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原発、爆発の連鎖 福島第一、6基中4基損壊 2号機、命綱の格納容器に不安
2011年3月16日 朝刊 2面
次々と「想定外」のトラブルが出現する東京電力福島第一原子力発電所。6基ある原子炉のうち、地震発生時には停止中だった4号機でも爆発が起きた。原発周辺では高いレベルの放射線が検出されている。チェルノブイリ原発事故に匹敵する深刻な事態に進展する可能性が高まっている。
事故が発生しているのは1号機から4号機までの計4基の原子炉。それぞれ置かれた現状や事故の原因は違う。
地震発生直後、運転中だった1〜3号機はすべて予定通り自動停止した。だが非常用のディーゼル発電機が津波をかぶり、動かなくなった。これが一連のトラブルの元凶だ。原発が海の近くにあるのは蒸気を冷やして水に戻すのに大量の海水を必要とするからだ。今回はこれが災いした。
15日朝の時点では、2号機がもっとも深刻な状態に陥っているとみられていた。
原子炉を止めた後も核燃料はしばらく熱を出し続けるので、燃料の周りに絶え間なく水を循環させて冷やす必要がある。2号機は地震直後に非常用の電源がなくなったものの、余熱による蒸気の力を利用した冷却装置で、冷却を続けてきた。しかし、14日になって水位が低下して、燃料棒全体が一時、水から露出して、高温・高圧の蒸気にさらされる事態になった。
炉心が露出すると、燃料棒を覆っている合金が水蒸気と反応して、燃えやすい水素が発生する。水素は空気よりも軽い。そのため圧力容器から漏れ出やすい。
燃料棒が露出した際、燃料棒を覆っている合金が溶ける「炉心溶融」が起きた可能性も高い。中に閉じ込められていた高濃度の放射性物質が出てきてしまう。東電では炉心の損傷を14日時点で「5%以下」と判断している。合金が溶けると、それらが炉心構造物を溶かし、さらに溶けて落ちた高温の溶融物が、圧力容器に損傷を与える危険がある。
15日朝には、爆発が起きて、格納容器に通じている圧力抑制室が壊れた。枝野幸男官房長官は「小規模な水素爆発が起こった」と述べた。格納容器そのものが破損したとなると、高濃度の放射性物質が外に漏れ出るおそれがある。
内側から圧力容器や格納容器が壊れ、放射性物質が漏れ出て、制御ができなくなる。これが2号機で想定される最悪のシナリオだ。
●4号機 貯蔵燃料棒、防御壁なし
15日午前に火事が起き、「安全」から一転、危険状態に陥ったのが4号機だ。京都大原子炉実験所の小出裕章助教は「何が壊れると危険かという観点から注目するのは、4号機の状況だ」という。
4号機では使用済みの燃料棒がプールで保管されている。使用済みとはいえ、熱を帯びており、蒸発した分の水を補給する必要がある。非常用電源が確保できていない状況は1〜3号機と同じだ。
東電によると、通常40度以下に管理されるプールの水温が、14日午後4時ごろの時点では85度になっていた。その後の状況は確認できていないが、燃料棒が水面より上にでてしまって燃えやすい水素が発生したのかもしれない。
燃料棒がむき出しになると熱で溶け、閉じ込められているウラン燃料から大量の放射線が出かねない。1〜3号機の燃料棒が、分厚い鋼鉄などでできた圧力容器や格納容器で閉じ込められているのに対し、4号機のプールでは、そうした防御壁には期待できない。
小出助教は「熱を帯びた燃料棒を水で冷やして、燃料の溶融が起こらないようにして、安全な温度に下げる必要がある。水を入れ続けていても、冷却がうまくいかなければ、いつまでたっても安全な温度にはならない」という。
冷却水を注入するためには電力が必要になるが、外部からの電源が限られている。
一方、1号機と3号機はいずれも水素爆発で、原子炉建屋の上部が吹っ飛んだ。圧力容器や格納容器は無事だとみられる。小林英男・横浜国立大客員教授(破壊工学)は「爆発はあってはならないことだが、2号機に比べるとある意味、大きな影響はなかった」という。
海水を注入して燃料棒を冷やす作業を再開しているが、その間も、格納容器の圧力を逃がす作業も続けているようで、煙突を通して放射性物質を含んだ気体は外部に放出されている。
