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大災害の爪痕   FT現地ルポ   Financial Times
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投稿者 愚民党 日時 2011 年 3 月 30 日 05:51:30: ogcGl0q1DMbpk
 


大災害の爪痕 〜FT現地ルポ

2011.03.30(Wed)  Financial Times

(2011年3月25日 FT.com)

地震と津波は東北地方に最もひどい打撃を与えた。現地の惨状を目の当たりにしたデビッド・ピリングが、恐ろしい惨状と人々の毅然とした態度についてリポートする。

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岩手県大船渡市の被災地で、瓦礫で埋まった河川〔AFPBB News〕
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110316/6962105.jpg
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日本の家屋では「敷居」が非常に重要な意味を持つ。敷居は外と内、すなわちパブリックとプライベートを分ける境目である。神道という日本古来の宗教では、2つの相反する世界を分け隔てると同時に結びつける、目に見えない空間だと見なされている。

 そのため、大船渡という港町に住む元大工のサトウ・セイザブロウさん(82歳)を自宅に訪ねる人たちが、家に上がる時に歌うように「オジャマシマス」と声をかけるのはごく自然なことだ。

 この言葉は、直訳すれば「I am about to disturb you(私はあなたに迷惑をかけるところです)」といったところだ。英語では「May I come in?(入ってもいいですか?)」と表現されるかもしれない。

入るべき「内」のない家

 ただ、実はサトウさんの自宅には、入るべき「内」がない。木でできた土台から、どこに敷居があったかは分かるのだが、この家は今や骨組みしかないも同然なのだ。折れた材木と割れた瓦の山に化けてしまった近所の多くの建物とは異なり、サトウさんの自宅には少なくとも屋根がある。しかし、壁は全く残っていない。

 居間からは、めちゃめちゃに壊れた白いセダンが見える。車は家の中にあるのか外にあるのかよく分からない。どちらであっても大した違いはない。瓦礫の山の中では、ものを区別するのが難しいからだ。

 実際、サトウさんの自宅の外には日本家屋の内装の象徴である畳が、泥まみれの踏み石のような状態で散乱している。自宅の中に入っても、訪問客は一部だけ残った床の上に散らばったクギやガラスの破片を避けながら、歩みを進めなければならない。

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陸前高田市で行方不明者を捜索する自衛隊員〔AFPBB News〕
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110320/6979674.jpg
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 家の中に上がる時に、靴を脱ぐという習慣をあえて無視するのはそのためである。失礼な行為には違いないが、そうせざるを得ないことを、誰もが言われるまでもなく了解している。

 筆者は、ほとんど筆舌に尽くしがたい大船渡の惨状を高台から調べている時にサトウさんを見つけた。

 筆者の同僚のミュア・ディッキーは、この近くの陸前高田市に最初に取材に入ったジャーナリストの1人だが、同市の被害は――もしそのような状況を想像できるとするならば――大船渡以上に壊滅的だった。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5759

 彼はその時の経験を、原爆を投下された後の広島の写真の中に足を踏み入れたようだったと表現している。筆者自身は、米国の作家コーマック・マッカーシーが書いた小説『ザ・ロード』を思い浮かべた。終末を迎えた世界で、父と子が荒れ果てた土地を旅する物語だ。

 ただ、どちらの比喩も、大船渡をはじめとする海岸沿いの多くの町が、火ではなく水によって破壊された事実を無視している。

猛獣のような巨大津波

 筆者が町の人たち――その多くは漁師だ――に話しかけると、彼らは津波の高さが10メートルに達したという報道をあざ笑う。そんなんじゃ済まない、少なくとも20メートルはあったとか、たぶん23メートルか24メートルぐらいだといった答えが返ってくる。30メートルあったに違いないと断言する人もいる。

 正確な高さはともかく、津波は猛獣のようにこの町に襲いかかり、かつて強大だった防潮堤を突き破った。今ではその堤防の破片があちこちに転がっている。津波は家や漁船を、車や人を飲み込み、一度後退してから再び町に攻め込んできた。激流に飲み込まれたものの残骸は凶器と化し、壁や鋼鉄の板を、そして人の身体を突き刺した。

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岩手県大船渡市で、生存者を捜索する米救助隊員〔AFPBB News〕
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110318/6971575.jpg
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 大船渡を襲った津波は、3月11日午後2時46分に東北地方の沖合約70マイル(112キロ)の地点で生じた、マグニチュード9.0という観測史上4番目に大きな地震がもたらしたものだった。

 報道によれば、この津波は発生直後、時速500マイル(800キロ)という飛行機並みの速度で伝わった。海岸に近づくにつれて減速し、新幹線並みの速度になってから自動車並みの、そしてスポーツ選手並みの速度になったという。

 それでも、高台に避難できなかった人々にとっては、まさに止めようのない流れであり、津波はあっという間に襲い掛かってきた。

人間の作った世界が「はらわた」を吐き出した

 筆者にできるのは、その爪痕の描写を試みることぐらいである。この光景を見て最初に抱いた印象は、人間の作った世界がその「はらわた」をすべて吐きだしたというものだった。

