、もはやアメリカからの恩恵は期待できない時代が始まろうとしていた。その重大な時に世界の構造変化と向きあう事なく「政治とカネ」の議論に終始する国家を目の当たりにした。 金丸脱税事件は派閥のカネを個人のカネと認定され脱税に問われた事件だが、検察が金丸事務所捜索と同じ時に中曽根康弘事務所や宮沢喜一事務所の金庫を開けていたら同程度のカネを見つけていたと私は思う。事の善悪は別にして当時の派閥の領袖は所属議員のカネの面倒を全て見る必要があった。しかし狙われたのは金丸氏だけである。星亨や原敬の例に見られるように、この国は明治以来、力のある政治家を「金権政治家」として排除してきた歴史を持つが、戦後もそれが繰り返されている。この時も日本は国際政治の大転換を見ないまま通り過ぎた。 「アジアには中国と北朝鮮という脅威があり冷戦が残っている」というアメリカの日本洗脳にまんまと乗せられた学者や政治家がいる。そのせいで日本はアメリカの兵器をせっせと買わされ、アメリカとの同盟関係を強化しているが、一方のアメリカはとうの昔から中国、北朝鮮と気脈を通じている。ヨーロッパ諸国はそれ以上だ。彼らは冷戦思考とは隔絶した価値感で国際政治を見ている。日本だけがそうなれないのは「政治とカネ」に目を奪われ、日本にとって死活的な問題を直視しないできたからだ。 これからの日本政治の最大課題は世界のどの国も経験した事のない「超高齢化社会」に対応する事である。1988年に竹下政権はヨーロッパ型福祉国家を目指す税制改正を行なおうとしたが、それを潰したのも「政治とカネ」の問題だった。福祉目的の消費税を導入しようとした矢先にリクルート事件が起きた。消費税に賛成だった社会党と公明党が「政治とカネ」を優先させるため消費税に反対した。以来、消費税にはマイナスイメージが付きまとい、国民の同意を得る事が難しくなった。 昨年出版された「リクルート事件 江副浩正の真実」を読むと、事件は違法ではない未公開株の譲渡を朝日新聞社が意図的に小出しに記事にする事で国民の反発を煽り、国民が騒ぐから捜査せざるを得ないとする検察によってでっち上げられた事件である。その結果、日本政治は高齢化社会への対応に遅れをとる事になった。 「政治とカネ」の問題は民主主義政治にとってそれほどに重大な問題なのか。騒ぐのは民主主義が成熟していないことの証明である。しかも検察が摘発した「政治とカネ」はほとんどが「でっち上げ」なのである。それに振り回されて国益に関わる重要課題に目を瞑ってきた日本が沈み込んでいくのは当然の話である。
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