●どうなる 時間との戦い、未知の領域へ
これから何が起きるのか。小林客員教授は「チェルノブイリ事故との比較は難しい。これから何が起こるかはわからない」という。専門家にとっても未知の領域に入りつつあるといえる。
専門家が懸念するのが、原子炉や核燃料が制御できない状態となり高濃度の放射性物質が広域に拡散することだ。
炉心溶融が進めば、炉心の構造物の破壊や落下が起こるかもしれない。ここに水があると、水と溶融物が接触し急激な爆発が起こる恐れがある。爆発で格納容器が破壊されれば、核分裂でできた大量の放射性物質が周囲に拡散することになる。
米国ではかつて「溶けた炉心が地球を通り抜け裏側の中国(チャイナ)にまで達する」という意味から、「チャイナ・シンドローム」とも呼ばれ、映画の題名にもなった。
今後、考えられる対策について、多くの専門家が「炉心の冷却につきる」と指摘する。そのための十分な電源確保も必要になる。
ただ、原発周辺ではすでに高い放射線が検出されており、人がいられる時間は限られる。原発は、通常なら運転停止後、2〜3日以内に炉心が100度を下回る「冷温停止」状態に入る。事故を起こした4基があとどれだけで冷温停止状態に入れるかはわからない。それまで時間との戦いが続く。
◆「安全神話」の果て
「避難は原発から20キロ圏内」。福島第一原発事故による住民避難は、日本の原子力防災指針の想定を簡単に超えてしまった。想定は、原発事故でも避難を含む重点対策をとる範囲は8〜10キロまでというものだ。日本では長い間、「原発の大事故は起きない」と聞かされてきた。今回の原発事故はこれが神話だったことを示した。
原発の近くに住む人の中には、地震の被災で避難所にいき、原発事故でさらに遠くへ移動させられ、屋内退避を強いられている人たちがいる。「いつまで続くのか」という不安といらだちの中にいる。
日本の原子力草創期、原発をつくる側が「原発の大事故は絶対に起きない」という表現をしばしば使った。これは科学の言葉ではなく、地元を説得するための方便のようなものだったが、原子力行政の中にも反映された。
1979年の米スリーマイル島原発事故で炉心溶融が起きた後も、格納容器に過酷事故対策を追加することに、日本では当初、抵抗があった。
チェルノブイリ原発事故では半径30キロ圏内の住民が避難した。
しかし、住民の避難訓練には「日本ではそんな事故は起きないのになぜ訓練が必要なのか」という議論が起きた。当初は「住民」が実際に参加するのではなく「模擬住民」の役割をつくって住民参加の形をとらざるを得なかった。それほど抵抗が強かった。
原子力災害の防災指針は今も、避難も含む重点対策は「8〜10キロまで」の範囲だ。原発の高さ100メートルほどの排気塔から放射能が「24時間」放出されるという仮定だ。その事故想定でさえ実際には起こりえない規模としている。
チェルノブイリ事故の経験は「日本の原子炉とは安全設計思想が異なるので同様の事態は考えがたい」として考慮されなかった。
今回の事故の広がりは今後の展開にかかっているが、指針が想定した範囲は超えた。これまでの考えは甘かった。
東京電力は津波に耐える設計について「地震学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーションにより評価し、安全性を確認しています」としている。そうした検討をしたはずだが、現実は全く違った。
「大事故は起きない」という言葉が、これまで事故の怖さへの想像力を失わせていたのではないか。専門家も多くの人も、日本が技術先進国であることと一緒にして、知らず知らずのうちに、その言葉にとらわれていたと感じる。
(編集委員・竹内敬二)
◇「想定外」言い訳にならぬ 大阪大名誉教授(原子炉工学)宮崎慶次氏
原子炉の燃料が損傷するような過酷事故に至らないためにどうするかという検討に経済産業省の部会委員として携わってきた。東電も2002年に福島第一原発について報告書を出している。今回、福島第一原発1、2、3号機で格納容器内の圧力を逃がすために放射性物質を含んだ蒸気を大気に放出したり、燃料を冷却するために外部から海水を注入したりしているが、使われた設備も、報告書に基づき整備されたものだ。