 普段は覆い隠されているもの――建物の鉄筋や配管、電線、発電機、さらには陶器や書棚、テレビその他の現代生活の細々したもの――が、歪んだ光景の中に吐き出されている。そして、ずたずたになった車がある。ひっくり返ったり横倒しになったり、きちんと上を向いたりして、まるで見えざる手が置いていったかのように木の枝や土手の斜面に点在している。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5759?page=2

 流されずに残った家もいくつかあるが、その多くは酔っ払いのように傾いている。元の場所から数百メートル流されてしまった家屋も少なくない。

 へし折られた木材、くしゃくしゃになった金属板、風にはためくプラスチックシートなどを見ていて、最初に気づいたものの1つが、逆さまにひっくり返ったまま、とても悲しそうな表情で寒空を見上げているシカだった。よく見ると、その蹄(ひづめ)は緑色の台にくっつけられており、剥製のコレクションの1つであることが分かる。

 なるほど、近くにはシカがもう1頭おり、歯をむき出しにしたイタチ、ワシ、そしてフクロウの剥製も転がっている。さながら世界が丸ごとドラム式の乾燥機に放り込まれたかのようで、本来あるべきところに、あるべき姿でとどまっているものは何一つない。

地獄の様子を見ようとして屋根にとぐろを巻くヘビ

 この変わり果てた町の風景に少し慣れると、もっと奇妙なものが見つかるようになる。

 それが何であるか理解するのに数分かかった。ほんの数メートル先で巨大なタンクローリーが、まるで空から降ってきたかのように、頭から地面に突き刺さっているのだ。また、ある家の上には、毒々しい緑色の針金の束が引っかかっている。フェンスだったのだろうか、それとも高圧線の鉄塔の一部だったのだろうか。

 筆者にはこれが、地獄の様子を少しでも高いところから眺めようと、ぐらつく家の屋根でとぐろを巻いている邪悪なヘビに見えて仕方がない。

 この谷の底には大きな建物がいくつか残っているが、いずれも1階と2階の壁は津波にはぎ取られてしまっており、ドールハウスのグロテスクなパロディのようだ。ちゃんとした形で残っているのはもっと高いところ、つまり海――今は死んだように穏やかだ――から離れたところにあるものだけだ。

 この違いは強烈だ。片方の側の建物は文字通り壊滅状態にあり、もう片方の側の木造住宅には手入れの行き届いた松の木と石灯籠のあるきれいな庭が残っているのである。後者こそ、以前の大船渡の風景にほかならない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5759?page=3

 筆者はそんな町の中でサトウさんを見ていた。「ダッズ・アーミー(Dad's Army)*1」のように白い安全ヘルメットを被り、瓦礫の中で何かを探しているサトウさんは、青みを帯びたオーバーオールを着て、足には紫色のゴム長靴を履いている。

 近づいてみると、彼が高齢で、右目が不自由であることが分かる。年の割には丈夫な方だが、ぜいぜいと息を切らしながら働いている。筆者と話をしていたサトウさんは、途中で不意に、瓦礫の山から拾い集めた物が積んであるところに足早に向かい、ひさしの付いた黒い帽子を取り出して戻ってきた。消防団にいた時に使っていたのだという。

 ぎくしゃくした動きで安全ヘルメットを脱ぎ、その帽子を被ると、片手をすっと挙げて敬礼してみせた。帽子は冷たい雨水をたっぷり含んでいて、その滴がサトウさんの頬を伝っていった。

何かをやろうとする強い目的意識

 筆者がサトウさんを見ていてすぐに気づいたのは(この後も、ほかの方々から同じことを感じることになるのだが)、何かをやろうという目的意識があることだった。もし町が破壊された光景を無視することができたら、大船渡は人々が忙しく働いている賑やかな市場町に見えるかもしれない。

 サトウさんが自分の持ち物を拾い集めて袋に詰めていく様子からは、あきらめの気持ちはほとんど感じられず、この仕事をやらねばならぬという気概ばかりが伝わってくる。「ガンバリマス」。彼はこの国のあちこちで使われる励ましの言葉を口にした。「全力でやらねばならん」

 時折息を切らしながら、サトウさんは夫人とともに避難した時の状況を話してくれた。「地震が来た時、80歳になる妻は頭を打って足も痛めた」そうだ。だが大船渡(この町では過去に襲来した大津波で時代を区切っている)のほかの住民たちと同じように、2人とも大津波がすぐにやって来ることが分かっていたため、一目散に高台を目指したという。

 「あの家を見てくれ」。サトウさんはそう言って、崩れた家屋の残骸を指さした。その先には赤い瓦ぶきの屋根があるが、今ではもう1メートルほどの高さしかない。「昭和8年の津波にもやられなかった家が、今じゃこの有り様だ」

 サトウさんは筆者を自宅に招き入れてくれた。中に入ると、ぷんと潮の香りがする。聞けば、仏壇を見せたいのだという。昨年亡くなった母親のために作ったのだそうだ。この家では、かつて居間だったところの片隅にしっかりと据え付けられた、金箔と黒漆が美しいこの仏壇だけが無傷だった。(明日に続く)

*1=第2次世界大戦中の民間軍事組織をテーマとした英国の古いコメディー番組

By David Pilling

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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5759?page=4

 

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