問題は、今回のように、実際に起きた時の対応はどうだったのかということだ。電源喪失時にどういう事態になるか、報告書を担当した一部の人間は分かっていても、操作する作業員には伝わっていなかったのではないか。
例えば圧力容器の弁を開けて大気に放射性物質を故意に流すことになる作業。これまでの常識では、国や自治体からおしかりを受ける「最後の手段」という認識だった。だが、非常事態を意識して、勇気を持ってもっと早い段階で取り組まれていれば、事態は変わっていたかもしれない。今回の東電の対応はいずれも後手にまわった。1、2、3号機とも、同じような経緯をたどり、原子炉内で燃料が水面から露出するなどの厳しい事態に陥っている。
原子力関係者として、「想定外だった」ということは決して言い訳にならない。
◇説明が足りない 東京大名誉教授(金属材料学)井野博満氏
「念のため避難して」「ただちに影響はない」
連日のように学者らがテレビで説明するが、翌日には爆発が起こったり、炉心が露出したり、事態が深刻化することが多い。「想定外」という言葉が、その想定が適切だったのかの判断も反省もなく使われている。同じ学者として情けない。
東京電力も政府も、日々何度も説明をするが、正確な情報が足りない。爆発によって周辺の放射線量の数値が上がったと言っても、気象条件で変化するもので、蒸気が上空に立ち上ったときと、低く広がったときでは当然違いが出る。数値が小さいから大丈夫とは限らない。
15日朝の福島第一原発2号機の圧力抑制室の損傷では、多くの作業員が引き揚げたが、人体にどう影響があるのかの説明も足りなかった。過度な不安をあおらないようにという思いからだろうが、現象を過小に評価することとは違う。
これからどうなるのか、国民は高い関心をもっている。最悪の事態を含めて、それを防ぐために何をしているのか、現場を知る人間がもっと分かりやすく疑問に答えるべきだと思う。大丈夫と言いながら、起こってから説明するのでは、国民を愚弄(ぐろう)することになりはしないか。
炉心の溶融を防ぐため、原子炉が使えなくなる海水を注入するまでの非常事態にいたった。我々も経験したことのない厳しい状況が続く中で、現場の作業員はベストを尽くしているはずだ。被害を拡大しないために、使命感をもって被曝(ひばく)覚悟でやっていることも、きちんと伝えるべきだと思う。
◇立ち上がり遅い 防災ジャーナリスト・渡辺実氏
福島第一原発での連続事故という想定もしなかった事態が起きている。専門家である東京電力でさえも、今後何が起きるのか予測できていないのではないか。それでも、東京電力や政府などは、我々よりはるかに多くの情報を把握しているはずだ。
大事なのは、あの地域の人の命を守るために、情報を正しく伝えることだ。それは「正しいパニック」を起こさせることだ、とも言える。
人間は、客観的には危険な状況下にありながらも「自分だけは大丈夫」と思ってしまう傾向がある。「正常化の偏見」と言われる現象だ。
福島原発から20キロ圏内に住む人たちの一部が、当初、「ここを動きたくない」と言っていたのは、東京電力や政府の情報の伝え方がまずいからだ。説明もないまま、突然、家を出ろと言われて納得できるだろうか。
どの段階で、何の情報を、どう伝えるか。
今回のように危機レベルがどんどん上がっていく場合、最悪の場合を想定するのが、まずは危機管理のイロハだ。
そして「最悪」に至る二つほど手前の段階で、住民に避難の準備や心構えをさせなければいけない。もう一歩、危機が近づいたら、行動を促す情報を流す。実際に危機が訪れた時には、避難が完了しているという流れだ。
現場では大混乱しているのだろうが、そのセオリーからすれば、12日午後に1号機での爆発があってから、最初の会見が数時間後とは、立ち上がりが遅すぎる。
(* 写真と図は省略)
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